その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

 |あの場所の周辺があやしい(・・・・・・・・・・・・)、というだけだった。
 捜査の進展とはいえないレベルなのだ。
「うんと…… 具体的にはちょっと、わからないですが」
「なるほど。何か、直感的なものがあるのかな」
 亜夢はゆっくりとうなずいた。
「明日、署ですこし話を聞かせてくれ」
 警察署の近くの駅で降り、加山はホテルのロビーまで亜夢を送った。
「それじゃあ、明日、また中谷が迎えに来るから」
「はい」
「おつかれさま」
 会釈をして、加山が見えなくなると亜夢はロビーの時計を見た。
 まだ夕食にはかなり時間がある。一気に暇になってしまったのだ。
「あっ、そうだ!」
 亜夢は何か思い出したようにスマフォを取り出した。
 スマフォを見つめながらニヤニヤ笑いはじめる。
 メッセージアプリで盛んに指を動かしていると、亜夢のスマフォに通話が入った。
「|美優(みゆ)! そう、いきなり暇になっちゃったの」
『亜夢んとこに行くよ。私まだ用事あるけど、付き合ってよ』
 亜夢が「付き合うよ」と言うと、通話が切れた。
 しばらくすると、美優がホテルのロビーにやってきた。
「亜夢!」
 突き出した両手をくるくると振りながら、美優は走り寄ってくる。
「美優、良かったよ、早く会えるなんて思ってなかったから」
「ちょっと習い事があるから、それが終わるまで待ってて」
「うん」
「向こうの通りの先にあるから、一緒に行こう」
「習い事って、私そこ入ってもいいの?」
「見学ですって言えばいいよ。見学の子、割といるもん」
「へぇ」
「ほら、早く!」
 ニコニコしながら亜夢の手を引っ張る美優。
 亜夢も顔がほころんでいる。
 大きな通りを超えて、小さなブティックやら、大型のスポーツ用品店を過ぎると、角のビルを美優が指さした。
「あそこだよ」
 一階を見ると明るい色の派手な服が見えた。
 美優についてビルに入っていくと、外から見えたのは、水着やらレオタード、バレエのチュチュだった。
「かわいい」
「どれどれ? あ~ ちっちゃい子の服ってサイズだけかわいいよね。亜夢が着るとしたらどれがいいの?」
「えっ、こんな体の線がでるやつ、私の体じゃ、着れないよ……」
 美優は頭に手を当てて、亜夢との背を比べた。
 そのつぎに、腰のあたりをぎゅっと触ってきた。
「なっ……」
 ためらいもなく胸を触ってくる。
「えっ、なに? なに? 美優!?」
 美優は自分自身の胸を触っている。
「う~ん。私と大して変わらないじゃん。あ、そうだ! いいこと考えた。どうせ見学するなら、さ」
 美優が亜夢に何か話かけている。
 亜夢は困ったような顔をしたが、うなずいた。
 二人はそのビルの上の方のフロアに上がる。
 亜夢が下の通りを歩いている人が小さく見えた。
「本当に私もやるの?」
「張り切って着替えておいて、今更何言ってるのよ。先生にもいっちゃったもん」
「だって、私やったことないもん」
「みんな初めてやるときはやったことないの。私もそうだったから、心配ないよ」
 美優と亜夢が並んで立っていると、他の生徒がじろじろと亜夢に視線を向ける。
「なんでこっち見てくるのかな」
 小さい声で美優にきく。
「そりゃ、知らない人がくれば見るでしょう? 気にしなくていいわ」
 パンパン、と手を叩く音がして、そちらを振り向くと、先生が真ん中に立っていた。
 全員が整列して、頭を下げる。
「じゃあ、今日は二人組になってストレッチ、ストレッチが終わったら柔軟を始めてください」
 美優が亜夢の手をとって、手、足のストレッチを教える。
「痛たたた……」
「大丈夫、ちゃんと伸びてるよ」
 しばらく全員でストレッチをし、柔軟体操をした後、バーレッスンになった。
「乱橋さんでしたかしら」
「はい」
「乱橋さんは、まず皆さんがやるのを見て、出来そうだったらまねてやってみてください」
 生徒の人は皆、バーにつかまり足を跳ね上げる。

