薫は薄暗くなってきた天気を見上げながら、下駄箱に駆け込んだ。今日は雨が降るんだろうか、それなら校庭ではなく体育館で始業式になるかな、と思いながら、持ってきた上履きに履き替え、下足を入れた。
 階段を駆けあがると自分のクラスへと急ぎ足で向かった。廊下に出ている者はもう誰もいない。薫はここへ来る途中で予鈴がなるのを聞いていた。皆、もう教室で待機しているはずだ。
 息を整えながら、薫は教室の扉を開け教室に入ると、担任の金田が今日の段取りについて話ているところだった。
「北御堂さん?」
「すみません。ちょっと具合が悪くなって、駅近くのベンチで休んでいました」
「先生、ごめんなさい。ボク、そのこと言うの忘れてました」
 真琴が慌ててフォローしたせいで、余計ウソのように思えたかも知れないな、と薫は思った。しかし、逆に真実味が増した可能性もあり、金田の反応を待つしかなかった。
「ま、今日くらい大目に見ましょう。始業式前だしね」
 出席簿にチェックを入れながら、担任教師はそう言った。
 片手を手刀のように鼻の前にあてると、真琴は言った。
「ゴメン、薫」
 薫は声をださず、口の形で、『へいき』と言って返した。真琴が読み取れたのかは分からなかったが、こっちの気持ちは伝わったようで安心した。
 一通り説明が終わった後、本鈴がなって皆は体育館へと移動した。体育館に入ると、みな体育座りさせられ、校長の話が始まった。
 夏休みであった部活の結果や、テレビや新聞で取り上げられた大きな事件など、飽きもせず同じようなマトメで締めくくり、これだけマトメと関連のない前フリは何の基準で選ぶのか、逆に知りたくなってしまった。
 校長の後は風紀担当と体育祭の担当教師が代わる代わる前に立ち、夏休みで乱れたりだらけた態度を続けないことや、数ヶ月後に実施される体育祭とそれに合わせた授業の特殊進行に気をつけるように、ということだった。
 薫はこれが最初で最後の体育祭だ、と思った。
 東堂本高校は、体育祭と文化祭が隔年で実施される為、薫達の学年は最初で最後の体育祭になる。どのみち、もう二年なのだから文化祭であっても、体育祭であってももう最期の一回なのだが。
 今度は副校長が現れ、進学や就職に大切なことを話した。ようするに素行が大事だ、ということね。薫は、ちょっと注意して変えられるような性格や性質は、実際の進学や就職では問題にならないのではないか、と思った。だって、それは入学したり就職したりした後でも変えられる、のだから。本質的に変えられないものの方が本当はやっかいで、それはそこで教師が言ったからといって変わるものでもない、そんなことを考えた。
 そうやってすべての話が終わると、生徒全員が立って礼をした。先生が指示をして、三年から教室に戻っていった。
「おい! 二年は残るように」
 二年の生活指導担当の教師が言った。
「二年はもう一度座って。話があるから。一年が体育館出たらもっとこっちに集まって」
 三年、一年が体育館を出た後、二年は扇状に集まって座って教師の言うことを聞いていた。
 どうやら薬物の売買をしている者がいて、それが二年生らしいということだった。とにかく、買ったやつは何人か把握していて、全く関係なさそうなその何人かの証言によると二年生だと言うことのようだ。
 そんなことなら全校集めた時に言うべきだったんじゃないか、と思って校長のあの不自然な前フリにつながるのだと思った。
 結局そんな話で学年を集めた話は終わり、それぞれバラバラに教室に戻った。薫は、真琴を見付けて一緒になった。
「薫、ちょっと耳貸して」
 真琴は教室の全員がある意識に乗っ取られ、操作されていたということを話した。
 これは夏休みの事件で、涼子が、正確にいうと涼子を支配したエントーシアンが、海水浴場にいた男を精神支配し、操ったのと同じような状態だ。
「つまり、今、学校にまた新たな【鍵穴】がいるってことね」
「どうやって元に戻ったか分からないから、怖くて」
「今日はもう授業もないし、大丈夫よ、きっと」
「うん、けど一応警戒して」
「そうね。そうだった」
 薫は今まで自分が言っていたことを、真琴に言われ、事を軽く考えていた自分を戒めた。