薫は塾の授業を受けながら、シャープペンをくるっと回し、ノックボタンの方を使ってノートを叩いていた。大きな音ではなかったが、一度気にして聞いてしまうと、イラっとするものだった。
「それでは時間が過ぎました。今日は、問題8を解いたら持ってきて。正解した者から帰ってよし」
 塾講師はそう言った。
 薫もその最後の問題に取り掛かった。しかし、集中出来ていないのか、問題を何度か読んでも、内容が理解ができなかった。
 薫は自分自身の気持ちが、すごく空回りしているように感じた。
「ふー!」
 薫は大きく息を吐いて、天井を見つめた。再び問題文に向き直って、頭から読み進めると、今日ならったことと、一年生の時に習った基本を絡めた問題であることが理解できた。
 薫はするすると解答を書き進めた。解答が書き上がった時は、いつもとは違い、塾講の前に十数人の列が出来ていた。
 列の後ろに並んで待っている間に、薫はもう一度問題を読み直し、解答を確かめていた。いつもは机でやってからくるのだが、今日は列が長かったのでここでやることとしたのだ。
 ようやく薫の番がきて、塾講師にノートを渡した。塾講は持っているペーパーナイフの柄で、ノートの上の解答をすーっとなぞって確認すると、
「…正解」
 と言った。
 薫はホッとして自席に戻った。机に広げた消しゴムやら蛍光ペンを筆箱にしまい、テキストとノートを乱暴に閉じて鞄にいれ、軽く会釈をして教室を出た。
 塾の受付にあるリーダーにスマフォをタッチすると、そのスマフォでメラニーに電話をした。
 エレベータを降りて、地下の駐車場に出ると、メラニーが車のドアの前に立って薫を待っていた。
「ご指示の通りに鞄を用意しておきました」
「とにかく出して、足りないものがあったら途中で買うわ」
 そういうと、薫は飛び込むように車の後部座席に座った。
「かしこまりました」
 メラニーはドアを閉めると、車の後方を周り素早く運転席に戻ると、車を出した。
 車が建物を出ると、車内に日差しが差し込んだ。陽の色は日中と変わりなかったが、日差しはだいぶ傾いていた。
 数百メートルもいかない内に、車は渋滞の列に巻き込まれた。
「この渋滞、なんとかして」
「かしこまりました」
 メラニーは車を小さい路地に入れ、住宅街の一方通行の細い道を進んだ。
「道が悪いところがございます。持ち手を掴んでください」
 メラニーはそういうと、薫は座席の後ろにつけてあった持ち手を握った。
 制限速度がそもそも低い道なのだが、それ以上に道に高低やカーブがあって、薫の体が浮きかけたり、ドアへと体が傾いたりした。
「抜け道はここまでです、これから高速道路に入ります」
 通常方向とは逆道から、Uターンして高速の入り口へと入った。
 高速道路は空いていた。時間帯としては、下り方向も混んでおかしくない時間だったが、今は逆に上り線が大渋滞していた。
 メラニーは車を一番右の車線を走らせていた。
 薫は後ろの座席から、リモコンでナビを操作して、到着予想時間を確認していた。真琴が、薫の言った通りに行動していれば、問題は起こらないはず、そして真琴は私の指示通りに行動してくれるはず、薫はそう心に言い聞かせた。