その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

「……遠慮しとく」
 中島さんはスマフォを操作して、急に呼び出し音が聞こえてきた。
「誰にかけ……」
 口の前に指をあてた。
「しっ」
 中島さんがスマフォを耳に当てた。
「中島です…… 入ってみたんです…… 霊が大量で…… けど、結局、彼は何も思い出していないんです…… 今、彼の家に避難してます…… 大丈夫ですよ。間違いなんか起こしませんから…… えっ、あの…… 来ない方がいいと思いますよ。めっちゃ狭い…… だから、大丈夫。あっ、切れた」
「なんです、その会話」
「所長がここくるって」
「えっ、入れないですよ」
 俺は周りを見回した。縦に座れるが、座れるというだけだ。何しに来るというのだ。
「そう言ったんだけどね」
 コンコン、と扉を叩かれた。
「えっ、もう来たんですか?」
「そんなワケないでしょ」
 そう言って中島さんは笑った。俺は立ち上がって玄関へ移動した。
 扉の外に、屋敷から流れてきた霊がいるかもしれない。俺は覗いて扉の外を確認した。
 扉の外には、小柄な女性が立っている。
 つやのある真っ赤な口紅。
 見たことがあるような、ないような…… えっと…… 美紅さん。
「影山くん?」
 中島さんから呼びかけられる。
「……」
 俺はもう一度のぞき込む。そうだ。髪が長くて、雰囲気も違う。
 美紅さんじゃない。俺はそう思った。
 見ていると、扉の前の女性は扉を叩いてきた。
「あの…… お願いです。お願いです。開けてください」
 声も、俺の知っている美紅さんよりワントーン低い。やはり別人だ、と俺は思った。
 つまり…… 怪しい。
 あからさまに怪しい。
 さっきまで、そんな焦っている感じもなかった。
 俺は中島さんの方を振り返った。
「……」
 中島さんは無言で首を振った。つまり、同意見だということだ。
 俺は無視しようと思って、扉を離れようとした。
「待って、そこであなたを見かけて。頼れる人があなたしかいないのよ」
「?」
 急に声が変わった。美紅さんなのか……
 俺は扉から覗いてみる。
 カツラを手に持っていて、短い髪、そして内向きにカールしている。
 つやのある、魅力的な唇。
「美紅さん?」
 と、俺は思わず反応してしまった。
「あっ! たすけて、お願い、助けて。組織に追われてるの」
 ドンドン、と扉を叩いてくる。
「組織って?」
 俺が覗いている、と思っているのか、扉の穴の方に顔を近づけてくる。 
このエントリーをはてなブックマークに追加

 亜夢とアキナの間には四五メートルほど間がある。そこの壁、床、天井はまだ例の干渉波を発している。亜夢から飛び込めば、またマスターと呼んでいる人物からの洗脳を受けてしまう。
 アキナはこの干渉波を抜けてこちらに来れるというのか。
 いや…… 違う。アキナはこの通路を超えたのだ。もう洗脳されている。だから、これ以上干渉波を受けても問題がないのだ。
「ねぇ、アキナ、聞こえる? 私達は戦わないわ」
 アキナなら、自身の力で|精神制御(マインドコントロール)を破れる。亜夢はそう考えた。
「アキナ? ねぇアキナ?」
「私がアキナだ」
 何かきっかけを与えれば、きっと自分を取り戻せるはず。亜夢は考えた。
「違う。ねぇ、いつものアキナはどこに行ったの?」
「私がアキナだと言っている。マスターは教えてくれた。敵は亜夢なのだと。マスターは敵を倒すまで戦えと言った」
「マスターがどんなやつか知らないけど…… 私はそいつを許さない」
 そのマスターとやらが宮下や三崎にした仕打ちは、亜夢にとってひつとして許されるものではなかった。
「亜夢、今のは矛盾してる。しらないのに許さないという……」
 とっさに亜夢はひらめいた。
「出てきてアキナ。今のはマスターが言わせた言葉よ。アキナは矛盾なんて言葉使わないわ」
「……」
「ねぇアキナ。アキナは『矛盾』なんて意味も知らないんでしょ?」
 固まったように動かなくなったアキナは、構えを崩し、膝をついてしまった。
 うつむいた顔が少しだけ上がる。
 顔にかかった髪を後ろに流す。
「亜夢…… 私だって『矛盾』ぐらい知ってるし、使うわよ」
「アキナ! アキナよね? 戻ってきたのね!」
 亜夢はアキナに駆け寄りたかったが、寸前で干渉波の装置が作動していることを思い出す。
「アキナ、残りの人質はどこ?」
「分からない。ここを通った時に頭がおかしくなって」
「そう…… とりあえず、ここを抜け出そう」
「床が壊れれば、装置は止まるのね。それなら…… 」
 アキナが拳を床に叩きつけた。
 さすがに床部部のパネルはビクともしなかった。アキナは続けて足を振り上げて、踵を振り降ろす。
「ヤァ!」
 アキナの踵が突き刺さるように床に付くと、ドン、と鈍い音がした。
 手応えあった、という表情のアキナは、床を手で引っ張って左右に割った。
「す、すごい」
 そう言って亜夢は手を合わせた。
「さあ、行こう」
「どこに?」
 アキナは亜夢が来た方の道を示す。
「戻るの?」
「うん。たしか、私が最初に行った大型搬入路。SATの人たちも、一緒にいるはず」
 亜夢はうなずいて通路を戻る。
 そして大型搬入路の方へ入る。
「……」
 万一敵がいた場合を考えて、声は出さなかった。
 しかし、見る限り誰もいない。
 |非科学的潜在力(ちから)を駆使しても何も感じ取れない。
 亜夢は床や壁を触って、そこから思念波世界を探索する。
「……」
 アキナが亜夢に無言で問いかける。
 亜夢は首を横に振る。
 何も感じ取れない。亜夢はここがバックスクリーン裏だと推測し、階段を上り始めた。
「(亜夢、どこにいくの)」
 小さい声でアキナがたずねる。
このエントリーをはてなブックマークに追加

