その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「どうしたの、キミコ?」
 手を広げて左右に振った。
「なんでもない」
『まさか、マミの体の素材も使っている?』
『足りなくなればな』
 私は慌ててマミの体を確認した。
 髪の毛、こうだったはず。頬や顔も変わらない。指先、二の腕、肩…… うーむ。わからない。
「ちょっとゴメン」
 見ただけでは分からないと判断し、触って確認することにした。
 脇のした、横乳、
「ちょっと、キミコ! なにしてんの?」
「重要なことなの」
 脇腹、腰回り、後ろに回ってヒップの部分…… やわらかい。そしてすべすべしている。
『そんなにきになるならログを見せてやる』
『集中してるから話しかけないで』
『……』
「キミコ、なんか今、コアの光り方が変だったよ?」
「あっ!」
 目の前でマミが、大事な部分を手で押さえている。
「ど、どこに向かって叫んでるのよ」
「マミ、ちょっと手をどかしてもらっていいかな?」
「えっ……」
 私は手を合わせる。
「だ、だからそんなところで手を合わせないでよ」
「お願い……」
「なに? 理由は?」
「後で話すから」
 マミは困った顔をしながら、私の方をじっと見ている。
「う~ん……」
「……」
 マミが、唇をかみしめて首を縦にうごかした。
「うん。ちょっとだけね」
 マミが手をのけた瞬間、私は懸命にその陰部を見つめた。
 確か、記憶によると毛は濃い方だったはず。
 あまりに顔を近づけてしまったせいか、マミは腰を引いて、再び手で押さえた。
「おしまい。ね、これなにしているの?」
 私はふとももから足先にかけても両手で包み込むように触って、太さや肌に変化がないか確かめた。
「あのさ、さっきミサイル撃ったでしょ?」
「……うん。それがどうかした?」
「じゃ、なくて、アントランスフォームすると服がなくなってるじゃない?」
「うんうん」
 マミは興味をもってこちらに耳を傾けた。
「コアに聞いたら、さっき撃ったミサイルとか」
「えっ?」
「機体表面についた傷とかの修復に服の|素材(マテリアル)を使っているんだって」
「えっ…… それで、私の体を触ったのと何が関係しているの?」
「もし服だけで足りなかった場合……」
 マミの表情がゆっくりとしみこむように変化指摘、その先に何を言おうとしたのかを理解した。
「あっ! 私の体を|素材(マテリアル)としてつかった!」
 私はマミを指さして、正解、という仕草をした。
「ちょっとしたダイエットや脱毛ぐらいで済めばいいけど、体が縮んだりしたら…… 私…… マミになんて言っていいか……」

 起動、父の死、再起動、戦闘の履歴…… 確かに〈扉〉の支配者と通信している様子はない。
『このログは信じられるの?』
『〈扉〉の支配者側から来ている定期チェックのエラー表示しているだろう。怪しまれないように改ざんするなら、そういう不審な部分も削るさ』
『それが余計に怪しいっての』
 突然、足が伸びきった。
『何?』
『〈転送者〉が|機体(こっち)に飛びついたようだな』
 急に翼が作り出している力がなくなり、機体の先端が下を向いてしまう。
『落ちる!』
 〈転送者〉がいきなり機体を離し、〈鳥の巣〉内の森へ機体が突っ込む。
 木々や岩が、体のあちこちにぶつかる。
『マミ!』
『マミは私だ』
『大丈夫なの?』
『擦ったような傷はついたが、破損はない』
 私は気合を入れなおした。
 ロボットを立ち上がらせ、〈転送者〉に向き直った。
『!』
 〈転送者〉は押さえていた手を外し、まるで傷口を見せつけるように手を広げて歩いてくる。
『あれに共感してはいけないのね』
 私はジェルの中で目を閉じた。
『バスターランチャー』
『何かね、それは?』
『私の考えを送るからそれを握らせて』
 目を開くと、左下に描かれている図面に私の望んでいた電子ビームランチャーが加わっていた。
『これで撃ち抜く』
 エネルギーを加速させて、十分なスピードに達したら放つ!
『ちょっとまて、この先には……』
『撃て!』
 光った。
 ものすごい轟音が一瞬耳に入った後、遮断された。
 目の前が、真っ白くなった後、何も見えなくなった。こっちも遮断されたのだ。
 何も見えない、聞こえないジェルのなかで、うにょうにょと動いていた。
『そろそろ見えるぞ』
 映像と音がフィードバックされた。
 目の前の森が、一直線に削られている。
 〈転送者〉はいない。探すと、森の上に横たわっている。首から上が吹き飛んでいる。
 その先の〈鳥の巣〉の壁が……
 かろうじて、壁は存在した。
 コアは、この向きの先に寮があると言いたかったのだ。
『あそこに飛ばして!』 
 機体は翼を出して垂直に離陸を始める。
 上空から、寮、そしてその先の様子を確認した。
 幸い、寮には何も被害は出ていなかった。
 だが、その先の空き地に、〈転送者〉の頭の残骸が散らばるとともに、大きな窪みができていた。
『あんなところで考えもせずバスターランチャーを撃つからだ』
 ランチャーの撃つ角度があと少し平行に近かったら…… 私はゾッとした。
 空き地に着陸し『アントランスフォーム』とコアに伝える。
 体を包んでいたジェルが消えていき、コアを抱えた裸のマミが目の前に現れた。
 コアを持っているせいで、体を隠すのが難しいらしい。
「なんでこれ服が元に戻らないのかな?」
 コアが放っている光を強弱した。何か伝えたいようだ。
『機体の損傷を補完するために使用しているのさ。ミサイルとかね』
「ちょっ!」

