五話です
 

あらすじ

主人公真琴は頭痛持ちの女子高校生。真琴は、頭痛の度に夢でヒカリに出会い、聞かされていた話があった。そして、高二になったある日、ヒカリから聞いていた敵と遭遇する。敵を倒すには、敵の保有者と接触状態で夢を共有し、その夢の中で敵を打ち負かさねばならない。同級生の友人『薫』と協力し、目の前に現れる敵と戦うことになるのだが……

 
登場人物

新野 真琴 : ショートヘアの女生徒で東堂本高校の二年生。頭痛持ち。頭痛の時に見る夢の中のヒカリと協力して精神侵略から守ることになった。

北御堂 薫 : 真琴の親友で同級生、真琴のことが好き。冷静で優秀な女の子。

メラニー・フェアファクス : 北御堂の養育係、黒髪、褐色の肌のもつイギリス人

渋谷 涼子 : 同級生でモデル。偶然、ロケ先で真琴と知り合いになる。

品川 優花 : 陸上部で真琴と同じクラス。最初に【鍵穴】として発見された。

上野 陽子 : 剣道部の三年生。【鍵穴】となってしまい、別の意識体に入り込まれて騒動になる。


 新学期が始まった。
 最後の一週間、薫は真琴の家に通った。
 薫としては自分の家にきてもらった方が良かったし、本来の立場からすれば真琴が通うべきだった。
 しかし、薫は最後の一週間は夏期講習があったし、フランシーヌとロズリーヌが宿題を終わらせる為に、何か役に立つとも思えないので、真琴の家でするより仕方がなかった。
 それでも薫は何回か、うとうとする真琴に対してラッキーすけべ的なチャンスや、うれしはずかしい出来事を見逃さずに拾っていた。
 そんな楽しい『真琴の宿題の追い込み』を手伝う一週間が終わって、『つまらない日常の新学期』が始まった。
 薫は駅のいつもの場所で待っていると、眠そうな顔で真琴がやってきた。
「おはよう」
「おはよう……」
 眠そうな表情。おそらく自分が帰った後も残りの課題をやっていたのだろう。一年生の時の写すだけに比べると、今年は一切写しをせずに自力でやっていたことがすごかった。薫が帰って、寝て、塾にいっている間に自力でやっている、らしい。多分、昨日もそういう状態だったのだろう。
「課題…… 全部出来た?」
「うん。薫のおかげだよ、本当。ありがとう」
「ありがとうはいいのよ。体調大丈夫なの?」
 二人は列の後ろに並びながら、そんな会話を続けた。
「眠いだけかな。それより今日、帰りにあそこ寄ろうよ」
「お爺さんのカフェ?」
「うん、そうそう。甘いもの食べたい」
「いいけど…… 店名って、なんだったんだっけ」
「お爺さんのカフェ? じゃないの?」
 それは私達だけで通じる呼び方で、店名ではないのですよ、と薫は思った。
「お、新型車両かな?」
「あ、そうかもね。なんかピカピカしているし、ね」
 薫は両手で鞄を持って車両に乗った。真琴の隣に立った時に、後ろに知り合いがいるような気がして、くるりと後ろを確認したが、思い出せなかったのか、いなかったのか分からなかった。
「どうしたの薫」
「ん、誰かいたような気がしたんだけど」
「知り合い?」
「そうだと思う。まぁ、知り合いは」
 と言いながら、薫は車両のドア付近に入ってきた女子に手を振って挨拶した。
「いっぱい乗ってるんだけどね」
「そりゃボクもそうだけど」
 後ろをパッと振り返ったが、やっぱりそんな人物はいないようだった。
 反対側のホームにも車両が入ってくると、薫と真琴が乗った列車が動きだした。やっぱり動き出す前にはいつもの通りギュウギュウ詰めの満員になっていた。
「なんか、列車に乗ると学校が始まった…… って気になるね」
「そうだね」
 ガタン、といつものように列車が揺れた。
 薫はもう無意識に、真琴に体を寄せていた。真琴も反射的に薫の腰に手を回していた。
 いつもの通り、のはずだった。
 ただ、薫は胸に違和感があった。
 違和感というか、もう一人、別の、何者かの手が触れていた。
 痴漢? という考えが薫の脳裏によぎった。
 はっ、っと思う間に、その手は胸を押し上げたり、揺すってきた。
「!」
 薫が後ろをみると、おさげ髪の女がキス顔を向けていた。
「GE!」
「いっ……やっ!」
 真琴も何かされたらしい。
「涼子!?」
「お二人さん、おはようございます」
 両の手はまだ悪さをしていた。
「お、おはよう、涼子」
「おはようじゃないですよ。涼子」
「真琴さんも、薫さんも朝からいやらしいことしてますねぇ」
「何を言ってるの、ねぇ、ちょっとその手ヤメて」
「そうですよ。何も別にへんなことはないでしょう?」
「匂いですよ匂い。そういう雰囲気ですよ。だから二人の周りは女子ばかりいるんでしょうが」
『!』
 薫は車両の内側にいる涼子を見ていたのだが、その一言で、一斉に周囲の女子生徒がコッチに視線を向けたように感じた。いや、感じたのではなく、間違いなく十人以上の視線は集まっていた。
「(匂いって……)」
「ボクには臭わないけど」
「(真琴声が大きい!)」
「(いまさら小声で言ったって遅いよ。みんなそう思っているんじゃないか、ってだけ)」
「(少なくとも涼子はそう思うってことね)」
「(……)」
 薫は少し真琴から体を離した。
「そういえば、なんか全然印象違うね」
「? 私?」
「おさげだ、って言ってたけど、実際におさげにしてると別人だね」
 真琴が言った。
「その黒いメガネ、なんなの? 海ではコンタクトしてたの?」
「ダテメガネだよ。度無しのガラス付き」
 薫は二人が会話するのに割って入らなかった。二人の会話より、周りの反応が気になってしまったからだ。
 確かに、王子と姫などと言われてはいたが、あまりそれ以上の周りの噂など、気にしないようにしていた。
 けれど、女子同士が仲良くしているのに『いらやしい』と思われて興味を持たれているのだとしたら、少し話しは違う。何かそれなりの表情やしぐさなどで、自分の真琴への感情がさらけ出されていたとしたら…… 完全に周りが見えなくなって、感情のままに走っていた自分を思い返していた。
 それらが、すべて周囲の人たちにハッキリ判るレベルでなされていたら。もうそれは露出狂のレベルだ。恥ずかしい、と思う気持ちを通り越し、大失態をさらしてしまった自制心のない自分が恐ろしくなってしまった。
「(どうしたの薫、気分悪いの)」
 真琴の声が耳元に囁かれる。
 引いた血の気が戻ってくる以上に流れ初めて、顔が熱くなるのを感じた。
「(ごめん、ちょっと考えごと)」
 真琴が軽く頷いてくれたのを見て、薫はまたそのことを考え始めた。
 とにかく、人目のあるところでは、すこし真琴と距離を置こう。もうあれもこれもバレていて、私が真琴のことが好きで、真琴のことを感じているのが、見透かされているのなら、それを打ち消すようなことも考えないと。ただ一度知れてしまった事実を単純に距離を置くことでリセットされるとも思えなかった。
 しかし、このままでは真琴に迷惑が掛かってしまう。それは自分にとって、もっとも許せないことだった。このまま熱くなって、その熱で自分の身を焼き、灰になってしまえば良いのに、と薫は思った。