その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「……誰か〈扉〉の支配者の協力者と一緒、ということか」
「そう」
 軽薄な父だが、世の中に災厄をもたらそうとはしないだろう。そこまで腐った人物ではないと信じている。
「そうだな。白井、俺のスマフォで砂倉署を呼び出してくれ」
 私は鬼塚のスマフォで電話を掛ける。そして、耳元にもっていく。
「……そうだ。携帯電話会社の百葉支店。それと、電波中継塔。周辺の警戒をしてくれ。白井先生か、不審な人物がいたら知らせてくれ」
 通話が切れた音がする。私は画面をタップして終わらせる。
「間に合うといいんだが」
 高速道路の出口表示に進むと、料金所までの急なカーブで体が鬼塚の方に傾く。
 車体は道路に張り付いたようにほとんど傾かない。
「ウッ……」
「悪いな」
「けど、いそがないといけないんだから」
 ETCを通過すると、車もまばらなバイパスを細かく車線変更しながら追い抜く。
「サイレン鳴らせば済む話じゃないの?」
「ああ、そうか」
 鬼塚は運転席と助手席の間にあるグローブボックスを開けて指さす。
「スイッチいれて屋根に載せて。落とすなよ」
 そう言っている間に、左右に激しく車体を曲げる。
「ちょっと!」
「付けるまで待つ」
 回転灯を付け、私はマイクを鬼塚の口にあてる。
『緊急車両が通過します。前方の車はすみやかに走行車線に寄りなさい』
 あっという間に追い越し車線が開くと、鬼塚がアクセルを踏み込む。
 車内はエンジン音で会話ができないほどになる。
 お願い…… 間に合って。
 バイパスが終わると、がらんとした街中を走行した。
 携帯会社のビルよりいくつか手前に警察車両が止まっていて、警官があたりを見ていた。
 鬼塚は車を止めて状況を聞き出す。
「不審者はいたか?」
「まだ中は調べられていません。ビルの警備会社を呼び出しているところです」
「そうか」
 車のパトカーの前に止め、鬼塚は私にも降りるように指示した。
 ビルを見上げながら近づいていくと、ビルの前で警備会社のマークを付けた男が警官と一緒に鍵を開けて入るところだった。
「……鬼塚刑事」
「ビルの図面は?」
「警備会社さんがお持ちです」
 鬼塚は警備会社の人が見せたスマフォ画面を自身のスマフォで写真に撮った。
「あっ、こまります」
「捜査が終われば消すから問題ない。それよりマスターキーは借りれないの?」
「貸せません」
「じゃ、警備会社さんは、終わりまで付き合ってもらうぞ」
「……」
 その人が困った顔をしているのを見て、私は少し笑ってしまった。
 屋上への行くため、エレベータフロアへ行き、エレベータで屋上一つ下まで向かう。
 階段を上がり、屋上への鍵を開けてもらう。
「この後、鍵が必要な個所は?」
 警備会社の者は、スマフォの図面を開いて確かめる。
「ないです」
「じゃあ、警備会社の人と君はここで待っていてくれ。俺と白井で電波塔を見てくる」
 二人で屋上に出て、電波塔を見上げる。
 誰も入っている様子はない。
 真下に着くと、電波塔の周りは金網で囲われており、入る扉には南京錠がかかっていた。
「さっきこれ以上鍵はないって言ったのに」
「……警備会社が預かっている鍵はないってことだ。ここは渡さないだろうよ」
 鬼塚は死角に誰かいないか体を動かし塔を見上げている。
 金網の扉もガシャガシャと押し引きして開いていないことを確認する。
「もう一つの電波中継塔の方に連絡してみる」

