オレンジの水着の、右の肩紐をずらされ、胸がさらされそうになった時、部屋の奥から木が割れるような音がした。
 男達の動きが一瞬止まり、ラッシュガードの男が、音のした方を確認する為か、素早く、かつ音を立てないように移動していった。
 真琴のふとももを触っていた男が、どこからかハサミをもってきて、真琴のお腹の辺りの水着をつまみあげると、ジョキリ、と水着の布を切った。
 真琴はもう涙でほとんど見えなくなっていた。腕をとっていた中年の男が、ぞっとすることに、その涙を舌で舐めてきた。
 必死に頭と体をひねると、男達はより強い力で叩き、抑えつけてきた。
 運ばれる間中も暴れていた為か、もう抵抗する力もでてこなかった。そして恐怖と絶望から戦う気力も萎えていった。
『ガタン!』
 再び大きな物音がした。
 男達の動きがとまった。
 真琴は少し目開いて周りをみたが、何も変わらなかった。ただ、音を確認に行ったと思われる、ラッシュガードの男がまだ戻っていないことぐらいだった。
「おおおぉぉぉ……」
 ブラりと手を垂らして、ラッシュガードの男が部屋の入り口に戻ってきた。
 戻ってきたと思った瞬間、口から泡を吹いて倒れた。
「ぐぉ、うぉ」
 周りの男達は完全に真琴のことを忘れたように、部屋の入り口で倒れた男を見つめて固まっていた。
 真琴は頭を振って涙を払うと、入り口にいる別の者の姿が見えた。良く見ると、そこにはクマのような丸い体型の、白衣を着た、丸眼鏡の男が立っていた。
「ぐお、うお!」
 ハサミを持った男は、入り口の男を敵とみなしたようだった。
 そのハサミをつかって、刺そうと飛びかかった。
 白衣の男は大きな体をクルリと回してそれをかわした。そしてハサミの男の頭を、ボールを持つように両手で掴むと、そのまま床に叩きつけた。
 ハサミの男は手を使って、頭が床に叩きつけられるのを辛うじて避けていたが、何故かそのまま床に転がり、動きがとまってしまった。
 髭の男も同じように両手で頭を挟まれると、気を失ったように倒れた。中年男は、逃げようと白衣の男の脇を素早く移動したが、足を掛けられて倒れた。倒れたところに、やはり片手で頭を掴まれると、男は動きが止まってしまった。
 残りの二人は、真琴を立ち上がらせ、盾にするようにして後ろに隠れた。
 白衣の男はすり足で少しずつ寄ってくると、パっと手を伸ばし、五本の指を広げ、頭を片手で掴んだ。掴まれた二人は空気が抜けたように、座り込むと、やはり動きが止まってしまった。
 無理矢理立たされていた真琴は、しゃがみこみそうになったが、白衣の男に抱えられ、引っ張り上げられてしまった。
「逃げろ」
 ぼそり、といった感じで、白衣の男はそう言った。
 そして真琴の後ろに回って、手を縛っているTシャツを解いた。
「……あ……あ、り……」
「行け!」
 大きな声に、びくっとした。
 真琴は慌てて会釈だけして、走りだした。
 廃屋を出て、小道に出ると、足が痛くなった。サンダルが片方無くなっていたのだ。それでも我慢して走っている内に、道の端に落ちていたサンダルの片方を見付け、素早く拾った。
 石の上を走ったり、走りながらサンダルを拾ったり、まるで自分の動きではないみたい。これが火事場の馬鹿力というものなのだろうか、と真琴は考えながら、とにかく走った。脱衣所の近くに、見覚えのある車と、心配そうに立っている母の姿が見えた。
「お母さん!」
 言ったとたん、真琴は走れなくなってしまった。
 力が果てたように、ピタリとそこでとまってしまって、しゃがみこんでしまった。
 母は水着の乱れから察したのか、真琴に駆け寄ると、バスタオルを真琴にかけてくれた。
 真琴は母に導かれるままに車にのった。どこをどう歩いたか、今、どの道を走っているのか、見ているのか見ていないか全く分からなかった。