その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 しばらくすると、声が聞こえてきた。
「放せよ、引っ張るなよ」
 松岡さんが手首をつかんで歩くのを、抵抗するように突っかかりながら歩いてくる。
 ショートボブに、ビビッドな口紅。白黒画像ではっきりとは分からなかったが、間違いない。さっき教室であった|娘(こ)だ。
 冴島さんは、霊圧を発生する機械のスイッチを切って、松岡さんの方へ進む。そして俺を手招きする。
 ショートボブの女は、冴島さんを警戒して睨みつけた。
「あなたがさっきの霊弾を?」
「……」
 言葉では答えず、首を縦に振る。
「危ない、ってことは分かっててやったわね」
「……」
「影山くんとはどういう関係?」
 冴島さんの問い詰め方が変な感じがして、俺は慌てる。
「どういう関係もさっき初めて話したぐらいですよ」
 俺がバタバタしていると見ると、冴島さんは手の平をこっちに向ける。
「黙って」
 完全に命令(コマンド)が入ってしまい、俺は口が開かなくなった。
「どういう関係?」
「別に……」
「……影山くん。この前の家族の写真を見せて」
 スマフォに入れている写真を表示させて、見せる。
「違った」
 当たり前だ、と言いたいが、命令が入っていて話すことが出来ない。
「あなた、お名前は」
「……」
「ごめんさいね。私は冴島麗子。除霊士よ」
「!」
 その|娘(こ)は急に体が震え始めた。
 やばい、何かしでかす気だ。
 けれど喋れない。
 俺はもう一度意識を集中する。
「冴島さん、危ない!」
「えっ?」
 俺の声に、冴島さんは振り返ってしまった。
 松岡さんが押さえていた腕を振り切って、その|娘(こ)が冴島さんに突っ込んでくる。
「冴島さん、後ろ!」
 冴島さんはその|娘(こ)の方を振り向くが、もう遅かった。
 バチッと二人の体が重なり合ってしまった。
「大丈夫ですか!」
 慌てて駆け寄る。まさか、ナイフか何かを……
「麗子おね~さまぁ…… まさかお会いできるなんて……」
「?」
「ど、どういうことですか?」
 その|娘(こ)は顔を冴島さんの肩や胸にこすりつけるようにしている。
「さあ、私にも分からないけど」
「私、冴島さんのファンなんです」
 その言葉に、香山ユキファンである俺の魂が叫ばずにいられなかった。
「お前、冴島麗子ファンと言うのなら、もっと早く気づいてるだろうが!」
 全く意に介さず、という表情だ。
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「だ、か、らぁ〜 そういうのが、セクハラだって言ってんだろ!」
「……」
 冴島さんが俺の背後に回った。
 俺の肩、腕を触って上下させる。
「ピンポイントに集中させたければ、指を伸ばしてその先端から。広範囲に広げたければ拳全体から。そういう使い分けも出来るように」
「……この前やってみたようにしていいですか?」
「やってみて」
 冴島さんがうなずくと、俺は川下を見て指で銃の格好をつくる。
 集中して、霊を、霊圧を感じながら……
「ポチャッ」
 真下、というほどすぐそこではないが、霊弾として機能しないぐらいすぐ近くに落下した。
「……」
 冴島さんは正直な評価を言っていいか悩んでいるようだった。気を使っているということだ。
「いや、あの、こんなはずじゃ……」
 あの時、コンビニの駐車場から式神を狙ったときは、撃てた。もっと直線的に飛んで、式神を貫いた。ただ、式神にダメージはなかったが。
「もう一度」
「うん」
 少し遠くに飛ぶように。少し上目に狙いをつけて……
 ポチャッ、とすぐ近くの水面に霊弾が|落ちた(・・・)。
「大丈夫。初めてはこんなもんよ」
「なんかその慰めかたはやめてください」
 その時、俺の横の水面に何か着水した。
「!」
 続けて、もう少し近くに、チャプン。
「霊弾……」
 まるで本物の弾丸が撃ち込まれているような音がする。
 振り返ると、草むらに人影が見える。
「女?」
 冴島さんは姿勢を低くして、紙を取り出して、陣を書き込み、水平に紙を放る。
 紙はそのまま舞い上がったかと思うと、頭、羽根、尾のように十字の形をつくると、草むらの人影の方に飛んでいく。
「これが式神ですか」
