その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 驚いた美優の母は彼女に触れようとする。
 美優は、スッと手をかざし、母親を壁際のソファーへ飛ばす。
 母親は座ったか、と思うと目を閉じてしまった。
『死ネ』
 左右にステップを踏み、指から発せられる雷を避ける。
「君、どうした!」
「危ない!」
 急に飛び出してきた警官に雷が走る。
 亜夢は慌てて手をかざして、警官を吹き飛ばす。
 雷をかわすことができた警官は、無線で応援を呼ぶ。
 近くにいた刑事や警官が美優の周りに現れる。
「そこの女、電撃をやめないと撃つぞ!」
「やめて!」
 と亜夢は叫んだ。
「……」
 美優は『撃つ』と言って銃を構えた刑事に手をかざす。
「やめて!!!」
 刑事は美優が電撃を出すのを待たずに、躊躇なく引き金を引いた。
 アシストを全開にして美優へ走るが、どうがんばっても亜夢は追いつけない。
 美優に当たった、と思った瞬間、キンっと音がして、美優の足元に着弾した。
「!」
 監視カメラ映像から何度も再生した映像が、亜夢の頭に蘇っていた。
「これって、まさか……」
 最初から追っていた犯人が、美優だったなんて…… 亜夢は目を見開いていたが、見える事実を受け止められずにいた。
「違う!」
 叫ぶと同時に、|思念波(テレパシー)を美優に投げかけた。
『美優、どこにいるの!』
 目に移る美優は、指先から何本もの雷を放ち、再び発砲した弾丸を弾いている。
『美優! 私よ、亜夢だよ! 出てきて!』
 力の限り|思念波(テレパシー)を注ぎ込むと、美優の中に動くものがあった。
『亜夢、私……』
 亜夢の頭の中には、バレエを習っていた時の美優、通学途中で話しかけてくれた時、クライノートで買い物している時の美優が、幾重にも重なって現れていた。
 そして、亜夢はその中のずっと奥で、膝を抱えてしゃがんでいる美優を見つけ、それに手を伸ばした。
『美優、自分を取り戻すの!』
 美優が亜夢に気付き、亜夢の手に触れようとする。
「お前は一体何者だ」
 亜夢は現実の風景に気持ちを戻すと、黒い人影が見えた。
 小学生くらいの、小さな人影。
 その黒い人影はゆらゆらと、陽炎のように空気が震えてみえた。
「あなただれ?」
「乱橋亜夢、お前こそ何者なんだ」 
「危ない!」
 亜夢は美優に向けられた銃が、最後の弾丸を発射するのに気付くと、力を伝えて空気を巻き銃口を真下に向けた。
 バン、と銃声が起こって、跳弾した。
 陽炎のように揺れる先にいる、その黒い人影の中から、目だけがはっきりと確認できた。
「……」
『それがあなたの目なのね』

