その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「……」
 俺は店長から箒とチリトリを手渡され、駐車場の掃除を行った。
 不良のような連中が溜まる場所は決まっている。食べかすも落ちているし、紙くずも散らかっていた。
 俺は箒でそれらを履いていると、不思議なことに気付いた。
「あれ、渦を巻く……」
 掃いたポテチのクズや、小さな紙の切れ端、枯れ葉などが、掃いた方向から少しだけずれる。それを追うように箒で掃くと、再びクズや塵の方向がずれる。結果として、ぐるりと輪というか、渦を描いた。
「ここに何かある?」
 何か術を仕掛ける時に、陣を描いたりすることがある。この駐車場にそういう五芒星や何かが描かれているのかもしれない。その力が不良を召喚している? のだろうか。
 さらに掃き進めていくと、渦の中心が分かった。
 俺は道端まで行き、石を見つけてきて中心にバツ印を入れた。そして、ゴミをチリトリに掃き入れ、袋に捨てた。
 駐車場を見ながら店に戻ると、店長にぶつかってしまった。
「す、すみません」
「駐車場の掃除をするのに何分かかるんだ。まったく」
「サボっていたわけでは」
「サボっているのとかわらないだろう」
 手を腰に当てている店長越しに、俺は店内の時計を見た。
「あ、もう休憩していい時間ですよね」
 店長も振り返って、時刻を確認する。
「……」
「休憩入ります」
「そういうのはいっちょまえだな。まったく」
 俺はバックヤードに入って、冴島さんに電話した。さっきの式神の失敗の原因を知りたかったのだ。
「……というわけなんですよ。やっぱり冴島さんみたく九字印を切れないとダメなんですかね?」
「そんなことないよ。変に力もないのに印だけ切ってると痛い目に会うっていうし。ちょっと細かいところを見てないから原因まではわからないな。今回は『やっこさん』だったから良かったけど、変なものが出来た時に処置できないだろうから、私がしっかり教えるまでは式神を作るのは禁止ね」
「は、はい…… それと」
「それと何?」
 俺はコンビニの駐車場でゴミが渦を巻いた話をした。
「……それ、今回の課題にしようか。陣があるんじゃないか、という見立ては間違えじゃない。そこを無力化するのをやってみて。そっちはどうやっても変なことにはならないだろうし。自分で調べて、工夫してやってみなよ。勉強になるから」
「ハイ!」
 何か認められた気持ちになって、うれしかった。
 除霊士を目指すことにはしていたが、自分にそんな力があるのかどうもピンとこないせいで、やる気が出ないこともあった。こうやって冴島さんに認められるなら、一つ一つやっていこう、俺はそう思った。
 休憩時間はそんなことをしている間に終わってしまった。
 部活帰りの学生やら、タクシーの運転手、残業確定の会社員…… と言った順に客層が移り変わっていくと、また外に不良たちがたまり始めていた。人数はまだ三人ほどだった。
 駐車場のあのバツ印が入ったあたりを中心に集まっている。
「……やっぱりあそこの下にあるんだな」
 そう思って、不良たちをみていると、女性客が入ってきた。
「あっ……」
 さっき来た、上村と名乗る女性だった。
 女性は、すこし垂れ目で、顔はスッキリとほそい感じだ。
 その女の人が、コンビニの入り口あたりで店を見渡して、俺を見つけると近づいてくる。
「かげやま……」
 やばい。俺は店長に何を言われるかを考えて、女から逃げるように店内を動き回った。
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「お待ちのかたどうぞ」
 そう言って、次々に会計をしていく。
 コーラ、缶コーヒー、ポテチ…… 本当に統一性はなく、金額も大したものはなかった。しかし全員が購入し、また外の駐車場へと戻っていく。一人座り、二人座り…… かかとをべったりと付けて。
 俺は店内の客がいなくなると、また窓際に行ってそとの様子を確認する。
 見ていると、背中をつつかれた。
「刺激するなって」
 店長だった。
「駐車場が埋まっている訳じゃないんだから、刺激すんなよ。見た感じ乱暴な連中だから、恨まれたら店壊されちゃうよ」
「……」
 言われるまま窓際を離れたが、間もなく各々が買った菓子やら飲み物が終わると、急に一列に並んで入ってきた。
 中のゴミボックスに仕分けて捨て、出ていく。また仕分けてゴミを捨てて、出ていく。
 順番に八人がゴミ捨てを終えると、駐車場には戻らず、どうやら奥の畑の方へ進んでいく。
「ちょっと駐車場を掃除……」
 と言いながら俺は走って外に出る。
 連中は駐車場を降りて下の畑の中の道を歩いていく。ちょっと前の行動と同じだ。
 俺は店長が来ないかチェックしながら、畑の先に誰かいないか確かめる。
