その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

『うわっ!』
 いくつかのマンホールの蓋は鎖が伸び切って、その反動で地面に打ち付けられた。別の蓋はそのまま鎖が切れてコロコロと転がていった。
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 あかねは教室に戻って授業が始まると、そんなことをたずねられたことも、麻子にもっと話してあげようと思ったことも、忘れてしまっていた。
 そして午後の練習に出て、何事もなく何日か過ぎていった。
 体育館で女バスだけが練習をする日があって、その日は練習が長めにスケジュールされていた。長いだけでなく、一つ一つの練習が集中力を要するような厳しいものだった。
 そのキツイ練習のなか、あかねはあることに気がついた。
 今日の笹崎先生は、やたら香坂に厳しい。
 厳しいせいか、やたらと香坂の周りにいることが多いし、視線もほとんど香坂を中心にしている。正直香坂はレギュラーではないし、一年生の中で特に上手いということでもなかった。
 居残りさせるつもりなのだろうか、あかねは麻子と話したことを思い出していた。
 居残り練習をすると、何かあるのだろうか。
 私と同じような何か?
 麻子がされたような、何かか?
 あかねは、キツイ練習を頑張ることとは別に、練習の後のことを考えはじめていた。香坂美々(みみ)が笹崎先生のいる準備室から飛び出して来たことがあった。何か、何かがこの二人の間には何かあるような気がしていた。
 あかねは、体育館の中をずっと見渡しながら、どこかから隠れて見ることが出来ないかを必死に考えた。以前、体育館の周りを回ったことや、体育準備室とのつながりや、様々なことを思い出していた。
 練習に集中できないあかねは、よそ見をして香坂にぶつかってしまった。
「ごめん、美々ちゃん」
 あかねが尻もちをついてしまった香坂に手を差し伸べると、笹崎先生がそれを止めた。
「集中してないからぶつかるんだし、気持ちが入っていないから転ぶんだよ」
 えっ、自分が怒られてるの、とあかねは思ったが、笹崎先生は明らかに香坂に向かっていた。涙を浮かべながら、一人で立ち上がると列の最後に並び直した。
「(ひどくない?)」
「(いまのはあかねが悪いでしょ)」
 あかねも笹崎が一方的に香坂を責めるのに疑問だったが、部員からのヒソヒソ声に傷ついていた。
 しびれをきらしたのか、部長が笹崎先生に耳打ちし、練習が中断された。
 部長と笹崎は体育館の外で何やら話している。
 あかねはその様子が気になっていたが、体育館内でも騒ぎが始まった。
「美々、なんで部長はあんたなんかかばってるの? なんか理由あんの?」
 神林が香坂に言った。
「別に何もないです」
「おかしいじゃん、練習中断しちゃってるし。あんたが先生の言うとおり出来ないから問題なんでしょ?」
 あかねは思わず二人の間に入った。
「ちょっと、やめなさいよ」
「あかね? 何してんの? やられたいの」
 肩を強く突かれて、カッとなった。
「何すんの!」
「待ちなよ、二人共」
 四、五人であかねと神林の体を抑えて引き離した。神林は振り払ってあかねの方へ来ようとしていた。あかねは、振り切ろうという格好はしたものの、実際は振り切るつもりなどなかった。
 止めてくれなかったら、どうなっていただろう、と考えるとギリギリのタイミングだった、とあかねは思った。
「さあ、練習再開するよ」
 部長の声が響いた。
 笹崎先生の顔が少し紅潮していて、イライラしている感じだったが、何もないまま香坂をしかるようなことはなくなった。
 練習時間の終わりごろ、香坂は笹崎先生に手招きされて体育館を出ていった。部員全員がそれを目で追ったが、部長は何も言わなかった。



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 薫が指を折って数えていた。
『ということで残りは大体十四時間。これは寝なかった計算でね。一人につき五時間弱で見れるわ』
『けど、Origamiに五時間もいたら……』
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