「全力よ」
 亜夢はうなずき、相手の左拳へ、そっと左拳を合わせに行く。
 ちょん、と触れ合うと、互いにバックステップして、得意の拳を後ろに引き、それを突き出す。
 高速で繰り出される拳が触れ合うか、という瞬間。
 ドン、と音がすると、陽炎のように空気が歪んだ。
「うわっ」
「きゃっ」
 亜夢と女は右手と右手を突き出したまま動かないのに、清川と中谷は吹き飛ばされたようにしりもちをついていた。亜夢と女の拳を中心として、波紋ができたように見えた。
「中谷さん。二人はまだ、やってるってこと?」
「表情からすると、そんな感じだね」
 力と力の勝負。
 女の額からは玉のような汗が落ち、一瞬目を閉じた。
「えっ?」
 そのまま女は前のめりに倒れ、亜夢が慌ててそれを抱きとめた。
「亜夢ちゃん、どういうこと?」
「おそらくですが…… 私の最初のインパクトが堪えたみたいです」
「えっ、死んじゃったの?」
「死ぬことはないと思います。呼吸もしていますし、鼓動も感じます」
 亜夢が、ゆっくりと女を床に寝かせた。
「けど、しばらくは目を覚まさないでしょう。早くこのことを伝えないと」
「伝えるのもそうだが……」
 中谷は清川の制服を見て、銃やパトレコがなくなっていることを確認した。
 今度は亜夢の方を見て、その首に『超能力キャンセラー』がかかっていないことに気付いた。
「まずいな…… 銃とか、パトレコとか抜かれてる。乱橋くんはキャンセラーを取られてる」
「あっ!」
 清川と亜夢は、今気づいたように手で体を確認する。
「絶対に探して取り返さなきゃならない。俺は探すから、二人はこのことを伝えて」
 亜夢は女のパンツのポケットからプラスチックの札を取り出した。
「それなら、この52番の札でホテルのクロークにあずけてあります」
 亜夢はそう言うと、札を中谷に投げた。
「えっ?」
「さっき、この女の人が考えていたことを読んだんです」
「わかった。じゃあ、今度は、本部にこのことを伝えて」
「はい」
 亜夢は清川の手を引いて鉄の階段を上った。
 ステージ裏の暗い通路を走っていると、前方に光る車輪が見えた。
 亜夢は、車椅子と思って警戒した。
「どうしたの?」
「さっき、あそこに車椅子の車輪が見えました」
「誰かいるってこと?」
 亜夢はうなずく。
 ゆっくりと通路を進んでいく。車輪の見えたあたりにくるが、誰もいない。
 二人はそのまま壇上を降りて会場を走り抜けようとした。
「待て」
 壇上の反対側にスーツの男が立っていた。
 今回の製品発表会の主役であるCEO。男は、ゆっくりと二人に近づいてきた。亜夢は清川の手を投げ出すように放して、会場の奥、緩やかに上がった先にある、出入り口を指さした。清川は必死に走り始めた。
「待て、と言ったはず……」
 スーツの男が、飛び上がろうとするところに、一瞬で滑るように移動した亜夢の蹴りが飛ぶ。
 男は飛び上がらずに、両腕で蹴り足をガードした。
「サエコくんを倒した…… んだね」
 接触により記憶を読まれた、と思った亜夢は、慌てて蹴り足を戻した。
 スーツの男が軽く振った腕に、弾かれたように亜夢が後ろに下がる。
「君の力を軽く見過ぎていたよ。もっと警戒すべきだった」
「|神島(かみじま)ポール|直人(なおと)…… それがあなたの名前ね」
「今の一瞬で、私の頭をスキャンしたと見せかけたいのかな? 単なる知識だろう。なにしろ私は有名だからね」
 亜夢は何も言い返さなかった。
 神島はゆっくりと上着を脱ぐと、会場側の椅子へ投げた。それは紙飛行機のようにすーっと飛んで、椅子の背もたれに掛かった。

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