その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 その放物線は……
「アリス、危ない!」
 言う前に走っていたが、間に合わない。
 アリスは飛んでくるアスファルトにも、私の声にも気づいてもいない。
 ダメだ。
 走りながら私は目を閉じてしまった。おそらく翼をつかって、飛んでも間に合わなかった。それに翼を持っていることがばれてしまう。それらの事はすべて言い訳だが、私の頭のなかでいくつも、何度も繰り返された。
 目をゆっくりと開く。
 そこにはアスファルトが砕け、破片となったものがいくつもあった。中心には大きな塊と破片が集まって、山になっていた。
「アリス?」
 そのアスファルトの破片を端から片付けた。その山に埋もれたアリスを探していた。
 〈転送者〉がゆっくりと近づいてくる。
 私は破片を掴んでは〈転送者〉のコアと思われる部分へ投げつけた。
 〈転送者〉は大きく下がって回避する。
「アリス、生きてるなら返事して!」
 大きな破片を裏返すようにどかすと、下の道路が見えてくるが、アリスの姿がない。
「どういうこと……」
 破片を〈転送者〉に投げつけながら、私は呆然と破片を避けた場所を見つめた。
 〈転送者〉が、破片を投げつけるだけではやり過ごせなくなってきた。
 腕を使って破片を払いながら、E体の〈転送者〉が向かってくる。
 私は足の爪と背中の翼を出し、飛行し、スキを見つけては蹴り込んだ。
 もしアリスがあのアスファルトの破片をかわしていて、今、どこかに隠れているとしたら、私と〈転送者〉の戦いを見てしまっている。キメラではない者の中では、マミしか知らない事実を見せてしまっていることになる。
 けれど、今はまだ見ていないかもしれない。
 私は〈転送者〉を早く倒そうと焦った。
 急降下してコアを貫こうとするが、E体特有の太い腕でかわされてしまう。
「まずい」
 いつの間にか、私は着地していて、なおかつ〈鳥の巣〉の壁側に追い詰められていた。
 左右へ逃げ出そうとすると、〈転送者〉は腕を振り下ろしてくる。
 じっくりと、確実に倒そうとしている。 
 私は翼をしまった。
「もう飛んで逃げるような間合いじゃない」
 翼が〈転送者〉の攻撃を避けるのに邪魔になったのだ。
 体をひねりながら、〈転送者〉が腕を突き出してくる。
 私は体を回したり、しゃがんだりして、一つ一つを確実によけた。
 すると、〈転送者〉が大きく腕を振り上げて、頭から潰そうとしてきた。
「今だ!」
 〈鳥の巣〉の瓦礫を両足で蹴って、〈転送者〉のコアめがけてジャンプした。
 このタイミングならカウンターになる。
 足の爪を伸ばし、体を矢のようにして、〈転送者〉の腹の上あたりに見えたコアを捉える。
 突き刺さる足先に、コアの感触が伝わる。
「やった」
 パキっ、と〈転送者〉の奥で音がする。
 コアが砕け、E体の体が塵のように分解して消えていく。
 消えていく体から、コアの破片だけが地面に落ちた。
 額の汗をぬぐうと、大きく息を吐いた。



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「なんで?」
「亜夢にはいろいろやらされるからな。寮の部屋の掃除とか、教室の掃除とか、プール掃除とか」
「掃除ばっかりじゃない」
「今まで、そういうのじゃんけんで決めてたけど、それをババ抜きにすれば全部あたしが勝ったはず」
「逆に全部負けてたの?」
 と美優が言うと、ゆっくりとアキナはうなずく。
「それもどうなのって思うけど……」
「あっ、美優。馬鹿にした。ゆっとくけどね、一対一のジャンケンは亜夢に勝てないから。めっちゃ動態視力いいのよ」
「動態視力? 見て逆を出すの?」
 美優はあきれたような顔で亜夢を見る。
 亜夢はまだ手元のトランプを見つめている。
 奈々が苦笑いしながら、美優に答える。
「ちょっとずるいよね。けどそれはみんな同じ条件だから……」
「まあ、手の振り方とか癖で見抜くのとかわらない、っちゃ変わらないけど」
 美優は気が付いたように人差し指を立てる。
「あ、じゃあ、ババ抜きだって考えを読めば?」
「それがそうはいかないんだよ」
 アキナが言う。
「私は全然変なことを考えてれば亜夢がいくら読もうとしても読めないのはわかってるから」
「?」
