その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「こんな人魂が出るような家になんで住んでるんですか?」
「駅からここに来たなら、途中で高層ビル見えなかった? 事務所にすごく近いのよね」
 冴島さんは高層ビルの方向を指差す。
「そりゃそうですが、近いってメリットが人魂が出ることを上回りますか?」
「近いだけじゃないわ。霊が出るんで、価格が安いのよ。地価もウワモノもかなり安くで買ったわ。そこら辺のマンション住んだらすぐ元が取れるぐらい安いのよ。霊はこっちは専門家なんだから、対応方法はわかってるわけなんだし」
「まあ、そうでしょうけど。火の玉がフヨフヨしてたら、外歩いてる人はこの家なんだ? って思いませんかね」
 冴島さんは残り少ないコーヒーをクィっと一気に流し込んだ。
「住まわせてもらう立場なんだから、文句言わないの」
「は、はい」
「気付いたかどうか知らないけど、悪いけどあなたの部屋はあの納戸ね。ちゃんとした部屋があれば良かったんだけど、ここ、そんなに広い家じゃないのよ」
 さっきあの納戸の様子をみた時、こう言われることはなんとなく予想していた。
 中島さんが、ソファーから顔を出して言う。
「それとも私の部屋で一緒に暮らす?」
「えっ……」
 たとえウソでも、冗談でも、少し期待してしまう。
 冴島さんは俺の顔と中島さんを交互に見やりながら言う。
「おい。言っとくけど、この|家(うち)では恋愛禁止だからな。エロ動画とかも禁止」
「エロ動画も?」
「エロ動画もだって」
 そう言って中島さんが笑った。
 冴島さんはコップを洗いに立ち上がり、言う。
「それくらい共同で暮らす上での最低限のルールでしょう?」
「そ、そうですね」
 せめてPCとディスプレイが俺の部屋にあれば文句は言われないのだが、ここに置かれてしまっていることが悔やまれる。
「あ、そうだ、このディスプレイとPCなんですけど……」
 冴島さんはコップの拭き終わると、棚に戻して振り返る。
「そうそう。丁度テレビが壊れてたのよ。悪いけどしばらく使わせて」
「えっ、あっ、えっと」
「そっか。じゃあ、月々の使用代の支払いをするわね」
 そこまで言われてしまうと、自分の部屋に持ち帰る事ができない。せめてPCだけでもと思ったが、別のディスプレイがあるわけでもない。それにPCを持ち帰ったらその中にチューナーがあるために、テレビとしては使えなくなってしまう。
 俺はノートPCの購入を決意する。
「はぁ……」
「どうしたの?」
 冴島さんは不思議そうな顔で俺を見るが、中島さんはニヤニヤ笑っている。
「じゃ、いいかな?」
 その時、テレビから臨時ニュースを知らせる音が鳴った。
「なになに…… コンビニで立てこもり事件だって。店員と客を人質に。住所は…… あれ? これ今日行ったとこの近く」
「えっ? じゃあ、俺の家の近所じゃないですか?」
 冴島さんが冷静に訂正する。
「前の影山くんの家の近所、ってことね」
 何か胸騒ぎがする。
「冴島さん、俺戻らないと」
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「あっ、そうそう。私も影山くんに聞きたいことがあったわ。あの時、何故、私『妹』だったの?」
 俺は二人からの視線を外してディスプレイの方を見た。
「……」
「玲香、それ何のこと?」
 中島さんが、昨日冴島さんが来るまでのことを淡々と説明した。
「ふぅ~ん」
「……」
「冴島さん、なんか分かったんですか?」
「別に。たぶん、あんたの欲望よ。欲望。そういうのが一番強く表れるものだだから」
「え~ つまりは|妹萌え(シスコン)なんだ? そう言えば動画のタイトルにも『妹』が何個かあったような」
 俺は口の前に指を立てる。
 冴島さんが聞き返す。
「動画って?」
「ハハハ。なんでもないですよ」
「なにそれ。乾いてて、気持ち悪い笑い声ね。まあいいけど」
 そんなことを話していると、コーヒーのいい香りがしてきた。
 冴島さんはコーヒーカップを一つ用意し、椅子に座ると注いでそのまま一人で飲み始めた。
 俺は呆然と冴島さんの顔を見つめた。
「ん? もしかしてコーヒー欲しいの? なら自分でカップ持ってきて注いで飲んだら?」
 冴島さんが取り出したところからカップを取ろうとすると、中島さんが言う。
「階段の途中に納戸があるから、そこに影山くんの荷物あるわよ」
「あっ…… そっち使えってことですか?」
 冴島さんが口の前にカップを抱えながら言う。
「まあ、なるべくならね」
「はい」
 俺は階段を上がる為玄関の方へ戻った。
 すると、戸口の周りが妙に明るい。いや、明るいというだけでなく、照らしている光が妙に動いている。車のヘッドライトのように左右や上下とかの一定の方向ではないのだ。フラフラと、生き物のようだった。
