薫は学校をいつもと反対の門から出て、真琴達が護身術の練習をしている公民館へと向かった。
 道を入ると、車が止まっていて、メラニーが着いていることが分かった。
 公民館へ入ると、薫は運動するために体操着へと着替えたが、どうも借りている部屋の様子がおかしいと感じた。
 静かすぎるのだ。
 運動をするものだから、ドタバタとした音がしてもよさそうなのだが、今日は全くそういうことがない。
 気にしていなかったせいで、たまたま静かになったところなのか、と考えて、音に注意して待っていたがやはり音がしない。
 着替えも半ばにして部屋に入ると、やはり全く動いている者の様子が感じられない。
 すると、うつ伏せになっている真琴と、その上に沿うように体を合わせているメラニーが見えた。
 メラニーは自分の匂いをこすりつけるかのように押し付けるように動いていた。
 そしてあたかも吸血鬼のように、真琴の首筋に口を寄せていった。
「メラニー!」
 声でようやく薫の存在に気付いたメラニーは、とっさに体を回転させて真琴から降りた。
「メラニー! どういうことなの?」
「れ、練習よ、ちょっと…… そう。抑え込みの練習」
「真琴? 真琴?」
 薫が揺すったが、真琴の反応は薄かった。
「練習中に寝てしまったのよ」
「嘘をつかないでよ! 大体、今何をしようとしていたのよ!」
「別になにもしてない。薫は私が何すると思ったの? 言ってみてよ」
「何って」
 真琴がゴロンと仰向けになって、上半身を起こした。
「ああ……よく寝た」
 薫はメラニーを責めるのを後回しにした。
「真琴大丈夫? 怪我はない?」
「うん、怪我はないけど。ちょっと今は首が痛いかな……」
「練習中に寝ちゃうから」
「なんか、ずっと抑え込まれてたから眠気が襲ってきて」
「(本当?)」
 と薫はメラニーに小声でたずねた。
「(そうです)」
「そう。良く寝れた? このエアコンの中なのに、寒くなかった?」
 実際、薫も昨日は眠れていなかった。父に電話し、山本昭二の話を聞いていた。そして真琴と真琴のお母さんに酷いことを言ってしまった、という自責の念で深く眠れず、何度も起きては思い返す、という状態だった。
 おそらく真琴もそうだったに違いない。
「うん。そういやぜんぜん寒くなかったよ。背中にメラニーが乗ってたせいかな?」
 二人はメラニーの方を向いた。薫は真琴から見られないように少し顔を逸らしてメラニーを向き、睨んでいた。
「そうかもね。ごめんね真琴。ずっと乗っかってて。ちょっとボーっとしちゃって」
「そうだよ、酷いよメラニー。ボーっとしすぎだよ。何度もどいて、って言ったのに」
 真琴は笑った。
 薫とメラニーは、寝ていた間のことが真琴にバレていないと思って少し安心した。
「メラニーはこの頃、ボーっとすることが多いよ。気をつけて」
「はい」
「それよりメラニー、なんとなく判ってきたから、今度は交代してよ、私が倒す方をやるよ」
「ええ、やりましょう。その間、薫にはタブレットで復習をしていてもらいましょう」
 真琴はメラニーがやっていたように小さく構えて、メラニーが暴漢役をやった。
 避けて、敵の後ろをとって、倒す。
 すこしテンポが悪かったが、最初の頃に比べると良くなった感じだ。大体、つい最近まで真琴は、この程度の動きが見えない、と言っていたのだ。
「さっきとは随分ちがって良くなったわ」
「ありがとう、なんか褒められるとやる気がわくよ」
 メラニーの様子が気になっていたので、薫は二人の様子をしばらく見ていた。が、真面目にやっているようだ、と判断すると、タブレットで前回のおさらいを始めた。