中居寺の駅を降りると、真琴はいつものように駅の階段を下りた。
 ただ今日は薫が家に来るので、気になっていたスイーツを途中で買って行きたいということだった。
 薫のことだから、この前雑誌に載っていた、なんとか、とか、テレビで評判のなんとか、という話しかと思っていた。
 一応、この中居寺周辺はそれなりにそういう話題がある街で、チェックしている人にとってはそれなりに楽しめるらしい。
 しかし今回は、歩いて行く方向が怪しい。
「薫、なんかこっちって、爺さんのところじゃない?」
「あ、分かった??」
「マジ? あの爺さんの店?」
 真琴の母も連れて行ったことがある喫茶店だが、とにかく毎回客がいない。どうして潰れないのかが不思議な喫茶店だった。
「あそこスイーツなんかあったっけ?」
「私の方が実は何度も行っているんだから、間違いないよ。真琴は楽しみにしてて」
 と薫は言った。
「なんかフツーの出来合いのものだったりしない?」
「可能はあるけど。それでも面白いでしょ?」
「え、まさか薫も知らないんじゃないの?」
「知ってるわよ。そこまで細かいところまでは知らないだけ。とにかく、今日はここで買うから」
 母も知っていて、話題が共有出来るのがあの店しかない、ということなのだろう。確かに一発ネタとしてはインパクトはあるかもしれないが……
 店の前につくと、薫は
「じゃここで待ってて」
 と言って中に入って行った。ちらっとあのマスターの顔が見えた。
「……」
 不安になるような、変に想像を掻き立てられる時間が始まった。
 何度思い出してみても、この店に『スイーツ』のショーケースなどというものは無かった。そう。そんなものは無かったはずなのだ。
 その悶々とした時は、薫が出てきたことで打ち切られた。
「お待たせ〜」
 薫は何か満足気だった。
 今日は真琴の家には母がいるので、バス停についた時に電話した。
「出れる? そろそろバス乗るよ」
「OK、バス停にいく」
 どうやら何か買い物を済ませておきたかったらしく、バスに乗る前ぐらいに連絡をくれとのことだった。
 バスに乗ると、7〜8分ほどで目的の停留所についた。真琴の母は買い物を済ませたらしくエコバックからネギやらが入っているのがみえた。
 マンションの共有口に入ると、真琴がテンキー式のロックを解除すると自動ドアが開き、エレベータで3Fまで移動した。
 母が入ると、真琴が扉を持って、
「どうぞ」
 と促した。
「おじゃまします」
 と薫は言って、靴を脱いで整えると、奥へと入った。
「お茶にしましょうか」
 と母が言い、薫が例の『爺さんの喫茶店』のスイーツを出してて盛り上がった。
 形は店の印象のようにどこか古い感じがするのだが、味は確かだった。チョコレートケーキは小ぶりだがかなりこってりとした甘みで、十分満足のいくものだった。フルーツを添えたプリンも上品な感じで美味しい。3人で一口ずつ分け合ったりしたのだが、どれも美味しかった。薫はケーキの呼び名が『ガトーショコラ』とか『プディング』などとは書かれていなかったところが、あの店っぽいっと言って笑った。