 冴島さんが手にもつ、もう一枚の紙には墨絵が描かれている。その絵は、式神の動きに合わせて絵柄が変わる。初めは何のことか分からなかったが、書き換えスピードが遅い白黒動画だ。
 冴島さんが、スッと手を下げると、式神が急降下した。
 式神は霊弾を打ってきた人物の姿を映し出す。
「あれ?」
「もしかして知り合い?」
 冴島さんは人差し指と中指を伸ばし、くるっと手を回した。
 式神がまた急上昇してこっちに戻ってくる。
 冴島さんの手の平に止まると、十字の形が元の四角の紙の形に戻る。
 それをポケットに入れると、冴島さんが言った。
「松岡、連れてきて」
「はっ」
 松岡さんが会釈すると、すばやく藪の中を走っていった。
 以前、松岡さんは『忠犬』なのだ、と聞いたことがある。まさにそんな様子だった。
「あの、知り合いっていうわけじゃないんです。さっき大学の教室で顔をみただけで」
「顔を見たことがあるなら、十分よ」
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「燃えていた、と聞いて安心したけど、燃えてないんならかなりヤバかったわ。まさか成長するのを作っちゃうとはね。つーかさ、普通式神生きてるなら、作り出した本人が何か感じてもよさそうだけど?」
 俺は首を振った。
 本当に何も感じなかった。本当なら畑を進んで行って、偵察した結果を知りたかったのに。
「感じないのか…… だとすると本当に式神は禁止。完璧になるまでは作ろうとしちゃダメよ」
「はい」
 冴島さんは腰に手を当てて、首を傾げた。
「さらっと言ったけど、式神の話のなかで、霊弾を撃った、って言ったわね。この前は意識させるまで霊弾自体見えなかったのに……」
「でも。式神には全然効かなかったんです」
「それは状況によるし、どんな霊弾だったかにもよるけどね」
 ガラガラと音が聞こえてきた。
 振り返ると、松岡さんが車輪のついた大きなバッグを引っ張ってきた。
「なんですか? あれ」
「実は、ちょうど霊弾の撃ち方を教えようと思ってたの。松岡の持ってきている機械は場の霊圧を高めて霊弾を撃ちやすくするものよ」
「へぇ」
 よく野外で電気を使うときに使う機械や、空気を圧縮する機械とか、無骨さがそんな感じだった。
「とにかく水辺まで行くわよ」
 俺たちは水辺に行き、川下の方へ向いた。
「ほら、この方向なら川しかない」
「確かに…… けど先には自動車や電車の橋がかかってますけど」
「一キロは無いにしろ、相当の距離があるのよ。まずそれまでに水に入っちゃうわね。安心して撃っていいわ」
「はい」
 冴島さんは理屈の説明を始めた。周囲の霊圧を使って、取り込んだ霊力を弾丸のように射出する、というのが基本だ。霊力が弱くても、霊そのものを投げつけるような気持ちでも同じようなものが撃てる、ということだ。
「霊そのものを取り込んで撃つような場合は、その霊の性質も出てしまうから、性質が合わなければ何も効果がない、ということもある」
「電圧と電力と電子、って置き換えてもいいんですか? まあ、電子なら性質は一定だと思いますが」
「……ごめん、そういう例えは良くわからないの」
 冴島さんは川下の方を向いた。
「軽く撃ってみるから。松岡、場を作ってくれ」
 松岡さんが、紐を引っ張ってエンジンを回す。本当に発電機のようだった。
「まずはみて覚えるんだ」
 冴島さんも、簡単に『みて』というのだが、霊弾はそもそも霊視出来ないと出たのかすらわからないものなのだ。俺も除霊士の訓練を始めてからは、霊視が出来るようになったから、それなりには見えると思うのだが。
「はい」
 冴島さんの手の先から、白い、炎のようなモノが水面を飛んでいく。そして数十メートル先でスッと消えた。
 消えてから少し遅れて、川でポチャ、と魚が跳ねたような音がした。
「?」
「さあ、手の先から出すんだから、そこに意識を集中するの」
 冴島さんが俺の手を両手で包むように触れ、指先の方へ絞るように滑らす。
「あっ……」
「変な声をだすなら、セクハラで訴えるぞ」
「すみません。変な想像をしてしまって……」
 冴島さんは頭を下げて、ゆっくりと言った。
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