青葉からの帰り、二人で並んで電車のシートに座っていると、美沙が寝てしまった。そうしているうち美沙はあかねの肩に寄りかかってきた。あかねは、別にそれがどうとも思わなかったが、なんとなく美沙の匂いを嗅いで、なんともいえない気分になった。あかねは、これが女の子の匂いだ、となんとなく思った。
 あかねも美沙の髪を頬で撫でるように顔を傾けて、美沙の方をみた。美沙の膝は、寝ているのに、きちんとそろえられていた。ゆだんするとすぐに膝が開いてしまう自分とくらべ、なんて女子力が高いんだろう、という気がした。
 あかねは、話し相手がいなくなったのでスマフォを取り出して、ネットを見はじめた。
「ん?」
 あかねは、『リンク』のタイムラインを開いてみた。
 すると、青葉でミチを探して入った小さなビルに貼ってあった、小さなカードの画像がいっぱいアップされていた。そしてその隙間を埋めるメッセージも意味のよくわからない言葉ばかりだった。
『今度制服姿見せてよ〜』
『去女川駅。ホ別3』
『別にいご、〜20:00まで』
『去女川、写メくれ』
『別2』
 そんなメッセージが延々入っている。
 あかねは、表示される内容はピンと来ないが、自身の勘が、ヤバイ、といっているのを感じた。しかも、もう、どれが誰だかすら分からないぐらいの見知らぬIDからのメッセージが入ってきている。
「美沙」
 あかねは、膝を軽くたたいた。
「美沙」
 肩で揺すってみた。
「美沙!」
 耳元で呼んでみた。
「ひゃっ!」
 ようやく美沙が起きた。
「どうしたの? あれ、泣いてるの」
「美沙、携帯が…… 『リンク』が」
「?」
 美沙にスマフォを渡そうとしたが、手が震えているのに気づいた。
「見ていい?」
 あかねはうなずいた。
 美沙がメッセージを見ると、知らない女の子の顔写真や、場所を示す画像やら写真、数値を伴う短いメッセージが沢山あった。
 美沙は、以前あかねのスマフォにいれたセキュリティソフトのログを見た。特に何も検出されていなかった。
「これ、『リンク』のIDバレしているね…… 削除するしかないよ」
 あかねは、自分のほおを涙が落ちていくのを感じた。
「削除しちゃうと、今まで購入したものとかもなくなっちゃうけど…… これ、多分やばいね」
「うん」
「やっぱり、最初のあのメッセージの時にIDバレしてたのかも」
「美沙、私、操作出来ない。リンクID消して……」
「私もしたことないけど」
 美沙は少し戸惑っていた。
「お願い」
 あかねは、美沙の肩に顔を伏せた。
 美沙はあかねの背中に手を回して、さするように手を動かした。
「分かった、ID消すから。泣かないで」
 IDが消えると、過去のメッセージも、買ったアイテムも、全部捨てることになる。金銭的なこともショックだが、これが全部友達にも波及していたら、大変なことになってしまう。
 あかねは美沙にしがみつきながら、横目で操作を見ていた。本当に削除されてしまう。あかねは目をつぶった。
「消すよ」
「うん」
 あかねは画面を見なかった。
「消した。これであの変なメッセージも出ないよ。また、新しいID取らないと」
「しばらく『リンク』はヤダ、やらない」
 あかねは美沙が背中や頭を撫でてくれているのが嬉しかった。
「そんなこと言わないの」
「本当にしばらくやらない」
 そんなことをやっているうち、二人が降りる駅に近づいた。
「あ、次だよ、あかね、駅つくよ」
 ポンポン、と背中を叩かれた。
「うん。起きる」
 あかねは、美沙からスマフォを受け取り、ろくに確認もせず、そのまましまった。美沙は棚にあげていた、アニメグッズを卸し、膝の下に立てていたディスプレイの箱を持ち上げた。
 その時、ブレーキ音がして電車が止まった。
 立っていた美沙が転びそうなところを、座っていたあかねが支えた。
「え! なに? まだ駅じゃないよ」
 あかねは振り返って確認した。
「本当だ、なんかあったんだ……」
「いつまで止まるんだろう、こういうのなったことないから、ちょっと怖い」
 車内アナウンスがあったが、どうやら線路内の立ち入りがあった、ということらしかった。確認終わり次第出発します、を繰り返していた。
 あかねは、思ったよりも家に付くのが遅れそうだったので、母にメールを入れようとしてスマフォを取り出した。
「え……」
 あかねは、スマフォの画面をみて恐ろしくなった。
「どうしたの?」
 美沙は、しばらく立っていたが、長くなりそうだと思ったのか、あかねの隣に座った。
「あかね、どうしたの」
「変んなメールが」
 あかねが見せた画面を、美沙は読み上げた。
「削除すんなよ、ID復活しろよ…… あ、このメールアドレス」
「何???」
「あのWiFiと同じ綴り」
「まさか、これも、あのWiFiに繋いだせいなの??」
「ちょっと分からないけど、それくらいしか理由ないし……」
「もう嫌!」
 あかねは大声でそう言った。
 と、ほぼ同時に大きな物音がした。
 周囲の乗客は、一斉にあかねの方を見た。それが判ると、あかねは耐えきれずに泣いてしまった。