その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 
 新野真琴と北御堂薫は、いつものように二人で電車から降りた。が、いつもと違って、薫はどこからか見られているように感じた。振り返ったり、正面の人混みの中から視線を探すが、探しているうちにその感じが消えてしまった。
「どうしたの?」
「なんでもない…」
「そんなことないでしょ? ちゃんと言ってよ」
「…誰かこっちを見ていた気がする」
「どこだろう」
 真琴は周囲を見回すようにして、何か不審な動きをするものを探した。
「【鍵穴】を持つ人がまたでたのかな」
「見ただけで判るの?」
「ううん、判らない。けど、ヒカリが言うには、特定のところに入り込み易い、というのが、あるんじゃないかって」
「前に距離は関係ないっていってたよね。それなら、この近辺で出やすいってのは変なんだけど」
 距離とかそういう事とは別の、全く別のことが原因なのではないか、と薫は思った。真琴がヒカリと同居していることが関係している、と考えると納得が行く。何か、歪みが生じていて、この近辺の空間にいると【鍵穴】が開きやすいのかもしれない。
「特定のところ、が距離を意味するのではない、ということかしら」
「ボクが言い出したのに自分で判らなくなったよ…… とにかく気をつけよう」
 というと、二人はまた学校へ向って歩きだした。
 その後ろで、立ち止ってスマフォを見ていた生徒がボソっと言った。
「鍵穴…」
 素早くスマフォで指を滑らせ『鍵穴』と記録した。歩き出した二人との距離を確認し、距離を保って歩き始めた。
 教室に入った北御堂薫は長い髪をリボンでまとめていた。ゴムでしばる、とか、三つ編みではなく、リボンですることにこだわりがあった。
 ゴムでしばるには、髪が長すぎた。三つ編みにしろ、ゴムでしばるにしろ、かなり髪を痛めてしまう。だから、まとめる必要のある時だけ、リボンで軽くしばり、前に持ってくることにしている。
 薫はそうやって席に着く前にずっと髪を整えたり、しばったり、やり直したりしていた。そうやってやっている時、再び視線を感じた。
 教室の外に目線を配るが、それらしき姿はみつからなかった。登校時、そして今。さすがに、これは気のせいではないな、薫はそう思った。
 しばった髪を前にもってくると席に座って鞄を開いた。筆箱や必要なものを机に動かすと、真琴が薫の席にやってきた。
「どうかした?」
「また誰か見てたみたい」
「ボクも注意してみてたつもりなんだけど」
「…真琴じゃなくて、私を見てるってことかしら?」
 もし【鍵穴】の人間が狙うとしたら、それは真琴であるはずだった。ただ、相手が必ず【鍵穴】の関係者とは限らない。
 真琴が気が付かない、となると、薫側を監視している可能性も出てくる。
「学校だから、相手も生徒の可能性が高いでしょ? そんなに危ないことはないと思う」
 しかし、その後は二人は放課後になるまで、誰かに見られているようなことを感じることはなかった。真琴は、結局なんだったのか判らないまま、帰りの支度をしていると、薫が言った。
「真琴、今日なんだけど私ちょっと学校で用事が出来たの。先に帰って」
「どれくらいかかるの? 待ってようか?」
「本当にゴメン。今日は先に帰ってて」
 真琴は少し戸惑った。
「そお? なんか今日は不味くない?」
「遅くなるようならメラニー呼んで帰るから大丈夫よ」
 薫は安心させよう、と微笑んでみせた。
「…わかった。じゃあ、先に帰るね」
 不安は残ったが、薫の言うことだ、間違いはないだろう、真琴はバックパックを肩に掛けると教室を後にした。
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どうやろうか考えたのですが「カテゴリ」で「二話」としてタイトルに順番用の番号を振ることにしました。タイトルの番号が元に戻るので、とまどうかもしれませんが「カテゴリ」で「一話」と「二話」としていますので、そこを確認していただけるようお願いします。
 
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二話です。

登場人物

新野真琴 : ショートヘアの女生徒で東堂本高校の二年生。頭痛持ち。頭痛の時に見る夢の中のヒカリと協力して精神侵略から守ることになった。

北御堂薫 : 真琴の親友で同級生、真琴のことが好き。基本冷静で優秀な女の子。

京町乙葉 : 生徒会長

佐藤充    : 副生徒会長

佐々木ミキ : 書記(1) 双子の姉

佐々木サキ : 書記(2) 双子の妹

上野陽子 : 剣道部部員








 体育館の床に、体が叩きつけられた低い音が響いた。
「大丈夫か?」
 倒れた男に、数人が駆け寄る。
「上野! 流石にやり過ぎじゃねぇか?」
 上野と呼ばれた剣士は、構えを崩そうとはせず、掛けられた言葉が全く耳に入っていないようだった。
「聞こえてんのかよ!」
 再度、問いかけたが、上野は構えたまま全く反応がなかった。
 この部員が倒れるまでに、数人が同じように打ち倒されていた。
 確かに上野は女子ではずば抜けて強かったが、この剣道部の男子達を打ち倒すほどの筋力や体格ではない。そういう意味でも何かがおかしかった。
 剣道着を着た男が竹刀をもち、間に割るように入って言った。
「どけ。俺がやる」
 ここには審判らしい人物はいなかった。
「郷田、よせよ、こんなの。もういいよ」
「上野さん、やめなよ!」
 周りにいた女子剣道部員も、上野に呼びかけた。しかし、その瞬間、上野の声がしたかと思うと、郷田への面が決まっていた。
 郷田が態勢を崩しているところに、続けざまに小手を打った。
「上野!」
「やめろって言ってんだろ!」
 打たれた郷田はしびれるのを耐えながら竹刀を構えようとすると、再び上野の高い声がして一足飛びに入って突きを放った。
「郷田!」
 郷田は仰向けに倒れた。
 危険な倒れ方だった。
「何だ、何をやっている」
 部活の顧問が用事を終えて体育館に帰ってきた。
「とにかく郷田を、救急車を」
 これまで無反応だった上野が、急に竹刀を手放し、先ほどまでとは別人のように、ふらふらと歩き始めた。
「上野?」
 郷田の防具を外している途中の顧問が、上野の様子に気がついた。
「上野、どうした」
 上野も膝をついたかと思うと、硬直したまま、うつ伏せに倒れてしまった。
 その後、救急車が複数台呼ばれ、騒ぎとなった。一部父兄も呼び出され、その日は緊急の教員会議が遅くまで行われた。
 これは東堂本高校剣道部始まって以来の事件となった。
 退学もやむなし、部活動に支障がでるだろうと思われた。しかし、上野本人が高熱のせいか記憶がないこと、幸いなことに郷田や他の被害があった部員達も大きな怪我がなかったこと。そういったことと、日頃の上野の部活内での状況を踏まえて、事を学校内のことで収めることになった。
 上野陽子は熱もあり頭痛がするということがあり、病院で精密検査を受けたりしていた。結局、一週間ほど学校を休んだのだが、特に異常も発見されず、次の週には学校に復帰した。
 郷田も脳の精密検査などで三日ほど入院したが、退院の次の日には学校に来ていた。
 それぞれが学校に戻ると、ほどなくその事件のことは誰も語らなくなっていた。

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