その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 パシュっ、と音がして、新庄先生が巻き付いていた〈転送者〉が消えていく。新庄先生の体が巻き付き、コアがつぶされたのだ。
 〈転送者〉の姿が歪んだ。
 新庄先生が巻き付いたわけでも、私が蹴り込んだわけでもない。
 自分の体もゆらりと動いた。
「白井さん?」
 新庄先生が〈転送者〉の短い脚を払って倒す。
 その〈転送者〉の体が、私の鼻先をかすめていく。
「何やってるの?」
 飛び上がり、目の前に倒れている〈転送者〉へ急降下した。
 〈転送者〉が立ち上がるよりも早く、私の足先がコアを破壊していた。
「はぁ…… はぁ…… もう…… だめ……」
「まだくる、後、二体…… いえ…… さらにもう二体……」
 もうろうとする意識の中で、かすかにその存在が視野の隅に入ってきた。
 ドンドン数が増えていく……
 拳と足先を使って、コアを貫いていく。
 新庄先生も、ペースを上げる。
『鬼塚刑事……』
 私と新庄先生は何度もそう話しかけた。
 鬼塚刑事からの返事はなかった。
 先生も私も二けたの〈転送者〉を破壊したころ、このたくさんの〈転送者〉が現れる理由を見つけた。
「誰がこんなこと……」
 〈転送者〉を倒していった先に、空き地が広がっていた。
 その空き地には、この前と同じように足場と、ビニールシートで〈扉〉状のものが作られていた。
 今まさに空き地の端にあった一つから、〈転送者〉が生まれようとしていた。
 私は怒りに任せてその〈転送者〉を蹴った。
 抵抗する間もなく、コアが破壊され、シュウと空気が抜けるような音がした。
 私は建てられた足場から、ビニールシートを引っ張って外した。
 新庄先生も走って、扉の代わりをなすビニールシートを外し始める。
 外しかけたシートから〈転送者〉が姿をあらわすと、駆け寄って拳でコアをえぐり出す。
 両手でコアをアスファルトに叩き付けると、〈転送者〉は動きを止め、蒸気のように消えていく。
「多すぎる……」
 こっちがビニールシートを外すより早く〈転送者〉が現れてしまう。
 幸いなことに、転送されるとビニールシートに引っかかってしまい、次の〈転送者〉は生み出されない。
 転送者に焦点が合わない。頭がぼーっとする。
 一体の〈転送者〉がブレて二体いるように見える。
「だめ……」
「危ない!」
 新庄先生が〈転送者〉の足に絡みつき、倒した。
 寸前で叩き潰されるところだった。
「しっかりして」
 新庄先生が背中を合わせてきた。
「眼の前の敵を倒さないと、お互いヤバイわよ」
 覚悟を決めるしかなかった。
 
 
 
 鬼塚刑事が来て、現場を調べ始めた。
「なんだこの数は……」
「ほぼすべて白井さんが倒したわ」
「……」
 二人の視線に気付く。
「お前、大丈夫か? 怪我はないのか?」
「大丈夫です」
「しかし制服がボロボロじゃないか」
「ああ…… そうですね」
 端がボロボロだし、泥や油のようなものが付いていてシミのようになっている。
「鬼塚、あれで学校まで送っていって」
 新庄先生は親指で鬼塚の車の方を示した。
 鬼塚刑事は回りの警察官に声を掛けてから、戻ってくる。
「さあ、学校まで送ろう」
 車が滑らかに走り出すと、学校と寮を結ぶ道路を勢い良く走った。
 〈鳥の巣〉のすぐ脇の道だ。他に走る車などない。
 しばらく走ると、学校についた。
 私と新庄先生は車を降り、鬼塚に礼を言った。
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「さっき『ヘッドホンかわいいですね』って言われた後、どこからか探査されたような気がするんです。ものすごいトゲトゲの針が頭を刺してきたような……」
 手の平を叩いて、清川が気付いたように言う。
「あれだ、辺りを見回してた時のことだ」
 亜夢はうなずく。
「何か、引っ掻いてきたような感覚があったんです。私を探している、というか」
「早速調べようよ」
 亜夢は首を振る。
「三崎という人なのか、三崎という人じゃないどこからか…… そこが確信持てないんです」 
「だから見回した」
「そうです」
 亜夢と清川が同時に肩を叩かれる。
「おい」
「!」
 パッと亜夢は干渉波キャンセラーを耳から外す。
「……なんだ、加山さん」
「どこほっつき歩いてるんだ」
「亜夢ちゃんが超能力で反応するフロアを調べたんですよ」
「いいか、一人で行くな、と言ったが、だからと言って、無断で行っていいは言っていない。今後は一言こちらに言ってからいくんだな」
「……」
 亜夢は加山をにらんだ。
「それじゃ、言ったら二人で調査させてくれましたか?」
「……」
「清川さんと先にパトカーに戻ってます。いいですか?」
「……ああ」
 亜夢は清川の手を引き、一階のホールをスタスタと去っていった。
 遅れてきた中谷がたずねる。
「加山さん、どうしました?」
「……」
 加山は亜夢たちを追うようにフロアを歩き始めた。
「えっ、どこに行くんですか、加山さん!」
 中谷は追いかけた。
 
