その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「誰よ、こんなこと書くの!」
「佐津間じゃね?」
「佐津間だろ」
「こういうのは、さつましかいないんだな」
 私が佐津間を睨みつけると、佐津間は首を振った。
 アリスが私を指さした。
「ばばあごえ」
「なっ」
 クラスで笑い声が巻き起こった。
「北島、発音うまいな」
 担任の佐藤がそう言った。
 さらにクラスの中の笑い声が重なって、広がった。
「もういや!」
 いたたまれなくなって、私は走って教室の外にでた。
 教室を出たとして、行く場所はない。いや…… 私は保健室へ向かった。
 保健室には『不在』の札がかかっていたが、入れることを知っている私はそのまま何かに入り、ベッドに潜りこんだ。
 なんでいつも私だけ……
 保健室の扉が開く音がした。
「どうしたの」
 新庄先生の声だった。
「もういいです」
 しきりを開けて、ベッドの側へくる。
「『もういい』訳無いから、ここに逃げて、ここで泣いてるんでしょ」
 ムカッときた。
 何を答えても言い訳になりそうな気がしたから、素直に認めた。
「そうですよ」
「自分のいやなことと戦いなさいよ。いつもここで泣いていても、クラスのみんなは何悪いことしているのかわからないわよ。教室でどうどうと泣いて、発言者に謝罪させるのよ」
「そんなのいや」
「そう言ったって、教室から飛び出して、ここにいたらだれも気にしてくれない。私も生理的な傷なら舐めて癒すこともできるけど、心の傷はそうはいかないのよね」
「いいんです!」
「じゃ、自分の思う通りにすれば」
 しきりをしめて、新庄先生は椅子に座ったようだった。
 私は教室であったことを思い出していた。
 転校してきたばかりの北島アリスに『ばばあごえ』認定されてしまったのだ。
「新庄先生」
「どうしたの」
「転校生、知ってますか?」
「……」
 私はしきりを開けて、先生の横に立つ。
 先生はピンとこない様子だった。
「北島アリス……」
「聞いてないわ」
「今日の職員会議とか朝礼でそういうのはなかったんですか?」
「私出てないから」
「先生の連絡事項にないですか?」
「その転校生がどうしたの?」
「いいから調べてください」
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「俺の顔に何かついてるか?」
「……いえ」
「ゲシュタルト崩壊ってやつか?」
「?」
「いや、なんでもない。熱い抱擁はこれで終わりかな? さあ、教室に戻ろう」
 佐藤先生はそう言って歩き出した。
 歩きながら私は佐藤先生の後ろ姿をじっと見つめた。

「転校生を紹介する」
 いつもの儀式が始まった。
「まずは自己紹介してもらおうかな。名前と好きなこととか」
 教壇の前に手招きすると、北島がゆっくりとやってくる。
「ほら、これに書いてみて」
 佐藤がタブレットを渡す。そこにペンでササッと書き込むと、クラス全員のタブレットにそれが配信される。
「北島アリス」
「きたじまありす」
「アリスカタカナなの?」
 本人は何も口にしていない。クラス全員がざわついていた。
 佐藤がタブレットを受け取ってから言った。
「そうだった。北島くんはまだ、よくしゃべれない。この国の言葉はこれから本学で勉強するんだ」
「ええ~ そうは見ない」
「どこの言葉なら話せるの? 私英語なら質問できるよ」
「見えるだろ、いかにもハーフじゃん」
「先生、いつもの質問コーナーはどうすんの?」
「アリス、部活どうするの、バスケ部入ってよバスケ部」
「勝手にしゃべるな」
 佐藤が言うと、アリスが先生のタブレット指さした。佐藤はそれに反応して北島に手渡す。
 ササッとペンで書き込む。
 クラス全員、各々のタブレットを注視して静かになる。
「書き文字なら出来る」
「うそ? 書く方が難しくね?」
「じゃあ、書いてみようかな」
 興味を持った何人かがタブレットに書き込み始めた。
