母は真琴にバスタオルを投げた。バスタオルは急に広がって、風に流された。真琴はかろうじて端をつかんだが、そのまま転んでしまった。
「なんで投げるのよ〜」
 真琴の濡れていた体に砂がついてしまった。
「ごめんごめん。けど、良かったね」
「何がよ〜〜 おかげで砂だらけだよ〜〜」
「真琴の楽しそうな顔見れて、すごく嬉しくなった」
 真琴は砂を払いながら、立ち上がった。
「ボク、何か心配かけてる……んだよね」
「多分ね」
「大丈夫だから。本当に」
 母は微笑んだまま、うなずいてくれた。
 母が安心してくれた、と思ったら真琴は突然忘れかけていたことを思いだした。渋谷涼子に、あれだけ近くにいてもヒカリは反応しなかったのだ。涼子はエントーシアンではない。真琴はそう思った。そう思うと安心して、エントーシアンのことを考えるのは止めてしまった。
 そして真琴は、母と海を眺めていた。
 真琴は昨日の晩、というか今朝、母が言っていた色々なことを考えていた。自分のずっと先の将来、再来年は専門学校にいくのか、普通の大学に進学するのか。とか、そういう、まだまだ漠然としたこと。高校入学の頃から美容師の専門学校に行こうと考えていたのに、今になって母がそんなことを考えていたなんて言われても……
 真琴はもう一度自分の心に向き合って、本当に将来、何がしたいのかを考えていた。
 薫のように優秀な大学や留学なんて選択は、とてもじゃないけれど無理だ。
 すぐに結論が出るはずもなかった。
 真琴がぐずぐずとそんな事を悩んでいる間、母はスマフォをいじっていたが、真琴の方を向くと、こう言った。
「真琴、時間的には、もうホテルにチェックイン出来るよ。ホテルに行く、それとももう少し遊ぶ?」
「うん。なんか疲れた。ホテル行こうよ」
「判った。車回してくるから、着替えてきな」
 真琴はバッグを持って立ち上がった。
「お母さんは着替えないの?」
「もう乾いてるから、このまま上に着ちゃう」
「うん。じゃ、着替えてくる」
 真琴は母と別れて脱衣所の方へ向かった。
 脱衣所の近くまで行くと、正面から数人の男性が歩いてきた。
 男性は二人、三人で別れ、道の真ん中を空けた。真琴はしかたなしに、その間を通り抜けようとした。
「うあ」
 左端にいた、小太りの中年男性がすれ違いざまに何か言った。
 真琴はあえて見ないようにしたが、後ろからの音を聞き、何か様子がおかしいことに気付いた。ただ、怖くて振り向けなかった。
「う゛うぁ」
「うぅは」
 後ろから、小さな声が聞こえた。さらに別の男性からも声が聞こえた。
 真琴は少し小走り気味に脱衣所へ向かったが、足音がついてきていた。
「何! 何なの!」
 後ろを振り向いたら、それら五人の男性は真琴を追ってきていた。
「きゃ!」
 真琴は何かにぶつかって、倒れてしまった。
「おぉ、ぉお」
 そこには青いラッシュガードを着た男性の背中があった。
 男が振り返り、倒れている真琴を見つけると、ラッシュガードの男はそのまま真琴に手を伸ばしてきた。
「!」
 襲われる、と判断した真琴は、つかまる前になんとか立ち上がって、後ろから来る男性とそのフラッシュガードを着た男の脇をすり抜けようとした。
「おう゛ぉ」
 ラッシュガードを着た男が素早く前に回り込んできた為、真琴は逃げられなかった。
 左側をかわそうとしてもダメ、後ろの五人も動きが素早くなっていた。
 動きがとれないまま間合いを詰められ、どうするか迷っている内、一人に腕を掴まれてしまった。必死に振り払おうと暴れると、今度はもう一人に逆の手を掴まれた。正面からくるラッシュガードの男に蹴り込もうとしたら、その足を取られて持ち上げられてしまった。
 すぐさま、髭の男がもう片足をすくい上げ、真琴は両手両足から体を持ち上げられた格好になった。
 どうにもならない真琴は、声をあげようとした瞬間、別の男が真琴の口にタオルをあてがってきた。
「んん!」
 こんなところで、男に……
 真琴の心に恐怖が広がり始めた。
 そして、必死に体を動かすが、体の力が違い過ぎることが判るばかりで、絶望的な気持が広がっていくばかりだった。
 男たちは脱衣所先の、小さな小道を山側へ進んでいた。行く先に廃墟のような民家が見えた。
 男達は全員、真琴を見てニヤニヤと笑っていた。足を持っているラッシュガードの男と髭の男は後ろ向きに歩きながら、真琴の股間を見ていた。真琴が足を動かさなくなると、ラッシュガードの男は、片手を太ももの方へ伸ばしてきた。
 真琴が何度も体をひねるようにして暴れると、今度は伸ばした手を引っ込めて足をがっちりと掴んだ。
 それは腕をとっている男も同じだった。
 疲れて暴れるのをやめると、片手を離して、胸を触ってこようとする。
 真琴は口突っ込まれたタオルで苦しくなりながらも、必死に抵抗を続けた。
 廃墟となった家に、取り外された窓から侵入すると、マットレスだけが残っている汚いベッドが見えた。
 そのまま真琴はベッドに乗せられた。腕を取っていた男がTシャツを脱いで、そのTシャツで真琴の腕を後ろ手に縛り上げた。
 何をされるのか、どうやったら逃げられるのか、もう何も考えられなかった。悔しくなって涙がこぼれた。
 助けて……
 誰か、誰か助けてください。