その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「そんな」
 私は混乱した。
「鬼塚刑事、公子。もう考えている暇はない。はやく行こう。ゲートの近くなら〈扉〉は開く。ゲートの大きな〈扉〉が開くには時間がかかるが、小さい〈扉〉なら早く開く。先に対抗手段を手に入れれば、巨大な〈転送者〉だって怖くない」
 私はうなずいたが、鬼塚は冷たい目で父を見下ろしていた。
「で、その対抗手段とはなんだ? 〈扉〉の向こうからしか手に入らないのか?」
「対抗手段はコアだよ。〈転送者〉のコア。公子がそれを使って〈転送者〉と同じ力を手にいれる」
 右手を胸に置いて言う。
「私が?」
「そうだ、お前だ。お前のテレパシーでコアを操る」
「何も想像できないわ」
「俺は?」
「鬼塚さん、あなたは男だ。守るものが多すぎる。〈扉〉の支配者たちのデータを覗き見る限り、男はコアを操れない」
「訳がわからない!」
 私は叫んだ。屋上の入り口に待機していた警官が、少し扉を開けてこちらを覗いた。
「公子。私は〈鳥の巣〉での実験で何度か〈扉〉の向こうへ行った。そして向こうの端末を手に入れ、〈転送者〉の仕組みを知った」
 私はにわかに信じられず、鬼塚の様子を見たが、鬼塚も同じような表情だった。
「私以外にも〈扉〉の向こうに行き、未知の科学を調べるものがいる。その集団に改造されたのが…… 鬼塚刑事やお前だ」
「えっ、どういうこと……」
 私と鬼塚は顔を見合わせた。
「君たちの力は〈転送者〉と同じ。〈扉〉の向こうのテクノロジーを利用したものなのさ」
「そんな!」
 私は驚きで立っていられなかった。
 〈扉〉の支配者が言ったことを思い出していた。
『我々はお前の力を知りたい』
 まさか、試している。私の体を使って、自分たちの技術の力を試しているのか?
 父は立ち上がった。
「行こう。ここで話していては間に合わない。続きは移動しながら話そう」
 鬼塚が私を引っ張り上げ、急いで建物を降りた。
 鬼塚の車にのって〈鳥の巣〉のゲートへ向かった。
 父は手を縛られて後部座席に座っていた。
 私は鬼塚の後ろに座った。
 サイレンを鳴らしながら、一般道を走っていく。
「信じてもらえないのかな?」
「信じてるさ。だが、あんたはウエスト・データセンターからは逃げるように去っていった。俺たち一言も言わずに」
「それより、その先の話よ。〈転送者〉の力を利用するって」
 父は背もたれに体をあずけ、外を見ながら言う。
「たぶん、君たちは見ているはずだ」
「いつ、どこで? 言い方がまどろっこしいのよ」
「私は〈扉〉の支配者側のデータを見ている。君たちはセントラル・データセンターで対決したはずだ。セントラル・データセンターで連れ去られた女性を取り込もうとしていた〈転送者〉のことだ」
「見たわ。あれがどうしたの?」
 縛られた手で何かを表現しようとしていたが、父はあきらめて膝の上に置いた。
「あれはまだいろいろと足りないらしいが、やり方はあのようなことだ。コアが素材を取り込み、素材の力を借りた形をつくる。そしてもう一人、パイロットがいる」
「?」
 もどかしそうにまた手をバタバタさせる。
「あの時の〈転送者〉は明らかに失敗だった。連れ去った女性の取り込みも不十分だったし、パイロットになるべき生体もいなかった。だが、もうあのシステムは完成している。パイロットは君たちのようなテレパシーを使い、パイロットの一番失いたくない存在がコアに取り込まれる」

