真琴は自分の姿が女性であることに気付いた。
 大塚さんの時と同じだ、と真琴は思った。薄暗い空の下、高層ビルが立ち並んでいた。暗い表情の大人達が、ビルに出たり入ったりしている。あまりに色のない世界だった。
「ヒカリ! いるの?」
「こっちだ。敵を抑えているんだけど…」
 声は聞こえる。はるか遠くに。
 しかし姿は見えない。
「どこ?」
 高層ビルの切れ目から、雲が見えた。その雲は渦を巻きながらまるで、その下に何かが現れるのを示すように穴があいた。
 開いた穴から地上に光が差し込むと、巨大な黒い怪物の姿を浮かび上がらせた。
「え、恐竜? なに?」
「ここだよ、真琴」
 現実の距離では絶対に声は聞こえない、と真琴は思った。夢の中での補正が掛かっている。どうやらヒカリはあの黒い怪物の上にいるらしい。
「今助けにいくよ!」
 真琴はとうがたった魔法少女になる為に、目を閉じた。
「聖なるバトンよ!」
 真琴の左胸が光り始めた。
 右手を左胸の奥へ差し込むと、バトンの先端が掴み取れた。まるで体ゼリーのようになっていた。痛みもなく、右手は体を突き抜けるほど差し込まれていたが、背中が裂けるような感覚もなかった。
 ゆっくりとそれを引き出していくと、どこにしまわれていたのかわからないほどの長さのバトンが出てくる。
 そんな場所から取り出したバトンは、血みどろでも、肉片がついているわけでもない。化粧箱から取り出したかのようにピカピカだった。
 真琴はバトンをクルクルと回しながら頭に掲げ、天を指すようにして止めると言った。
「マジックダイバー、エントリー!」
 バトンの両端の宝石が光り始めたかと思うと、真琴の衣服は光とともに散り散りに広がっていき、輝きが最高になった時には完全に体のラインが浮き出ていた。
 そして光がおさまった時には、小さな帽子とセイラーカラーのワンピース、ニーハイのソックスという格好に変わっていた。
「さあ、飛ぶよ!」
 とうがたった魔法少女は走り出して、ジャンプするが、そこそこの距離で着地してしまった。
「あれ?」
 まともな手段では空を飛べないらしい。
「どうしたらいいのよ!」
 バトンの先端が反応したように光った。
 真琴は確認しようとバトンの先端に顔を近づけると、光った先端が軌跡を描いた。
 真琴はしばらく考えて、バトンに言った。
「ボクに絵を描け、と?」
 と思い、真琴は続けてバトンを動かすが、常に軌跡が描かれてしまうため、ただクルクルと巻いた輝く線に過ぎなかった。
「どうやったら描けるの??」
 遠くでビルが破壊され始めた。
「真琴早く来て!!」
 ヒカリが叫んだ。
「どうやったら空を飛べるか、分からないんだよ!」
 真琴はバトンの反対側が光ったのをみると、持ち直して再び描くように動かした。
 すると触れたところの軌跡が消えた。
「消しゴム?」
 バトンは点滅した。真琴の問いに答えているかのようだった。
「さっき描いたのはなし!」
 先端の光がパッと光って、軌跡がすべて無くなった。
 思った通りに描けないのなら一筆書きするしかない、と真琴は思った。真琴はバトンを逆さに持ち直し、雪を被った山頂のような、出来損ないのプリンのような絵を描くと、
「翼よ、ボクを空へ運んで」
 と言った。
 描いた軌跡から同じような形の白い翼が押し出され、真琴の背中についた。
 ふわふわしたそのマシュマロのような翼は、羽ばたくように動くわけではなかったが真琴の体を宙に浮かせた。
「よし、成功! あの怪物まで飛んで!」
 真琴は全く動かなくなった。
「真琴! 早く!」
「どうすればいいの? 浮く以上のことは出来ないの?」
 バトンの反応がなかった。
「あそこ、あそこなんだって!」
 バトンを指し示すと、ようやく体が動きだした。バトンを右に振れば右に曲がり、左に振れば左に、という具合だった。行き先方向を指し示し続け、真琴はようやくと怪物のあたりの空間にやってきた。
「ヒカリ! どこにいるの?」
「目よ! 目を狙って!」
 ヒカリの声ではなかった。
 声の方向を見ると、真琴と同じ格好をした涼子が空を飛んでいた。
「同時にやるわよ! エナジー…」
 真琴は慌ててそれに合わせ、
『シュート!』
 声を合わせ、怪物の目に光球を飛ばした。怪物は軽々と首を振ってかわしてしまった。
 怪物の背中から尾にかけて、小さな背びれのようなものが生えていた。その背びれが尾の先から光り始め、頭の後ろまで上がってきた。
「危ない!」
 涼子が真琴に飛びついて抱きしめてきた。そのままの方向に避けると、怪物は二人が元いた場所の方へ青白くガス状に光る
炎を吐いた。
「やつが熱線を吐く時、必ずあの背びれが光るから、見逃さないで」
「涼子はなんであいつのことを知っているの?」
「アイツが、私の中のものを利用したからよ」
 真琴はバトンを上に振ってもう一度怪物の目の高さまで戻った。
「ヒカリ! ヒカリ、どこ?」