その時あなたは

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 あかねは美沙達に合流し、川西のマンションの近くで見張っていた。川西のマンションは事前に確認していたが、やはり昼間に山川、町田、神林が出入りしていたマンションとは全く別だった。
 ただ、やはり川西のマンションも出入り口はオートドアになっていて、出入り口が制限されていた。逆に、出入りが固定されるので、見張るには楽だった。
 ただ、見張るのが退屈なのも同じだった。
 前を通る人通りは多くて、集中して見ていないのといけないのに、マンションの出入り口を通る人は、そんなに頻度があるわけでもなく、眠気をさそった。
 あかねも何度か美沙の肩に寄りかかって寝てしまった。
「あ、ごめん。寝てた」
「いいよ」
「美沙は眠くないの?」
「うん」
 そんなことはないだろう。あかねはこれじゃ駄目だ、と思った。
「美沙、場所変わるから、美沙も軽く寝たら?」
「大丈夫だよ」
「いいから」
 無理やり体の位置を入れ替えると、美沙は大人しくあかねの言うことにしたがってくれた。
「うん、じゃ、軽くねるね。やまとくん、ごめんね」
「そうして」
「俺ならいいっすよ」
 美沙は、あかねに寄りかかるように体を預けてきた。あかねはフラフラにならないように美沙の腰をかるく支えた。すぐに寝られはしないだろうが、目をつぶってゆっくり休息することが大事だ、とあかねは思った。
 大きなあくびを何度かすると、美沙は本当に寝てしまったようだった。良かった、とあかねは思った。やっぱりこんな状態で寝てしまうほど疲れていたのだ。
 あかねは、美沙が起きないように配慮しながらしばらく過ごした。
 なんとなく、あたりが暗くなってきたころ、寄りかかっていた美沙が伸びをした。
「あかね、ありがとう。体が楽になった」
 良かった、と思った。
 美沙が微笑んだので、あかねも笑顔になった。
 ふと、あかねは、美沙に話そうと思っていたことを思い出した。
「そういえば、さっき笹崎先生に会った」
「え? さっきって?」
「あ、いや、あの公園で」
「ああ。ここでじゃないのね。先生何か言ってた?」
「いや別に大したことは」
「そう」
 美沙は特に興味もなさそうだった。
 さっきは、『綺麗な女性(ひと)』と言っていたから、もっと違った反応をするものと思っていた。
「私も、先生のこと綺麗だなって思ったよ」
「そうね」
 あかねは、話題を変えようと思った。
「どうでもいいけど、なんかここ、凄いいい匂いしてくるね」
「そうだね、駅近いもんね、食べものやさんとかも多いし」
 あかねはカバンの中にいくつかパンを入れていたのを思いだし、やまとと美沙に言った。
「あ、そうだ。これ、食べる?」
「私は遠慮しとく、やまと君食べたら?」
「なんで甘い奴なの?」
「買う時はこれが食べたかったの! 食べないの?」
「食べるけど」
 やまとはパンを二つとも奪うように取ると、食べ始めた。
 その様子を見て、あかねは言った。
「あれ? もしかしてお昼食べてないの?」
 やまとははうなずいた。
「……え? じゃ、美沙も?」
 美沙もうなずいた。
「じゃあ、美沙も食べなよ」
 あかねは、やまとのパンを一つ奪い返そうとしたが、美沙が言った。
「いいの」
「美沙さん、ここは姉貴に任せて食べてくるか、買ってきたら?」
 言い終えると、やまとは、またすぐにパンにかじりついた。
「そうよ。大丈夫だから」
 川西のマンションは駅チカにあり、駅自体も利便性の高いところだった為、食べたり買ったりする店を探すのには苦労しない。
「食べた方がいいよ」
「もうすぐ晩ごはんだからいい。今食べると半端になるんだ」
 あかねは時間の感覚が完全になくなっていた。やまとのポケットからスマフォを取り出すと、画面の時刻を見た。
「あ、もうこんな時間」
「勝手にとるなよな」
「美沙にあげてよ」
「いいの、大丈夫。今食べたら夕飯入らなくなっちゃう」
 あかねは、これ以上尾行して意味があるのかを考えた。
「これ以上尾行して意味あるのかなぁ…… もういいんじゃない?」
