それからずっと駅にいた真琴は、電車を何本か見送った。途中で朝ごはん代わりにスナック菓子を食べたり、英単語の暗記をしたり、読みかけの小説を読んだりして薫を待った。
 その間には何人もの知り合いや友人に声を掛けられた。しかし、何しているの、以上に深くは突っ込まれなかった。突っ込まれても、何故こんな早くから待っているのか、答えられなかったが。
 いつもの時間になると、髪をリボンで結んだ薫がやってきた。いつもは歩く時はリボンを解き、電車や授業の時にリボンを結んでいた。
「今日は来る時からリボン結んで来たんだね」
「うん。なんか面倒だったから」
 薫の目は赤かった。余り寝ていないようだった。それは真琴も同じだった。
「昨日のことなんだけど」
 薫は言った。
「父が、何かやっぱりすごい研究の成果だって言ってた」
 薫は心のなかで続きを言わずに飲み込んだ。『ただ、やっぱりまだ他に理解出来る人がいないから、とも父は言っていた』
「だから、あれはきっと真琴のお祖父ちゃんなんだよ。それなのに私、危険だ、とか。酷いこと言って。本当にごめんなさい」
「あやまるのはこっちの方だよ。薫がどういう意味で、どういうことを考えて危険だ、と言っているのか、判ってないのに頭ごなしに否定して。ボクと母と二人から言われて、薫は辛かったよね。本当に薫の気持ちが判ってなかった」
 二人は泣き出した。
 何か、溜まっていたものを吐き出すように抱き合って泣いた。
 駅のホームで泣くのは恥ずかしい気持ちもあったが、時間帯的に東堂本高校の連中が多いのが救いだった。同じ年代なら理解してくれる、二人はそんな気がしていた。
 お互いの肩の上に、涙がこぼれ落ちていた。ハンカチで抑えていたが、抑えるより早く涙は右から左からこぼれていた。
 出し切ったように泣いた後、折り返しの電車が入線してきた。
 いつもより列の後に並んだ二人は、電車に乗るのに苦労した。最後は、戸口から出そうになる薫を、真琴が片手で引っ張り込むような状態で乗り込んだ。
「ありがとう」
 薫は小さい声で真琴に言った。
 薫の顔が真琴の耳元にあったので、いつものおふざけが始まるか、という事が頭をよぎったが、この心境でそんなことをするはずもなかった。
 二人はそうして体を合わせながら電車で揺られていた。
 途中の駅は真琴達の反対側のドアが開き、少し降りて混雑が緩和されたので、真琴は引き寄せていた手の力を抜いた。
 互いの顔が見れるくらいの距離が出来たせいか、薫が話した。
「今日はどうする?」
「ああ、護身術の事?」
「場所は同じところを取ってあるわ」
「やるよ。ボクもそのつもりだったし」
「良かった。けれど、今日は先に行っててもらえる?」
「何かあるの?」
「生徒会から呼ばれているの」
「ああ。あれのこと? スケジュール空けといてって話」
「たぶんそうだと思う」
 薫は少し間をあけてから言った。
「真琴も大丈夫だよね?」
「うん。お母さんにも言っといた」
 そんな調子に、徐々にだったが、二人はいつもの会話に戻っていった。