真琴は早退しようと何度も考えたが、涼子の言葉を思い出してやめた。遅刻がダメなように早退も良くない。本当に最初の想いの通り、美容師になる為の専門学校に行くにしても、だ。とにかく、どんな将来にとっても無為に休んだり、学校生活をおろそかにするようだと、必要以上に大人に嫌われてしまうのだ、と真琴は思った。
 そんなことを考えながら、午後の授業を終えると、涼子のクラスへ行った。
 涼子は一人で机に向かって何か書きものをしていた。
「涼子、一緒に帰ろう」
「ああ、ちょっとだけ待ってくれる、もう少しで終わるから」
「何やってるの?」
「数学の宿題」
 真琴がみると、ちょっと信じられないような問題を解いていた。
「涼子、理数クラス?」
「じゃないけど」
 国公立は数学も必要だったのかな、と真琴は思った。自分の学力では全く想像が及ばない世界があるのだ、と感じた。
「ふぅ。終わった」
 涼子の前の席でボンヤリと外を見ていた真琴は、その声で立ち上がった。
「どうしよう」
「何があったの」
「敵が現れたの」
「あ…… それがあった……」
「どういうこと?」
「本当にそういうことがあるのを忘れていたのよ。接触をさせておかないといけないのよね。ということは、そういう空間を用意して、そういう時間をキープしないといけないわけか」
 涼子はダテメガネの真ん中を指で押し上げた。
「なかなか難しい問題ね」
 真琴はとにかく分かっていることを話した。朝早くからクラスメイトをコントロールして、真琴を殺しにかかっていること。白衣の大男のこと。今日も失敗した上に、身バレして学校から逃げたこと。浜松たまちという女生徒に関すること、など。
「向こうからやってくるのを待って、っていうのは性に合わないな」
「けど、どうするの?」
「真琴はコントロールを解くだけじゃなくて、他人のコントロールは出来ないの?」
「え?」
「だって、逆も真なり、なんでしょ?」
 涼子はいきなり電話をして、メラニーを呼び出していた。
 何をする気か全くわからないまま、涼子の後をついていった。

 学校近くを涼子について歩いていると、横に車が止まった。真琴は見覚えがあった。薫の車だった。
 涼子が言った。
「メラニーありがとう」
 真琴は涼子とメラニーの車にのり、薫の家に向かった。
「なんで薫の家?」
「まぁ、いいから。だって自由になるスペースで、かつ安全な場所ってそんなにないのよ」
「ボクんちでもいいじゃん」
「『ボクんち』はお母様がいませんか?」
「働いてるもん」
「ああ、そうか…… じゃあ、今度はそうするよ」
 良く分からないが、薫の家につくと、涼子は初めてはいるはずなのに、ずかずかと扉を開けては中を確認した。
「すみません、勝手に開けられてはこまります」
「あなた誰?」
「フランシーヌと申します」
 涼子はそのメイド服を着たフランス娘に興味津々のようだった。
「可愛い!!」
「勝手に触られては困ります」
 フランシーヌの服装を勝手に触りながら全部見終えると、涼子は家の一階を一通り回った。
 見終えると、涼子は二階を見せろと言ったが、フランシーヌが強固に引き止め、二階を見ることは出来なかった。
 二階に薫の部屋があったはずだ、もしかしたらいるのかも、と真琴は思った。
「二階にもいねぇよ」
 メイド、と呼ぶには余りに乱暴な口調だったが、服は白黒基調でそれっぽい格好をした娘が階段から下りてきた。
 しかし、それっぽいスカートは短すぎたし、あちこち着崩して肌が露出していた。とてもメイド、と呼ぶ格好ではなかった。
「あなたは?」
「ロズリーヌだ。フランシーヌと交代でこの家のメイドをしている」
「へぇ」
 こっちの服には興味なしか…… わかりやすい、と真琴は思った。
「薫がどこにいるかあてはないの?」
 涼子は家に戻ってきたメラニーに聞いた。
 メイドの二人も答えを期待したのか、全員がメラニーの方を向くと、メラニーは少し気圧されたようになったのか、少し間があいた。
「……あてのあるところは全部連絡を取りましたが、不明です。旦那様はご存知であると思いますが」
 少しの期待があったせいか、各々少し気落ちしたように見えた。