「!」
 誰かいる。しかし、遠すぎて見えない。
 うろ覚えの式神の知識を総動員する。たまたまポケットに入っていた紙にボールぺんで書く。
 俺はまだ、九字の印は分からない。
 額に人差し指と中指を着け、集中して想像したものを、頭から紙に動かすように指を当てる。
「動いた?」
 風で動いただけかもしれなかった。いや、風なんか吹かなかった。
 俺はもう一度気持ちを集中して、それを指を使って紙に伝える。
「えいっ!」
 自然に声が出ていた。
 紙が生きているようにビクビクと動き出すので、俺は怖くなって手を離した。
「えっ?」
 バタバタバタ、と音を立てて飛行し、紙は俺の指に戻ってきた。
「鳥? かな?」
 鳥、というより折り紙の『やっこさん』のような形だった。
 俺は懸命に念じる。
「あそこの様子を俺に伝えろ」
 手を振って、その紙の『やっこさん』を飛ばそうとする。
 バタバタバタ…… としばらく滑空して畑の方へ下りていくが、力尽きたように止まってしまった。
「ふう……」
 どうしよう。もう一度チャレンジするか……
「こら、早く駐車場掃除しちゃって」
 振り返ると店長が箒とチリトリをもって立っていた。
「ちょっと時間を与えるとサボろうとするのはやめてくれないか。まったく」
「サボってたわけでは……」
「私が箒とチリトリを取るのにも気づかなかったのに?」
 そう言われると変だ。俺は箒とチリトリを取りに行くフリをしてここにいる。ホンの一、二メートルのところを歩いて行き、扉を開け、箒とチリトリを取り出す。そんなことが出来るのか。そして、なぜ俺は気づけない?
「店長、何者ですか?」
「ただの店長だよ」
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「かげやま、さん?」
 俺の名札を読んだらしい。
「はい」
「どこかでお会いしましたか?」
 俺は首をかしげながら言った。
「そういうことはないと思います。強いて言えば私がバイトを終えて帰る時にすれ違ったことが1回」
 女性は一点の曇りもない笑顔を見せた。
「そう、そうね。いちどここですれ違ったわ!」
 笑いをこらえるようにしばらく口を押えてから、
「ごめんなさい。私だけ名前を知ってしまって。えっと、私は上村杏といいます」
 すべてを袋に入れて、支払いをお願いするところだったが、俺はその名前を聞いて何かとつなげかけていた。
「うえむらあん、さんですか」
 女性はうなずく。俺は自然と顔がほころんでいた。
 その時、何か変な気配に気づいた。周りを見渡すと、店長が店の端から睨んでいる。俺は慌てて金額を告げた。
「千と五十八円になります」
「はい、ちょうどあります」
 商品の袋を渡す時、上村さんが俺の手に触れた。
 ハッとして、目を合わせてしまうと、上村さんは軽くウインクした。
「また来るわね」
 手を胸のあたりで小さく振り、そう言って店を出ていく。
 店長が睨んだまま、近づいてくる。
「ちょいちょい、何やってるの! まったく」
「はい?」
「はい、ぎもんけい、って、その言い方、私をなめてるの?」
 胸倉をつかまれるのか、と思うほど店長は顔を近づけてきた。
「いいえ、なめているとかそんなことはありません」
「いい。お客さまと親しくなるのはリスクがあるんだから、バイトとして、そういうことをやらないでください」
 そう言うと、バックヤードに戻りかけた。
「美人だったから?」
 店長が足を止めた。
「お客様が美人だったからなんですか?」
 こっちに振り返って、またズカズカと近づいてきた。
「そんなわけあるか。お前が客と仲良くなって、変な噂がたったり、お客と仲が悪くなった時どう責任とるんだよ。あの人、近所の客なんだぞ」
 店長もそれくらいのことは考えていたのか、と思い言い返すのを思いとどまった。
 俺は自分の制服をつまみ上げて揺らし、言った。
「バイトとしてじゃなければいいですね」
「ああ、その通りだ」
 店長はバックヤードに入ってしまった。
 俺はそれからしばらく無言で淡々と仕事をこなした。
 すると、またそとの駐車場が騒がしくなった。
 商品を整理するついでに、窓際を回って駐車場を確認する。一人、二人…… いや六人、七人。あ、またやってきた。
 さっきと同じ場所に不良のような男たちが集まって、踵をべったりつけて座っている。
 俺がのぞき込んでいることに気付くと、連中はぞろぞろと店内に入ってくる。
 俺はレジ側に急いで戻る。バックヤードの扉が少し開いた。店長が見ているようだ。
 店内を列をなしてぐるっと回っていくと、各々飲み物や食べ物を一つづつもって並んだ。
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