その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

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 放課後、あかねは美沙と話し込んでしまい、部室に行くのに遅れた。部室に入るともう既に皆が去った後で誰もいなかった。あかねは一人で着替えると、バッグを持って体育館に向かった。
 体育館につくと、ちょっと騒ぎが起きていた。部員がコート中央に集まって何かもみ合いになっている。明らかに練習ではない。
 どん、と誰かが突き飛ばされた。
 突き飛ばされたのは山川道子だった。山川は言った。
「なによ」
「どうして神林の味方なのよ」
「真美、やめなよ、あんた部長でしょ」
 バシ、っと叩くような音がした。
「痛い! なんなの、あんた」
 ミチが真美をひっぱたいた。
 堤防が決壊したように、部長とミチの叩き合い、髪の引っ張り合いが始まった。全員で、二人を引き離したが、なじりあいは止まらなかった。
 二人共、三四人で腕を後ろに引かれ、ちょっと距離をとった。
 ミチが言った。
「偉そうに指図しないで」
「あんたが間違ってるから言ってるんでしょ」
「部長だからって、なんなんだよ! いい子ぶって」
「いつからセク川なんかの肩もつようになったの?」
 あかねは『セク川』と聞いて、ようやくこの場に顧問の川西がいないことに気付いた。また騒動を引き起こすだけ引き起こして、体育準備室に引っ込んだか、と思った。
「みくがいつも言ってる通りよ。ちょっと体が触れたことを大げさに言って、他人(ひと)の人生どうなってもいいの?」
「ちょっとじゃねーだろ、もういやなんだよ。部員の代表としてもう我慢できないんだよ!」
 橋本部長も今日は本気だ、とあかねは思った。とにかく川西本人はいつも土下座するばかりで、何を言ってもそんな感じだから、『セク川』の文句を真美部長がずっと聞き入れて、各々で声をあげずに抑えてきた。部長として、書面にしたり、練習を中断して川西と話しあいを持ったり、そういうことをしているのだが、あの通り、まったく反応がなかったのだろう。切れるのも無理はない、あかねは思った。
 それにしても、神林だけでなくミチまで川西の肩を持つなんて。
「部長、私も思います」
 神林が言った。
「この場で川西先生が失職したら、困るのは川西先生だけじゃないんですよ」
「どういう意味よ」
「セクハラされてきたバスケ部、ということが公になったら、私恥ずかしくて表を歩けません」
 いや、もうだいぶ他の生徒も知っていて、実際はそういう目で見られてるんだけど……
「それは」
「雑誌の取材が来たりして、話したくもないことを聞かれたり、写真を撮られたり」
 部長が負けそうな雰囲気で、すこし驚いた。確かに、みんなそれが嫌なのだ。川西もそういうつもりなのか、大体均等に触ってくる。特定の人だけが被害を被ったのなら、その人だけを庇えばいいが、全員となると単純にこれを公にして川西をクビにすればいい、というものでもなくなる。
「やめましょう」
 町田が言った。
「なによ、愛理」
「一度考えた方がいい、ってこと」
「セク川派、ってことね」
「私はイヤよ。そんな変な雑誌に取材されたりするのなんか」
 この発言にうなづいたり、相槌をうったりする部員がいた、人数的には半分くらいいるのかも、そう思うと、あかねはちょっと驚いた。
 あかねは、ある考えが浮かんだので手を上げて発言した。
「はい! ちょっと意見が」
「授業じゃないんだから、挙手しなくともよろしい」
 橋本部長が言った。
 あかねは手を下ろして、発言した。
「じゃ、言わせて。投票で決めようよ。もうこの事実を公にするか、しないか
ってとこまで来てる訳じゃん。投票して意見を決めちゃおうよ」
「ダメ!」
「今挙手で決めちゃおうよ」
「まだ悩んでいる人いっぱいいるよ、決められないでしょ」
「今言われてもこまる」
「ほら、川西やめさせたい人手を上げて」
 各々が好き勝手に喋り始めた。
 あかねは、自分の言ったことで余計に混乱させてしまった、と後悔した。
「ごめん、私は」
「ハイ、川西を追い出したい人!」
「多数決で決めたったからって他人の人生を台無しにしていいわけじゃないの!」
「私は!」
 あかねの声は、誰も聞いていないようだった。あかねは、騒動の外に出て、壁に寄りかかって騒ぎを見ていた。
 そのうちに騒ぎは治まり、部長が前になって皆が整列した。あかねもその列に加わっていた。
「じゃ、座って」
 部長はそう言うと話し始めた。
「やっぱり、いきなり結論は出せないので、まずは意見を出して。叩き出す、出さない、これ以外の案も必要だと思う」
 神林と山川が拍手した。
 部長の意見なのに、と思ったが、自分の意見に有利と見たのかもしれない。あかねは、周りをみていると、つられたのか、他にも何人か、拍手をしていた。
「拍手やめて。私は川西をこのままにしておくことに賛成をしている訳ではないから」
 拍手がピタリと止まった。神林は部長を睨みつけている。
「……で、意見を私が受け取ったり、神林さんが集めたりすると、偏った意見ばかりだ、と批判されてしまうでしょ」
 部長の視線を感じて、あかねは顔を伏せた。なんかイヤな予感がする。
「だから、意見を集める役を岩波あかねさんにやってもらおうと思うの」
 あかねは耳を疑った。
「え?」
 部長が自ら拍手した。
「異論がない人は拍手して」
 異論がない人は?? ある訳ないだろう、異論を言ったらこの役回りをさせられるんだから……
 神林が拍手した。
「いいわ。岩波さんで」
 山川も拍手をしている。
 部員みんなが、あかねを見ていた。
「よろしく」
 雪崩を打ったように皆一斉に拍手をした。下級生も上級生も、みんな。
 部長は手で拍手をやめるように促した。
「じゃあ、意見を集めてね。期限は一週間。その意見を見て、さらに一週間後に、部員投票して結論を出しましょう」
 やばい、とあかねは思った。そして、立ち上がると言った。
「ごめんなさい。ちょっと私出来ない」
「お願いよ」
 ダメか…… とあかねは思った。皆の視線が怖いし、部長も言葉は優しいが、語気は強かった。
「い、一週間で意見なんてまとめられないよ」
「じゃあ、もっと長くやる?」
 さらにまずい、とあかねは思った。
 長引いたらそれだけ意見が分散してしまう。マトメられるものもまとめられなくなる。
「ちがうの、一週間集めたら、まとめる時間がないでしょ? 金曜。金曜日の部活が始まる前までに出して。土日でまとめてくるから」
 部長がうなずいた。
 あかねに、座るように手で合図すると、まとめにはいった。
「じゃ、そうしましょう。金曜の部活が始まる前までに意見を書いて、岩波さんに提出すること。岩波さんは土日でまとめて月曜にそれを発表してちょうだい」
「記名しなくてもいいんですか?」
「記名しないでいいです」
 部長は周りを見渡し、落ち着いた思ったようだった。
「じゃ、五分休憩してから練習再開ね」
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