真琴は居間を出ると、フランシーヌがどこにいるのか分からなくなった。キッチンダイニング側ではないので、一階には選択肢が三つしかない。
 一つは応接室、残りはトイレ、バスルームだった。
 階段を上がってしまったら未知の領域だった。高校に入ってから一年半は経つが、真琴は二階に入れてもらったことはなかった。
「ということで、応接室から」
 真琴は頭の中にある三行の中の先頭にチェックを入れた。玄関方向へ歩き出すと、応接室の扉があった。
 何も物音もしなかったが、そっと扉を開けた。ただ光りが差し込んでいるだけで、誰もいなかった。
 ということで、トイレは後回しにしてバスルームに向かった。トイレに入っている可能性もあったが、それならしばらくすれば出てくるだろう。
 居間を通過してバスルームの扉を開けると、フランシーヌが風呂の方向を向いていた。
「ここだっ(たの)」
 声が小さくなってしまったのは、ヘッドドレス以外全裸なことに気がついたからだった。そういえば、服を着ては服を脱ぐ、を繰り返せ、という指示だった。
 それにしても、この、きゅっとしまった腰のラインから、充実したおしりのラインは、男の子がみたらたまらないんだろうなぁ、と思った。さらに真琴には、いや男でなくともそう感じるんだよ、と涼子が耳打ちしている錯覚が生じた。
 じっと見つめているわけにも行かず、真琴は声をかけた。
「フランシーヌ、服を来て」
 言葉で言っても反応がないようだった。
 フランシーヌは風呂場の扉を開けた。
 真琴は風呂場にあった姿見をみつけ、フランシーヌの体を見てしまった。
「わわわ……」
 しっかり目に焼付けてから、目を閉じ、フランシーヌの後頭部に手で触れた。
 薄目を開けて、持っていたノートに目をやると、今度は変な命令ではなかったので安心した。目を閉じて、そのまま手に意識を集中すると、頭痛が起こった。
「ゔぉ」
 フランシーヌが急に振り返ったので、真琴は目を開けた。目の前には裸のフランシーヌの立派な胸があった。
「ちょっ、服着てよ」
「ゔぉぁあ〜」
 しまった、まず服を着るコマンドを入れないと、自主的に行動する訳がなかった、真琴は後悔した。
 フランシーヌは、びょん、びょん、と手を高く上げてジャンプしてくる、これがフランシーヌの思っている『うさぎ』のイメージなのだろうか、と思った。
 びょん、とジャンプする度に、真琴の視線はその胸にいってしまう。
 フランシーヌはおもしろがっているように、どんどんと前に進んでくるせいで、真琴が後頭部に触れようとしてもなかなかできなかった。
「フランシーヌ、ちょっとおとなしくして」
「ぅぉ!」
 また跳ねてきた。
 真琴はしかたなくバスルームを出て、扉を閉めた。うさぎは扉を開けないよな、と思ってしばらくみていると、案の定扉で止まったようだった。
「ふぅ……」
 真琴は居間に戻って涼子に相談しようと思った。
 居間は、メラニーにのしかかられ、顔を舐められまくっている涼子と、息を切らしながらももも上げをするロズリーヌ、という展開であった。
「涼子、もう計測どころじゃないでしょ?? 一度止めようよ」
「そ、そうだね、キャハハ、くすぐったい!」
 真琴は、いや、くすぐったいというか、なんか変な気起こしてんだろ、二人共、とツッコミを入れたくなった。
「コントロールの変更は出来た?」
「出来た! それより止めようよ。フランシーヌがさ」
 真琴が言いかけるのを遮り、涼子は天井を見ながら、何か思いだしたように言った。
「ごめんね。あのさ、気になってたんだけど、学校の予鈴でコントロールが解けたんじゃないか、って疑問があったでしょ? それを確かめてみてよ」
「急に予鈴っていわれても、そんな音用意してないよ」
「スマフォで検索しなさいよ!」
 まさかそんなこと言われるとは……
 真琴はスマフォで検索し、どうやらアニメか何かの動画だった。再生していると、東堂本の予鈴に近い音がなった。
「どうかな?」
「……」
「あれ、そうだね。上手くいったみたいね」
「わたしゅ……」
「あっ、あ、だる…… 足だるい」
 ロズリーヌはソファーに落ちるように座り込んだ。
 メラニーは口元からたれているヨダレに気付いて、慌てて台所に行った。
「なんとか収まったね」
「何故、予鈴、という疑問はあるけどね」
「うん、別にコマンドを入れる時にそういう音で止まれ、とは入れてないんだけどね…… 何がそうさせてるのかな?」
「いやぁ、まあ。けど、楽しかった。また暇な時にやってよ、真琴」
「遊びじゃないんだよ!」
「?」
 涼子はこのエントーシアンとの戦いの重さが分かっていないようだった。真琴は薫がこの場にいたらどういうだろうか、を考えながら滔々と説明をした。
 涼子も少し反省してくれたようだった。
 真琴もこの何回か、コントロールを入れたり変えたりした経験をしたおかげで自信がついた。
 明日、浜松は同じように朝はやくからクラスメイトにしかけてくるのだろうか、それとも別の手でくるのか。
 今まで薫に頼りすぎだったせいなのか、簡単に判断できそうになかった。そこで涼子と一緒に考えてみよう、と真琴は思った。