その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「大丈夫か?」
「はい」
「用は終わったか」
「はい」
「帰ろう」
 肩を叩かれ、私はうなずいた。
「寄りかかっていいですか」
「ああ」
 鬼塚刑事の腕につかまって泣いた。
 思い切り泣いて、涙が止まるまで、泣いて、それまで鬼塚刑事は何も言わず、一緒にいてくれた。
「あなたが父ならよかったのに」
「……こんな若い男を捕まえて、父なんて呼ぶな」
 私は笑った。
「あれ? 鬼塚刑事、おいくつなんですか?」
「二十七だ」
「確かに、父と呼ぶには無理が……」
「当たり前だ。さあ、ゲートを通って帰るぞ」
 私は〈鳥の巣〉と外をつないでいる、あのゲートを思い出した。
 あれは、〈扉〉とみなされないのだろうか。
「あっ!」
 言うと同時に走り出していた。もう二階のどこにも父の姿はなかった。
 オレーシャも見当たらない。
 私はそのまま下のフロアへ走った。
「父さん!」
 私はスマフォを取り出して父に発信した。
「なんだ」
「最後に教えて」
「ちょっとまて、車を止める」
 しばらくの間。
「なんだ?」
「私たちが〈鳥の巣〉に入るためのゲート。父さん知ってる?」
「ああ。まだ建設中のやつだろう」
「あそこは、〈転送者〉が発生する範囲なの?」
「……」
 父の方からは、まったく音が聞こえない。
「ねぇ、どうなの? あれ、完成したら巨大な〈転送者〉が……」
 私はスマフォを見つめた。
 鬼塚刑事が追いついてきた。
「どうした?」
「父にどうしても聞いておかないといけないことが」
「俺たちと同じように、地下の駐車場に車を止めているんだろう。急ぐぞ」
 私達は急いで地下に駆け下りると、車にのってシートベルトをしめた。
 後部座席で山咲は寝ていた。
 急発進して、ウエスト・データセンターの外にでる。そのまま道を飛ばして進むが、父の車は見えてこない。
「このスマフォを使って、砂倉署を呼び出してくれ」
 私は受け取ると電話を掛ける。
「藤沢っていうのがいるはずだから」
「鬼塚刑事に頼まれて電話をかけています。藤沢さんお願いします」
『鬼塚刑事? どうしたんです?』
「藤沢さんですね? えっと……」
 私は鬼塚刑事の方をみる。
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「やるんだったら、ワザと扉を設置して実験すればいい。どこは出てきて、どこからは出て来ない。それが見極められれば、鳥の巣の外のアンテナはすぐわかる。ただ、扉を作ってしまえば大量の〈転送者〉が発生する。誰がそれを止めるのか。鳥の巣の内部は、立ち入り禁止区域の特別な法律で軍が〈転送者〉を処理できるが、〈鳥の巣〉の外は違う。ただ誰も住んでいないだけで、あの周辺は〈鳥の巣〉の外なのだから、本来、避難区域ではないんだ。〈転送者〉が出た場合、警察に治安維持で戦わせる事は出来るが……」
 〈転送者〉の処置は私がやる、と言いかけてやめた。
「警察がダメだったとして、最近増えている事件が『継続的に』続いたとすると、発生位置の情報が父さんにどんどん入ってくるわけでしょ? それなら位置が突き止められる?」
「……確かに警察から発生位置の情報は来ることになっているが」
「そこまでこだわるのはなぜだ」
「父さんは〈某システムダウン〉のこと、覚えている?」
「ああ。|澪(みお)を失った日なんだ。忘れるわけがない。お前の友達の|鴨川(かもがわ)|美琴(みこと)も……」
 私は耳をふさいでいた。
「自分から聞いておいて、嫌なことには耳をふさぐのか」
 耳をふさいだまま私は床に伏せてしまった。
「まだ気持ちの整理がつかないらしいな」
「……」
「公子。お前は、あの日……」
「うわぁぁああ!!」
「どうした!」
 鬼塚の声が響く。
「なんでもない。大丈夫だ」
 と、父が鬼塚の声がする方向へ言い返す。
「あの日のことが、今のお前の〈転送者〉へのこだわりと関係している。そうだろう?」
「こっちから聞こう。あの日、お前に何があった?」
「……」
 救急車…… 改造…… キメラ……
「美琴はまだ生きているよ」
「……そう信じるのはお前の勝手だが」
「生きてる!」
「それが〈鳥の巣〉や〈転送者〉にこだわる原因か。確かにあの日に怒った|大虐殺(ジェノサイド)の犠牲者は、死体も見つかっていないから、『行方不明者』として処理されている。だからと言って、本当に『行方不明』ではないんだ。今のお前なら、それがどういう意味がわかるだろう? 言葉通りに『行方不明』じゃないんだ」
