寝不足のせいか、喉が乾くな、と真琴は思った。堂本の駅につくと、薫と涼子に一言告げて、自販機でペットボトルのお茶を買った。
 手にとるなり開けると、その場で半分ほど飲んでしまった。
「どうしたの、めずらしいね」
「ちょっと耐えられなかった」
「お茶なら私の上げたのに」
 涼子も鞄から水筒を出して一口飲んで閉めた。
「なんか、昨日夏休みの課題やるのに必死だったから」
「へー夏休み最終日っぽい生活してんのね」
「え、あれから何時までやったの?」
「5時にはならなかったよ」
「また、夜も二人で『そんなこと』してたの」
 涼子はまたからかうように言った。
「……」
 薫の表情がこわばった気がした。
 こういう感じの、エロい単語とかも含めて、言葉を他人に言われるのは好きではないのは知っていた。本人は真琴相手にそういう発言をしたりするんだが、それは少人数であったり、内輪での時だった。
 さっきからの流れや、ここが学校の通学路だということから判断すると、薫は怒っているのだろう。そう真琴は思った。
「ごめん真琴、先に行っていて」
「大丈夫? 電車の中でもそうだったけど、体調悪いの? それなら無理せず帰った方がいいかも」
 薫の背中をさするようにしながら声をかけるが、首を振るばかりだった。
「大丈夫。体調は大丈夫なんだけど……」
「どうしよう、そこのベンチ座る?」
 駅の方に少し戻ればさっき真琴が買った自販機の横にベンチがある。
「本当、大丈夫、具合が悪かったら家に戻るから、ね。先に行ってて」
 薫はゆっくりと髪を前にまわしてから、ベンチに座った。
「真琴、ありがとう。けど、先に学校行ってて。本当にごめんなさい。一人にして欲しい」
「う、うん。わかった」
 真琴はうつむいたまま話す薫に、それ以上声をかけることが出来なかった。距離をとって待っていた涼子のところに、小走りで引き返し、そのまま通学する生徒の流れに戻った。
「どうしたのかな」
 真琴はもしかしたら涼子のせいだ、とも言えず、何か別の言葉で誤魔化すことも出来ず、ただ黙ってしまった。
「ちょっと心配だね」
「……」
 涼子はうつむいた真琴の顔を見ようとして、体を曲げて見上げてきた。
「ん、どうしたの」
 真琴は涼子に言った。
「どうしたもないでしょ。黙っちゃって」
「うん。……けど」
「聞きたいんだけど」
 涼子は続けた。
「薫さんは真琴さんとどうなりたかったのか、どうしたかったのか、て言ったことあるの?」
「何のこと?」
「何のこと。か。真琴さんにも問題ありそうだよね」
「どういうこと?」
「どういうことじゃないよ」
 涼子は頭に手を当ててポーズをつくると、
「説明してあげなきゃいけないかな。その代わりといっちゃなんだけど、私も自分の伝えたいことを伝えるよ」
「なに?」
「ここじゃ話せないから、そうだなぁ、放課後とか時間ない?」
 涼子は軽く怒ったような表情で、左手を腰に当て、真琴に言った。
「薫とお茶する予定だったけど……」
「うん、いいじゃない。そこで決着つけましょうか」
「え、決着?」
「いいから、それじゃ放課後ね。駅で待ってるから」
 涼子は校舎に走って行ってしまった。
 一人残された真琴は、半ばあきらめの気持から、溜息をつき、再び校舎へと歩き始めた。