 そういって鬼塚は電話を掛ける。
 通話をしている間、私は屋上の回りを歩きながら、ビルの外を眺めていた。
「考えすぎ、だったのかも」
 ここにも、向こうにも父は行かなかった。
 もしかして、来なくてもいいのかもしれない。
 頭の中で父がホワイトボードに描いた絵を思い出していた。
 あの図だと、もう一つが拡大すれば、重なる部分も拡大する。
 大きなゲートから〈転送者〉を呼び出したければ……
 私は確かめるように声を出した。
「セントラルデータセンターの中心をずらすか、出力を上げる」
 じゃなければ……
「〈巨大電波塔〉側のアンテナをずらすか、出力を上げる」
 実際、〈巨大電波塔〉で父は目撃された。ここにアンテナがあるのは間違いないのだろう、ということは……
「出力を上げた???」
 私は急いで鬼塚のいるところへ戻った。
「鬼塚刑事、もしかして父は、アンテナの出力を上げたのかも。それなら、アンテナを動かさなくてもいい」
「鬼塚刑事」
 屋上の入り口から声がする。
「鬼塚刑事、白井さんというからがお見えです」
「!」
「白井、屋上の入り口に行くぞ」
 屋上の入り口に、父が出てきた。
 鬼塚は、父の襟を掴むと片手で持ち上げた。
「ぐっ…… 苦しい……」
 これでは完全に鬼塚刑事の方が悪役だ。
「やめてください。父に何をするんです!」
 腕にぶら下がろるように抵抗するが、鬼塚は父を持ち上げたままだ。
「話す、事情を話すから……」
「そのままで話せ」
「っ、ここへ、〈扉〉の支配者の命令を受けてアンテナを持った連中がやってくる」
 父は懸命に鬼塚の手を外そうとしている。
「だが、手遅れだ」
「なんだと!」
 鬼塚はさらに手首を効かせてクビを締める。
「ごほっ……」
「死んじゃう!」
 鬼塚はようやく父を下した。父は壁に背中を預け、話をつづけた。
「アンテナは正確にこの位置でなくても機能する。ここに警察がいると判断すればさらに内側に入ればいいし、別の建物でも、なんなら地下でもいい」
「円の内側なら問題はないわけね」
「もともとあったアンテナが〈巨大電波塔〉であったのは正解だった。だが、それを外されたら、もう分からない。今度は目立つところに立てる必要はないんだから」
「白井先生、あなたがアンテナを奪ったんじゃないのだな?」
 父はうなずいた。
「私が先回りして〈巨大電波塔〉のアンテナを破壊するつもりだった。だが間に合わなかった。アンテナは奪われた」
「〈鳥の巣〉のゲートの工事を止めさせるしかない」
「見たところゲートはもう機能してしまう。それより、あのゲートから出てくる巨大な〈転送者〉と戦う手段を手に入れるべきだ」
 父は私の顔を見た。
「……」
「ゲートの近くに行って、ちいさな扉をつくる。〈扉〉が開いたら俺と公子でそれを見つけに〈扉〉の向こうへ行く。刑事は万一その小さい扉から〈転送者〉が出た場合に対応するため、待機してほしい」
「父さん、もしかして」
「そうだ。お前が隠している事実について、ある程度理解している」

「やった! これ大切にするね」
 美優の笑顔に、亜夢もうれしくなって笑った。
 美優は向かいの席にもどり、亜夢ももとの椅子にもどった。
 しばらくすると、注文した料理が運ばれてきて、二人は楽しく食事を進めた。
 食事のおいしさに亜夢は興奮し、夢中になって食べた。
 しかし、ドルチェが運ばれてきた頃、他のテーブルで会計をしているのを見て、亜夢は忘れていたことを思い出した。
「美優、ここ高いんでしょ? 私、これだけしかないの」
 テーブルに指で数値を書いた。
 美優はそれをみてうなずく。
「亜夢はそれだけ出してくれればいいよ。後はこっちでもつから」
「えっ、そんなの悪いよ!」
「しっ、声が大きい」
 席と席の間隔があいているから、他の席の声など気にならなかったのだが、亜夢の声は大きかったらしく、一斉に視線を集めてしまった。
 周りを見て、頭をさげる。
「ご、ごめん」
 美優は小さく笑った。
「それより亜夢はそのお金出しちゃって大丈夫なの?」
「明日のごはんは明日もらえるし、朝食はホテルのだから払わなくていいのよ」
 支払いを済ませると二人は店を出た。
 周りは、いい雰囲気の男女ばかりだった。
「亜夢、ちょっと話があるんだけど」
「なに?」
「ここじゃ話せないから、ここ入ろ?」
 美優は『ここ』と言われた場所に、男の人に肩を抱かれた女性が入っていくのをみた。
「ここって」
「ラブホテルだけど?」
「えっと……」
「あ、お金は気にしないでいいわ」
「そうじゃなくて、ホテルなら、私の止まってるところでも」
「狭いでしょ?」
「せまいけど…… って、どういうこと?」
「|理由(わけ)は後で。じゃ、入ろう」
 二人は勢いよく飛び込んだ。
 休憩と告げて料金を払い、指定された番号の部屋へと進む。
 扉を開けて入った先には、大きなベッド、ガラス張りの仕切りの先にシャワールームがあった。
 ベッドの枕元にはコンドーム。
「はぁ~ けっこう食べたね。お腹苦しいよ」
 美優はリラックスした感じで『ボン』とベッドに横になる。
「えっと、私こういうの慣れてなくて」
「歩くのに疲れたりすると結構入ったりするよ。追いかけてくる人を撒く時なんかも」
「追いかけられるの?」
「割とね」
 亜夢は美優をみて納得した。
 顔、スタイル、そしてお金持ち…… すべての要素が、追いかけたりする理由になる。
「話って?」
「そうだね。けど、時間あるからさ、シャワー浴びてもいい?」
「えっ?」
「亜夢の一緒に入る? 一人で入っても、どうせガラス張りだから、同じだよ」
「えっ、えっ?」
 亜夢の頭の中に、奈々のことが浮かんだ。
 奈々にアキナとのキスを問い詰めたのに、自分は美優ともっとすごいことをしようとしている。
 都心である、この場所からはテレバシーは通らない。
 だから後で言わなければ、バレることはない。
「あの、あの……」
「?」
 美優は体を起こして、亜夢の様子をじっと見た。
「そんなに考えるんなら一人で入っちゃうね。入りたかったら後できてもいいよ」
 上着を脱ぎ、ブラを脱ぎ捨て、スカートを下ろし、パンティは…… しっかり畳んでタオルの横に置いてから、シャワールームへ入った。

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