その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 消えて行かない土埃に男は震えた。
 亜夢が指をさすと、静止していた土埃が意志をもったかのように男をめがけて飛んでいく。
 たまらず目を閉じる男。
「お、おぼえてろ!」
 ろくに開かない目でバイクにまたがり、アクセルを開ける。
「あっ、危ない!」
 段差に気付かず、バイクが転んでしまう。
 さらしの男は路面になげだされる。
 そのまま動かない。
「やばいかな……」
 そう言った瞬間、男はパッと立ち上がって走って逃げて行った。
「ふぅ。これで終わりかな」
 奈々が亜夢の背中にくっついている。
「怖い……」
「奈々。大丈夫だよ、死んでないし、起き上がってきてもすぐやっつけるから」
「違うの。美優の後ろ」
「あっ、美優、大丈夫?」
 倒れたままの美優にかけよる。奈々が、激しく腕を引っ張る。
「どうしたの、奈々?」
「ほら、見えない? 美優のすぐそば」
 回りを見回しながら亜夢は、美優を抱き起す。
「美優、大丈夫?」
 美優が声に反応してゆっくりとまぶたを開けると、亜夢はその瞳の中にいた。
『なに?』
 亜夢はその暗闇の中でそう言った。言ったというより、|思念波(テレパシー)を送った。
『お前は、この前のヒカジョだな。すると、さっきのは違う誰か、ということか』
 亜夢が送られてきた|思念波(テレパシー)の方向を探すと、空間の裂け目に、目だけが見えていた。
『あ、あの時の…… あんた、何が目的なの。もう美優に干渉しないで!』
『目的を聞かれて答えるのは小悪党さ。知りたいなら勝手に調べてみるんだな』
 スッと、裂け目が遠ざかって行く。
 亜夢は走って追いかけるが、近寄る気配もない。
『待て!』
 暗闇がどんどん小さくなり、亜夢が瞳の表面浮かび上がった。
 美優の瞳だけではなく、鼻が見え、髪やあご、おでこが見えてきた。どんどんと上昇して、自らの体に帰ってくる。
「!」
「亜夢、亜夢! しっかりして」
 奈々の声が聞こえた。
「奈々、どうしたの?」
「どうしたの、はこっちのセリフよ。亜夢が連れていかれるような気がしたから、何度も呼んだのに、まるで意識がないみたいだったから、びっくりして……」
 奈々が亜夢の背中で泣き始めた。
「良かった。帰ってきたのね。良かった」
「……」
 なんだろう、と亜夢は考える。さっきの瞳の中に入った感覚が奈々にも分かったのだろうか。
「ごめん、心配かけて」
「うん、大丈夫。今度は美優」
 念の為、亜夢は美優の鼻と口に頬をよせて、呼吸を感じた。
「美優? 起きて、美優。返事して」
「もうあの人は見えないから大丈夫だと思う」
 亜夢は振り返る。
「奈々?」
 きょとん、とした表情の奈々に亜夢が話しかける。
「奈々が、さっきから見ているのはなに?」
「美優にまとわりついていたの。闇に包まれていて、姿ははっきりしない。亜夢もその闇に包まれ始めたから……」
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「……確かに連絡が来てるわ。今朝、急に、転校が決まったんだって。可愛いわね」
 教師用の連絡ボード、連絡用の電子掲示版のようだった。そこにはその場で撮ったような粗い画像が貼ってあった。
「どこ出身ですか?」
「そういった情報は一切ないわね。いつものことだけど」
「調べてもらえませんか」
「なに言ってるの?」
「|端末(タブレット)貸してください」
 私は椅子を引っ張り出して先生の横にすわり、新庄先生からタブレットを受け取った。
 制服のポケットから折り畳み式のキーボードを取り出して広げ、ペアリングして接続する。
「どうするの?」
「学校が一切しらないわけがないから、アクセスするんですよ」
「私が犯人になっちゃうじゃない」
「大丈夫ですよ。別の端末を経由しますから」
「なにそれ?」
「蛇の道はヘビってやつです」
「……」
「とにかくバレないから安心してください」
 いくつかの匿名用のツールを経由して、学校のサーバーへアクセスする。
 デバッグ用ターミナルツールで直接接続を試みると、あっさりとつながってしまう。
「先生、『北島アリス』のIDを教えてください」
 新庄がタブレットをのぞき込みながら、教師用のアプリを操作し、パスワードを入れると、北島のプロフィールが表示された。
「えっ? これ、本当ですか。顔写真すらない……」
「確かに変ね。ここがID」
