その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 美優を|精神制御(マインドコントロール)するヤツの姿を見ている。亜夢はそう確信した。
「奈々、そいつが見えたら近づかないで」
「けど、助けないと美優が可哀そう」
「……」
 急に亜夢は首を掴まれた。
「や、ヤバい。い、息が……」
 亜夢は美優と唇を重ねていた。
 美優の耳を引っ張って亜夢が言う。
「こら。何をする」
 美優はにっこりと笑う。
「感謝の気持ちを体で示しただけだよ」
「ほお。感謝するなら、こっちの奈々に感謝しな」
 亜夢は立ち上がって、奈々を美優に突き出す。
「えっ?」
「ありがと、奈々♡」
 亜夢の足元で女子同士の濃厚なキスがかわされていた。
「連中が起き上がる前に寮に帰ろう」
「はぁい」
 美優と奈々が立ち上がり、空き地を出ていく。亜夢の後に、アキナが出てきて袖を引く。
「どうしたのアキナ?」
「亜夢に感謝の気持ちを体で伝えたい」 
「キスならゴメン」
 亜夢が手を合わせて頭を下げた。
「えっ……」
 それきり、寮に戻るまでアキナはずっとうつむいていた。 



 亜夢、美優、奈々、アキナの四人は、汽車に乗っていた。汽車と言っても、蒸気機関車ではなかった。長距離を移動する列車のことだ。
「トランプ飽きた」
 と美優が言って、手札を膝の上に置いた。
「後、どれくらいかかるの?」
 美優はスマフォで確認する。
「おっ、後一時間を切ったよ」
「え~~」
 美優の絶望的なその声を聞いても奈々は笑顔だった。
「じゃあ、美優、おせんべ食べる?」
「おせんべ糖質でしょ」
「豆もあるよ」
「甘いからおなじよ」
 亜夢は真剣にアキナの手札から一枚を選んでいた。
「……」
 決意したように左から二番目を、勢いよく引き抜く。
 アキナが、ニヤリ、と笑う。
 引き抜いたトランプを持つ手が震えている。
「な、なんで戻ってくるの、あんた……」
 可愛らしい絵柄のジョーカーがそこにあった。
 美優が呆れたように言う。
「こんなにババ抜きやったの初めてだよ」
「わ、私も、こんな屈辱初めてだよ」
 アキナが勝ち誇ったように言う。
「亜夢がこんなにババ抜き弱いとはな。もっと早く知っておけば良かった」
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 ミハルと一緒に、こっちに集まってくるもののチアキはムッとしていた。マミが言う。
「さあ、お昼食べに行こう。北島さんもどう?」
 北島はうなずいて、私と同時に立ち上がる。
「いつも購買で食べ物買って、校庭の方に出て食べてるの」
 疲れている私に代わって、マミがずっと北島と話している。
「北島さん、お金とか持ってきてる?」
 北島はうなずく。
「よかった」
「(ゴメン、マミ)」
「(いいよ。だって、キミコ疲れてるでしょ)」
 お昼の間中、マミが積極的にアリスの世話をしてくれたおかげで、私は疲れが癒されるのと同時に、アリスの観察ができた。観察して分かったことがある。
 一つはしゃべらないこと。
 何か伝えなければならない場合には、必ず学校支給のタブレットを操作していた。ペンで書いたり、キーボード操作をしたりするのだが、書いて反応するのは、私達と同じぐらいの速さで応答する。つまり、言語が不明なわけではないのだ。つまり、普通に聞き取れ難なく理解し、返事もできるはずなのに、なぜかしゃべらない、のだ。
 二つ目は小さなことだった。
 それは歩き方だった。マミとアリスが隣り合って歩いているのを見ていた時、スカートの揺れ方が違うことに気が付いた。マミは腰をひねるようにして歩く癖があり、必要以上にスカートが揺れるのだが、アリスのそれはまた違っていた。右、左とゆっくり移っていくような揺れではなく、あくまで感覚でしか表現できないが、どこか機械的な、振動と呼ぶ方が近いような、そんな揺れだった。
「あんた何みてんのよ」
 チアキがたずねた。
「別に、何というわけでは」
「うそ。マミとアリスのお尻ばっかりみて」
 聞こえたのか、マミは手をお尻に回して、スカートを押さえる。
「マミ! 違うからね」
 マミは気にしていない、という感じに手を振って答えた。
