その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 スッと黒い人影が消えた。
『……』
 美優が、手を広げて駆け寄ってくる。
「亜夢!」
 意識を取り戻した美優は、そう言って亜夢に飛びついた。
 抱きとめると亜夢はぐるりと体を回して喜びを伝えた。
「ありがとう、亜夢!」
「良かった! 戻ったのね美優!」
「怖かったの。以前もこんなことになって……」
「それなんだけど、ちょっと詳しく聞かせてほしいの」
「あ…… あれ?」
 足が震え始め、美優は反りかえるように倒れていく。いそいで亜夢が抱きかかえる。
「あいつに抵抗するからかなり力を使ったのね」
 美優が使った超能力は美優の中に存在する力だ。
 あれだけの超能力を使えば、体中のエネルギーがなくなったようになるだろう。
 亜夢は以前乗っ取られた状態が、例の警官を巻き込んだ事件だったのではないか、と考えた。
 清川を捕まえて、一緒に美優の話を聞くことにした。
 ホテルのロビーで座って話を聞きくと、自宅にいた美優がコンビニに行こうと家を出た瞬間に、意識が飛んだ、ということだった。意識が戻った時は美優の父親の腕の中だったという。
「全然聞いてなかったけど、美優のお父さんって……」
 ありったけのシロップを注ぎ込んだ甘いアイスティーを飲み終わると、美優が答える。
「えっと…… 私の父、実は警察署長なの」
「え? もしかして、あなた西園寺署長の娘?」
 清川の言葉に、美優はうなずく。
「こ、これは失礼しました」
 頭をテーブルにこすりつけんばかりに清川が頭を下げる。
「……」
 そして何か思いついたように手のひらを叩く。
「あっ! 加山さん、もしかしてこのことを知っていたんじゃ……」
 亜夢も清川を指さして言う。
「違いないです! しかも、犯人が美優だ、と思っていたのかも。署長の娘である美優をかばうつもりだったんだ。それなら犯人を隠そうとするのも納得がいく。私が最初の映像で、男と決めつけてミスリードしようとした|理由(わけ)も」
「?」
 美優は何を話しているか分からずに、キョトンとした顔をしている。
「なんでもないの。美優が悪いことないのよ」
「それより、亜夢、あの支配してくるヤツ、あいつを捕まえないと」
 清川は懸命にメモを取っていた。
「何も見えなくなって、自分が自分でなくなるような。悲しいことしか思い浮かばなくなって、ものすごくつらい」
「……美優は、どこかでその人と会ったことはない?」
 亜夢は清川に今回の容疑者の写真を見せるように耳打ちした。
「例えばこの中にいる人とか、その傍にいた人とか」
「……」
 美優は首をかしげる。
「いないと思う…… 私、直接会ったことない」
「そう。他に何か手がかりになるようなこと、ない?」
 口元で指を動かし、言うのをためらいながらも、美優は口を開いた。
「私を支配してくる人なんだけど、私を救ってもくれたのよ」
「救ってくれた?」
「そう。私、体調が悪いことが続いて、どこからかものすごいもやもやしたものが頭に響いてね。寝れなくなったの」
「……」
「この人が話しかけて来て、寝れないって話すと、助けてやるって言って」
「美優、あなた、もしかして…… そのもやもやした時って、こう聞こえてはない音が聞こえて、見えてはいないモノが映ってこう、寝れないというか」

