その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 その時、いきなり部屋の扉が開く。
「新庄先生」
 まっすぐ私のところにやってきて、私の胸倉をつかんで引っ張り上げた。
「ちょっと来なさい」
 厳しい表情にチアキやミハル、マミは呆然とした表情をしていた。
 私は黙って先生の後をついて行った。
 寮監の部屋に入ると、さらに奥の部屋に入って鍵を閉めた。
「あなた何をしたのかわかっている?」
「……」
「あなたが放置した〈転送者〉が民間人を襲ったのよ。誘導していた警察官は襲われて重体なのよ。平気な顔して笑ってるんじゃないわよ」
「……平気じゃないです」
 私を追ってきた〈転送者〉撒いたせいで、目標を見失い住宅街へと進んだ。そのせいで〈転送者〉の被害が広がった。それは十分承知している、けれどマミを放置することもできなかった。
「鬼塚から聞いた」
「マミが!」
 こぶしを握り締めて言った。
「マミが危険な状態だったんです。死ぬかも知れなかった」
「木更津さんがあなたにとって大事な人だ、というのはわかる。けれど、それは他の人に頼むべきだった。あなたが優先すべきは〈転送者〉の……」
「違います」
 新庄先生を睨み返した。
「……」
「〈転送者〉は国が、つまり警察や軍が処理すべきものじゃないんですか?」
 言い終わった瞬間、頬を叩かれていた。
 最初からそうするつもりだったに違いない。
「あなたは、実際、警察や軍が〈転送者〉とろくに戦えないことはわかっているはず」
「だいたい、私、新庄先生も呼びました。どうして返事してくれないんですか?」
「たぶん、その時は研修で都心に出ていたわ」
「私が〈転送者〉を放ってしまって許されないなら、先生のそれもただの言い訳です…… 結局、私達が〈転送者〉を処理する義務はない。警察や軍はもっと強い武器を使わなきゃいけないんです。国民を守るためにも」
「だからって、〈転送者〉放置していい理由にはならない。他の人が死んでいいわけないでしょう!」
「だって…… 私だって、戦えば死ぬかもしれないのに……」
 私は耳を押さえて床を見つめた。
 新庄先生が私の肩を叩いた。
「落ち着いて」
 先生は私を抱き寄せて、言った。
「あなたのお父さんが見つけたアンテナ、あれを早く探して、壊しましょう。そうすれば、せめて〈鳥の巣〉の外で出現し無くなれば…… 私達が戦う必要はなくなるでしょう?」
「……」
 何も言わずにうなずいた。
 外で戦わなくなっても、〈鳥の巣〉の中に呼ばれることはあるかもしれない。しかし、何が起こるかわからない外よりも避難区域である〈鳥の巣〉の中での戦いの方がましだった。
「それまでの間、〈転送者〉を絶対倒せとは言わない。けれど放置してはいけない。わかったわね」
 私は答えなかった。
「わかった?」
「はい」
 新庄先生が私をぎゅっと抱きしめた。
「お願いよ」
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 放課後、学校と寮の間にある空き地に、亜夢たち四人が立っていた。
「アキナ、今日は私達だけ?」
「……まあ、いいじゃない。ごちゃごちゃいたって面倒なだけだし」
「……」
 辺りを見て、亜夢は何か考えているようだった。
 アキナは髪を後ろでゴムで止め、鍛錬の準備をした。
「亜夢。ほら、はじめよっか?」
「うん……」
 アキナが右の拳を後ろに引き、左足を踏み込む。
 美優はビックリして叫ぶ。
「亜夢! 危ない!」
「!」
 亜夢は左の拳をアキナに合わせる。
 バン、と派手な音とともに、閃光が走り、二人の姿が見えなくなる。
「亜夢!」
 美優はその光の方へ走り出していた。
 光がおさまると、アキナは突き出した右手をゆっくりと戻す。そして亜夢の姿がないことに気がつき、左右を見回す。
 美優はアキナの前で訴える。   
「アキナ、何したの? 亜夢はどこに行ったの?」
 美優がうつむいて泣きかけた時、アキナは何かを感じて空を見上げた。
「!」
「美優」
 背後から目隠しをされ、ビクッと反応する美優。
「亜夢? 亜夢でしょ? どこにいたの?」
 そっと手を離すと美優は後ろを振り返って亜夢に抱きつく。
 亜夢は指を突き立てて空を見上げる。
「空?」
「アキナの力を利用して自分の体を跳ね上げてみたんだ」