 その時、亜夢はふと、美優の苗字を聞いていない、と思った。
「そうなんだ…… けど、美優の苗字って、私聞いてなくない?」
 亜夢が言うと、美優は少し怒ったような表情になった。
「あ、ごめん。私の苗字って言ってなかったけ? 私、|乱橋(らんばし)っていうんだ。乱橋亜夢」
「そういうことじゃないの……」
「……ごめん。いいたくないこともあるよね」
 しばらく、二人は何も話さなくなってしまった。
 案内されたテーブルにつくと、ウエイターがメニューを持ってきて、美優と亜夢に説明を始める。
 二人は食べたいものを選んで告げると、ウエイターはそのまま下がった。
 亜夢は何を言うか悩んだ末、口を開いた。
「その制服、カッコいいね……」
「そお? 昔は葵山学院も私服で通えたらしいんだけど」
「私服。それもそれでいいね。気楽で」
「そうよね。私はどっちかっていうと私服がいいけど、制服があった方が生徒が集まるらしいの」
「あ、なんかそんなはなし聞いたことある。制服じゃなかったって」
「けど、それ、相当昔よ。知ってるのはおばさんね」
 亜夢は清川の顔を思い出して笑った。
「亜夢んところはどうなの?」
「……」
「?」
「制服だよ。つまんない制服」
 細かいところを話すわけにもいかない。『みきちゃん』が知っていたように、どうやら制服の話から『ヒカジョ』だとバレることもあるようだからだ。
 亜夢は自分が振った話題がまずかった、と後悔した。
「写真とかないの?」
「……」
「?」
 亜夢は慌ててスマフォを探すふりをする。
「うーん。制服で写真とることないからなぁ」
「そうなんだ」
「ごめんね」
 と言って、亜夢はスマフォを机に置いた。
 すると、通知が来て待ち受け画面が表示された。
「!」
「あっ!」
 亜夢は慌ててスマフォをしまう。
「ご、ごめん。ちょっと見ちゃった。その制服なの?」
「えっと…… この|娘(こ)はナナって言って……」
 同じ学校かどうか、というところを言うか、言わないか、それともウソを言うか…… 亜夢は必死に考えた。
「友達なの」
「へぇ…… なんかそういうの……」
 さっきまで亜夢を見ていた美優の視線が、泳ぎ始めた。
「?」
「そういうのいいな」
「美優の待ち受け見てもいい?」
「あ、えっと、だめ。亜夢、そうだ。亜夢の写真撮っていいい? 一緒にならんだ写真」
「ん、いいよ」
 美優はスマフォを持って亜夢の横にくる。亜夢は席をひとつずらして美優に座らせる。
「こっちをバックにした方がいいね」
 店の中庭が見える窓をバックにして、写真をとった。
 何枚かの写真の中から、美優が選ぶ。
「これなんかどう?」
 亜夢は写真を見て、
「うん、いいね。そのスマフォの写真綺麗だね。私のなんか比べ物にならないわ」
「じゃ、これに決まり」
 美優はそう言うと、ささっとトリミングし、待ち受けの壁紙にその写真を設定した。
 亜夢に顔を寄せてきて、スマフォの画面を見せる。
「どう?」
「うん、いい感じ」

 問題はこの〈巨大電波塔〉この位置からだと、百葉高校や百葉高校の寮でも〈転送者〉が発生するほど出力が上がらないと〈ゲート〉には届かない。
「アンテナの出力を上げるか、アンテナを動かすか」
「出力が上げられないと仮定したら?」
 私はスクリプトを改修し〈ゲート〉を中心にした円を描いた。
「この範囲に移動させれば」
 スクリプトが実行され、地図上に新しい円が描かれた。
「アンテナがあっても不自然じゃない場所……」
 鬼塚はつぶやきながら地図上に指を滑らす。
「ここか」
 携帯電話会社の大きな支社を指さす。
「これ」
 指の下には『電波中継塔』と書かれている。
「もしこれで〈鳥の巣〉のゲートが〈扉〉になったら、ものすごい巨大な〈転送者〉が現れるぞ」
「けどゲートはまだ完成していないわ」
「いや、工事は明日で終わる」
 私は今日見たゲートの様子を思い出した。
 それから〈扉〉の条件を思い浮かべる。
 開閉して、扉とみなせるもの。
「だって、枠だけしか……」
「違う。今日中にあれに『幕』が張られる」
「あんなところから、あのサイズの〈転送者〉が現れたら、アッという間に都心は壊滅状態になってしまう」
「とにかく、白井先生を止めないと」
 私はうなずいた。
 地下に戻り、車に乗り込むと〈巨大電波塔〉へ向かって走った。
 夜中で誰もない通りに、車を止めると、間近にある巨大な塔を見上げた。
「そこの二人」
 後ろから呼び止められた。
 鬼塚が素早く振り返ると、鬼塚は警察であることを告げた。
 後ろに立ったのは制服の警官だった。
「し、失礼しました」
「そんなことはいい。それより、この人物を見なかったか?」
「この人物ですか。さきほど電波塔の侵入者の報告があり、この人物が中に入ったとのことです」
「そうか。ありがとう、行くぞ白井」
 鬼塚が駆け出すと、警官は叫ぶ。
「もういません! その者も逃げました」
「なんだと、それを早く言え」
「すみません」
 鬼塚は車を指さす。
「車に戻れ」
 走りながら、
「さっき見た二つの施設のうち、どっちに行くと思う?」
「私には……」
「ああ、分かった。じゃあ俺の勘でいくぞ。携帯電話会社の支社だ」
 車がグッと沈み込む。
 電動で加速が始まり、ガソリンエンジンに切り替わる。
「また百葉へ逆戻りだ」
 百葉と言っても、今度は海岸線に近い方だ。
 私はさっきの言葉を思い出した。
「さっきの警官、気になることを言っていたわ」
「なんだ? 気づかなかったが」
「その者『も』と言ったのよ」
 鬼塚も正面を睨んだまま応えた。
「白井先生以外の侵入者がいた、ということか」
「父がアンテナを移設して、ゲートから〈転送者〉を呼び出そうなんて考えると思えない」

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