北御堂薫は生徒会副会長の佐藤充からプリントを渡された。『生徒会合宿の栞』と書かれたそれを見て言った。
「合宿? 泊まりがけ? 部活動じゃないでしょ? 生徒会でしょ?」
「いやいや、生徒会の親睦を深める為に毎年やっているんだよ。別におかしなことじゃないんだ」
 薫がその印刷された紙を読み進めていると、不思議なことが書かれていた。
「テント? もしかしてキャンプ?」
「いやいや、学校に泊まるだけだよ。テントは許可を得た中庭か、雨天の場合は使用許可の降りている教室に設営する」
 薫はそのショボいキャンプ練習会のような内容に萎えた。
「あ…… もしかして私……」
「晴天時は、バーベキューをやります。雨天の時は煙厳禁の条件つきで、家庭科実習室でやります」
 何か言い掛けた薫を無視するように話しを続けた。
 そしてメガネを指先で軽く直すと、
「何かご質問は?」
「翌日の予定は? おたのしみ……から解散まで結構時間があるんですけど」
「書いてある通り『おたのしみ』です」
 ああ、この機械的な応答。おそらくここは京町会長が考えたに違いない。佐藤はただそれに従って説明しているだけだ、と薫は思った。
「テントや、器具類など、必要なものは私の方で揃えて起きますから。北御堂さんと、新野さんは、それぞれ担当になっている食材をお願いしますね」
「わかりました」
「なお、当日は終業式からそのまま学校に泊まりますので、家に持ち帰るものは前日に。終業式には食材等々お忘れなく」
「え、そのままなの? 一旦家に帰らないの?」
「栞に書いてあるスケジュールの通りです。新野さんにも注意してあげてくださいね」
 佐藤は微笑んだ。
「そうですね。終業式の当日戻れないので、考えたんですが、宿題とか、携帯の充電器とか。そういったものが必要かと」
「あ、ありがとうございます」
「ということで。質問がなければ今日は解散です」
「あ、ミキサキはこなかったけど。参加するの?」
「佐々木さん姉妹ももちろん参加しますよ。栞作成で手伝ってもらったので、内容は理解していると思いますので、今日は呼びませんでした」
「京町会長は?」
「お仕事で来られませんでした」
「そこらへんに隠れてないかしら」
「隠れてませんから。今日は確かスイミっ……と」
 薫は副会長が迂闊にも言いかけたところを聴き逃してしまった。確かに教室の真ん中に薫が座っていて、黒板側に佐藤がいるだけで他には全く人の気配がない。会長はそんなに器用じゃないので、入ればオーラが出てしまう、そんな人だ。
「まぁ、いいじゃないですか。ではよろしくお願いしますね」
「それでは失礼します」
 薫は真琴の分もプリントを鞄に入れて席を立った。今日は護身術を習う日で、真琴が先に公民館に行っているのだ。
 教室を離れる時に、なんとなく掃除用具を入れているロッカーを開けてみたが、京町会長はいなかった。
「本当にいないんだ……」
 絶対にこういう説明会をするのが好きなはずの京町会長がどこにもいなかった事が、薫には少し不思議だった。