 アリスもタブレットをせわしなく操作して、何かを書き込み始めた。
「えっ『バスケってなに』だって
「『父も母もこの国の人です』って、ほら、ハーフでもなんでもないんじゃん」
「『聞き取りはできるから、話しかけてもOK』なんだって」
 私はタブレットに『いったいどこからきたの?』と書き込んだ。
『あなたの知らない国から』
 間髪を入れずに返す。
『知らなくてもいいから国名を書いて』
『なんて書くのかわからない』
 地球の地図を張り付けて、『場所はどこ。塗りつぶして』と入れる。
 アリスは『地図ではわからない』と書き込んでくる。
 私はタブレットを叩いて立ち上がる。
「ふざけないでよ。あんた|何者(なにもん)なの?」
 アリスの回答を読み上げ、ざわついていたクラスが一気に静かになった。
「どうした、白井。席に座れ」
 その時、誰かがタブレットを使ってアリスに『ババア声』と書いて送った。
 アリスが何か操作していると、先生のタブレットが読み上げた。
「ババアごえ。ババアごえとはおばさんのようなこえのこと」
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「シッ」
 踏み込むと同時に左が飛んでくる。
 しかし、亜夢は何も超能力を使わないでそれを避けた。
「超能力者ってのは」
 ロン毛は亜夢の右手側に回り込んでくる。
 そしてジャブ。
 今度は手のひらで受け止めるようにするが、手には当たらない。
「こっちの考えを読むのかよ」
 言っている途中で左を打ち込んでくる。
「けどよ」
 左、左、そして右。
「考えが回らないほど、手数を出したらどうなるんだろうな」
 左ジャブ、左、右。そして左。今度は右右。
 亜夢の右手側に回り込みながら、何度も何度も鋭いパンチを繰り出す。
 回りながら下がってそれを避けるが、最後に繰り出してくる右を避ける時間がない。
 亜夢は両手で受け止めるように構える。
 バチッ! と大きな音がなる。
 手の平との間に、厚い空気の層を作って、直撃はまぬかれていたが、それでも亜夢の手は弾かれていた。
「チッ」
 言ってから、ロン毛は少し息を吐いた。
「!」
 亜夢は突然、羽交い絞めにされて、体が動かせなくなった。
「なに?」
「なんだ、手伝ってくれるのか」
「はやくしろ」
「えっ、誰? 美優なの?」
 亜夢を捉えているのは、西園寺美優だった。
「亜夢、美優の目がなんか変」
 奈々が言う。
 亜夢は、コントロールされていた美優とホテルで対峙した時の状況を思い出していた。
「|精神制御(マインドコントロール)なの?」
「なんでもいいや、もらった」
 ロン毛は顔面に打ち込むフェイントをして、腰をいれた強いフックを亜夢のボディに入れた。
「ぐふぅっ」
 顔を警戒した亜夢は、何も超能力防御がないまま成人男子、それも素人とはいえボクサーのパンチをまともに食らってしまった。
 体がくの字に折れるだけでなく、呼吸が止まっていた。
「んはぁ……」
 息をつくと、ロン毛は亜夢の髪を引っ張って顔を持ち上げた。そしてまた顔にパンチを打ち込むフリをして、右手をボディに打ち込んだ。
「グッ……」
 苦痛に歪む唇が震え、体液が漏れて地面を汚す。
「美優、亜夢がやられてんだよ」
 アキナが近づこうとすると、バットをもった男が両手を広げてそれを阻止する。
「いいところじゃねぇか」
「俺にもやらせろ」
 小林がロン毛の男の横に立った。
「俺の|仇(かたき)なんだから」
 ロン毛が退き、小林が大きく振りかぶって亜夢の顔をめがけて拳を振り込む。
 顔面を滑ったかのように拳はすり抜けてしまう。
 亜夢が至近距離に来た小林の股間を膝蹴りする。
「うぉっ!」
 小林は亜夢の足元に転がり、のたうち回る。
 そもそもロン毛のダメージが効いていていて、まともに足を上げれないのだが、カウンターで入ったせいか、思ったよりダメージは大きかったようだ。
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