「山本昭二……か…… 薫ちゃんは知ってたっけ? 私も結婚前は新野じゃなくて『山本』聖子。これは私のお父さんの名前ね」
「つかぬことをおたづねしますが、いつお亡くなりになったんですか?」
「そうね。2年前になるわね」
 薫は、イヤなことに気がついた。
「それ、確かですよね?」
「ええ。確かよ」
 薫は怖くなって真琴にくっついた。そして黙っているのが怖くなって真琴に言った。
「真琴。『リンク』って作られてまだ1年ぐらいなんだよ。つい一月前に1周年記念やってたから覚えてるんだけど」
「やだ! もうやめて!」
「この一年このサーバー誰も触ってないんだよ!」
 薫はその言葉で少し冷静になれた。
 触らなくてもアプリの更新は出来る。リモートアクセスしてくる人物なり、そういう開発者がいるだけのことだ。
 例えば、行方不明の真琴の父親とか。
 薫はやはりそれを口にすることは出来なかった。死者がこれを動かしている訳がないからだ。だから、この事を変に驚く必要はない。
「この動作自体は問題ないよ」
「どういうこと?」
「誰かの遠隔……」
 言い掛けてやめた。遠隔操作って、それも良くないことだ、それも怖い話しだ。誰かが、私達の『リンク』を監視していて、その上このサーバーを乗っ取ってここから発信しているのだ、としたら。
「確か、この線…… うん。抜いてみるよ。これで止まると思う」
 薫は見ていたマニュアルに外部接続の線をつなぐ手順があったことを思いだし、ラックから外部へのネットワークの線を外した。
「これで外部からの操作は出来ないはず」
「でも……」
 真琴が指指したところに、メッセージが表示された。
『回線を切らんでくれ』
 当然、薫の『リンク』には表示されない。
『信じれんだろうが、これは遠隔制御じゃない』
 薫は驚かなかった。この程度なら始めから組まれたAI(人口知能)で可能だ。薫はキーボードからサーバー上の『リンク』に書き込んだ。
『良く出来た AIね』
『 AIではない。左のラックにあるアンテナで人格を受信している。プログラムされたものではない。頭脳と意識そのものだ』
「薫、何をしているの?」
『お祖父さんは亡くなったのよ』
『肉体というアンテナがなくなったが、ここに同じようなアンテナが生成されている。だから私はまだここにいる』
『バージョンを表示しなさい』
『だからソフトではない』
『お祖父さんの名前を騙るのはやめなさい』
『ふざけるな! 真琴、聖子いるか!?』
「なに、どうしたのお祖父ちゃん」
「聞こえないわ。耳がある訳じゃないの」
 薫は真琴にキーボードを示し、場所をかわった。
『ボクだよ』
『真琴か? 薫くんが私を疑っているようだ。とにかく、さっきのケーブルをつけてくれ。私は AIじゃないんだ。本当だ』
『ボクは信じる』
 ケーブルをつけようとした真琴の手を薫が掴んだ。
 真琴は薫の顔を見た。
「やっぱり、ちょっと専門家を呼んでからの方が良いと思う」
「どうして? これ、きっとお祖父ちゃんだよ」
「サーバーが乗っ取られているだけのような気がするんだよ」
「違うよ、ウィルスとかじゃないよ」
「薫ちゃん。申し訳ないけど今回は家のことなので。私が判断します」
 新野聖子は、真琴がもっていたケーブルを外部接続ポートにつなぎ直した。
「はい、今日はおしまい」
 薫は良かれと思ってしたことが、二人を傷つけてしまった、と思った。でも、このままでは良くない、ともまだ思っていた。
「ごめんなさい。勝手な判断で……」
『ありがとう』
 オンラインを確認しかたように、メッセージが表示された。
『薫くん、まだ私を疑っていると思うが、まずは君の父親に電話して尋ねてみるといい。山本昭二とは何者なのか』
 それは、サーバーの画面と薫の『リンク』に同時に表示された。
「パパに聞けってこと? 一体、どういうこと……」
 薫は泣きそうな顔になりながら、サーバー部屋を出た。
「……」
 真琴はどうして良いか判らず、画面の電気を消して部屋を出た。
 すれ違いに薫が鞄を持って玄関に戻るところだった。
「ごめんなさい。今日は帰ります」
「また明日」
「じゃあ」
 薫のしぐさがいつもよりゆっくりとみえるのは、涙がこぼれてしまうからではないか、と思うほどだった。
 フロアを歩いてエレベータに乗ると、薫は涙をこぼした。
 自分のしたことを説明出来なかったことや、相手のことを考えなしに行動してしまったこと、色々な思いがこみ上げてきた。
 とにかく早く家に帰って、メラニーが入れてくれるホットミルクを飲みたかった。そして父親に話を聞きたかった。