「通路の奥は百メートル先までなにも見つかりません」
「縦穴の先はどうなっている」
「本当に私達にまかせて、あなたは早くこの通路を出て」
 この軍の火力で本当にあの〈転送者〉を処理できるのか不安だった。
「あなたがいると、我々の武器が使えない。早くここを出るんだ」
 一番偉そうな人がそういうと、私はうなずいて出口へ駆け出した。
 私も軍がいる前では|超能力(キメラのちから)を使えない。
 急いで地下通路を上がっていく。
 息が切れて、膝に手をついた時、爆音が聞こえた。
「白井、走れ!」
 入り口の方からの鬼塚の声に、限界を超えて体が反応した。
 さっきの爆音が尋常ではないことが分かる。
 地響きのような音が追いかけるように聞こえる。
「避けろ!」
 地上にでると、素早く横へ体を投げ出した。
 見ると、入り口から様々な粉塵が、炎と共に吐き出された。
 しばらくすると、音も、吹き出る粉塵もなくなった。
 鬼塚が走り寄ってくる。
「大丈夫か」
「だぁっ…… ごほっ…… だいじょう…… んっ ぶっ」
 粉塵を吸い込んでしまい、何度もせき込んでしまう。
「さっき入っていった軍の人たちは……」
 鬼塚は問いに答えない。首を振るだけだった。
「そんな……」
 何の爆発だというのだ。
 軍が持っていた兵器には思えなかった。
 かと言って〈転送者〉が今までこんなに強力な爆発力をもっていたことはない。
 だとすると、入っていった兵士がコントロールすることができない何かが爆発したのだ。
 あらかじめ通路にセットされていたか、兵士にセットされていた。
「あっ……」
 あの兵士の背負っていた、ツルンとした台形のもの…… まさかあれが……
「この|瓦礫(がれき)が蓋の代わりになる。〈転送者〉が現れる可能性がある」
 鬼塚が、地下通路の入り口をのぞき込もうとすると、上空からのライトで照らされる。
「ん?」
「軍のヘリのようね」
 激しくライトが点滅する。
「どけってことか。ふん。軍の後始末は軍でするといい」
 鬼塚は私の肩を叩き、車を指さす。
 私はうなずき、車を目指す。
 後部座席にオレーシャ、山咲、そして私が座った。
 助手席に、手足を縛った似せ山咲を座らせる。
 軍のヘリが次々に着陸し、小型のショベルカーが何台か下され、次々に地下通路に入っていく。
「片付けまで先に用意済みだった…… ってこと?」
 鬼塚は私に視線をすこし向けただけで、何も答えなかった。
 おそらくそういうことだ。と私は予想した。
 軍が、先行隊に何か強力な火力を持たせ、リモートから爆破した。
 爆破の後始末の部隊をあらかじめ用意しておき、数分後に到着するようにしていた。
「酷い」
「……」
 鬼塚は無言で車を出発させた。
 
 
 
 高速を走らせていると、鬼塚のスマフォがなった。受け取った私が代わりに受け取って鬼塚の耳にあてる。
「鬼塚だ」
『ウエスト・データセンターで白井健はみつかりませんでした』
「なんだって?」
『〈鳥の巣〉のゲートも出ていません。研究施設にも戻られていません』
「報告が遅れたが、こっちは百葉高校の通学路に〈転送者〉用の扉を作った容疑者を捕まえた」
『では、〈鳥の巣〉の分署で引き受けます』
「わかった。これから分署に向かう」
 私は代わりにスマフォを切ると、鬼塚に返した。
「父は……」

