その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「頭じゃない、本当に顔、なの?」
 手で顔を覆うのはフェイクじゃないのか、と疑念を抱きつつも今度は顔をめがけて全速で飛行した。
 目を覆うと見えなくなってしまうせいか、美琴は額のあたりに手をやり、もう一方の手で私を叩き落とそうとしてくる。
「いや、ひたいそのものにコアがある?」
「コロス」
 美琴は額を覆っていた手も使って、私を潰しにきた。
 鼻の先端を狙っていた私は、その様子を見て上昇し、額をめがけて速度を増した。
 その飛び先変更がフェイントになったのか、美琴の手が追いつかない。
 がら空きになった額に私の爪が突き刺さる……
「シネ」
 額の皮が歪み、小さい点が現れたか、と思うとそれは急速に成長して鋭い角へ変わった。
「しまった! ユニコーンだったのか……」
 美琴のそのとがった円錐は、勢いよくひたい飛んでいる私を的確にその中心でとらえていた。
「曲がれぇぇぇ!」
 翼を全力で動かして、向きを変える。
 後、数センチの差で円錐の先端をかわす。
 しかし、角が擦れ、触れた部分が焼けるように熱い。
 その時、美琴の顔の異変に気付いた。
 黒目がなくなって、瞳に別の輝きが映っていた。
「!」
 あれがコアだ……
 角を蹴って、その目を狙ってつま先の爪を突き立てた。
 ざっくりとえぐったところから、体液が噴出してくる。
 私は突き刺した瞳から、反対側に動く球体を確認した。
「逃がさない!」
 動く球体を狙って両足を突き立てる。
 美琴の眉間に私が完全に突き刺さった格好だ。
「グォッ……」
 皮膚のしたでコアが割れるのを感じた。四つ足を投げ出して、大きな体がホールに叩きつけられる。
 遅れて頭がホールの床へ……
 何度も何度も翼を動かし、叩きつけられる寸前に眉間から抜け出した。
 勢い余って私は三階エリアに突っ込んでしまう。
「うわっ……」
 崩れ落ちたコンクリートや壊れた机にぶつかりながら、三階エリアの中で私は止まった。
 体についた埃を払いながら立ち上がり、フロアの端へ歩いていく。
 端から、おそるおそるホールの床をのぞき込む。
 角の生えた上体は人間、下半身が馬、というユニコーンキメラ……
 美琴は某システムダウンの時に死んでいた。
 このホールにいた、美琴そっくりの女の子は…… 〈扉〉の支配者が差し向けた刺客に過ぎない。
 パチッと、電荷がはぜる音がすると、巨体が黒く小さく分割され、さらに分割されていく。
 最後は黒い霧のようになって、ホールの床を漂い始めた。
 やがて霧すらも分解されて、周囲から消えていく。
 コアのあった眉間付近はいつまでも霧が消えなかったが、それすらも消え、ホールから完全になくなった。
 私は大きく息を吐き、のぞき込むために手をついていた壁に向き直り、背中をつけて床にお尻をついた。
「勝った」
 だから?
 勝ったけど、どうする?
 立ち上がり、振り返って床下をのぞき込む。
 何もない。
 その壁を乗り越えてホールへ落下する。
 落ちる直前に、翼を開いて床に降り立つと、私は手を合わせ、まぶたを閉じた。
 祈りの時間を過ごすと、目を開けて右のゴムを取り、左のゴムをはずした。
 そして手で髪を後ろにはらう。
「ツインテールはもうお終い」
 そして私の髪を、どこからか風が通り抜けていった。


 終わり

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「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
 ハツエが洞窟の入り口あたりに立っていた。 
 亜夢が振り返ってハツエの方へ歩いていく。
「今のはなんですか?」
 ハツエは腕を組んだ。
「うーんと」
 そういうとハツエは|思念波(テレパシー)で語り始めた。
『いまのは、亜夢が作り出した影じゃよ。光あるところには影がある。我々の|非科学的潜在力(ひかり)も地球上すべてを照らせる訳じゃないんじゃ。じゃから多かれ少なかれ影はある。だからと言って、影の部分をコントロールできないと、そこから|精神制御(マインドコントロール)されてしまう。そういうことじゃ』
「もっとうまく恐怖と向き合う必要がある、ということですか」
「おねえちゃんすごいね。そのとおりだよ」
 ハツエは笑った。
 亜夢の指の間に小さな稲妻が走った。
「いてっ…… 静電気かな?」
 亜夢は自身が発したそのちいさな雷には気が付くことはなかった。