 
 
 ぐいぐいと手を引かれて、清川は何度か転びそうになった。
「亜夢ちゃん、いったいどうしたの?」
「……」
「加山さん、なんか変だった?」
「変ですよ。私が呼ばれて警察署に入った時から」
「なんのこと?」
 清川は立ち止まった亜夢の正面に回り込んだ。
「捜査させたくないみたいなんですよ」
「そんなことないでしょ?」
「何かかくしている感じなんです。情報を隠して、わざと捜査を遠回りさせているような」
 亜夢は清川のパトレコを指さし、「この中の情報、加山さんに渡す前にコピーとっておけませんか?」
 清川はスマフォを取り出し、パトレコを接続した。
 スマフォに桜の大門が表示され、パトレコの内容を保存する操作をしてくれた。
「はい。これでとりあえずコピーは取ったわよ。これは個人のパスワードがないと消せないから」
「ありがとうございます」
 カツカツ、と足音が聞こえた。
 亜夢は小さい声で清川に指示した。
「スマフォしまってください!」
「どうした、清川」
 慌ててスマフォをポケットにしまう。
 加山はじっと清川を見る。
「なんか変ですか?」
「……清川、パトレコはどうした」
「へっ、あ、ポケットにいれてました」
 慌てて胸に付けなおそうとすると、加山がそれをつまみあげる。
「さっきどんな捜査をしたか、見せてくれ」
「あっ、ちょっとそれは」

「じゃあ、なんて言ったんですか」
「別に? 手伝いをさせるから一便バスを増やすのと、授業に遅れる、と話して了承してもらっただけ」
 頭がくらっとした。
「さあ、食洗機が止まったら棚にしまうわよ」
「……」
 すべての作業が終わって、私はエプロンを外し寮の外へ出た。
 日差しがあるのにも関わらず、少し寒気がした。
 バスがゆっくりと入ってきて、ロータリーを回り込んで止まった。
 新庄先生が寮の扉を閉めて、私の背中を軽く叩いた。
「さあ、行きましょう」
 ガラガラのバスの中で、先頭の座席に二人で座った。
 壊れそうなエンジン音の中で揺られていると、私は気持ち悪くなって嘔吐した。
 幸い、新庄先生が足元のバケツを取ってくれたおかげ、でバスの床にぶちまけることはなかった。
「大丈夫?」
 私のおでこに手をあてる。
「えっ、かなり熱があるけど……」
 ガツンっと大きな音がして、バスが止まる。
「〈転送者〉が出た!」
 運転手の成田さんはそう言って、素早くシフトレバーを操作する。
「全速力で突破する」
「待って! 私達が引き付けます」
「この前もそんなことを……」
「それ以上聞かないでください」
 新庄先生がそう言うと、成田さんは口を閉じ、じっとこちらを見つめた。
 シューっと大きな音がして、ドアが開いた。
 新庄先生が出ていき、私も手すりにつかまりながら降りた。
 ドアが閉まらないので、振り返ると、運転手の成田さんが言った。
「死ぬなよ」
 ドアが閉まる。
「熱があるようだけど、あなたにやってもらわないと学校が危ない」
 私はうなずく。
「分かっています…… けど、これで〈転送者〉の出現はマミを狙ったものじゃない、って分かったわけですね」
 〈転送者〉は私と新庄先生を見つけ、近づいてくる。
 ガツン、と大きな音がしたかと思うと、大きなエンジン音がしてバスが〈転送者〉の横を通りすぎる。
「あなたを狙っている…… ということは、我々はあなたを他の学生から離さなければならない、ということよ」
「……」
 マミと別れなければならないっていうこと? そんな、まさか……
「危ない!」
 そう言われて顔を上げると、〈転送者〉の太い腕が振り下ろされるところだった。
 前を蹴るようにして後ろへ飛ぶと、ギリギリでその腕をかわした。
「そこをどけぇぇぇ!」
 私はそう言って翼を広げ、〈転送者〉に爪を突き出した。
 〈転送者〉の腹をえぐり、コアを直撃した。
 パシュゥ、と空気が抜けるような、間抜けな音がすると、〈転送者〉の体はチリジリに消えていく。
「新庄先生、私一人はイヤです」
「けれど、他の生徒を巻き込んで」
 私はフラフラと新庄先生に近づくと、意識が遠くなっていくのが分かる。
 熱に浮かされているのだろう。
「!」
 新庄先生の様子に、私は後ろを振り返った。
 〈転送者〉が四体……
「ぶ、分裂した?」
「違うわ。さっきのは完全にコアまで消失した」
「でも、この数……」
 まだ息が整わない。
 体を動かしたからではなく、別の理由で呼吸が乱れているのだ。
「とにかくやるしかない!」
 新庄先生は、下半身を蛇に変え、一体の〈転送者〉に巻き付けた。
 力を入れたように顔をしかめると、ギリッと音がして、〈転送者〉の体も歪む。
 それを邪魔しようとする〈転送者〉に、私が蹴りを入れる。
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