その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 それまでの間は、警備室で鍵の置き場所、鍵の貸し借りの時に記載する表の書き方や、事前に連絡がなかった人を入館させない為の断り方とか、細かい警備室での業務の方法を教わった。
「ちょっと急いだけど大体こんな感じだね。イレギュラーなことは逐次教えるから」
「わかりました」
 と言ってから、俺は少し息を吐いた。
「少し休憩入っていいよ。さっきの休憩所に行っても良いし、裏で休んでもいい」
「はい。ちょっと上に行ってみます」
 平田さんに軽く手を振って、俺はエレベーターホールに出た。
 ポケットに手をいれると、スマフォが入っている事に気がついた。本来、警備のバイト中は私物はロッカーに入れていなければならなかった。
「そうだった。後でロッカーに戻しておこう」
 エレベーターに乗ると、スマフォの画面を確認した。
 冴島さんからの着信があった。
「あれ?」
 飲み物の自動販売機があった休憩室につくと、俺は冴島さんに折り返した。
「もしもし、影山です」
「どう、仕事は慣れた?」
 いきなりテンション高い感じだった。
「初日ですよ、分かってて言ってませんか?」
「ああ、そうだったかしら。私は私で色々あったから、どれくらい日が経ったかよくわからなかったのよ。それより、霊がついてそうな人物に目星はついたの?」
 やけに明るい感じの口調。酔っ払っているのか。俺は勝手に推測した。
「だから初日ですよ? まだ分かりませんよ」
 だんだん俺も声が大きくなっているような気がする。
「ビルが完成しないんだから、結構強烈な状態になってると思うんだけど?」
 俺は嫌味の一つでも言ってやろうか、という気持ちになっていた。
「ええ、そうですね。さっき大怪我しそうになりましたから」
「大怪我? しそう、ってことは平気だったのね」
 気にもとめないような口調。少し悔しい。
「……と、まあそんな話です。体はおっしゃる通り無事でしたが、心は震え上がってるんですよ」
「落ち着きなさいよ。そういう時の為にあの高額な腕時計を渡しているんだから」
 えっと…… いや、そんな機能は無かったはずだ。というか、どうやって腕時計で木刀を回避するというのだ。
「……使い方しらないくせに」
 少し間が空いた。いいところをついたようだった。 
「し、失礼ね。あの時はちょうどマニュアルを読んだばかりで」
 冴島さんが動揺した感じに、俺は『この手は使える』と思いニヤリとした。
「それより、この仕事で一つ疑問があるんです。俺、霊なんか見えませんよ。どうやって人物を特定するんですか?」
 冴島さんは間髪を入れずに答えた。
「あなたさっき腕時計の機能を知らないみたいに私にいったのに、あなたこそまだ使い方わかってないの?」
「……」
 なんだろう、俺は必死にマニュアルの内容を思い出していた。目次、とにかく目次に書いてあった項目だけでも思い出せないだろうか。
「機能3、腕時計は悪霊に反応して装着者に知らせます、って。ここに、ちゃんと書いてあるじゃない」
 間に合わなかった。完全に勝ち誇ったような冴島さんの声。
「つまり、ようかい〇ォッチと同じってわけね」
 電話越しに、マウスのクリック音が聞こえた。
「あっ、マニュアル、今見てるでしょ?」
「あなたこそ見てても、覚えてないんでしょ」
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「……」
 亜夢は黙って中谷を睨みつけた。
「すみませんでした。乱橋くん、森くん」
 頭を下げる中谷に、亜夢もアキナも頭を下げた。
「さあ、中谷さん、私達は準備は出来ています。行きましょう」
「ああ」
 中谷がヘリの方へ走り出すと、亜夢とアキナもヘリに向かって歩き始めた。
 亜夢は自分の|非科学的潜在力(ちから)を使って砂埃を弾きながら歩いていく。
 アキナは校庭の端で見つめている学園長に手を振った。
「行ってきます!」
「気を付けるんじゃぞ」
「わかりました~」
「乱橋もな~」
 亜夢は、振り返って学園長に手を振ると、ヘリに乗り込んだ。続けてアキナも乗り込む。
「例によって、規則なんでこれをつけてね」
 そう言って中谷は、シートベルトを着けている亜夢とアキナにVRヘッドセットを一つずつわたした。亜夢は中谷がノートパソコンに結線しているのを指さして言った。
「中谷さん、これ。これ外してくださいね」
「あっと…… はい。はずしたよ」
 それを確認して亜夢はVRヘッドセットを着ける。横を見ると、アキナが水着で立っている。
「アキナ、もうそこにいるの?」
「亜夢、これなに。何で砂浜にいるの?」
 姿は見えないが、中谷の声が聞こえてくる。
「付けたなら、出発するよ」
「はい」
 二人の乗ったヘリは上昇を始めた。
 亜夢がアキナに説明を始める。
「えっとね。私達ヒカジョは航空機に乗るときは、悪いことしないようにVRヘッドセットをつけて、こういう風景の中に閉じ込められるのよ。このVRで、|超能力(ちから)の使い先が分からなくなるようにしているの」
 VR内の亜夢が、あちこちを指さす。
 アキナもあちこちを見回して、答える。