 灯りが、フッと近づいてきた時、戸口の周りのすりガラスに映った。
「ひ、人魂」
 火の玉が浮かんでいるのだ。そうだ、コッチ側はさっきの墓地。
「冴島さんっ!」
「ど〜した〜?」
 声だけが聞こえる。本人はやってこない。
「ひとだま、ひとだまがでましたっ!」
「ああ、気にしないでいいよ。家は燃えないし、結界があるから入っては来ないから」
 フラフラと動く火の玉を見つめながら、俺は言う。
「け、けどかなり近くまで」
「だから大丈夫だって。ここはいつもそうだから早くなれないと暮らせないよ」
「……」
 俺は額にかいた汗を拭いながら階段の方へ向き直り、一度目を閉じた。
 階段側を|人魂(ひとだま)が照らしている。 
 パチン、と部屋の灯りを付けて階段を登った。
 階段を登ると、中二階のあたりに納戸があった。扉を開くとダンボールの箱が沢山詰まっていた。
 納戸は天井が一メートルない高さで、そのままは入れなかった。
 マジックペンで書かれた簡単な内容を読んで、コップが入っているであろうダンボール箱を探しだす。開いてゴソゴソやると、いつも使っていたマグカップが見つかった。
「……」
 それを持ってキッチンに戻った。
 俺は冴島さんの向かいに座って、コーヒーを注いだ。
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 直後、亜夢は思念波世界の中で、SATのリーダーが、はい、という意思表示をしたことを確認した。
 おそらく方法としてはそれしかない。亜夢はそう考えた。
 SATの人たちならネットワークの解析をするはずだ。すぐに外部からのアクセスを確認し、覗き見ている相手を特定するか、接続を遮断することができるだろう。
 お願い…… 亜夢は祈るような気持ちになった。



 地下の駐車場の車の中で、中谷はノートパソコンを操作していた。
 運転席にいる清川がたずねる。
「そのパソコン、どうやって通信してるんですか? 私のスマフォ、圏外なのに」
「ああ、これ? 携帯電波と警察無線のデータチャネルのハイブリッドだよ」
「よくわからないけど、納得しました」
 よくわからないのに納得できるってことは、興味がないのに質問してきたってことだな。中谷はそう思った。
 若い男女が車中で二人っきり。加えて中谷も、清川も独身だった。
「清川くん。こんな時しか聞けないこと、聞いてもいいかな」
「は、はい…… なんですか」
 清川は何を聞かれるか、と身構えた。
 相手は独身のロリコンだ。襲われる、とは思われないが、前触れもなくコクってくることはあり得る。
 ポケットから清涼系のタブレットを取り出すと、清川はスッと口に含んだ。
「署でさ、あの…… パンツ無くなったって件があったよね」
 ヤバい。この件はヤバい。清川は必死に頭を働かせる。
 あの件が中谷にバレていることはない。
 |絶対にだ(・・・・・・)。清川は中谷がカマをかけている、と判断した。
「えっ、もしかして、中谷さんが犯人なんですか?」
 清川が中谷の顔を指さした。
「なんで俺が。なんで今自白しなきゃならんのだ」
「だって、今しか聞けないことって」
「自白って、聞いてないだろ? 自分が犯人ってのは、自白であって聞いてないでしょ?」
 言いながら、中谷はバタバタと手を振った。
「そうでした」
 中谷は急に落ち着いた様子で、静かに言った。
「無くなったパンツって、乱橋くんのだよね?」
「そうですけど…… 中谷さん、怪しい。怪しさ満開です」
 中谷は清川から顔をそむけて、軽くノビをした。
「俺に譲ってもらえないだろうか」
「はぁ? 誰がっ」
 清川は慌てて口を押えた。 自ら所有していると言ってしまっている、いやそう受け取られてしまう。
「えっ?」
 間を開けてはダメだ、と清川は思った。とにかく話して気を紛らわせる必要がある。
「誰がそんな口きいてるんですか。ロリコンは女子高校生はアウトじゃないんですか」
「誰がロリコンなんだよ。いいじゃないか。若くてかわいい女性のパンツが欲しい。健全な男のあかしだ」
 こっちの誘いに乗ってくれた、と清川は安堵した。
「本人を口説くんじゃくてパンツに行くところが健全じゃないでしょ?」
「三次元の美女に欲情するのは健全だ」
「だからパンツが問題だと」
「三次元ならいいだろうが!」
 中谷の興奮を抑えなければならない。清川はすこし間をおいてから言った。
「二次元の萌絵に欲情していた方が害がないんですけど」
「清川くんが……」
 中谷は清川の両肩にがっしり、手をかけた。
 ビクッと、清川の体が勝手に反応する。
「な、なんですか」
「清川くんが署内の掲示板で買います、って書いてくれないか」
「え?」
 意外な言葉に、そう返すしかできなかった。
「俺の名前で書き込んだら、さすがに署に居られない」
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