涼子のさそいのままに真琴はテレビ撮影に入ることになった。いつのまにか、真琴の他にも砂浜にいた若い娘達が撮影される側に入っていた。
 真琴はさっきまでTシャツを着ていたもう一人の娘に話しかけられた。
「すこし整えてもらったら?」
「なにを?」
「お顔。化粧してないでしょ?」
「ボク、高校生ですけど」
「え? ああ。あんた、ちょっと変わってるわね……晶子さん! この娘、軽くメイクしてあげて」
 メガネをかけた女性が真琴の顔をじっとみつめた。
「『ここ』は高校じゃないから化粧ぐらいしていいのよ」
「あなたは誰ですか」
「神山有美よ。よろしく。真琴さんだっけ?」
「え? ボクの名前を」
「さっき涼子と話してたでしょ」
「!」
 真琴は目の前の晶子と呼ばれた女性に髪を触られた。
「髪型なんか格好いいじゃない。少し化粧をすれば、かなり印象変わるわよ」
 真琴は自分で切った髪を褒められて少し気分が良くなった。
 髪をさわったり舐め回すように見ていた晶子は、突然、決断したかのように急に作業を始めた。軽くパフで真琴の顔をはたき、筆で唇に何か書き始めた。
「やむて…」
 唇に触れられたまま、しゃべろうとしたせいで、変な言葉になってしまった。
「ちょっと、動かないで」
 言われてから真琴は化粧が終るまでの間、じっと我慢していたが、本当にすばやく行っていて、何かいたずらされているのではないか、と疑うほどだった。
「ほら、どう?」
 晶子が鏡を開いて真琴に向けた。いつもの自分と違って、目がはっきりして、唇がつやつやした感じがした。
「す、すごいですね。ボクじゃないみたい」
「もっと変えられるけどね。あなたはもう少し薄くしてもいいのかもね」
 晶子は真琴の肩をつかんで向きを変えさせた。
「さ、行ってらっしゃい」
 言われると、真琴は涼子のところへ行った。
 涼子の周りには、浮き輪のようにビニールで出来た船のようなものや、イルカを模したもの、恐竜のような形のもの、長い棒状の浮き輪、など様々なものがあった。
 涼子と有美と真琴は、テレビのスタッフが指示するまま、浮き輪に乗ったり、降りたり、引っ張ったり、落っこちたりさせられた。
 涼子と有美は、それら浮き輪が変わる度にチラチラとプリントアウトされた紙を読み上げ、撮影を進行させていた。
 その話を聞いていると、どうやら本来はカップルで楽しむ浮き輪、という特集だったらしい。男と女では余りに露骨な感じに映るので、女同士としたらしい。
 そう言った読み上げ等の実務的なことに関わらなかった為に、真琴は純粋にそれらの浮き輪で楽しく遊ぶことが出来た。
 涼子も有美も、いきなり加わった真琴に気を使うでもなく、意地悪するわけでもなく、自然に接してくれた。真琴は何故かそれが演技とか芝居だとは疑わなかった。
 だから本当に楽しかったし、カメラの前という意識も忘れていた。
 一通り撮り終わると、涼子や有美は別の場所での撮影の為、移動することになった。
「今から移動か……やっぱり、遊ぶ時間は残らなさそうね」
「そうね。残念」
 涼子はバスローブを羽織り、真琴の方を向いた。
「真琴、楽しかったわ。そういえば今日どこに泊まるの?」
「えっと、吉方位観光ホテルだったかな」
「あ! 私達はどこ泊まるんだったっけ?」
「多分同じとこじゃない?」
「だってさ! もしさ! 良かったら…あっ、私のはスマフォはダメだ……」
 涼子は何か言いかけてやめた。
「あたしの奴にいれときゃいいだろ。宿ついたら連絡するよ、真琴、電話番号は?」
「あ、ちょっとまって」
 真琴はしまっていたスマフォを取りに走り、帰ってくると有美に番号を教えた。
「じゃあね。またホテルで」
「バイバイ」
 涼子と有美は着替える為に浜の端にある脱衣所の方へ去っていった。
 真琴は時より振り返ってくれる二人に手を振ったりして、母の座っているところへぶらぶらと歩いていった。