その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「リミッター?」
『限界、というべきだったかな。ここまでしかできない、とか、もうダメだ、とかすぐに思わんようにせんと』
 亜夢は目の前で腰に手を当て、胸を張ってそう言い切る少女に頭を下げた。
「わかりました。頑張ります」
 亜夢とハツエは山を降りる訓練を再開する。
 転びそうになったり、幹や岩にぶつかる、と強い恐怖を持った時こそ、持てる|非科学的潜在力(ちから)を出し切るべきだ、と何度も心に呼びかけた。
 亜夢は次第にハツエのスピードに食らいつけるようになってきた。
 激しく呼吸をしながら、亜夢が言う。
「早くなったでしょうか?」
「はやくなったよ」
 ハツエが声に出してそう言った。
『転んだり、危険な場面できっちり超能力がつかえている。亜夢にとってはそこが進歩じゃな』
「はい」
 金髪少女が、後ろで手を合わせ、亜夢に近づいてくる。
「なに? ハツエちゃん」
「おねえちゃん、それじゃあ、もっとこわいところに行ってみる?」
 その言葉を聞くと、とたんに亜夢は体中に鳥肌がたった。
「い…… え……」
 ハツエがまっすぐ腕を上げ、一直線に指を伸ばした。
 その先には、岩がいくつかあって、穴が開いていた。周囲の木々は枯れていて、草も生えていない。何か、周囲に悪い空気が漂っているようにも見える。
「行ってみてきて」
「あの、怖いからいきません」
「ね。行ってきてみてよ」
 ハツエの青い瞳を見ていると、|精神制御(マインドコントロール)されたかように、足が勝手に動き出した。
『みてみるがよい。これはテストじゃ』
 ハツエを振り返り、亜夢はゆっくりうなずく。
 そして岩の間を抜け、その穴へと入っていく。
 空気が悪いというか、何かよどんでいて、生臭かった。黒く霧がかかったようにモノがまともに見えない。
 亜夢は気持ちを広げて、目だけではなく、耳や体に伝わる感覚を使いながら、周囲全体を感じることで、見えない部分を補った。
 歩み入っていくと、虫も生き物もいない、と思われた洞窟内に殺気を感じる。
「誰?」
 声が響く、と思われたが意に反して声は吸い込まれるようにかき消されていく。
 亜夢はもっと大きい声で言った。
「誰かいるの?」
 ゴウゴウ、と風の吹くような音だけが穴の奥から聞こえてくる。
 正面の闇の濃淡が、ゆらっと動いた。
「!」
 一瞬、指先が見え、そこから|雷(いかずち)が放たれた。
 都心で見たビデオの映像と同じ…… 
 亜夢は手で払うようにして、雷を地面に誘導する。
 雷の光で、相手の顔が一瞬見えた。
「美優?」
 再び白い指先だけが見えると、雷が放たれた。
 素早くその雷をいなしながら、間合いを詰める。
 手首を取って、雷を頭上へ向かわせる。
 パッと洞窟全体が明るくなって、亜夢は雷を放つ相手の顔をはっきりと見た。
「私?」
 鏡でみる自分の顔が、ニヤリ、と笑った。
「うわぁぁぁぁ!」
 亜夢が拳を突き出すと、避けることもなく顔面に当たる。雷を放つ偽物の亜夢は、まるで砂で作った城のように砕け散った。
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 小さい声で囁く。
 私は慌てて飛び乗ると、美琴はそのままターンして〈転送者〉の隙間から飛び出した。 
 〈転送者〉が怒ったように集団でこちらに向かってくるが、天井にぶつかり、通路の幅も狭いせいか思うように追ってこれない。
 こちらもこちらで態勢を低く保たねばあちこちにぶつかってしまう。
 蹄の音や、後ろの〈転送者〉の騒音のせいで、私は叫ぶ。
「なぜ助けるの?」
「ヤメて…… わからないの」
 美琴は耳を塞いだ。
 私達は、再び高い天井のホールに出てきた。
「降りて…… お願い……」
 降りると、彼女の前に回った。
「空港には私の両親と、あなたの両親がいたわ。一緒に旅行をして、帰ってきたところだったはず。あなたはピンク色で文字が書かれた、黒いキャップをかぶっていて、私はこんな髪型だった」
 耳をふさいだままの美琴は、今度は目を閉じた。
「もう思い出せない。あの時、死んでいた時間が長すぎたのかも…… もう私は美琴じゃないのよ」
 うつむいて苦しんでいるような表情が、段々怒りの表情に変わってくる。
「お願い。もう私はあの時の私じゃないから」
 頬の欠陥が浮き出ると、同時に、体中の筋肉が膨れ上がっていく。
「ダメだ…… もう、耐えられ、ない」
 塞いでいた耳から手を離し、拳を握り込んで、天井を見上げる。
「うおぉぉぉ」
 野太い声がホールにひびきわたる。
