安田美沙は、学校からの帰りに図書館に寄ってから塾へと行く途中だった。長い髪は校則もあって、おさげ髪にしていた。歩く度に、手に持っている鞄と同じように、ゆらゆら揺れた。
 歩いていると、目の前の角から、見覚えのある女性が出てきた。あれ、と思って少し思い出すと、声を掛けた。
「あかねのお母さん!」
「ああ、美沙ちゃん、こんばんは」
「こんばんは。あ、それ、あかねのお弁当ですか?」
「うん、なんか今日はちょっと遅れちゃったから、駅で渡してって言うんだけど…… こっちも買い物とか時間ないのよね」
「それなら、私が預かりましょうか?」
「美沙ちゃんも塾だもんね…… けど、どれくらい遅れるんだかわからないからさ。あんまり遅れたら、一緒に塾遅刻しちゃうでしょ、悪いわ」
「ちょっとまってください」
 美沙はそう言うと、すぐに『リンク』であかねにメッセージを入れてみた。
『坂登ったから、もう少し』
「お母さん、もう学校からの坂は登ったみたいなんで、2〜3分ですよ。私が渡しときます」
 美沙は受け取るように手のひらを上にした。
「そお? ごめんなさいね。じゃ、お願いね」
 そして、大きいお弁当の包みを美沙の手に載せた。ずしりとくるサイズと、重さに、思わずびっくりしてしまった。
「あ、大丈夫? 部活のある日は昼もこれくらい食べるのよ……」
「大丈夫です。渡しておきますね」
 美沙がそう言うと、あかねの母は、ありがとうね、と言い、来た角を曲がって帰っていった。
 美沙は、お弁当が大きくて重い為、お腹の前で両手で持って歩くことにした。自分がこの量を食べたら動けなくなってしまうんじゃないか、と思った。そして、これを二食食べて太ってないんだから、あかね、というかバスケ部って凄い練習量なんだな、と感心してしまった。
 駅近くまでくると、学校方向の道に、あかねの姿が見えた。どうやら美沙に気付いたらしく、手振って合図し、走り寄ってきた。
「あれ、お弁当持たされちゃったの?」
「違うの。私が持っていきますって言っただけ」
「ありがと〜。重かったでしょ」
 あかねは、両手で差し出したお弁当を、ひょい、と片手で拾い上げた。
「びっくりしたよ。これ鞄に入れてるの?」
「うん。恥ずかしいけど、これくらい食べないとお腹すいちゃうんだよ」
 歩きながら、そんなことを話しているうちに、塾のあるビルについた。
「あ、美沙。今日帰るの何時?」
「いつもだと九時ぐらいだけど」
「じゃ、下で待ってる。じゃね」
「うん」
 そういって教室に入っていった。
 あかねの受けている授業は、美沙とは違って一時間半ぐらい前に終わるはずだった。
「だいぶ時間待つよね? バクバクでも行って待ってて? 行くから」
「ああ、そう……ね。じゃ、メガバクバクバーガーでも食べて待ってる」
「そうして。じゃ、後で」
「うん」
 あれだけの弁当を手に持ちながら、塾の後にメガサイズのバーガーを食べるというのは凄い、と思った。ただ、明日でもなく今日会って話すというのは、何か特別な用件なのだ、と美沙は思った。