涼子のクラスが先に終わって、廊下から手を振っていた。真琴は肩の高さぐらいまで手を上げて振り返したが、周囲への注意は怠らなかった。
 一度精神支配された者が、どこまでコントロールされ続けるのかが分からないと、いつまでも気が緩められない。この事をもっと知らないと、敵にばかりアドバンテージを与えてしまう。
 真琴はそんなことを思っていると、担任教師が指示を書き終えていた。
 号令がかかって、礼が終わると金田先生は言った。
「それでは明日から通常授業です。日直とお手伝いしてくれる人いたら、先生と一緒に課題ノートを運ぶの手伝ってね」
 真琴はディパックから全部の課題ノートを出し終えたのを再確認してから、薫と一緒に教室を出た。
「今日、ご飯どうする?」
「ボクは中居寺まで戻ってからがいい」
「美味しい店しってるよ」
「じゃ、涼子のおすすめで行こうか?」
「真琴がそれでいいなら良いよ」
 悩むこともなく昼ごはんの店が決まり、中居寺の駅から涼子の導くままに店へと歩いた。
 薫は何やらスマフォをいじっていたが、店につくなり、ここ知ってる、来たかったんだ、というような反応をして涼子を喜ばせた。
 涼子はメニューのおすすめ以外に、何品かのおすすめを言うと、薫はその涼子のおすすめの方にすると言った。こういう流行りの店、といった雰囲気が苦手だ、と真琴は思った。皆が好きだから流行るのだから、こういうのが好きである方が自然なはずなのに、どうして苦手なのか、理由ははっきりしてはいなかったが。
 真琴はメニューに『おすすめ』と書いてあるものから別のものを選び、涼子も二人とは別のメニューを選んだ。涼子は真琴に、来たら一口ちょうだい、と言い、薫も涼子に来たら一口欲しい、と言った。
 結局、取皿もらってちょっとずつわけっこしよう、ということになった。
 食事がテーブルに来る前、薫に電話がかかってきて、珍しく、電話をしてくるからと言って、席をはずした。
 いつもなら、ゴメン、と言って手で声を抑える程度で電話を続けていたのに、今日は、よっぽど聞かれたくない話か、電波が悪かったのかも、と真琴は思った。それとも涼子に遠慮があるのか。
 電話が終わってもどってくると、しばらくして食事が運ばれてきた。三人はそれを少しずつ分け合い、楽しく食事をとった。
 食事が終わると涼子が言った。
「喫茶店に行くって言ってたじゃない?」
「うん」
「どこ?」
 薫がニヤリと笑ってテーブルに身をのりだし、
「心配?」
 と言った。
 涼子は薫の顔を見て、何か悟ったような表情をして、両手で抑えるようなしぐさをした。
「……なんとなく判った」
「え! 本当? 普通知らないような、すごい穴場だと思うんだけどな〜」 
 真琴が言うと、涼子も反応した。
「あ、やっぱり。Origamiでしょ?」
「?」
 真琴と薫は店の名前を出されて反応できなくなってしまった。よく考えたら店の名前は知らない。ケーキの箱に書いてあったろうか、と思って思いだそうとするが、やはり印象に残っていない。
「え? 違うの?」
「……」
「……ああ。そう。じゃ、場所なら判るでしょ?」
 と言って涼子はスマフォをテーブルの真ん中に出し、地図で示した。
 真琴は道を辿って行きたいところを示しているのに気付き、
「そうそう! そこそこ」
 と言った。薫は落ち着いた声で言った。
「そういうこと。あなたのお祖父さんがやってる店ね」
「え?」
 薫の発言で、真琴の頭の上にだけ疑問符がついた。
「え? どうゆうこと?」
「私のお祖父ちゃんが店をしているのね。Origamiっていう喫茶店。どうやら薫は知っていたみたいね」
 真琴は色々思い返したが、お爺さんに孫がいるとか、それが東堂本に通っているとか、そんなことは聞いたこと無かった。
「なんで薫は知ってたの?」
「一人で行った時に、ちょっとね」
「え〜〜 それ黙ってたの???」
「薫らしいじゃない」
「え〜〜 でも、私にはこっそり教えてよ!」
「ごめんごめん」
 薫は顔の前で手を合わせた。
「う〜〜!! 涼子はお祖父さんの店って行ったことあるの?」
「何回かね。学校帰りには行ったことないな」
「あの店さ、どうやって儲かってるの?」
 涼子は笑いだした。
「え? ボクなんか変なこと言った?」
 薫もさすがに店がどうやって成り立っているのかまでは分からなかったようで、涼子の顔を見てちょっと戸惑っていた。
「ごめんね」
 笑い終えたのか、一度口を拭くと涼子は言った。
「実はね、近所の商店街の人たちにコーヒー届けてるのよ。毎日飲んでくれるから、意外と馬鹿にならないらしいのね。それと、ケーキ」
 真琴と薫は、へぇ、とうなずいた。
「まぁ、いいわ。それじゃあ、行きましょう。決戦の始まりよ」