東堂本高校の二年の教室には、一人だけ朝早く登校してきた女生徒がいた。その生徒は、すぐ立ち上がれよう椅子に浅く腰掛けて、次に教室にくる生徒を待っていた。
 やがて廊下を大声で話ながらやってきた二人の女生徒が教室に入ってくると、最初にいた生徒は素早く立ち上がって二人のうしろに回った。
「どうしたの『たまち』早いじゃん」
「うん」
 二人の間に後ろから回った『たまち』--浜松たまち--は、二人の肩に手をかけた。
「実は協力して欲しいことがあって」
「なになに?」
 浜松たまちは、肩にかけていた手をそれぞれの頭頂に置いた。
「え? 何? いい子いい子してくれるの?」
「ちょっと待ってね」
 と言うと、浜松は強くまぶたを閉じた。
 すると二人の女生徒も目を閉じてしまった。
 足取りも急にフラフラしはじめていた。
 二人に向かって、浜松は言った。
「さあ、次にくる子にも同じことをするから、ちょっと手伝ってね」
「あぁ…」
「ぇぇ……」
 返事なのか唸り声なのかは分からなかったが、二人は浜松たまちの呼びかけに応答した。
 次の生徒がくると、その二人が両側から頭を抑え、後ろに回った浜松がやはり頭に手を当てて、何か念を込めるようなことをすると、同じように人でなくなったような声をだし始めた。
 そうやって教室に入ってくる人間を、次々と浜松の意思に従いしもべとしていった。
 朝の部活終了後に教室にやってきた生徒は、前側の扉を開けた。
「なに、皆、なにやってるの?」
「どうしたんだよ、麻生、早く入れよ」
「いや、なんかいっぱいいるからよ」
 と後ろを向くと、背後から浜松の手が伸び、頭をやられてしまった。
「麻生、いっぱいってなんだよ」
「ぁあ」
「はぁ? 頭おかしいんか?」
 麻生がその友だちの手を引き、教室に引き込むと、
「うわぁ、皆なにやってんだよ? ゾンビごっこ??」
「ぇぁ」
 足を引っ掛けらえて、転びながらその集団の外に出ると、背後から頭を抑えつけられてしまった。
「ぁゔぁ……」
 北御堂と新野だけがまだ教室に入ってきていない状態になった。
 浜松は一人一人の後頭部を軽く撫で、自席に戻るように指示した。
 浜松自身も自席に戻ると、時刻を確認した。まだ授業が始まるまでは間がある。今度こそ失敗しない、と以前の失敗を思い出していた。
 前後の戸口を押さえさせてから、じっくりしとめればよかったのに、全員で捕まえに行ってしまった為に隙が出来た。
 もう、そんなことはしない。
 生徒個々の能力も把握した。
 さぁ、早く来てみろ、新野真琴。
 浜松は何度か髪を掻き上げながら、不敵に笑った。