「……うん。確かにずっと動いていないみたいだし」
「俺が見てるよ、最初に考えてた時間ぐらいまではやってみようよ。二人はご飯食べてきていいからさ」
 めずらしくやまとが優しいことをいってくれる、と思いあかねは弟の頭をなでた。
「ごめん。もうちょっとだけ頼むね。美沙を連れて、ご飯食べてくる」
「オーケー」
 やまとはうざったそうに頭に載せられたあかねの手を払って、めんどくさそうにそう返事をした。
「いこう、あかね」
「ごめんね、やまとくん」
「いいんだよ、俺はバイトだし」
 あかねはそうか、と思ったが、やまとが気を使って言ってくれているのだと思い、何も言わなかった。
 二人は近くにあったセルフサービスのうどん屋に入って、うどんとトッピング一品ずつ買って食べた。
「あかねにしては少ない、よね?」
「うん、私も遅い時間にお昼ごはん食べたからあんまり食べれないんだ」
「いやあんまりって……だって、それ大盛りでしょ」
「ここ来たら大盛りはデフォだから」
 二人は笑った。
 食べ始め、二人とも半分ほど食べ終わると、あかねは天かすを足しに席を離れた。
 戻ってくると、美沙が言った。
「あかね、明日も見張ってみる?」
「あ、いや、いいよ」
 すこしうどんを食べるように持ち上げてから、あかねは箸を止め、美沙に話そうと思った。
「神林さんに叩かれてね、私、ちょっと思ったの」
「……」
「ちょっと疑い過ぎてるって。後、他人のプライベートなことに踏み込み過ぎたって」
「……」
「逆にこんなことされたらどうなんだろう、って思ってさ。私だって大した人間じゃないのに、本当、偉そうに他人のことを疑って」
「けど、このままじゃ、川西と何かあってもわからないじゃない」
「そう。それはそうなんだけど」
 川西とバスケ部員が共生関係にあったからといって、それで川西を許せたり、逆にそれで罰しなければならない、と判断するのはおかしい、とあかねは思った。確かに神林がかばう理由は分かるかもしれない。だが、それをしたら神林が傷つく。川西はどうなってもいいが。
「あかねが納得してるんなら、別にいいよ。今日の様子じゃ、川西と神林さんは全然関係ないように思えるし」
「うん。そうしよう。明日はなし。この件はこれでおしまい」
 あかねは、笑ってうどんを頬張った。
 美沙も残ったうどんを再び食べ始めた。
 共生関係があったとして、そんな関係から救ってあげれたら、とか思っていたが、それは思い上がりというものだ。もし、神林が、なんらかの状況で、救われないところにいるのだとしたら、自ら『助けて』と言ってくるまで助けてはいけないような気もするのだ。
 自分で助かろう、と思ってない人に手を貸しても誰も助からない。返って助けようとした人が溺れてしまう。例えは良くないが、目立つ光にフラフラと近づくと、炎や高電圧で死んでしまう蛾のようだ。
 美沙とあかねは、食べ終わった食器を片付けると、美沙と一緒にやまとのところへ戻った。


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 美沙の携帯がなった。
 やまとからだった。
「もしもし、どうかした?」
 かすかに漏れている音で、なんとなく事態が変化したことを知った。
「わかった。合流してから追いかけよう」
 美沙は携帯を切って、あかねに言った。
「川西が出るみたいだけど。一緒に行く?」
「さすがに三人でつけたらバレるんじゃないかな? 動きが止まったらまた合流するよ」
「……うん。その方がいいかもね」
 やまとがポケットに手を突っ込んで交差点を渡ってくるのが見えた。
「行ってきます」
「お願いね。気をつけて」
「うん」
 川西が校門から出てくるのが見えた。川西が駅方向へと去っていくと、あかねは、やまとと美沙が二人で川西を追っていくのを見送った。
 あかねは、誰も遊ばない公園で、小さな砂場を見つめていた。もう痛みはなかったが、神林に叩かれた頬を触った。意見のまとめを月曜日に発表して、そのまま投票という時に、神林をつけたことがバレるとおおごとになる、とあかねは思った。