「じゃあ、私達の考えは?」
「伝えようとしているなら読めるかもしれないけど、なんでもかんでも人の考えが分かるわけじゃないのよ」
「へぇ」
 美優は納得したようだった。
 四人は連休を利用して、海沿いの村に行く途中だった。


 話は小林達が襲ってきた翌日に戻る。
 亜夢達四人は、空き地で男たちと喧嘩しているのを通報され、亜夢は校長室に呼び出されていた。
 皺だらけだが、誰より姿勢がいい白髪の老人、非科学的潜在力女子学園の校長はいつものように生徒を叱っていた。
「|非科学的潜在力(ちから)を使って、|超能力(ちから)で解決している限り、君たちはいつまでたっても社会に出ていけない。この片田舎から羽ばたけないんじゃぞ。確かに相手が悪い。復讐のために武器まで持ってきている。だが、それを超えるような武器で対抗してはいけないんじゃ。わかるな?」
「……」
「分かるな?」
 老人の語気が強まった。
「はい」
「声が小さい」
「はい!」
 老人は一人一人に紙を配ると言った。
「そこに反省文を書いてきなさい。反省文を見て、理解していない、と思った者は、もう一度ここに呼びだして説明する」
 亜夢が言う。
「それパワハラ……」
 人差し指を盾て左右に振った。
「違う。これは教育じゃ」
 亜夢は、むすっとして校長を睨んだ。
「亜夢、あれ聞いてみてよ」
 横に座っていた美優がそう言った。
「……」
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「白井、今日から寮の部屋割り変わるらしいから、寮で指示を受けて。後、北島も寮に入るから、スクールバスに一緒にのって、寮の案内も頼むぞ」
「……はい」
 私は返事をして、アリスの方を向く。
 アリスは察したのか、私にお辞儀をした。
 マミがアリスに声をかける。
「私も一緒に帰るからね、アリスちゃん」
 アリスはうなずく。
 私達五人は、成田さんの運転する帰りのスクールバスに乗った。
 相変わらず音は豪快だったが、スピードは出ていなかった。
 私は端の席に座り外を見ていた。横にはアリスが座っていた。
 前にマミとミハルが座り、チアキは一人で一つ後ろに座った。つまり、誰一人声を出さない組み合わせだった。
 他の生徒も妙におとなしかったせいで、室内にはエンジンの音だけが響いていいた。
 私は外の景色の中に異変を見つけた。
「まずい」
 成田さんも気づいたらしく、ブレーキを掛けた。
「キミコ!」
 マミも気づいたらしく、立ち上がって後ろを振り向いた。
「うん」
 私はアリスの前を通り過ぎて、バスの通路を駆け出した。
「私も!」
 振り返って、マミへ言った。
「マミはこのまま寮へ戻って」
 私はバスを降りた。
 正面にはE体の〈転送者〉が道を塞いでいた。
 後ろにスクールバスに乗った生徒の視線を感じる。
「(こっちにきなさい)」
 と小さく言って、バスの真横、乗っている生徒たちの死角を、学校へ戻る方向に走る。
 同時に、成田さんがアクセルを全開して、〈転送者〉へ向かう。
 バスは、ギリギリですれ違う。
 〈転送者〉の陰になって、私の姿はバスから見えなくなる。
 これでよし、と私は思った。
 私が戦って、〈転送者〉を破壊すればいい。そうすれば〈転送者〉は寮も学校も破壊しない。マミも傷つけないし、街も破壊されない。
 E体がすごい勢いで私に突っ込んできた。
 強靭な腕を振り上げ、それをつなげて振り下ろす。
 手をつなげたせいか、E体の腕がアスファルトに強く食い込んだ。
「!」
 横に避けた時に、寮の方向に人影を見つけた。
「マミ?」
 〈転送者〉の動きをみながら、その人物を見極めようとする。
「ア、リス……」
 何を考えているのか、それとも何も考えずに私を追ってバスを降りたのだろうか。
「あんた状況わかってる?」
 この距離で聞こえるかはわからなかったが、私はそう口にしていた。
 アリスは微笑むわけでもなく、怯えているわけでもなかった。委縮しているとか、躊躇している感じもない。ただ無表情にこっちを見ている。
 この大きさの〈転送者〉が暴れているのに?
 E体が食い込んでいた腕を勢い良く引き抜くと、道路のアスファルトが剥げ、空に放たれた。
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