その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「荷物はもう運んであるわよ」
「あれ、ここ冴島さんの家なんじゃないんですか?」
 俺は表札を指さした。
「そうよ。私も、冴島さんの家に居候しているの。あなたも今日からお仲間ね。ほら、入ったら?」
「失礼します」
 俺は外の門を開け、家へ入った。
 入ると、二階へ続く階段があり、横にはまっすぐ廊下があった。中島さんは廊下を進んでいく。
 俺はそれについて行くと、そこは居間だった。
「俺のディスプレイ!」
 中島さんは、ソファーに横になりディプレイに大写しされているニュース番組を見ていた。
「ああ、ここに設置してって言われてたから」
「ちょっと待って、これ俺のですよ?」
「いいじゃん。無くなったわけじゃないんだから」
 俺はディスプレイに駆け寄って配線を確認する。
 チューナーではなく、俺のパソコンに繋がっている。
「あっ! 俺のパソコンも。俺のパソコン勝手にテレビ代わりにしないくださいよ」
「だから…… いいじゃん。ここで暮らすんだから」
「……」
 今頃になって俺は気が付いた。
 パソコンをつないでテレビを映しているということは、俺のパソコンにログインする必要がある。
 けれどPCはパスワードでロックはかけていた、はずだ。
「あの、つかぬことをお聞きしますが……」
「ああ、パスワードは推測できるようなものをつかっちゃダメね。今回私痛感したわ」
「うっ、やっぱり」
「ハードディスクに保存してあるエロコンテンツも見つかっちゃったわ」
 俺は頭を抱えた。
「えっ、隠し属性にしておいたのに!」
「隠し属性にしたんなら、『隠し属性のファイルを表示する』、ってオプション外しとかないと意味ないわね」
「うぉぉぉぉ……」
 俺は立ち上がって中島さんを指さした。
「プライバシー! プライバシーの侵害だ!」
「冴島さんには黙っておくから」
「何を黙っておくって?」
 廊下の方から声がした。
 ほどなくスーツ姿の冴島さんが現れた。
「ああ、影山くん。来たわね」
「あの、聞きたいことがいろいろと」
 冴島さんはキッチンの方に入って、コーヒーメーカーに豆を入れている。
「なにが聞きたい?」
「どうして引っ越し……」
 急にコーヒーメーカーがものすごい音を立てて豆を挽き始めた。
 俺は大声で言い直した。
「どうして引っ越ししなければならないんですか?」
「あなた、あの連中に狙われているからよ」
「いきなりすぎますよ」
「いそがないと、今度は前みたいに紳士的にやって来ないわ。必ず強行してくる」
 急に豆を挽く音が止まった。
「そうしたら、あんた勝てないでしょ?」
 俺はうなずく。さすがにこのGLPだけでは戦えないだろう。
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「この女狐めッ……」
「美紅さん、待って!」
 俺も冴島さんの後につく。
 階段を上る冴島さんの足が目の前でバタバタ動く。視線はそのまま膝裏、ふともも、と上がっていく。
「いてッ! 何するんですか」
「変なところで顔を上げるからよ」
「俺の方見てないでさっさと上ってください」
「また見たかっ!」
 俺は顔を手で覆って梯子の途中で止まった。
 ロフトの上から冴島さんの声がする。
「ちっ、小窓から逃げられた。これは確実に影山のせいだな。罰金をつけておこう」
「えっ、ちょっと勘弁してくださいよ」
 階段から顔を出したところを踏みつけられた。
「だから、覗くなって! 覗きの罰金も加算するぞ」



 その日は駅前のビジネスホテルに泊まった。翌日、俺はそのまま大学へ行き、授業を終えて家に向かっていた。
 返り道を歩いていると、トラックが通りかかる。普段気にもしないが、その運転席に見覚えのある金属フレームのメガネの女性が座っていた。俺はトラックが通り過ぎて行ったあと、ハッと気づいた。
「あれ? 中島さん…… だよな?」
 トラックが来た方には俺の家がある。
 いやな予感がして俺は小走りに家に帰る。
 階段を上がって、鍵を開けて部屋に入る。
「えっ……」
 何もない。壁一面を覆っていたディスプレイも、キャベツと水を入れる冷蔵庫も。靴を脱いでロフトへ駆け上がる。
 ロフト部分にあるはずの布団も枕も一切ない。
 部屋から俺の持ち物はなくなっていた。
 トラックに書いてある会社名が思い出される。
 そうだ、あれ、引っ越し会社だ。俺はやられた、と思ってスマフォを開く。通知が来ている。
「そこにいるとトウデクア? だっけ、奴らがまたくるといけないから、引っ越しといたわ。引っ越し先の住所はここ」
 俺は電車を乗り継ぎながら、住所の場所に向かった。
 地下鉄を降りて、地上に上がるとすぐのあたりに大きな墓地が広がっていた。
「えっ……」
