学校の近況やらを一通り話し、おしゃべりを楽しんだ後、薫は切り出した。
「それで、今日来たのは真琴のお祖父さんの件なんですが」
「うん。入ってきた入り口の方にあった部屋なんだけどね。とにかくうるさいのよ。びっくりしないでね」
 何がうるさいのかは判らなかったが、薫は頷いた。
 真琴の母は椅子を離れて玄関の方へ歩いていった。トイレやお風呂がある側の反対のドアを開けると、ファンの風切り音が聞こえてきた。
「確かに凄い音ですね」
「冬は良いんだけど、それ以外はずっとエアコン入れっぱなしなんだよね」
 真琴もそう言いながら中に入った。
 パソコンレベルのサーバーでは無かった。ラックが2つ立っていた。そして一方にはサーバーやストレージが並んでおり、もう一方にはむき出しの基板に回路が見えた、その中にはグリーンの液体に漬けられているものもあった。
「……」
「見たいって人、あんまりいないから良く分からないんだけど? 想像していたものだった?」
「……一部はそうですね」
「やっぱ、薫はすごいね」
 薫は首を振った。
「触っても良いものってありますか?」
「……確か、引っ越しする時にここを触れっていうマニュアルみたいのはあるのよ。触っていいものかは判らないけど、それの通りにはやったことがあるのよ」
「それって、ボクがまだ小さかった頃だよね?」
「そうね」
「どんなものか、見せて頂いてもよいでしょうか」
 ラックを開けて、クリアファイルを取り出した。何か印刷した紙が何枚かまとまっていた。
「これのはずよ」
「すみません」
 手渡された紙に描かれている画面コピーを見る限り、一般的なパソコンで使用するOSのようだった。これならある程度触っても問題になったりしないだろう、と薫は思った。
 ページをめくると、何かアプリが実行されているような画面になっていた。そのアプリについては一切触れないように、とある。お祖父さんはそのアプリが重要であることが言いたいらしい。
 薫は軽く流れを追った後、
「画面を見てもいいですか?」
「良いわよ。で、これ、何をやっているのか、判る?」
「いえ、そこまでは……」
 画面を開くと見慣れたOSの画面上に、先ほどの停止・開始のマニュアルに載っていたアプリが動作していた。
「え!?」
「どうしたの薫?」
「『リンク』の画面みたいなところがあるわね」
「それだけじゃないんです…… 私の『リンク』に送られたメッセージが……」
「じゃあ、これが山本昭二の正体?」
「あなた達、何言ってるの?」
 おそるおそる、薫はスマフォを取り出し、『リンク』の画面を出した。
「どういうことか、ちょっと確かめます」
「こっちで書いたのが、ここに表示されればそういうことだよね?」
「うん」
 このサーバー上の『リンク』画面が薫の『リンク』を同じものなのかを確認する為にメッセージを書いた。
『あなたは、新野真琴の家のサーバーで動いているアプリですか?』
「薫、なんでそんな質問形なの? 応答したらこわいじゃん!」
「送信するね」
 送信。
 サーバーの画面に薫が書いたメッセージが表示された。
「へぇ……」
 真琴の母はメッセージがサーバーに表示されたことを見て、そう言った。
 そして……
『私はアプリか、と言われれば、その通りだね』
 アプリはメッセージを解釈して応答してきたのだった。
 真琴は思わず後ずさり、壁に背中をつけて言った。
「え!? どういうこと…… 気持ち悪いよ!」
「多分、ボットの類ね。それにしても『ライン』上で動かすなんて……」
 趣味が悪い、と言いかけてやめた。この場で言うべきことではなかった。実際に、こういうショートメッセージのSNSでボットを動かすことはよくあることだった。ただ、今回のように本当の人間のように振る舞うと気味が悪い。