バーベキューの片付けが終わった後、全員が布製のイスに座っていると、京町会長がひとり言のように怪談を語りはじめた。薫も真琴も何んのことだか分からなかったが、ミキとサキは何か恐怖に怯えたような表情でそれを聞いていた。
「(この話、そんなに怖いですか)」
 真琴は小声でミキに尋ねた。
「(話自体を怖がってるんじゃないの)」
 と返事があった。
 どうやらこの東堂本高校が舞台となっているような、地味な怪談は何か別の意味があるようだった。
 話はクライマックスを迎えたが、淡々と話している為に、真琴にはいまいち怖く聞こえなかった。
 会長の怪談が終わると、佐藤が薄暗いランタンをもって立ち上げると、こう言った。
「という本校の怪談を踏まえまして……」
 佐藤は目一杯タメてから、続けた。
「これから肝試しを始めます」
「ヒーっやっぱり!」
 ミキは言った。
 佐藤は全員に集まるように言い、全員立ち上がって校内の地図を見せて、ルールの説明を始めた。
 怪談話はそれほど怖くなかったのだが、この場所であった話を確認しに行け、という。しかも日中ならまだしも、薄暗くて人気のない時間帯だ。
 そこが会長が狙った演出だった。
 佐藤は会長のプランに適した人物にちがいなかった。
「このランタンをもって校舎西の祠にあるこの札を取ってきてください」
 そして声色をつかって、
「祠は先程の話にあった痕が残っていると思うのでしっかり見ててきてくださいね」
 と言った。
「マジ?!」
 明かに脅しだったが、少しビビってしまった。役者の素質があるよ、副会長… 本当に何かとり憑いてるんじゃないの、と真琴は思った。
「ペアはミキ・サキ、薫さん真琴さん、会長・副会長、でいいですか? 意見がある方は挙手してください」
「え?」
 真琴はこういうのって、このペアリングとかで、ワイワイするところが盛り上がるんじゃないの? と思って反対意見を出そうとしたのだが、他の誰も動かない雰囲気をさっして躊躇した。手を肩ぐらいまで挙げかけ、どうしよう、と思って薫の顔をみると、ゆっくり首を振った。真琴はそのまま手を挙げるのをやめた。
 薫は真琴に確認した。
「(いいよね、真琴?)」
「(ボクはいいけど、みんなはそれでいいのかな?)」
「(いいんじゃない?)」
 薫は小さい声でそう言い、真琴の腕に抱き付き、肩によりかかった。
「それでは順番決めのクジを引いてください。それぞれの代表者はこっちにきて」
 三組しかねーんだから、そんなに仰々しくやらくても、と真琴は思いつつ、クジを引きに前に出た。
「決まりましたか、それでは一斉に引いてくください、せ〜の!」
「1番だ」
「2番だよ、良かった」
「ボク達が最後だって」
 行って帰ってきてから次の組がスタートとなる、と佐藤が続けて説明をした。
「……ということで、さっそく我々二人が行ってまいります」
 佐藤がランタンを持って、京町が先に歩いている。京町の影が前方に広がってしまって、歩きにくそうだが、二人は全く気にする訳でもなくスタスタと校庭側を回って西側へ向かって行った。
 小さくなる二人を見ていると、校舎とその先にある祠に続く林が、いい感じに暗くなっているのが判る。
 それを見つめていた二人の佐々木は、
「サキ、どうしよう」
「こういうの苦手だよね〜ミキは」
「サキは大丈夫なんでしょ? じゃ、ランタン持って先頭歩いてね」
「え、じゃんけんでしょ。じゃんけん」
「怖いん? やっぱりサキも怖いんじゃない?」
「そんなことないけど」
「じゃあランタン持って前歩いて」
「やぁだよ」
 といつまでもどっちが先を歩くか決められなかった。
 そのうち20分ほど経ってしまい、戻ってくる京町と佐藤の姿が見えた。
「あれ? 京町会長、副会長の服引っ張ってる??」
「もう戻ってきたの?お〜(い……なにすんの薫)」
 大きな声で呼びかけようとした真琴の口を、薫は手で抑えた。 
「(ほら、京町会長こっちに気がついてないよ。本当は怖いんだね。副会長の後ろで服をぎゅってもってて……)」
「(ほんとうだ…… いつのまにあんな関係になってたの?)」
「(これだけじゃわからないでしょ? そうですよね? 実際のところ、どうなんですか、ミキ先輩)」
「(見ていて、あやしいな、と思うことはあるけどね)」
「(へーそんな風に思ってなかったからよくわからないよ)」
「(サキさんも鈍いんですね)」
「(真琴に言われたくないよ)」
「何小声で話てるんですか? ほら、札です! 次の番のミキさんサキさん、行ってきてください」
 とランタンを渡した。
「どうでした、怖くなかったですか?」
「自分はこういうの好きじゃないんですけど、会長がいるんで頑張りました」
「会長の為に頑張りました、か……」
 普段同様しない副会長の頬が少し赤くなった気がした。
「聞き間違えないでくださいよ」
「思いは同じじゃないですか」
 薫は言い切った。
 真琴は会長に、
「会長は怖かったですか?」
「……怖くない」
 思ったよりもその声が小さく、ああ、言葉とは裏腹に相当怖かったんだなぁ、と真琴は思った。