薫は真琴と涼子の腕が外れないように、入念に肩をくませていた。
 涼子はかなり前から目を閉じてしまっていた。真琴も、目を閉じてしまった。
 ジャグジーの泡に隠れてしまい、薫は二人の体をじっくりと見る機会を逃してしまった、と後悔した。ジャグジーではなく、岩盤浴のところに寝かす、というのはどうだったろう、手を繋いで寝ているのは不自然か……普通に内湯だと温度が高すぎてのぼせてしまうだろう。やはりこれしかなかったのだ、と思った。
 薫は念の為に、二人の足も重なるように交差させた。そして、真琴の横にならぶようにジャグジーにつかった。
 不自然にならないように、真琴の腕を肩にのせて、三人が肩を組んでいるような格好になった。
 真琴の首には、さっきまで締められていた跡が残っていて、薫はゾっとした。
 もし後何分か遅かったら、真琴は死んでいたかもしれない。
 真琴のスマフォの『テザリングをオン』にさせておいて良かった、と思った。『使用中止』と書かれた浴場に踏み込む切っ掛けは、真琴のスマフォの電波だったからだ。
 こんなホテルの屋根の下では、GPSはつかえない。ホテルであることは判っても、より詳細な位置は判らなかった。とりあえず部屋からは真琴のスマフォのアクセスポイントが見えなかった。だから、部屋ではないことが判った。
 次は、本当にヤマ勘だったが、食事の場所に行くか、こっちにくるかは賭けだった。
 浴場の入口には『使用中止』と出ていて、一瞬、他の客同様に戻りかけたが、真琴のスマフォのアクセスポイント名が表示されていたのが決め手となった。
 賭けに勝ったのだ。
 そう思って真琴をみていると、涙がこぼれた。
 おもわず真琴の耳たぶを軽く口に加えた。
 無事に生きていてくれて良かった、と思いながら頬にキスをした。
 もっと体を寄せたい、思う通りに真琴の方に体を捻り、体を寄せた。
 瞬間、スイッチが入ったように体験したこともない興奮が薫を支配した。肌と肌が直接触れ合い、唇は頬にはとどまらず、真琴の唇を求め始めた。
 足を絡めると、自分の秘部を真琴の体に押し付けていく。薫の胸と真琴の胸がすれあいながら、御互いの肌の上を滑っていった。
 薫は唇と唇を重ねようとした瞬間に、現実に引き戻された。誰かの声がした訳でも、物音がしたわけでもないのに、我に返っていた。
 薫の中でキスが、絶対的な意思の合意を示すものだったからかもしれない。薫にも理由は判らなかった。ただ、一方的な感傷でしてはいけないことだった。
 我に返った薫は、そのうちメラニーも私を探してここにくるだろうことを思い出した。
 薫は我に返っても、体を離そうとしないもう独りの自分もいることを知っていた。欲望に忠実で、何も恐れない自分。男の人ではなく、女の人を求めてしまう体。どうすれば気持ちが良くて、どうすれば相手が感じるかを互いが良く知っている、そんな関係。
 キスは自分で抑え込めたが、絡めた足は擦り続けているし、さらに左手が真琴の胸をまさぐり始めていた。
 今までの薫と真琴の関係の中で、こんなに露骨に素肌と素肌が接触したことはなかった。
 メラニーとの関係でしか、もう一人の薫は発現したことはない。
 行きつくとこまで行かなければ、自らの意思でもこの暴走は止められない……
 薫はさっきまでの涙とは違う理由から泣いていた。
「薫…」
 見上げると褐色の肌の女性が立っていた。
「薫……あなた、もしかして、今」
 メラニーはジャグジーに入り、ゆっくりと薫を引き上げた。
 立ち上がったせいか、薫はめまいが起こって前が一瞬暗くなった。フラフラとよろめくと、メラニーが抱きとめてくれた。
 そして、二人は見つめあった。
 何が起こって、何を求めていいるか。
 それは過去たった二度しか起こったことがなかったが、今は明確な答えとして目の前にあった。
 二人は震えながらも強く抱きしめあうと、お互いを求め始めた。