真琴が学校の近所の公民館についた時には、メラニーが運動着に着替えて待っていた。彼女は薫の住み込みの養育係で、別の家に住んでいる薫の親代わりをしている。真琴が【鍵穴】に入り込んだエントーシアンと戦う際ーー実際の戦いは夢なのだがーー人と戦うことが判った為、薫が護身術を覚えようと言い出したのがきっかけだった。
「まずはこの前の復習からね」
 タブレットを出して、どうすれば危険のないように周り込めるか、どうすれば相手を怯ませることができるか、を見せられた。
「さ、ひとつずつ体を動かして確認するよ」
 と、言って、暴漢役の格好をした。
 褐色のイギリス娘が流暢に日本語を話すと、ちょっと違和感を感じてしまう。
 メラニーはイギリス国籍だしイギリス育ちなので、当然のように英語を話すのだが、薫の父の会社に勤めてから日本語を学び、薫と住むようになってから更に日本語が上手になったのだそうだ。
「えっと……」
 頭に入っていたはずの手順が、全く思い出せない。どう手を動かせば、見ていた図のように相手を押さえ込めるのか判らなかった。
 タブレットを覗き込むが、やっぱり理解できない。図自体は、覚えているのだが。
 どうにも動けない真琴を見かねたメラニーは、
「じゃあ、私がやってみせるから、真琴は暴漢をやって」
 と言った。
 パっと肩の髪を払って、今度はコンパクトに構えを変えた。
 真琴は襲い方も良く判らないので、とにかく手を上げてメラニーに向かって行った。
「え〜 何それ〜」
 と言って、メラニーは笑いながら、一瞬で真琴の目の前から消えた。
 その一瞬の後、真琴は床にうつ伏せに倒されていた。そして体の芯を抑えられたように、何も動くことが出来なかった。
「判らないよ〜〜 早すぎる」
「ゆっくりやったつもりだけどな〜 真琴はトロすぎなんじゃない?」
 メラニーは真琴の上に乗ったままそう言った。
「さあ、立って。何度でもやるわよ」
 メラニーは真琴を引っ張り上げながら、そう言った。
「真琴が見えるまでね。大丈夫。見えないなら、どんどんゆっくりやるようにするから」
 再びメラニーを襲うことになった。
 今度はせめて右から周り込んだか、左から周り込んだかを見分けよう。
 真琴は絵本のお化けのように両手を上に上げてメラニーに襲いかかった。
 すこし右に動く影を捉えられたが、具体的な手足、体の運びは判らなかった。
 再びメラニーにのしかかられた真琴は言った。
「ダメだ…… ボクには無理だよ」
 メラニーは動けなくなった真琴の体を、今気付いたかのようにしげしげと眺め始めた。
 薄っすらと汗ばんだ肌、うなじ、そして息づかいに応じて上下する背なか。肩の曲線から腰へのライン、おしりの盛り上がりから伸びるふともも、そして足首……
 真琴は反応のないメラニーを横目で見ながら言った。
「そろそろ離して〜 動けないよ〜」
 と言って、バタバタしている真琴を見下ろしているメラニーは、心の中で、何かが湧き上がるのを感じた。
「もう一回」
 真琴はむきになって掛かってくるが、メラニーの体捌きにはまったく抵抗できなかった。
 再び自分の制御下に置かれた真琴の体を、メラニーは再びじっくりと眺めていた。
「離して〜〜 動けない〜〜」
「真琴、逃げれるかどうか試してみて」
「え、無理だよ〜」
「いいから」
「うん」
 自分の体の下にある獲物が、あがきはじめると、メラニーの中の何か本能のようなものが現れ始めた。