涼子と話した結論として、電車で登校したのでは浜松さんに先を越されてしまう、ということだった。そこで、薫の家に泊まって、朝、電車が動くより先に、車で送ってもらおうということになった。
 泊まり、となったので真琴は母にメールをして伝えた。
 涼子は母親と電話しているようだった。
「はい。お父様にはそう伝えてください」
 まるで違う人のような言葉遣いだ、と真琴は思った。
「はい。それではおやすみなさい」
 おやすみなさい? こんな時間なのに? と真琴は思った。
「……はぁ、なんとかった。明日決着つかないと、明後日は撮影とかあるから付き合えないよ? がんばろう!」
 真琴はとにかく明日朝の一人目からの攻防になるな、と考えていた。
 教室に入ってくる前にこちらのコントロール下の生徒で浜松を抑え、茶道部が使っている畳の部屋に行ってそこで接触、エントーシアンを倒す作戦だ。
 予想に反して遅く来た時は、一対多でフリになるのは浜松で、問題はない。もっと遅く、予鈴ぎりぎりに来る場合は不安だが、その時は授業後の保健室作戦しかない。保健室作戦の問題は、保健委員が事情を知らないことだが……
「きゃあ!!」
 涼子の声が廊下の方から聞こえた。
「真琴、フランシーヌが!」
 あ…… すっかり処理を忘れていた……
 真琴は廊下にでてフランシーヌを捕まえた。だいぶ疲労していて、動きが鈍かったので、後頭部に手を置くことは容易だった。そして集中してコントロールを解いた。
 フランシーヌはぐったりと体を預けてきたので、真琴はそのまま抱きとめた。
「真琴、ありがとう」
「つーか、フランシーヌに悪いことしたよ……」
「真っ裸でほったらかしだもんね」
 涼子もそう言いながら、服を脱ぎだした。
「なんで涼子まで脱ぐの?」
「シャワー借りようと思って」
「フランシーヌを運ぶの手伝ってよ」
「ごめんね。もう何か汗で気持ち悪いから、先入るよ。ロズリーヌ呼んで手伝ってもらって」
「え〜」
 真琴はフランシーヌを抱きとめながら、居間にたどりつくと、ロズリーヌを呼んだ。するとメラニーとロズリーヌ二人が出てきてくれて、一緒にぶら下げるように持ち上げ、フランシーヌを二階の部屋に連れていった。
 真琴は初めて二階に入ったが、まっすぐな廊下の両側に部屋四つ並んでいるような構成だった。
 すべて角部屋になるような配列だったが、奥の角の部屋がフランシーヌの部屋らしく、そこに入った。そしてベッドの上掛けをめくって、フランシーヌを横たえた。
「全く起きないわ。よっぽど疲れだんだと思う」
「ああ、こっちも足があがらないほど筋肉痛になってるけどね」
 そう考えると、予鈴とかがなければ軽く二時間はこのコントロール下にいることになる。
「服着せないの?」
「大丈夫」
「上掛けをかぶせておけば、だいじょうぶだろ」
 なんか好き勝手言っているな、と真琴は思った。しかしフランシーヌの顔をみると、真琴が考えても大丈夫、と思えた。そんな寝顔だった。
 明かりを消して、部屋を出ると、今日は涼子と居間で寝てもらうという話をされた。薫の部屋はちょうど鍵を本人が持ったままいなくなったので開けれない、と言っていた。
「預かったりすることもあるんですけどね」
「部屋の片付けをさせる時だがな」
「ロズリーヌ」
 そう言ったメラニーは、ロズリーヌを睨みつけていた。
「……真琴、今のは失言だ。たまに片付け以外の時にも鍵を渡されることがある」
「おい」
 真琴はそのやり取りを無視して、話しをふった。
「開かない、ってことは中にいるかもしれないんだよね?」
「……この家にいる可能性は期待しない方が」
「そうだな。わざわざここにこもるとは思えん」
「でも確認出来ないんだよね」
「トイレするには部屋を出なければならないし」
「食事もあるしな」
 真琴は階段の下から上のフロアを見上げた。薫、どこにいるの。何故ボクの目の前から姿を消したの…… 
「真琴さん、何か飲みますか」
「ああ、コーヒーをお願い」
 再び二階を見つめてから
「薫……」
 とだけ言って、居間へと戻った。