 私は反射的に後ろに飛び退いた。
「私は〈扉〉の支配者に救ってもらった。このキメラの体でいることを、許してもらった……」
「?」
「だから、もう戻れない。あなたのお友達には帰れない」
「美琴!」
「チ、ガ、ウ!」
 そう言って上体を跳ね上げた後、全速力でぶつかってくる。
 横に避けてかわすと、美琴は勢い余って走り続けた。
「コロス!」
 膨れ上がった筋肉で、来ていた服も避けてしまった。
 女子とは思えない体つきになった美琴は、怒りの表情のまま固まってしまった。
 何度も「コロス!」と繰り返し叫び、私に襲い掛かってくる。
「やめて。戦う気はないの。お願い、美琴」
「コロス! コロス! オマエヲコロス!」
 ホールで追いかけっこをしているうちに、〈転送者〉がホールにつながる通路にやってきた。
「……」
 通路からホールに出られたらマズい。私は〈転送者〉が身動きできない通路にいるうちに対応することを選択した。
 美琴の突進をすれすれでかわして、通路へ向かう。
 爪をむき出しにして、飛び出してこようとする〈転送者〉にカウンターの一撃を浴びせる。
 コアを蹴り抜かれた〈転送者〉が黒い霧のように変化して消えていく。
「次!」
 壁を蹴り、天井を蹴って次の〈転送者〉に爪を振り下ろす。狭い通路で避けることもままならない〈転送者〉ははなすすべもなくコアを抜かれる。
「マテ」
 残りの〈転送者〉がホールに向かうの足を止めた時、後ろから美琴に呼び止められる。
「オマエハワタシガコロス」
 このままでは〈転送者〉と挟み撃ちにされてしまう。私は〈転送者〉の破壊を諦め、ホールに逃げ戻る判断を下す。
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 女の子は急に胸を押さえ、苦しみ始めた。
「キミコ?」
 女の子の体が少し震えているように見えた。
「……」
 私はまた椅子や机の影を移動した。
「鴨川(かもがわ)美琴(みこと)は…… 鴨川美琴は私の名前」
「えっ?」
 言ってから、慌てて口を手で押さえた。
 まさか、この女の子が…… 私が探していた友達、鴨川美琴?
 そうだ、もう記憶のどこにも美琴の姿はない。この女の子が『私は鴨川美琴』と言えば、そうかもしれない、と考えるしかない。この子は、私の記憶を知っていて、騙そうとしているのだ。
「そこにいるのね……」
 移動の途中で、不意に声を出してしまったせいで、位置を知られてしまった。
 走り出せば、まだ逃げれる距離だった。
 それなのに、私は逃げることが出来なかった。
「美琴、私よ。私」
 隠れていたソファーの後ろから飛び出し、女の子の目の前に立った。
 そして、両手で髪を引っ張り、ツインテールが分かるように見せた。
「美琴、私を覚えていない?」
「ぐぁっ……」
 女の子はまるで私がまぶしいかのように手をかざして、顔を覆った。
 まぶしがる一方で、こちらを見たいのか、手や指の隙間から懸命にこちらを覗こうとしている。
「ねぇ、美琴、私、私よ。公子。公子だよ」
 私がそう言うと、女の子は後ずさり始めた。
「知らない…… そんな記憶は…… ない……」
 私の記憶にも、この女の子が美琴だという決め手はない。
 ただ、なんとなくそうではないか、そうであって欲しいという希望があった。
「うわぁぁぁ」
 女の子は手で激しく自分の顔を叩き始めた。
「知らない、お前なんか知らない…… 私は空港で…… 空港で死ん……」
「しん?」
 〈転送者〉がゆっくりと追いついてきた。
 一階にいた〈転送者〉だけでなく、上のフロアにいたものもついてきていた。
 私はいつの間にか周りを〈転送者〉に囲まれていた。
 ここでは私は翼を使えない。飛び立つには天井が低すぎる。
 五体の〈転送者〉の隙が目の前にあった。しかし、そこを女の子が塞いだ。
「私は死んだの。キメラになることで、私は生きながらえた。私がキメラになった後、キミコと刑事の男と女教師がキメラにされていったわ」
「……」
「そう。先に死んでいたのよ。麻酔が効かなかったわけじゃない。真っ先にキメラとして生まれ変わっていたのよ」
 女の子は顔から手を放した。
 白目が黒く見えるほど充血している。
「あなたが、キミコ…… そう、そんなツインテールだった」
 〈転送者〉が一斉に腕を引いた。
 次の瞬間、〈転送者〉の中心にいる私に向かって、突き出されるはずだ。
「やめなさい!」
 〈転送者〉の腕が止まった。
 私のところに女の子…… 鴨川美琴、が駆け寄った。
「(私の後ろに乗って)」
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