 その日は、ハツエの家に泊まることになり、皆が二階に布団を並べた。
 亜夢は端っこの窓際で寝たいと言ったら、アキナが私もそこで寝たかったと言い出して、ババ抜きで抜けた順に寝る場所を決めることになった。
 アキナがカードを配り始めると、一階からハツエが上がってきた。
「なにやってるの?」
 亜夢が内容を説明すると、
「わたしもやる~」
 と言って両手を上げて近づいてくると、美優と奈々の間に座った。
「けどハツエちゃんは一階で寝るんでしょ?」
「ううん。さみしいから上でねる」
 アキナはカードを配るのをやめて言った。
「じゃ、もう一度カードを集めて」
 カードを混ぜて配りなおすと、ジャンケンがで始まる場所を決めた。
「えっ?」
 亜夢はジャンケンでハツエに負けたのだった。
「……」
 亜夢は相手の手を見て自分の出し手を変える。超能力サポートによる超動体視力によって、ジャンケンは負けなしのはずだったのだ。
「ハツエちゃん……」
 亜夢がハツエを見つめると、ハツエはニヤリと笑った。
『おぬしがやれるのなら、儂にやれないわけがないじゃろ?』
 と亜夢へ|思念波(テレパシー)でそう答えた。
「じゃあ、あたしからね」
 ハツエは美優に向かってカードを向けて、美優に一枚引かせた。
 美優はにっこりして手札を並べ変え、一組を真ん中に捨てて亜夢にカードを向けた。
「はいどうぞ」
 亜夢は美優から一枚引くが、何もそろわない。カードを並び替えてアキナにカードを引かせる。
「怪しい。いかにもこの飛び出しているカードが怪しい」
 アキナはそう言いながら亜夢の手札を順番に触っていく。
「怪しくないから」
「跳び出させているなんて怪しいよ。だから、周辺も怪しい」
 亜夢はハツエの視線に気づき、はっと思い出した。
「ちょっとまって」
 そう言ってアキナの目の前からカードを引き上げると、ふーっと息を吐き、目を閉じた。
 カードを一度混ぜてから、もう一度アキナの方に向ける。
「取っていいの?」
 亜夢は静かにうなずいた。
 今度はカードにデコボコはなかった。亜夢の手にあるカードは、なめらかな扇形に並べられていた。
「やっぱりさっきのは怪しかったんじゃん。キレいに並べても亜夢がジョーカー持ってる事実は変わらないから」
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 壁を蹴りながら、美琴の横を抜け、私はホールに戻る。
 しばらくして美琴がゆっくりと振り返ってホールに戻ってくる。
 後ろに〈転送者〉を従えて。
「マンイチノカチメモナクシテヤル」
 そういうと、美琴の横に〈転送者〉がやってきた。
 無抵抗の〈転送者〉の体に、美琴が手を差し入れる。
 グッと、引き抜くとそこにはコアが握られている。
 握られたコアが手のひらと融合し、美琴の体に取り込まれていく。
 反対の腕からも同じことをして、最後の一体は、美琴の馬になっている後ろ脚から取り込まれた。
「グオォォォ……」
 うなるような低い声が響くと、美琴の体が輝きはじめ、同時に巨大化していく。
「モウ、モドレ、ナイ……」
 美琴の顔から一筋の涙がこぼれるのが見えた。
「ウォォォ!」
 振り上げた前足を伸ばし、私に振り下ろす。巨大化した美琴の足は、私を踏みつぶすのに十分な大きさになっていた。
 |蹄(ひづめ)が私の体をかすめる。
 私はどこにコアがあるのかを探った。
 足のあたり…… にはないだろう。着地の衝撃でコアを失ってしまう可能性があるからだ。
 とすると、体だが、馬の部分は私の翼と同じで拡張部分だ。足も同じだが、そんな部分にコアを収めることはないだろう。
 つまり、馬ではない人の体の部分にあるはず。
 私は翼を広げ、空を駆け上った。
「人間の体の部分にコアがあるはず!」
 上昇しながら言った、私の言葉が美琴に聞こえたかは分からない。
 けれど的確な位置を突けば、体はコアを逃がそうとするはずだ。体の中でコアが動けば、位置が特定できる。
「いけぇ!」
 一番隙のある、腹の部分に爪を立てて蹴り込む。
 美琴はパッと、手で払ってこようとする。
「?」
 私をただこうとする手とは別の手は、顔を覆っている。
 さっきの〈転送者〉と同じ考えで動いているなら、一方が攻撃、一方が防御をするのは不思議じゃない。
「顔?」
 顔にコアを配置した〈転送者〉はまだいたことがなかった。
 ただ、こんな巨大な〈転送者〉はマミ一緒に変形ロボで戦った以外では経験のないものだった。
 試してみる価値はある。はらってくる手を避けながら、らせんを描くように上昇する。
 美琴の真上を取ると、反転して真下に降下した。
 気が付いているのか、いないのか、反撃の様子がない。
 そのままいけぇ、と心の中で叫び、爪で蹴り込む。
 コアが逃げる様子がない。
 私は素早く翼を広げて、減速した。
「罠?」
 頭に爪を突き立てる前に上昇を開始する。
 美琴の髪の毛が、右から左から襲い掛かってくる。
「まさか、これで絡みとる気?」
 上昇するための羽ばたき以上に、毛を弾くために翼をたくさん動かさなければならなかった。
 あやうく捕まるところだった。
 私は天井を蹴って方向転換する。
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