 コアが私達の会話に気付いたのか、スッと消えていった。
「マミ!」
 私はマミを抱きしめた。
「キミコ、ちょっと疑問があるんだけど」
 マミが耳元でそう言った。
「そもそもよ? 私が|素材(マテリアル)なのに、あんなに巨大化するのはなぜ? 巨大化できるから、ミサイルが服ぐらいの素材で足りるのかしら?」
「……確かに」
 私は根本的な『トランスフォーム』の謎を知らなかった。
 素材より大きなものを作れる理屈が分からない。
『コア? ちょっと逃げないでよ。今の、聞いてた?』
 マミの肩の上にコアがちょこんと乗った形で現れた。
『何かな』
『マミを|素材(マテリアル)にしてなぜあんなに大きな機体が現れるのよ?』
 コアはパパッと短く発光した。
『それは|素材(マテリアル)が多次元方向に持つものすべてをこの次元に下ろし、一二次元のものをこの次元に引き上げてくるからさ』
 |胡散(うさん)臭さを感じた。
『……多次元の話をすれば誤魔化せる、とか思ってない?』
『事実だから仕方ないだろ』
 また、パパッと光った。
「キミコ、この光り方変じゃない?」
「うん。私もそう思った」
『コア? あなた、だまそうとする時、パパッって短く光らない?』
 コアがマミの背中に隠れた。
 しかし、パパッと光るのは見える。
『そ、そんなことはないだろう』
『真実をいいなさい』
『知らなくてもいいことを知ると、悲しい思いをすることになるぞ』
『脅すの?』
『真実は自分たちで探せ』
 コアは再びマミの体に隠れてしまった。
「なんだって?」
「四次元とか五次元、一次元とか二次元、そういう|素材(マテリアル)のそういう部分を全部ここに集約するんだって」
「なにそれ?」
「ごまかされてるのかも」
 とにかく、今までの二回とも服が消えている。
 服を厚めに着るとか、消耗するようなことがなく戦闘を終えなければ、服が消える本当の意味が分からない。
「マミの服を買いに行こう。もちろん、お金は私が出すから」
「う、うん」
「それと、今度『トランスフォーム』するときはもっと服を重ねて着てみて?」
「そうだね。服が多ければ裸にならないかもしれないしね」
 私はマミの胸をちらっと見た。
「私は毎回裸になるパターンも捨てがたいんだけど」
「くぉら!」
 マミにデコピンをされてしまった。
 そして、二人で笑った。

 亜夢は|非科学的潜在力(ちょうのうりょく)を使う人間が、最も得意なワザを初手に見せて相手を委縮させることがある、と思い出していた。
「残念だが、これはハッタリではないぞ」
「!」
「私は触れずに君の考えを読んでいる。いくら強い超能力を持っていても、読まれたら対策される。つまり君は私に勝てない」
 亜夢は神島の周りの空気を渦巻かせはじめた。
「分かっているよ。私の周りの空気を……」
『こちらの考えを読んでも、対策できないことがあるのよ』
 空気のある方、ある方を探して動くが、神島は息ができない。
「(クルシ……)」
 空気密度が薄くなっていて、神島の声が小さく聞こえる。
 膝が緩むと、落ちるように倒れてしまった。
 亜夢は倒れた神島の額に手をあてた。
「この人、超能力者じゃない」
 |非科学的潜在力(ちょうのうりょく)は脳がもつ力で、亜夢は経験上、その肉体に超能力があるのかわかるのだった。
 亜夢は会場を出ると、IDを見せ、その場所にいた警官に説明する。
 慌てて無線を使い連絡し、集まってくる警官たちが会場に入っていく。
 亜夢はそのまま清川のところへ帰ろうとしたが、何かが引っかかった。
 会場の周りを歩いていると、発表会に呼ばれたと思われる客が何人か、エスカレータから上がってくるところだった。
 シンプルだが、気品を感じる女性に、亜夢は見覚えがあった。何故見覚えがあったのかは、後ろにいた人物で分かった。
「美優!」
「亜夢! なんでこんなところに?」
 前を歩いているのは、大通りのクライノートで買い物をしていた時に見た、美優の母親だった。
「美優、どちらさま?」
「あっ、えっと。お友達の亜夢」
「そうじゃなくて、どちらの方ですか」
「……どちらでもいいでしょ?」
「あっ、えっと、お家は大きな砂丘のあるとこに……」
 美優の母は、急に笑った。
「失礼」
 母は美優を引き寄せて、亜夢に聞こえるような小声で言った。
「あんな恰好をしているお友達なんて、どういうことですか」
「……」
 美優が下を向いて、長い髪が前に掛かって表情を隠した。
「!」
 亜夢は強力な|思念波(テレパシー)を感じた。
『ワタシのトモダチを……』
『美優?』
『よくもワタシのトモダチを倒したな』
 美優が顔を上げると、亜夢を睨みつけた。
「どういうこと?」
 美優の母が言った。
「乱れた服装の娘とはお友達にはなれない、という意味です」
『死ネ』
 美優は両手を正面にまっすぐ突き出すと、指先から電撃を発した。
 亜夢はとっさに足の力をアシストして素早くバック転をしてかわす。
「美優!」

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