 私は耳を疑った。そして耳を押さえた。
『キミコ、聞こえる?』
 やっぱり外から聞こえているのではない。心に話しかけられている。
 なぜ、マミが|思念波(テレパシー)を使っているのか分からない。もしかして、|素材(マテリアル)として取り込まれているのだろうか。だとしたら……
「どうしたのよ、あんたも」
「あ…… なんでもない」
『キミコ、助けて』
 私は耳を押さえたままあたりを見回した。マミの姿は見えない。窓の外を見ても、トランスフォームした機体は見えない。
『マミ、どこにいるの?』
『トイレ…… 部屋のフロアのトイレ……』
 私は慌てて部屋を出た。
「あたし、ちょっとトイレ行ってくる」
「なによ」
 扉が閉まる間際、チアキがそう叫んだ。
 私は急いでトイレに行き、一つだけ閉まっている扉をみて、小声で「マミ?」と問いかける。
 静かに扉が開くと「入って」とマミの声がする。
 周りを見ながら個室に入ると、マミが泣いていた。
「ど、どうしたの?」どう
 マミは私にしがみついて、本格的に泣き始めた。
「ね、ねぇ……」
 なんだろう、と思って変わった様子がないか見るが、マミに何があったのかわからない。
「どうしたの? 落ち着いて」
 誰も入ってこないことを祈るばかりだ。
「トランスフォームしているんだと思っていたけど」
 ギィ、と音がして、トイレに誰か入ってきたようだった。
『キミコ、|思念波(テレパシー)で話して』
『うん』
『なにがあったの?』
 キミコは突然立ち上がった。
 私は居場所がなくてドアに押し付けらえた。
『これ見て』
 スウェットと下着を足元まで下げているマミが、見せようとしているのは……
「えっ?」
『声に出さないで!』
 私は慌てたせいで、声を出してしまった。
 マミの方が冷静に|思念波(テレパシー)を使いこなしている。
『ごめん。けど、これ……』
 マミの股のつけねあたり、大事なところあたりから光るコアが顔を出していた。
『マミ、これって、おしっこはどうするの?』
『圧迫されてて、おしっこできないのよ……』
「えっ?」
 マミは指を口に当てた。
 その時、扉を叩かれた。
「何かあったの? 大丈夫? 貸そうか?」
 マミが私を指さす。
「だ、大丈夫です。スマフォ見てたら、好きなアイドルグループが解散するかもって書いてあって」
「ああ、あのグループはこの時期いつもそういう記事出るのよ」
「そ、そうですか」



 ミハルに直でメッセージを送り、マミの服を持ってきてくれるように頼んだ。
 二人で抱き合いながら待っていると、人影が見えた。
「ミハル?」
「あっ! なに? なんでマミ裸なの? しかも抱き合ってるってどういうこと」
「なんでチアキがここにくるのよ!」
「……」
 ミハルの表情は『チアキが勝手についてきた』と言わんばかりだった。メッセージにも書いたはずなのに……
「なんでもいいでしょ?」
「あんたたち、どういう関係なのよ」
「私は服着てるでしょ、ちょっとハプニングがあっただけよ」
「どんなハプニングがあれば下着まで脱げてしまうのよ」
「う~~」
 私は頭が回らず答えることが出来ず、ただ、うなり声をあげていた。
「〈鳥の巣〉の壁から山賊が降りてきてね。身ぐるみはがされちゃったの」
「へっ?」
 全員がマミの顔を見つめた。
 マミは平然と下着を着替えながら、私達を見つめ返した。
「どうしたの? 本当のことじゃない。ねぇ、キミコ?」
「う、うん……」
 おそらくその場にいた全員が『それがウソだ』と思っていたが、そこに突っ込めない雰囲気が醸し出されていた。
 チアキが私に耳打ちする。
「(あの|娘(こ)強いわ。なんなのこの強靭さ)」
 私は小さく首を振った。
「(どうしてこんなに強いのか、私もわからない)」
 寮に戻った時は、まだ混乱していた。
 火災のベルは鳴りやんでいたが、大きな音でテレビがつけっぱなしになっていて、〈鳥の巣〉内の様子をテレビ局のカメラで映していた。
「いままでと比較にならない大きさの〈転送者〉が現れてるみたい」
「大きな〈転送者〉を屋上から見たわ」
「壁が崩れちゃってるんでしょ、怖い」
「男子寮が先につぶれるからその間に逃げればいいわよ」
「怖い」
「今日は夕飯遅れるのかしら?」
 寮内の混乱に紛れて、私達は目立つことなく部屋に戻ることができた。
 

 
 翌日、私は先輩達と一緒に寮部屋を出て、マミ達の部屋に行った。
 先輩達のバスの方が早く、私はまだ鍵を持たされていないので、先輩達が出ていく時に一緒にでなければならないのだ。そして私達のクラスのバスはスケジュールの一番最後だった。
「おはよう」
 チアキに挨拶した。
「キミコ、おはよう」
 黙っていたミハルと目が合うと、軽く手を振ってくれた。
「あれ、マミは?」
「そこに寝て…… あれ? いないわね」
 チアキが上のベッドから降りてきて、マミの机の上を軽く一瞥した。
「なんか言ってたっけ?」
「……」
 ミハルは首を振った。
『キミコ』

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