美沙とあかねは、青葉に遊びに来ていた。たまたま、練習のない土曜日と、美沙が買い物に行きたい、と言っていた日がかさなったのだ。
 美沙は、好きなアニメのグッズを買うのと、パソコン用の新しいモニタを買う、ということらしかった。あかねは青葉には特に興味はなかったが、そこにあるラーメン屋さんとアイドルの劇場と、そこで売られているものを見てみたかった。
 美沙が言うままにあかねも店に入り、商品を見たり、行き交う人の格好を見ていた。青葉は、店の呼び込みの為に、奇抜な格好をした人が多く歩いていた。
 あかねは言った。
「メイドだけじゃないんだね」
「そうだね、イメージ悪いからね」
「え? メイドが?」
 あかねには、美沙の言ったことが良く分かっていなかった。
 美沙は少し口ごもりながら言った。
「あ、あれだよ。ふ、風俗とかさ、そういうイメージついちゃったでしょ?」
「そうかなぁ」
「特に男の人たちにね。だからもっとアニメ調に変えるんじゃない?」
「ふーん」
 あかねにとっては、衣装がカラフルで華やかだから、別にメイドでなくても楽しめるから関係ないや、と思っていた。しかし、こういうものに負のイメージがついたりすることがあるんだ、と意外に感じていた。
 あかねは、そんなふうに、歩きながらボンヤリとビラを配っている人たちをみていると、ふと、知っている顔を見つけた。
「あれ? ミチ?」
 すぐに小さなビルの入り口に入ってしまって、しっかりと顔は見れなかったが、ミチのようだった。山川道子、あかねと同じ女バス。
「美沙、ちょっとまって」
 袖を引いて引き止めると、ミチが入って行った小さなビルの入り口に向かった。
「どうしたの、そのビルには何も店入ってないよ」
 美沙はスマフォを見ながら言った。
「ちょっと友達がいたような」
「女バスの娘?」
「うん」
「なんか店とかあるなら、郵便受けに書いてあるんじゃない?」
 美沙が進んでビルの入り口に入ると、あかねも入った。そして壁に張り付いている小さいカードを見て、すぐにその建物がどういうものか分かった。
 それぞれのカードには、メールアドレスや電話番号、サイトのURL、そして、女の子の写真があった。写真も、服からちらりと胸やふとももを見せているようなもの。
 美沙がさっき言っていたようなこと。
「あかね、出よ」
「うん」
 ミチ、このビルに入ったんだったよね? まさか、違うよね。あかねは祈るような気持ちだった。
「ちょっと隣だったかも」
 あかねは隣のビルに入った。そっちにも多少同じようなものが貼ってあったが、メイド喫茶やコスプレ衣装制作・販売の店とかが入っていた。
「こっちだったかも」
「行ってみる?」
 あかねは答えに迷った。
「ど、どう思う?」
「自分がバイトしてて、ましてや、そういうことを言ってないんだったら…… 突然知り合いが来たらヤだな」
「そうだよね…… うん。やめとく」

 その後、二人は、あかねが行きたがっていたラーメン屋に入り、午後はアイドルの劇場を外からみたり、アニメのグッズを探したりして過ごした。ミチのことは全く頭から消えていた。
 美沙は買い物が一通り終わり、あかねも満足した頃だった。
「あかね、疲れたよ」
 美沙が肩に寄りかかったきた。
「バクバクでもよる?」
「え? カフェにしようよ、カフェ」
「良いとこあるの?」
 美沙は歩きまわっている最中に気になるところがあったらしく、そこに行こうということになった。
 カフェに向かう途中、あかねは暗い表情の、メイド服の女の子を見かけた。
 その子は別に知り合いではなかったが、あかねはミチのことを思い出してしまった。 
 カフェにつくと、美沙はキャラメル・ラテで、あかねはアイスココアを注文した。
 窓際の席につくと、美沙は満足気に今日買ったものを取り出しては説明し、次のものを取り出しては説明を繰り返した。
「……そうなのよ、そこがポイントなのよ」
「なるほどね」
 あかねには、一つ一つの細かいところは、良く理解出来ていなかったが、相槌を打つことに決めていた。
 美沙の話が尽きたころ、あかねは話を切り出した。
「美沙にね、ちょっと相談したいことがあって」
 あかねは、部活にいるセクハラ教師の話、体育館で聞いた声の話、WiFiが体育館でも繋がった話、もやもやとしていた話をすべて、話してしまった。
「いやぁ……」
「どうしたの」
「お腹いっぱいって感じです」
 あかねは逆に、便秘が治ったような気分で、すっきりしていた。
「どうにかならないかな?」
「どうもこうも。まずは、エロ教師はさっさと退場してもらった方が良いんじゃない」
「あ〜 そう思う。ホント」
「体育館の声だけど…… これはもうちょっと検索しちゃうよ。どっかの掲示板に書き込みでもあるんじゃないかな〜 気になるね〜 誰だろうね〜 って感じね」
「分かったら教えて…… う〜ん。やっぱやめとく」
「あら。面白そうなのに…… WiFiの話だけど。あれはよっぽど壁がないかぎりはある程度広がりあるから、体育館の端なら届くわね。というより、体育館にWiFi機器がおいてある可能性はあるね」
「そうか…… なんか調べる機械とかもってる?」
「持ってないけど、盗聴器みたいな小さいものじゃないから、見れば分かるんじゃない?」
 あかねには良く理解出来なかったが、調べて欲しかった。
「分かるの?? じゃ見つけようよ。物騒だもん」
「うん。いいよ」
 あかねは、具体的な日を決めて、美沙と体育館を捜索することにした。