「た、たしかに、これじゃ、|非科学的潜在力(ちから)を使おうと思っても、何がなんだか分からないよ」
「この前は、この空間にずっと一人だったから……」
 亜夢はしゃがむと、波を手ですくってパッとアキナに浴びせた。
「うわっ!」
 アキナは目をつぶった後、濡れているわけではないことに気づきびっくりする。
「亜夢、ここどこ、なにこれ?」
「VRだよ。仮想現実」
「だって私腰かけてるはずなのに?」
「アキナってば…… そこは間違わないでしょ? 体はシートベルトと椅子についているから、風景を見ると、自分の足とかがまっすぐなってて、なんで立っているのかな、って思うはずだけど?」
「……」
 アキナが何か考えているようだった。
「なんとなく理解できた」
「!」
 亜夢が顔を手で隠した。
「バカ、もう一本接続してたのね?」
「亜夢、なんのこと? なんで顔を隠してるの?」
「顔を隠してるんじゃなくて、見たくないものを見ないようにしてるのよ。アキナ、前の方に手を伸ばして、ノートパソコンにつながっているケーブルを抜いて」
 亜夢はVRゴーグルをつけたまま、手を伸ばす。前方のシートに座っている中谷の膝に手が当たる。
「あっ、なんかあった」
「アキナ、はやくお願い」
「何が見えてるの?」
 アキナは後ろを振り返る。
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 俺はそのことを聞こうとした時、平田さんが言った。
「この上にさ、飲み物の自動販売機と休憩スペースがるんだよ。そのフロアはちゃんと出来てるんだよね。あんまり先に完成しすぎたから、作り直しになるかもしれないけど」
「えっ、いくらなんでも出来たところを作り直しなんて」
「監督のことだからな〜 何かまたいちゃもん付けられるに決まってる。さあ、いこう、結構変わった飲み物も置いてあるんだよ。俺のお気に入りのカフェイン入りドリンクもあるからさ」
 平田さんは何か乗り気で、エレベータを待たずに階段で上がる選択をした。
 俺もエレベータを待たずに、平田さんの後をついていった。
 上がってみると、確かにフロアは完成していた。広い休憩スペースに、飲み物の自動販売機が並んでいた。
 最新型のディスプレイにタッチするタイプだった。
 平田さんが正面に立つと、好みの飲み物が少し目立つように光って表示される。
「これこれ。コンビニとかでも置いてある所少ないんだよね」
 そのドリンクを象徴するカラーのピンクとグリーンがビビッド過ぎて、飲んだことのない人間からすると毒々しく見える。
 平田さんが、カードをかざすと、ガツン、と音がして飲み物が出てくる。
 平田さんがそれを取って、休憩スペースのスツールに腰掛けた。
 俺が代わりに自動販売機の前に立つと、天然果汁系のものが光っていた。
「なんだそのチョイス……」
「いや、今日はココアにしますよ」
 と言って交通系ICカードをかざすと、同じようにガツン、と音がして飲み物が出てきた。
「ここすわっちゃっていいんですか」
「養生用のビニールがついてるからいいんだよ」
「そうですか」
 俺も座って、平田さんと同じように外の景色を眺めた。
 繁華街側に窓がついているせいか、下から様々な色の光が見えて、夜景として綺麗だった。
 俺は、少しこのビルの事を考えた。
 何ヶ月も完成がずれると、入居予定だった企業へ違約金とかを支払わなければならないんじゃないか、ということだった。それになかなか入れる時期が分からなければ、空いているフロアにテナントがつかないだろう。完成を先延ばしして、得をする人は誰もいない。監督が難癖をつけて完成を引き伸ばしているとしても、違約金のことを考えれば、会社側から無能として監督を入れ替えてしまうだろう。
 では何故、会社は監督を変えず、ビルも完成しないのだろう。確かに、例としてだが、床やら壁やらがキッチリ出来なければ、つまり最初の構想通りに出来ないとしたら、そのまま引き渡すことは出来まい。最初の計画通りに仕上がるまで作り直しになる。しかし……
「さあ、休憩終わり。下に行ったら警備巡回の結果報告について説明するから」
「はい」
 俺は少し残していたココアを傾けて飲みきり、ゴミ箱にいれた。
「ん? 監督のいたフロアはまだ巡回していないんじゃ?」
「警備巡回は基本無人のフロアだから、あそこは誰もなくなってからやるんだよ」
「なるほど……」
 俺たちは階段を使わず、一気にエレベータで警備室のフロアまで下りた。
 エレベータを下りて、警備室へ向かう途中、黒い髪の女性の姿を見かけた。廊下の角を曲がる時、一瞬横顔が見えた。黒いメガネの女性…… 斎藤さんだった。
 今、やっと下りてきたのだとしたら、最初にエレベータで見かけたときからは随分時間が経っている。
 斎藤さんは一体どこにいたのだろう。そして何をしていた?
「醍醐さん、やり方教えるからこっち」
 平田さんに呼ばれ、警備室へ戻った。
 警備巡回の結果報告書の書き方を教わった。
「今度は…… そうだな、二時間後にやるから、醍醐さん一人で回ってみる? 図面見ながら一人で回るとすぐおぼえるよ」
「ちょっと不安ですが、やってみます」
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