その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 あかねは怖くなって、周りを見渡したが、山川も、神林も、川西も、心当たりのある人物はいなかった。というか、あたりは見知らぬ人ばかりだった。
 タブレット端末をしまうと、あかねはしがみつくようにカバンを抱いて不安な気持ちを紛らわせた。
 駅につくと改札を出て、あかねは学校へ向かった。
 学校に近づくと、美沙がいる場所がわからなかったので、カバンからタブレットを出して、美沙にメールした。
 しばらくすると、メールの返信があった。
『え、なんでこっち来たの??
って、それは直接話せばいいか。
私は学校近くの十字路を見渡せるように、工場の脇の小さい公園にいるから』
 あかねは、学校への道をいつもと反対側の車線の歩道を通って美沙のところへ向かった。
 しばらくあるいて、公園について、美沙の顔をみるなり、あかねは泣いてしまった。
「どうしたの、あかね?」
 美沙はあかねを抱き寄せてくれた。
「みくに引っ叩かれた……」
「え! ひっどい。どんな理由にせよ、絶対ゆるさない!」
「そうじゃないの」
 あかねは首を振った。
 初めから悪者と決めつけて尾行する自分が悪いのだと、あかねは思った。しかしその考えを美沙に伝えることは出来なかった。
「怖かったよ……」
「うん、そうだよね。怖いよね」
 ひとしきり抱き合って、なぐさめてもらえると、根拠なく気持ちが落ち着いてきた。
 あかねはそっと美沙から離れると、カバンからタブレットを出して、WiFi画面を確認した。まさか今もあのWiFiが……
「え!」
「どうしたのあかね」
「さっきの、さっきの奴」
 あかねは、美沙に見てもらうことにした。自分の見間違えかも知れない。
「ちょっとこの画面見て」
「WiFi設定画面だね…… これがどうしたの?」
「え?」
 あかねは嫌な思い出が蘇った。
 もう自分だけが見えている、とか、自分だけが聞こえてる、というのは嫌だ。頼むから、これは美沙にも見えるものであって欲しい。実際に表示されて欲しいものではなかったが、あかねはそんな風に思った。
 そしてもう一度タブレット画面を見直し、指差した。
「BITCH…… この近くにある…… ってこと? まさか」
 その言葉に、ある意味安心した。美沙にもこの文字が見えている。
「私が誰かにつけられたのかな?」
 美沙は、あかねからタブレット受け取り、操作した。
「この画面のボタンでWiFiを再取得してみるから、心配しないで」
「あ、ほら。消えた。良かったよ〜 ほんと焦った」
「待って」
 まだいろいろ検出している最中らしかった。意味不明な数値の文字の組み合わせが一行増えたり、減ったりしていた。
「ない…… ね。無くなった、のかな?」
 美沙が言った。
 あかねは息をついて、タブレットから顔を上げた。
 女性が一人、学校へと入って行くのが見えた。あかねは指を差して言った。
「美沙、あれ、誰だっけ」
 美沙も顔を上げてその人の姿を目で追ったが、よく見えなかったようだった。
「……良く見えなかった。今日学校に入るんだから先生だよね?」
「先生か。そりゃそうだよね」
 あかねは先生と言われて、なんとなくその姿を思い出した。一瞬の横顔しか見れなかったが、確か……
「笹崎翔子先生だ」
「?」
「バスケ部のもう一人の顧問の先生なんだよね。部活に来たことないけど」
「ああ、なんかそんな先生のこと言ってたね」
「なんでこんなところにいるんだろう?」
「え? 学校で仕事でしょ。土曜日仕事する先生なんて普通だよ」
「そうなんだ」
「綺麗な女性(ひと)だね」
 あかねはその言葉に違和感を覚えた。よく見えなかったんじゃ……
 あかねは誤魔化すように慌てて返事をした。
「え? そ、そうだった?」
「……なんとなくの感じだけど」


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 はっ、と意識すると、あかねは目を細めていた。サングラスの下なので、多少細めれば本人と気づかれないだろう、と思っていたからだ。
 山川はアニメによくあるような、リアリティのない、短いスカートのメイド服を着ていた。幸い、山川はスマフォを見ながら歩いていたので、あかねに気づいてはいないようだった。
 そして、そのまま神林が入っていったビル入っていった。
 あかねは、この通りをうろうろしていると、全方向から来るかもしない三人を相手に隠れなければいけない、と考えた。せめて方向を絞り込まないと危険だ。
 考えたあげく、離れているが角の喫茶店に入って外を見ることにした。そこしかなかったし、喫茶店のようなところであれば、店内を先にチェックしてしまえば、多方向から見つかる心配はない。注意すべきは出入り口のみだからだ。
 あかねはそう思って通りを進んで、喫茶店のオートドアを開けて入った。
「あかね?」
 あかねは後ろから声をかけられた。
 神林みくの声だった。
 まさか……
 気が付かないフリ、知らないひとの名前だと思い込んで、あかねは、それを無視した。
「あかねだよね?」
 背中に手をかけられた。さすがにこれを無視することは出来ない。あかねは振り向かずに言った。少し低い声にしてみる。
「ひとちが……」
「何言ってるの。あかねでしょ?」
 あかねは振り向くと、みくに『パッ』とサングラスを取られてしまった。
「やっぱり!」
 その瞬間、あかねは平手打ちを食らった。
 店内の客が、一斉に二人の方を見るのがわかった。
「あんたのくるとこじゃないんだよ」
 『ここは全国チェーンの喫茶店だ』と言い返してやりたかったが、痛みと驚きと恥ずかしさが入り混じって、あかねには声がだせなかった。
「ほら!」
 神林が大きな声を出した。
 あかねは、涙が出てきた。
 平手打ちの痛みではなく、自分の行為が神林を傷つけた、と思ったからかもしれない。とにかく、涙が頬を伝った。
 もうここを逃げ出すしかない。
 この尾行はもう終わり。だって本人にバレてしまったのだもの。
 あかねは、早足で店の外に出て、一度も振り返らず駅の方向へとあるいた。
 涙が溜まっていて、何が見えているか、よくわからないまま駅につき、なんとか帰りの電車に飛び乗った。たまたま空いていた座席に座ると、涙をハンドタオルで拭った。そしてそのまま、目をタオルで押さえたまま、数駅が過ぎていった。
 あかねは、気分が落ち着くと、カバンからタブレット端末を出して、WEBメールを確認した。そして、さっきの出来事をメールに書き込んで送信した。
 すると、通信が止まっていた通信が動きだしたように、受信箱にメールが表示された。
 開いてみると、美沙からだった。
『こっちはまだ学校です。もしものことがあるので、やまと君に反対側の出入り口を見てもらってます。
BITCHだけど、もしかすると、WiFiテザリングなのかも。学校の時は、『リンク』の企業ページの真似ができるようなWiFiだった、って予想してたからパソコンかな、と思ってたけど。電車とかならきっとスマフォのテザリングでも、そういうWiFiの表示だせるよ。
もし、BITCHが複数あるなら、最初にあかねが動画を見たものと、私達が学校で見つけようとしていたもの、そしてあかねが電車でみたもの、はそれぞれ別なのかも。とにかく、気をつけて』
 あかねは読み終わると、ふとさっきのWiFi設定の画面を見て、ぞっとした。
 なぜなら、またBITCHが表示されていたからだった。


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