真琴と母は、テレビカメラが回っている前で、注文したブラック焼きそばと、スペシャルドライカレーを配膳された。
「写メ撮っていいですか」
 真琴は薫に頼まれたことを思いだし実践した。スタッフが黙っているところをみると、そのまま撮り続けているらしい。
 真琴の隣にワンピースの娘、母の隣にTシャツを着た娘が座って、テーブルに置かれた料理について、さっきテレビ局の人が言っていたような内容を、もっとわかりやすく、短く喋っていた。
 その間に、真琴と母は撮影の人の合図で食べ始めた。
「美味しいです。なんかコクがあって」
 真琴は結局指示されたままのセリフを言った。さんざん説明を受けた後に、さらに、こんな感じで感想言ってください、と言われたなかの一つを一字一句間違えずに言った。
「ドライカレーはどうですか。私それ食べたかったな〜」
 真琴の隣に座っている娘が、母に向かって言った。体を母の方へ寄せようとしたせいか、軽く真琴の左手に触れた。
「細切れにしたフルーツがカレーの辛さにいっそうの旨みを与えてて…最高」
「うわぁ、私も絶対今度来た時食べる〜」
 母の横に座った娘はそう言ってカメラに向かってアピールした。
 真琴は少し頭が痛くなった。
 気がつくと、ソバージュ髪のワンピース娘が、真琴の左手の上に手を乗せるようにして触れていた。
「!」
「はい、撮影終了で〜す。ありがとうございました」
「ありがとうございました。で、これ何時放送されるんですか」
「今撮ったシーンが必ず放送されるかは約束できないんですが、来週の日曜16:00からキミドリテレビで放送予定です」
「キミドリテレビ? N2テレビ系列ですか?」
「ああ、そうそう。よくご存知で」
 母がそうやってテレビの人と話している間、真琴はワンピースの娘を見ていた。相手も真琴を見つめ返してきた。
 いつもの『例の』頭痛のようだったが、何か継続しなかった。ずっと手は触れられているのに、何故こんなどっちつかずな状態なのか分からなかった。
「手触れてますけど」
「あ、ごめんなさい」
 ワンピースの娘は、慌てて手をひっこめると、視線をそらした。
 そしてあらためて、真琴の方を向くと、
「名前教えてもらっていいですか」
 と言った。
「ボク? 新野真琴……あなたは?」
「渋谷涼子といいます。真琴さん。よろしくお願いしますね」
「?」
 なんだろう、なにをよろしくお願いするのだろう、真琴にはよく分からなかった。
 撮影が始まる前にそういう挨拶はあったから、益々、何を言っているのかわからなかった。
 渋谷は、手を差し出して言った。
「お友達になりましょう」
 真琴は、とまどいはあったものの、半ば無意識に差し出された手を握りかえした。
「よかった」
 渋谷は微笑んだ。
 真琴は、そんな渋谷の表情より、こうして触れているのに、頭痛にならないことを考えていた。
 さっきまでの何回かは、頭痛の始まりのような感じがした。普通の人に感じる感覚ではないことは確かなのだ。しかし今こうして握手をしていても、頭痛は起こらない。
「涼子、砂浜に移動よ」
 メガネを掛けた女性が言った。
「真琴さん。しばらくここにいるでしょ? 仕事が終わったら遊びましょう」
「え? それどういうこと」
 と、真琴は言ったが、それが聞こえたか聞こえないかの間に、手を振って涼子は店から出ていってしまった。
「良かったわね」
「何が?」
「あんた、私が写真撮るときつまらなさそうだったからさ。ああいう同世代のお友達と遊んだ方がいいわよ」
 母はドライカレーを食べ終わっていた。
「若いんだから」
「けど。いきなり、一方的に友だち、って言われてもさ」
「いいじゃん。気が合わなかったらこの場限りで。気があったら帰ってからも遊べばいいし」
 母は真琴と自分のコップにお茶を注いだ。
「帰ってからって、住所も知らないのに」
「気が合うなら聞けばいいでしょ。気にいらなければバイバイでいいの」
 母は真琴の頭をコツンと叩いた。
「何もしないうちから考えすぎ」
 母は真琴の焼きそばをちょっとつまみ食いしてから
「早くたべないと、私がたべちゃうよ」