 涙がかってに流れていた。
 悔しくて手が震えていた。単に父に怒っているのかもしれない。
 父は何も言わずに部屋を出ていく。
「白井先生……」
「なんでもない。あれ? オレーシャは?」
「そっちの部屋で寝ています」
「そうか」
 頭の中で何度も〈転送者〉暴れていた。
 混乱する空港の中、誰が誘導するわけでもなく、安全かどうかを肉眼で判断しながら進んでいく。
 血の匂い、ケーブルが焼けこげる匂い、やがてやってきた軍が使う銃器が放つ匂い。
 人々の悲鳴が聞こえ、ガラスが割れ、あらゆるものが高いところから、低いところへ落とされていく。
 父に手を引かれながら、右に曲がり階段を上がり、壁に隠れ、廊下を走り抜ける。
 何かにつまづいて転んだら終わり。
 〈転送者〉に見つかったら死が待っている。
 戦場に行ったことも、見たこともなかったが、これが戦場なのだ、とあの時思った。
「白井」
 鬼塚刑事が、小さい声で言う。
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 亜夢はキャンセラーを外してあたりの様子を感じ取ろうとしていた。
「乱橋さん、誰かいたの?」
 黙って、と言わんばかりに、亜夢は目を閉じ、制止させるように手を上げた。
 中谷も、加山もあたりを見回すが、こっちを監視しているような見張っているような人物は見つけられなかった。
 亜夢が目をあける。
「……」
「どうだった?」
 小さく首を振った。
 そして干渉波キャンセラーをしっかりと頭に付けなおす。
「中谷。次に行こう」
 パソコンを開くと、中谷は別のビルを指さした。
 次は、飲食店だった。
 調理場の裏口からでると、騒ぎになったあたりがバッチリ視野にはいる。
 一人一人にあたっていくが、当日はシフト外だったりするために、なかなか目撃情報は得られなかった。
 いくつかあった話は、もうパトカーが来て現場検証をしている段階ので気づいたというものだった。
「後で思い返せば、あれが拳銃の音だったんだ、って程度で。たいして印象には残っていないんです」
 それら一言一言、清川は一生懸命にメモを取っていた。
 対して中谷はパソコンをずっと操作していた。会話を打ち込んでいたわけではないようだった。
「ありがとうございました」
 加山が礼を言うと、時間を見てから
「じゃあ、ここでお昼いただくか」
 と言った。
 亜夢は小さく『えっ』っと言ったが、中谷も清川も反論しなかった為に、そのまま店の正面に回って客として店内に入った。
 入り口に入るとき、亜夢は視線を感じて振り返った。
 じっと亜夢の方を見ていた。
「あっ……」
 フェイスマスクをして、表情はほぼ見えない。
 大通りで亜夢と|超能力(ちから)比べをした人物だった。
 亜夢は一人で行動するな、という言いつけを守るため、清川の腕を引っ張った。
「あそこ!」
 言うと、その人物は見えなくなっていた。
「あれ?」
「どうしたの? 乱橋さん」
「昨日のライダーが」
「もしかして、最初にこっちをみていたのも?」
 亜夢はだまってうなずいた。
「確証はないですが」
「……」
 亜夢と清川も加山と中谷の座る席につくと、昨日の話をした。
 中谷がパソコンのキーボードを叩きながら、亜夢にたずねる。
「そのライダーは超能力者で間違いないんだよね?」
「パチーンて、すごい音だったんだから、間違いないよ」
「清川に聞いたんじゃなくて、乱橋くんにきいてるんだけど」
「間違いないです」
「乱橋くんに付けていたパトレコの映像をちょっとみてみることにしようか」
 ノートパソコンを机の端に置き、全員が見えるように向きを変えた。
 キーボードの手前のパッド部分をちょん、と叩くと画像が再生された。
 この店の入り口が映り、ぐらっと画面が揺れると、正面にフェイスマスクをつけた人物が映る。
 中谷の指がちょん、と動く。
 映像が止まった。
 中谷がバッドの上でピンチアウト操作をすると、その人物が大きく映る。
「粗いな……」
「待っててくださいよ。動画だから前後のデータから補完できます」
 アイコンをちょん、と叩くと大きな粒で表示されていた映像が、段々と詳細な映像に変わる。
「……やっぱり」
「昨日のバイクの人だね」
 店の人がたまりかねて注文を取りに来た。
「ちょっと取り込み中なんだ」
 加山が店員を帰す。

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