 私は学校のサーバーへつながるウィンドウからデータ取り出しのクエリ(問い合わせ文)を叩く。
 数秒も経たずに『北島アリス』のデータが表示される。
「何も入っていない」
「入学承認者に校長の名前があるだけ、なのね」
「さっきの掲示板の方がよっぽど情報がありますよ。顔写真載ってたし」
 新庄先生はほおずえをついて、足を組んだ。
「個人情報の扱いが厳しくなったのかな」
「っていうか、これだけの情報しか入力してなくて、入学手続きできるんですか?」
「最低限の条件はクリアしてるから」
 新庄先生が画面を指さしていた。
 私はその項目名を読む。
「校長の承認?」
 新庄先生はうなずく。
「逆に、この仕組みを利用されたんじゃないですか? 校長の承認部分だけを改変するとか」
 そうだ、チアキや、ミハルが転校してきた時は……
「先生、チアキとミハルのID」
「あんまり関係ない生徒のID見るのも、ヤバいんだって」
「これで最後にしますから」
「……」
 新庄先生はタブレットを操作してプロフィール画面を二つ開いた。
「早くして」
 IDをコピーして、クエリを打ち込む。
 チアキの入学手続きは、しっかりと項目が埋まっていた。
「これが普通だと思うわね。これくらい入力されてから校長の承認になるはず」
 私はミハルのIDでクエリを入力する。
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「なにしやがんだ……」
「無警戒すぎるんだよなぁ…… 相手は超能力者なんだぜ」
 ロン毛は頭に手をあててそう言って、今度は亜夢を睨みつけた。
「けど、仇はとってやるよ」
 亜夢の動きが止められている状態では、このロン毛に勝つ術はなかった。
 今度こそフィニッシュブローを打ってくるだろう。
「美優、亜夢を放して!」
 アキナが叫んで美優に近づこうとすると、バットを振り込んでくる。アキナは寸前で立ち止まり、それを避ける。
「なんでこんな時に|超能力(ちから)を上手く使えないんだろう」
 とアキナはつぶやく。
 次の瞬間、アキナの視界の端を人影が走った。
「奈々!」
「行かせねぇ」
 と、奈々をバットの男が追う。
 一方、ロン毛が踏み込んで左をボディに打ち込むように構えた。
 絶対にフェイントと思われたが、亜夢は二回受けたボディの恐怖を克服できない。
 超能力を使ってボディへの防御を集中させた時、顔にロン毛の右ストレートが見える。
「捕まえたぞ!」
 バット男の腕が、走る奈々の腕を捉えた。
 腕をとられバランスを崩した奈々は頭から倒れていく。
「美優…… 気づいて……」
 奈々の伸ばした指が、かすかに美優に触れる。
「!」
 鈍い音がした。
 ロン毛の腕は一直線に亜夢の頭へ伸びていた。
 ひざから崩れ落ちるように後ろに倒れる。
 しかし、それは亜夢ではない。奈々に触れられた、美優だった。アキナは何があったか分からなかった。
「奈々、美優になにしたの」
 亜夢の腕は、顔の目の前で十字に交差しロン毛の拳を止めていた。
「反撃させてもらうわ」
 ロン毛の口元が引きつったようにみえた。
 そのまま亜夢が腕を伸ばしてロン毛の頭を押さえると、飛び上がって、膝で顔を捉える。
 膝が直接触れないよう、超能力で空気の層を入れて。
 右、続けて、左。
 亜夢はつかまえていたロン毛の頭を放して着地する。
 ロン毛は足がもつれたようになり、ぐるり、と後ろを向いてから、倒れる。
「おい。こいつがどうなってもいいのか」
 バットの男は、奈々の腕をねじりあげ、片手のバットを振りかざしていた。
「どうする気」
「俺の方に来い。こいつでぶん殴ってやる。超能力を使うようなら、この女の腕をこのまま……」
 亜夢の視界にアキナが入ってきた。
 高くジャンプして、ひねりながら回転しそのまま|踵(かかと)を男の頭に落とした。
「……」
 バットが手から落ち、頭を抱えた。奈々は走って亜夢のところにやってくる。
「アキナ、ありがとう」
 亜夢がそう言うと、アキナは手のひらをバットの男の背中に、ドン、と押し付けた。
 男はそのまま突っ伏すように倒れてしまった。
「これでよし」
「く、くらぇ!」
 ぱぁっ、と土埃が舞う。
 亜夢も奈々もその埃の中に立っていた。
「やっと引っかかったか!」
 しかし、埃は静止している。二人は目を見開いたまま、さらしを巻いた男を睨みつけていた。
「なんどやっても分からないのね」
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