 唾液をたたえた口が開いて、坂を滑り降りてくる。
 上下の空間が狭まっていて、この通路は翼を使う私には不利だった。
 右、左とフェイントをかけて、右前に飛びこむ。小さい目が私を捉えて動くのが分かる。
 口を交わすと、頭はUターンしようとするが、通路が狭くてできない。
 横目で見ている〈転送者〉は、今度は通路の壁と自分の体で私を押しつぶそうと動き始めた。
 丸い体と、通路の四角い角がつくる隙間をつかって、そこに身を沈めたり、前後に動いたりして〈転送者〉が通りすぎるまで耐える。
 おそらく、下の通路自体と、上下をつなぐ縦穴二つを使って尻尾と頭を出してたのだろう。
 そのうち通りすぎて、尻尾がやってくるはず。
 私は流れるように動く蛇のような〈転送者〉に足突き立てた。
 刺さった足が抜けず、体ごと流れに持っていかれそうになる。
 残りの手足を使って通路にとどまると、〈転送者〉の動きが止まった。
 このままの状態で前進すれば、体が裂けてしまう。
 こっちも必死に突き立てた足が抜けないよう、かつ、体が動かないように四肢に力を入れて踏ん張る。
「バックできないなら、このまま体を裂いてやる!」
 刺さった〈転送者〉の体の中で、爪を開いたり、閉じたりする。
 〈転送者〉の体が痙攣したように動く。
 と、突然、通路の穴に向かって前進を始めた。
 私は体を突っぱね、足を抜かない。
 前に進む分、〈転送者〉の体が切れていく。
「まさか……」
 徐々に〈転送者〉はスピードを上げていく。
 何度も何度もうろこが私の膝や股にあたり、足の刺さり具合は浅くなっていく。
 ということは……
 私は残る尻尾がある方向へ進む。こっちにある縦穴から頭を出してくるに違いない。
「目を狙う」
 体を低くして、〈転送者〉が顎をいっぱいに広げてきた状況を想像する。そして、かみつこうという攻撃を回避し、通路の壁を利用して三角飛びして、目を狙う。尻尾が消え去ったが、頭は出てこない。
「!」
 違う、おなじループを通るのではなく、したの螺旋通路を普通に上がってくるつもりだ。
 通路をまともに来られたら、ここで待つのは奇襲にならない。
 地響きのような音が後ろから聞こえてくる。
「ヤバい」
 私はその縦穴を飛び越え、足を人間のものにもどして通路を駆け上る。
「地上に出して、軍に処理してもらうしか……」
 うしろを振り向く。
 らせんのの外側へ立って、なるべく奥までのぞき込む。
 蛇のような〈転送者〉はやって来ない。
「……」
 あの縦穴を利用してもう一度転回するつもりだろうか。
 もう一度通路を降りていき、縦穴が見えるところまで戻った。
「あの地響きのような音はなんだったの?」
 殺気を感じて振り返る。
 軍だ、新たな軍の部隊が到着したのだ。
「大丈夫ですか?」
 私はうなずく。
『軍に任せて、お前は上がってこい』
 鬼塚のテレパシーが聞こえる。
「ここにいた〈転送者〉は蛇のような形態で、この縦穴を利用します。突然出てきてかみつかれるかも。あるいはこの奥から直接上ってくるかも」
「了解した。後は軍に任せてください」
 銃を構えた兵士が慎重に進んで来る。
 その兵士は銃以外に、兵士は何かを背負っているのだが、バッグではなく、金塊のようにツルンとした形状のものだった。
 いままで見た兵士が背負っているものと何か違うものを感じた。
「ドローンを飛ばせ」
 後ろの兵士が、手のひら大のクワッドコプターを数機飛ばした。
 腰から伸びているケーブルの先に、手に持っているスティックのついたものと、ゴーグルを使って操作しているようだ。
「縦穴の先は……」

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