 私を付け回すような奴がまとめた意見なんて無効だ、とか神林なら言いそうだ。その時にどうやって反論するか。どうせ他の目撃者がいないのだから、無視してしまうか。まとめと尾行は関係ない、と言い張るか。あかねは悩んだ。
「岩波さん?」
 突然呼びかけられ、返事が出来なかった。あかねは声のする方を向くと、そこにはバスケ部の顧問、笹崎翔子先生が立っていた。
「笹崎先生。どうなさったんですか?」
 確かに綺麗な人だ、とあかねは思った。
 先輩から笹崎先生の事を聞いているから、ここ数年の話ではない。バスケ部の顧問をずいぶんやっているはずだ。つまりそれだけ年齢がいっているはずなのに、十代のような肌に見える。化粧のテクニックなのか、本当に肌が綺麗なのか、あまり化粧を知らないあかねにはわからなかった。 
 笹崎は微笑みながら言った。
「私もあなたにそう聞くところだったの。さっき学校に入る時にあなた達を見かけて、なにやってるのかな、って。あれ、けれど、さっきはもう一人いなかった?」
 先生の言っている内容を良く把握していなかった。あかねは、笹崎の唇に見とれていた。
 あかねは、よく他人の『人中』のあたりを見つめてしまい、自分と同じ、濃い産毛を発見して幻滅してしまったりするのだが、先生にはそれがなかった。本当に透き通る肌という表現が似合うものを初めて見た気がした。
 先生が話し終えているのに気づくまで、あかねは間を開けてしまった。あかねは慌てた。
「……あ、あっ、さっきまでは、安村さんもいました」
「安村さん。そうだったの…… そういえば岩波さんって、家この辺だったっけ?」
「いえ、全然この辺ではないんですけど」
 あかねは少し戸惑っていた。
「岩波さん、バスケ部よね」
「はい」
 それを先生から聞くのは意外だった。
 笹崎先生が、バスケ部の部員のことを把握しているとは思ってもいなかったのだ。
「私も女子バスケ部の顧問だって知ってた?」
「はい」
「ごめんね。なんか部活に全然顔出ししてなくて。だからこんなに緊張させちゃっているのよね。ちょっとでもいいから時間作って部活に行っていれば良かったわ」
「いえ、緊張している訳ではないんです」
 あかねはそう言い切った。
「なんでも言ってね」
「……それでは、と言ってはなんなんですが、来週、少し部活にきていただけませんか」
 そうだ。今お願いしてしまおう。あかねはそう思ったのだった。
「え? 何かあるの?」
「ええ。ちょっと部で投票をするんです。笹崎先生に来てもらいたかったんです」
 先生は、かなり困った表情だった。迷惑そう、とも受け取れた。
「川西先生だけじゃダメなの?」
「そうなんです。川西先生じゃダメなんです。どこか一日だけでもいいんです」
 あかねは、どの意見になったとしても、まずは笹崎先生に伝えるべきだと思っていた。今話をしてしまえば、と思ったのだ。
「ちょっとスケジュールを調整してみるけど…… というか、今、今話せない」
「今は…… そうですね。やっぱり、ちょっと皆に話してからじゃないと」
「うん。わかった。じゃ、岩波さんの連絡方法教えてよ。携帯とかない?」
 先生はスマフォを出した。
「今、ないんです。なので、メールアドレスでもいいですか?」
 あかねは、今日使ったWEBメールのアドレスを教えた。先生は、素早くスマフォにアドレスを記録した。
「私からそこにメールする。それで私のメールアドレスも分かるでしょ? じゃ、そういう感じでいい?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあね? 気をつけて帰ってね」
「さようなら」
 良かった、これでスムースに行く。
 神林さんが騒いで止めようとしても、とりあえず笹崎先生に言ってしまえば、事態は進展するだろう、とあかねは思っていた。
 美沙とやまとの方も、そろそろ何かあるかもしれない。あかねは笹崎先生が学校へ戻っていくのを見てから、駅へと歩きだした。


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