意外というか当然というか、テントは二つで、大きい方のテントに京町、佐々木ミキ、サキ、北御堂、新野となり、小さなテントに副会長の佐藤、という配置になった。
 薫は京町の性格から、おそらく生徒会長専用テント、をつくるのではないか、と思っていたので、この結果は意外に感じていた。
 食事が終わると、メガネの佐藤副会長が言った。
「17時まで自由時間になります。校外に出なければどこで何していてもよいです。では一旦解散」
 予め言われていて、予想もしていたが、実際にその時間がくると何をして良いか、真琴は分からなくなった。
「薫、どうする?」
「やっぱりね」
「どういうこと?」
「考えてないんじゃないかな〜って」
「考えてたんだけど!」
「いいよ、私が考えてきたから」
 薫は後ろに隠していた手を前に出した。
「バトミントン?」
「バ『ド』ミントンね。やらない?」
「いいよ」
 と言って、真琴は薫からラケットを受け取ると、薫と距離をとった。
 軽いラケット捌きで、薫が高くシャトルを打ち上げると、真琴は上を向いてふらふらしている内に、シャトルが落ちてきた。
「よーし、今度はこっちからいくぞ」
 真琴はシャトルを持った手にラケットを合わせ、ラケットを引き、もう一度シャトルと合わせ、と何度か繰り返した。
 いきなりシャトルを放すと慌ててラケットを引いて、再び振るのだが、その頃にはシャトルは地面に落ちている。
 薫は内心、失敗したかも、と考えた。
 バドミントンならなんとかなるか、と思っていたが、薫の想像以上に真琴は運動が出来なかった。
「今度こそいくからな!」
 また同じようにシャトルとラケットの面を合わせたりラケットを引いたりしているが、あからさまにリズムが悪い。そして今度は何を思ったか、シャトルを投げた。
 正確に投げれば大したことはないのだが、普段使わない左手をつかう為か、前に放おってしまい、慌てて追いかけるが、それも打ちそこねてしまう。
 ポトっと落ちたシャトルを取った薫は、少し苦笑いしながら、
「さっき見たいに高く打たないから。いくよ真琴」
「了解! いつでも打っていいよ、薫」
 ゴミ箱に紙ゴミを丸めて放り投げるような、山なりの難しくないような軌道でシャトルを打った。
「あれ?」
 真琴は金魚すくいのように下から上へラケットを動かしたが、シャトルにはかすりもしなかった。
「む〜」
 真琴が少し真剣な目つきになった。
「いくぞ、薫」
 一度くらい当ててやる、という感じで、とにかく、やたらめったら、むやみに、ラケットを振った。
 シャトルは上に放り投げてみたり、高いところから落とすようにしてみたり、色々工夫はしているようだが、いっさいかすりもしない。
 真琴はいつの間にか息が上がって、体を曲げて膝に手をついていた。
「どうする、やめようか」
「はぁはあ、はぁ……」
「真琴、私喉乾いちゃった。真琴も飲んだ方がいいよ」
「もうちょっとやる!」
「え!?」
 薫は自分の水筒から冷えた麦茶を注いで、飲んだ。真琴はブンブンとラケットを振り回していた。
「強く振り回す必要ないんだよ」
「OK〜」
 振り回す度に立っている位置がズレていくので、どんどん遠くになっていった。
「麦茶のもうよ〜」
「もうちょい!」
 薫は諦めて他の皆が何をしているか確かめようと行方を探していると、
『パシッ!』
「やった!」
 どうやら綺麗に真ん中を捉えたらしかった。真琴は走って薫のところにやって来た。
「やったよ!」
 薫は立ち上がって手を広げた。
「やったね!真琴!」
 二人は抱き合って喜んだ。
 体を合わせたところは汗で衣服がくっつく感覚があった。真琴が飛び跳ねるので、薫もいっしょになって飛び跳ねたが、色々こすれて刺激された。
 真琴は体を引き剥がすようにしてから言った。
「ボクもやれば出来るじゃん!」
「偉い! 真琴!」
 と言って、薫は離れた真琴を再び抱き寄せた。薫は真琴の頭を撫でた。
「ごめん苦しいよ! それと麦茶ちょうだい」
「あ、そうだよね」
 薫は麦茶をついで、真琴に渡した。
 渡された麦茶を一気に飲み干し、真琴はテントの方へ歩きながら言った。
「テントの中って今誰かいる?」
「たぶん、誰もいないよ。開けてみて?」
 真琴はテントを開けてみたが、誰もいなかった。そのまま靴を抜いで入ると、横になった。