 今は、隣のアリスがタブレットに書く答えを読むのに必死になっているようだった。
 私は少し立ち止まって、ミハルを先に歩かせた。
 後ろをついて歩き、ミハルのスカートの揺れの様子を確かめた。
「キミコ? ねぇ。あなた、やっぱりお尻を見てない?」
「チアキ、ちょっとお願いがあるんだけど」
 私は耳打ちして、チアキに先に歩いてもらった。
「あんまりジロジロみないでよね」
 チアキは跳ねるようにあるいていて、これもまた独特なスカートを揺れをみせていた。
 しかし、ミハルやチアキの揺れからは、振動のような感覚は感じられず、アナログな、リニアな印象しか残らなかった。
「ありがと」
 私は少し小走りで進んで、マミとアリスの後ろについた。
 やぱりアリスの歩きは何かが違っていた。
 足の関節か、筋肉のつき方が違うのか……
「キミコ、ちょっと」
 と、チアキに腕を引っ張られた。
「さっき言っていたの、わかる気がする。私も今、アリスの歩きに違和感をもったわ」
 相談の結果、こっそりとスマフォで動画を取って、何度も繰り返しみることにした。
 午後の授業はスキをみてはその動画を眺めて考えていた。
 チアキも私も結論が出ないまま、授業が終わった。
 担任の佐藤がクラスに入ってくると、私とアリスに言った。
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「……」
「なにこれ、さっきの北島アリス、と変わらないぐらい何も入っていない」
「これって、後から入力されないんですか?」
「普通はされていくはずよ。書類不足のまま寮に暮らさせることはないから…… あっ」
 新庄先生は画面を指さす。
「これだけ情報がスカスカなのに、学費と寮費の入力があるのね……」
「どういうことですか?」
「学費、寮費の振り込みがあれば、もしかしたら書類の提出を求めないかも」
「そんなテキトーなことあります?」
「そろそろ切って」
「接続きりますけど…… そんなテキトーなこと」
「そんなもんなのかもね。世の中の源氏って、全部が全部きっちりかっちりできているわけじゃないの。例外もあるわ」
 新庄先生は苛立ったように目を細め、口を真一文字にむすんだ。
「私、職員室に行って、北島アリスの入学に異議を申し立てます」
「ハッキングしてデータを覗き見たところ、不正が発覚しました、とか言うの?」
「……」
 それに対しての答えを用意していなかった。
「ダメね。とりあえず様子を見るしかない。何か変なことがあるなら、そのポイントを中心にして、学校側に資料を要求することは出来ると思うけど」
「わかりました」
 何か北島アリスについて変なことがないか調べればいいのだ。
 今回の転校はどう考えても変なのだから、ちょっと調べればボロが出るにきまってる。
「もういいの?」
「そうとわかったら、ここで寝てはいられません」
「そう。頑張って」
「先生も何か気づいたら」
 パタン、とタブレットのカバーを閉じる。
「うん。わかった」
 保健室を出るとすぐに階段を上がって、自分の教室へ戻った。
 授業が始まっていて、静かだった。
「!」
 私の隣に北島アリスが座っている。
「なんで、あなたが?」
 マミが小さい声で言う。
「(佐藤先生がキミコに北島さんの面倒をみるように言ったのよ)」
 席を変えられたチアキがムッとしてこっちをみた。席の事は、私が決めたわけじゃないのに。
「白井、早く席につけ」
 席に着くと、机のしたで北島が手を握ってきた。
「(なんのつもり?)」
 小声でたずねると、北島はにっこり微笑んだ。
「(放しなさいよ)」
 すると素直に北島は手を放した。
 授業の間中、私は北島と正面に気を配らねばならなかった。
 北島はタブレットの操作が分からなくとも『わからない』とか『おしえて』と言ってこない。
 こっちが気を回して、操作を教えないといけなかったのだ。
 そうして、昼休みになるころには、いつもの3倍も4倍も疲れていた。
「や、やっと昼休み……」
 私が机に突っ伏すと、マミが声をかけてくれた。
「キミコおつかれ」
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