「これ昨日出来た痣(あざ)かな」
 隣で体育座りをしていた薫は、
「ああ、なんかそこ打ってたよね。相手が短刀を持っている時、その1だか2だかの時」
 と言った。
「あ、そうか、そうかも」
 真琴は膝の痣(あざ)をさすりながら、昨日のことを思いだしていた。
 教師がやって来ると、日直の生徒が言った。
「起立。気おつけ。礼」
「そのまま聞いてくれ」
 と教師は言った。
「これから今年の水泳の授業を始めるが、まず、自己申告で3つに分かれてくれ。全く泳げない、がここ、蹴のびが出来て25mは泳げない、がここ。25m以上泳げる、がことだ。さあ、分かれて」
 薫は教師の方へより、小声で言った。
「あの、先生。今年もプールの補習あるんでしょうか……」
「プールの補習か? 今年の人数と参加可能な人数によるな」
 薫は、大声で答えないでくれ馬鹿体育教師、と思った。
「ありがとうございます」
 とにかく25mまで泳げれば補習はなしだ、薫は拳に力を込めた。
 せめて真琴と一緒ならプールも楽しいのだが…… 実は真琴は運動全般ダメなのに、泳ぎだけ出来るのだった。どうやら子供の頃にスイミングスクールに通ったかららしい。逆に泳ぎ以外のスポーツ全般がダメな方が不思議なのかもしれない。
 全くつまらないプールの時間が始まった。とにかくこの長い髪が広がったりからまったりしないように気をつかう。水の中で恐怖に耐えながら目を開けなければならない。
 真琴の姿はどこにいるのかも判らない。
 だいたいスクール水着なんかを見て喜ぶのはおっさんだけだ。どうせ真琴の水着を見るのならビキニとか同じワンピース白くて透けそうなのとか、もっと食い込みがあるのとか……
 薫はどうしても浮かない体を恨みながら、苦痛でしかないプールの時間を過ごしていた。
 真琴は泳ぎが早い訳ではなかった。ゆっくりだが沈まずにずっと泳ぎ続けられる。その程度だった。
 薫は泳げない班で、バタバタやっているのをなんとなく羨ましく思っていた。体育のプールは自分のペースで泳いでいると、急げとかこうしろああしろで全く楽しくないのだ。好きなだけ水につかったり、足をバタバタさせている薫たちの方が気持ちよさそうに見える。
 それにしても、自分も胸がもう少しほしいところだ、と真琴は思った。薫はクラスでも大きい方なのに、自分は小さい方から数えた方が早い。
 大きければデブに見えてしまう子もいるが、薫はそんなこともない。着こなしが良いのかもしれないが、こうして水着を着てみると薫がどれだけくびれているのかが判る。
 はっきりしたプロポーションの差を感じて少し嫉妬を感じてしまう。まぁ、比較をするからちょっとさみしいだけで、真琴は自分の体のラインが嫌いではなかった。
 胸だってそんなに小さすぎる訳でもないし、おしりも大きすぎない程度だ。とにかく体型的にショートヘアが似合う、と思っている。自分のポイントはそこだ、と思っていた。
「新野、順番だぞ」
 ぼけっとしていた真琴に声を掛けたのは、隣のクラスの大塚美沙だった。
「あ、ごめん」
 男女別で体育の授業をする為、隣のクラスと合同なのだった。プールの時は、女子校のような雰囲気になる。
 大塚と真琴は隣のコースで、負けた方が腹筋5回をすることになっていた。
 全く問題にならない差がついて、真琴は負けた。プール端についた時には、大塚は既に上がっていて、上がろうとする真琴に手を貸してくれた。
「ありがとう? 大塚さん」
「……ああ、別に」
 真琴は今まで話したこともない大塚に手を貸してもらったことがとても気になった。
 真琴が腹筋をしている間に、大塚はクラスの友達らしき娘と話しをしながら行ってしまった。
 結局、大塚との接触はそれきりだった。
 最後の10分ぐらいは女子全員を2チームに分け、プールでバレーボールをして授業は終わった。