 中島さんの手を引きながら走り始める。門から屋敷に通じる通路に出ると、そのまま門の方向に走った。
 霊の群れも、俺たちを追いかけるように通路に出てきた。
「影山くん!」
 俺はGLPを屋敷方向に構えた。
 竜頭を回して『助逃壁』に合わせる。
 十分に霊を引き付けると、龍頭を押し込んだ。
 GLPから光る壁が飛び出し、霊をひとまとめに押しやりながら、屋敷の方向へ進んでいく。
「やった」
 俺は中島さんの方を追いかけて、そのまま敷地から逃げ出した。
 中島さんは門の横の扉のノブに紐を括りつけて固定した。
「これで、追ってこないかな?」
 中島さんも、俺も息が切れていた。
「屋敷の外には出てこないですよ」
 俺はなんとなく、この屋敷の壁や門があの霊を閉じ込めている、そう思っていた。
「なんでわかるの?」
「……なんとなく」
「楽観的すぎない? どっかに隠れたほうがよくない?」 
 屋敷の門の前の道の反対側に、俺が住んでいるアパートがある。
「よければ、そこ、俺のうちなんですけど?」
「えっと……」
 頭からつま先までをジロジロ見られた。
「わかった。とりあえずなんでもいいわ」
 俺たちは急いで道を渡って、アパートの階段を上り、俺の部屋に入った。
 狭い玄関を上がって、俺の狭い部屋に入る。
 暗い部屋に先に入っていき、灯りを点けた。
 部屋の全体が見える。ロフトがあって、上るための梯子がかかっている。
 中島さんがいきなり指をさして言う。
「……なにこのテレビ?」
「いや、別に。いろいろな用途に使うから、大きい方がいいかなって」
「部屋の半分、いや一辺を全部占めてるじゃない。せまくなるじゃん」
 確かに端から端近くまでテレビがある。ただ、これはスマフォもつなぐし、パソコンもつなぐ。テレビも見れば、ネットも見る。映像はほぼこれで済ましているのだ。一人で済むにはのこりのスペースがあれば十分だ。
「あと、なんで雨戸閉まってるの」
「窓、開けたことないんで」
「向こうは何があるの?」
 中島さんは雨戸に近づいて行って、内側の窓を開け始める。
「地図上から判断すれば、さっきの屋敷が正面に」
 そう聞くと、体がビクッと震えた。
「やめとこっか」
「そうですね」
「……」
 中島さんが上を指さす。
「寝床しかないですよ」
 中島さんは口をゆがめた。
「なんかないの?」
「えっと、飲み物とか食べ物とかの話ですか? それとも椅子とか座布団とか?」
「どっちも」
「座布団はないので、俺のジーンズ出しますから敷いて座ってください。冷えた水ならありますよ。けど、食うもんはないです…… いや、あった。キャベツがあります。千切りにしましょうか?」
このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