車の形をみるなり、二人は可愛い車だの、小さいけど坂登れるのか、とか色々話した。車の話しは真琴は良く分からないので、母と涼子と薫が話しているのをなんとなく聞き流していた。
 カーブを曲がる度に、右の薫と左の涼子がワザとギューっと体を押し付けてきた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「今気付いた。なんで誰も助手席座ってないの?」
「真琴が座らないからじゃない?」
「私もてっきり真琴が座るのだと思って、後ろに座ったのですが」
 そういえば最初から薫は後ろに座った。ボクがそれに釣られて後ろに入ったのが行けなかったのか。
「いや、じゃ、なんで涼子が後ろくるの?」
「いやいやいや、お母さんと会ってから間もないし」
「やっぱり真琴が助手席に乗るんだったんだよ」
「結構遠かったみたいだから、飛ばすよ」
 母が言った。
 更に左右からのおしくらまんじゅう攻撃は厳しさを増した。真琴も負けじと押し返したりしていたら、坂の上りきる頃には三人とも汗をかいていた。
「さあ、ついたわよ」
 三人は、よろよろになりながら車を出ると、そこには爽やかな風が吹いていた。昨日とは違う時間の為か、月の光りは海に映っていなかったが、逆に向こう岸の街の明かりがたくさん見えていた。
 薫は真琴に体を寄せてきた。
「薫、どうしたの」
「なんとなくね。夏休みで、一緒に電車に乗ってないからかも」
「薫はどんな大学に行くの?」
「えっ、どことか考えてなかったな。最終的には、海外になるだろうから」
「……そっか」
 さすがに海外は無理だ…… と真琴は思った。いくら母が好きなように、大学でも行けばいい、と言われてても。語学から学力から、足らないものが多すぎる。
「なんで? 今までそんなこと聞きもしなかったのに」
「ちょっと聞いてみたくなっただけ」
「私は日本の大学に行くわよ」
 涼子が鼻に人差し指を当てて、アピールしてきた。
「なんて大学?」
「受かるかどうか分からないもの。だから、まだ言わないの」
「瀬田とか、欧義塾とか?」
「そういうレベルね〜 悪くないわね」
 なんとなく気になって、薫の顔をみると、少し寂しげだった。薫は今の高校に行くことですら両親の反対にあっているのだ。国内の大学に行く、などと言ったら親子の縁を切るとか言われそうだった。
「涼子頭良いの? そうだ、どこの高校?」
「う〜ん……どうしようかな……」
「真琴、知らないの? この娘は……」
「ちょっとまって、薫さん、私のこと知ってるの?」
「知ってるわよ」
 薫は自信ありげだった。
「そう、それじゃ間違いなく知っているってことか…… つまらないわ」
「えっ、で、どこ??」
「私達と同じ」
「そうなんだ! なんだ、それなら私もガンバれば、瀬田だ、欧義塾とか行けるってことだ!」
「……」
「えっと……」
 涼子も薫もそれに応えなかった。
 真琴はその大学がどの程度の学力なのかは見当もついていなかった。その二つは、よく聞く名前だから知っているだけだった。
「それより、真琴、なんで大学? 美容師になるって思ってた。誕生日のプレゼントにハサミを欲しがっていたし」
「うん……ちょっと。自分の本当にしたい事を、もう一度考えることにしたんだ」
「じゃあ、真琴さん、モデルやらない? もう少しセンスは必要かもしれないけど」
 真琴は柵の方へ歩いて行き、海を眺めた。何が自分のやりたいことなのか、どんどん混乱していた。
「モデルかぁ……」
「楽しいわよ。お金ももらえるし」
「そんな軽いノリなの?」
 薫が突っ込んだ。
「別に軽いノリではないんだけどね。ただ、難しく考えるだけでは出来ない仕事なのよ」
「……やっぱりボクはまだ、選べないよ」
「そうね」
「そうだ真琴さんの連絡番号を私のスマフォに入れたいんだけど、紙に書いてもらえる?」
「あれ、昼のは?」
「ああ、あれは有美のスマフォ。私のは父にロック解除してもらわないと無理だから、メモっておこうと」
 薫が興味ありげに涼子のスマフォを覗き込んだ。
「ちょっと借りてもいい?」
「ええ」
「ああ、ロック外してもいい? 私のところからメールを送るからメアドを教えて」
「えっ! ロック外せるの?」
 涼子は手を合わせた。
「あ、でも、もう一度ロック掛かった状態に戻せる?」
「戻せるよ。また登録とか出来なくなるけど、いいの」
「父にチェックされる時はロックが掛かってないといけないの」
「ロックかかったフリするアプリもあるけど、それ使ってみる?」
 涼子はしばらく考えてから頷いた。
「その使いかた教えてね」
「じゃあ、やっとくよ」
 薫は両手でスマフォを操作しながら、特別な世界の言葉をブツブツつぶやいていた。
「涼子はとなりのクラスだよね?」
「そうよ。中居寺から電車で通ってるから、顔合わせててもおかしくないのにね」
「え、電車で来てるの? モデルさんでテレビにも出ちゃうんでしょ? 大変じゃないの?」
「以外とそんなことないんだよ。あ、髪型こうだし」
 涼子は右手と左手で、左右に髪をまとめて引っ張った。
「おさげ? あ、おさげ髪の娘……」
「覚えてるの?」
「いや…… ゴメン」
 涼子は肩を落とした。
「出来たよ!」
 薫が得意気にスマフォをの画面をこちらに向けた。
「『リンク』も入れちゃったよ!」
「え〜『リンク』したかったんだ〜〜 スタンプとかって、あるんでしょ?」
「ついでに私の番号もいれちゃったよ」
「薫さん、ありがとう!!」
 涼子は嬉しそうにスマフォを触っていた。真琴と薫もスマフォの画面を見ながら、メッセージを待っていた。
『これからも、よろしくおねがいいたします。涼子』
「硬!」
「ガチ! つーかガチガチ」
「いいの!」
 真琴が何かなれない手でフリックを始めた。
 そしてみんなの『リンク』にこう表示された。
『こ・ん・ご・と・も・よ・ろ・し・く』 

--- 四話 終わり