「びっくりしたよ…… もう、倒れたのかと思っちゃった」
 アキナが美優の背中を叩いて、奈々の方を見る。
「あっちに戻ってな。ここにいたら危険だから」
 美優は慌てて奈々の方へ走り去る。
「ちゃんと力比べを見せようよ」
「不意打ちしようとしたのは誰よ」
「……」
 二人は間合いを整えると、右こぶしを引き、左足を踏み込んだ。
「それっ!」
「行けぇ!」
 拳がぶつかったか、と思う瞬間、バチン、と大きな音がして付近の空気が陽炎のように歪んだ。
「なに?」
「これ、|超能力(ちから)比べなのよ」
「押し合いをしているの?」
「実際のところはわからないんだけど、そんなようなものらしいわね」
 奈々も美優と同様に自らの|潜在力(ちから)を使う術を知らない。
 亜夢とアキナがお互い振り込んだ拳同士は、触れ合うことはなかった。
 拳と拳の間に、何か斥力のようなものが働いているようだった。
 亜夢が少し押し込むと、腕を包むようなドーナツ状の空気のゆがみが大きくなった。
「すごい汗……」
 アキナは額に玉の汗をかいている。お互い、足にも力が入っている。本当に拳を中心に、押し合っているのだ。
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「な、なに? チアキ」
「やっぱり聞いてない。あんまり無視すると、トリカラもらっちゃうぞ」
「それだけはかんべん」
 私は手を合わせてチアキに謝った。
 しかしそれでも、合わせた手の先のテレビの映像を見ていた。
『住民は避難して無事でしたが、避難誘導にあたった警察官一人が意識不明の重体ということです』
「……」
 中継の映像が消える直前、鬼塚刑事がテレビカメラの方をキッとにらんだ。
 こういわれている気がした『お前が〈転送者〉を放置したせいでこんなことになった』と。
 どうしよう…… 大変なことをしてしまった。
 画面が切り替わって、スタジオの映像になった。
『この危機に対して政府の対策が遅れているように思いますね。〈鳥の巣〉をさらに1~2キロ、拡大すべきとの声も上がっています』
 コメンテーターの言葉を受けて、アナウンサーがまとめる。
『ただ、単純に〈鳥の巣〉を拡大すると、さらに周辺まで影響が拡大するため、大規模な経済的損失となります。政府の適切な対応が待たれます。それでは次のニュースです』
 そうだ私のせいだけじゃない。国がこの〈鳥の巣〉を放置するから、〈転送者〉に対策をとらないから、こんな風に被害が拡大していくんだ。私が〈転送者〉の処理を後回しにしたせいじゃない。なるべくしてなったに過ぎないんだ……
 必死に、そう思い込もうとしていた。
 だが、そう思おうとする裏で、重体となった警察官への自責の思いは大きくなっていった。
「キミコ? キミコ?」
「……」
「ほら、キミコ、もうその皿空っぽだよ?」
 パチン、と頬を叩かれた。
「……」
「ミハル?」
「キミコが返事しないから、ミハルが心配したんだよ。そうだよね?」
「……」
 私は呆然としたまま、二人への対応が出来なかった。
 しばらくして、ようやくミハルの顔が見えてきた。
 半泣きのような表情をみて、私は頭を下げた。
「ご、ごめん。心配かけた」
 食器をかたずけると、私はチアキとミハルと一緒に部屋に向かった。
 部屋に戻ると、私はマミのベッドに腰かけた
「マミ、大丈夫?」
『目は見える?』
 |思念波(テレパシー)で話しかけたが、反応がなかった。
 そうか、コアとの一体化が解けたせいで、マミはまた普通のマミに戻ったのだ。
 私は、口にして尋ねるわけにもいかないせいで、マミの顔の前で手を動かしたりして確かめた。
 最初はマミの瞳が反応せず、少し焦ったが、私の意図が伝わったようで、マミが手の動きを目で追って見せてくれた。
 そして、私の手をパッとつかむ。
「ありがとう。もうだいぶ良くなったよ」
「そうだ。ごはん、まだあるよ持ってこようか?」
 マミがうなずく。
 私は慌てて食堂へ下り、オレーシャに言って部屋で食事を持ち込む許可をもらった。
 部屋に帰るとマミは上体を起こして、ゆっくりと食事を始めた。
「良かった」
 マミは食事をとりながら、微笑んだ。私も微笑み返した。
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