三話になります。

登場人物

新野真琴 : ショートヘアの女生徒で東堂本高校の二年生。頭痛持ち。頭痛の時に見る夢の中のヒカリと協力して精神侵略から守ることになった。

北御堂薫 : 真琴の親友で同級生、真琴のことが好き。冷静で優秀な女の子。

メラニー・フェアファクス : 北御堂の養育係、黒髪、褐色の肌のもつイギリス人

京町乙葉 : 生徒会長

佐藤充    : 副生徒会長

佐々木ミキ : 書記(1) 双子の姉

佐々木サキ : 書記(2) 双子の妹
 




 午後の授業も全て終わり、帰り支度をしたり、部活の用意をしたりしている頃、薫は真琴のところに来て言った。
「今日から護身術を学びましょう」
「え、今日なんかやるよ、って言ってたのって護身術のこと?」
「そう。武術の方が良いかとも思ったけど。それで公民館を借りれたの。学校の近くよ」
「場所まで用意して…… 結構本格的にやるんだね」
「真琴の為ですよ。真琴がやるんですからね」
 他人事のように話すので、薫は少し怒ったような顔になった。
「ということなんで、逆側から帰ります」
「うん」
 真琴は薫の後をついて歩き出した。
 実は真琴はこの事態の進行の速さについていけていなかった。何も準備が出来ない間に立て続けに戦わねばならず、ヒカリからも戦い方についてはイメージしろと言われるだけ。そもそも頭痛だけでも生きていくのに十分な障害だったのに、積極的に頭痛を選ばなければらなくなったのだ。
 以前から、ヒカリは異世界の精神であるということを教えてもらっていて、なおかつ自分を乗っ取るつもりはないことを聞いていた。だが、ヒカリが入って何かしようとすると、頭痛が起こることを知って、ヒカリはいつもすまなそうだった。
 この一連の事件ーー品川と上野の件ーーから考えると、ヒカリは結局向こう側の精神の警察のようなものなのかという感じだ。ヒカリは始めからこうなることが判っていて、もう何年も前から定期的に覗きに来ていたのだ。だが裏付けはなかった。
 何故ヒカリは真琴を侵略せず、ヒカリは同類と思われる【鍵穴】に入り込む精神体を倒そうと作用するのか。はっきり言ってもらった方がすっきりする。だが、もうしばらくは、真琴がそれを切り出すことも、ヒカリが説明してくれることもなさそうだった。
「ボク運動は全滅に近いからな……」
「でも覚えないと、この前みたいに」
 校門を出ると、大きい通り沿いを南に向かって歩いた。
「薫、山本昭二は何か判った?」
「ああ、どうして真琴のお祖父さんの名前がバレたか、ということ? まだ判ってないわ」
「実はボク母に聞いたんだ。どういう人だったのか、って」
「どういう人だった?」
「何かね、研究者だったらしいよ。死ぬ間際まで何かの実験をしてたんだって」
 薫はスマフォを確認して、角を曲がった。
「ここを入るみたいね」
「それでね。その研究の関係らしいんだ。ボクのお父さんが行方不明の理由」
「え!?」
 薫は立ち止まった。
「そうなんだ。お父さんの話につながってボクもびっくりしてる」
 真琴は薫を追い抜いて公民館の方へある来ながら、そう言った。薫も合わせて歩き出して言った。
「行方不明者が出る研究って…… いったいどんな内容なの」
「お母さんも良く判ってないみたい。判っていたのはお父さんだけ。お祖父さんのサーバーってやつはまだうちで動かしてるんだけどね」
「サーバー? それ触れるの?」
「うちにあるからね。触れるけど、どうして良いか分からないんだ。電源の入り切りの方法とかはメモが書いてあるけど」
「見させてもらえない?」
「良いよ。けどサーバーの触り方判らないから、お母さんがいる時が良いな。確実なのは火曜日かな」
 火曜日は母の務めている美容室の定休日だった。実際は週にもう一日、休みをもらっているのだが、シフト制で変るらしく真琴も休みを把握していなかった。
「じゃあ、明日の火曜日に」
「明日? うん…… いいけど」
 二人は公民館の前についた。
 鍵は開いていて、中には誰も居なかった。部屋の中に進んでいくと、しばらくして車の音が聞こえた。
 車から降りてくる人物を見て、真琴は言った。
「メラニー!」
「今日の講師よ」
 二人が部屋の中で待っていると、メラニーは運動着に着替えて入ってきた。その褐色肌の娘は、二人を前にニヤリ、と笑った後、
「かなり自己流ですが、私なりに役に立つ護身術をお教えします」
 と言った。
 真琴は、ちょっとビビっていた。