 大きな墓地の反対側に、高層ビルがいくつか見える。その中の一つは、冴島さんの除霊事務所があるビルだった。
 慌ててスマフォを確認すると、住所の家はどうやらこの墓地の真横にあるようだった。
 もうあたりは暗くなっていて、墓地沿いの道には、ぽつぽつと灯りが点き始めた。
 墓場に見える|卒塔婆(そとば)が動いたように思えて、俺は周りを確認する。
 その付近の地面に黒い影が動く。大きさからしてネコかなにかだろう。けれどそうじゃなかったら……
 俺は小走りに住所の家に向かった。
 小さな屋根付きの駐車場と、二階建ての家が建っていた。
 表札には、『冴島』と書いてある。
「えっ、ここ、冴島さんの家? タワーマンションとか、ホテル暮らしなんだと思ってた」
 誰にいう訳でもなくボソボソとそう言うと、俺はメッセージを入れた。
『着きました』
「……」
『今出るね』
 メッセージは、中島さんからだった。
 しばらくすると、玄関の明かりがついて、鍵が外れる音がして、扉が開いた。
 スウェットを着た中島さんがひょい、と現れた。
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「(直観、だけどこの上、スタジアムのバックスクリーンなの。確かめておきたくて)」
 二人は階段を上り始める。壁沿いにジグザグに上っていく。
 登り切ったところは暗い空間だったが、少しだけ光が差し込んでいる扉があった。
「(出てみる?)」
 亜夢は扉の取っ手を掴む時、一瞬、躊躇した。
 そして開けると、眼下に広がるのはスタジアムだった。
「うわっ!」
 足場は何もなく、そのまま客席になっていた。後ろから押してくるアキナを腕で受け止めた。
「なっ!」
「アキナ、危ない! 落ちたら……」
 どうやらここはバックスクリーンのすぐ横にある作業用の扉のようだった。下に足場はない。
「亜夢、あれっ!」
 アキナが何を見つけたのか、亜夢もすぐに気が付いた。
 このバックスクリーンの下に、人質と思われる人々が一直線に並んでいた。
 そこは搬入口の門になっている場所で、落ちたら大けがでは済まない高さだった。
 その端ギリギリに、人質が立っている。
「なんだろう、みんな同じポーズしてる?」
 亜夢が言うと、その扉の左に広がる大きなスクリーンに映像が映し出された。
「えっ?」
『ヒカジョの小娘に、SATの諸君。見ているだろうか』
 スタジアムのいたるところにあるスピーカーから音声が流れた。
 音声は個人が特定できないように合成音声で流しているようだ。
『何人か解放していい気になっているようだが、まだ人質はいる。多くても少なくても人の命は同じなのだろう?』
 亜夢バックネット側にもある小さなスクリーンで人質の様子を見た。
「ナイフ。人質全員ナイフを自分の首に突き立てているんだわ」
『私が指示すればすぐに首にナイフを突き立て、落ちるぞ』
「卑怯な!」
 亜夢は間髪入れずに反応した。
 宮下への仕打ちといい、敵は全く容赦しないことを思い出す。
「亜夢、あれ、美優じゃない?」
 慌てて落ちそうになるアキナを腕で押さえる。
 並んで立っている人質の、ちょうど真ん中あたりに見覚えのある黒髪の少女が立っている。
「美優!」
 叫んでも反応はない。亜夢は思念波世界をのぞき込み、美優が首に何かを突き立ていることを感じ取る。
「アキナの言う通りあそこにいるの、美優よ……」
 体を出して、下まで飛び降りようとする。
『止まれ! ヒカジョの小娘』
 亜夢は扉を強く握って、降りるのをこらえた。
「(アキナ、敵には見えているってこと?)」
「(それしか考えられない)」
 アキナと顔を見合わせる。アキナが必死に回りを探る。
 美優の|精神制御(マインドコントロール)をしてそこから情報を得ているなら、前を向いている美優には亜夢の行動は見えない。別の方法で見ているか、本人がどこかにいる。亜夢はそう考えた。
「スタンドも、ベンチも、ここから見えるところに人はいないよ」
「スタジアムのテレビ中継室にいるのかも……」
 亜夢は自分で言って、SATの連中と確認済みであることを思い出していた。
 テレビ中継室には誰もいないのに、映像だけ確認することって……
「まさか、ネットで」
 亜夢はそう言うと、SATのリーダーに|思念波(テレパシー)を送る。
『テレビ中継室。外部のネットワークから接続出来ませんか?』
 相手の頭は混乱していた。さっきまで亜夢から|思念波を送っていなかったのに、突然送り込まれてどうしていいのかわからなくなっているのだ。
 亜夢は伝わるようにもう一度問いかける。
『テレビ中継室へは外部ネットワークから接続されていませんか? それが敵のリーダーかも。理解できたら、はい、と思ってください』
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