あかねは塾の授業が終わり、塾で合流してバクバクバーガーへ向かった。あかねは塾の宿題をしていたが、弟はゲーム機で遊んでいた。
 やまとはゲーム機を閉じると言った。
「姉貴腹減った」
「利子付けて返してくれるなら、お金貸そうか?」
「利子いくら?」
「週100円」
「じゃ、いい。今回の、行き帰りの護衛の金を先にもらうのは?」
「今支払うなら値段下げさせてもらうよ。だって帰りの分、どうなるか分からないんだから」
「ちゃんとやるよ」
 やまとは、うざったいな、という顔をしている。けれどまあ、これがいつもの会話だ。
「じゃ、やった分を払おうか、500円」
 やまとは店に貼ってある、季節メニューのポスターを見ながら何かブツブツつぶやいた。
「それでいい。じゃあ頂戴」
 あかねは500円を渡すと、やまとはカウンターに言って何か注文してきた。どうやら直ぐには出来ないものらしく、番号札を立てたトレイを持って戻ってきた。
「何頼んだの?」
「バクバク・クラムチャウダー」
 この時期にクラムチャウダーやってるのもビックリだが、頼む方もビックリだった。頼む人間がいるから提供している、というのもあるのだろうが。
 やまとが椅子に座ると、その影の先に、美沙が店内に入ってくるのが見えた。
「美沙! こっち」
「ちょっとチキン買ってくる」
 美沙はそう言って、席にカバンを置くと、そのまま下のカウンターに行った。
 美沙がチキンを持って帰ってくると、その後ろに店員も歩いてきて、やまとのクラムチャウダーを置いていった。
「クラムチャウダー?」
 弟はうなずいた。
「やってるんだよ、こんな暑い時期から」
「そういえば、コンビニの『おでん』も始まるもんね」
「美味しい?」
 弟はうなずいた。
「美沙、ちょっと相談が」
「うん、良いよ」
 あかねは、小さい具を一つ一つ確かめるように食べている弟をみて考えた。
「弟がいるからな……」
「なんだよ、じゃあっち行ってるよ」
 やまとは、トレーを持って、姿は見えるけれど声は聞こえない位置に移動した。
「やさしいのね」
「そうなのかもね。それより美沙、聞いてよ」
 あかねは、女バスの意見のまとめ役になったこと、神林みくのこと、変なおじさんのことを話した。
 最後に、付け加えた。
「何度も言ってるけど、川西の事は他の人や親に言ったらだめよ」
「うん」
 あかねは言うだけ言って、多少気持ちが落ち着いた。
「その神林さんはヤバイね」
 美沙はそう言った。
「何か、共生関係というか、そういうのが先生とあるのかもね」
「きょうせいかんけい?」
「助け合い、みたいなものね。先生が顧問でいるとか、学校の先生を続けていることで、神林さんが特をしているとか。だから多少面倒くさくても、顧問であってほしいとか、そういうことなんじゃないかと」
 あかねにはメリットがあるように思えなかった。ただ『どんなメリットなのか』が人それぞれ違うだろうから、本当にそういう関係なのかも知れない。
 あかねは言った。
「そこが知りたいね!」
「え? そこって?」
「神林さんにとってのメリットみたいなもの」
 美沙はあごに手をつけ、少し考えたようだった。
「先生を監視するか、神林さんを監視するか、って問題があるね」
「美沙が先生、私がみく、でどう?」
 美沙の顔が強張ったのが分かった。
「あ、えと……」
 美沙は口ごもっていた。
 あかねは閃いた。今日の塾の行き帰りと同じだ。
「じゃ」
 あかねが手招きをして弟を呼んだ。
「やまとと一緒ならどう?」
『え?』
 二人が一斉にあかねの顔を見た。
「どういう組み合わせ?」
「おね、あ、姉貴?」
 あかねは言った。
「土日どっちかの1日だけいいから。平日はいいからさ」
「えっと? 今週末?」
「お、俺だって」
「やまとは帰宅部でしょ?」
「帰宅部だって土日は関係ねぇだろ」 
「うん、土日。用事があるだろうから、どっちかでお願いできないかな?」
 弟は思い出したように言った。
「あ、バイト代出る?」
「美沙と一緒に行動出来るのよ? デートなら、あんたがお金ださなきゃいけないところよ?」
 自分で言っていて、いろいろ問題発言だ、と思ったが、やまとも美沙もそこはスルーした。
「だから、いいでしょ?」
「やだよ」
 やまとはチラっと美沙の顔を見てから、
「あ、その、美沙さんがイヤとか、そういうことじゃないですから」
 と言った。
「じゃあ、千円出すから」
「えぇ〜〜」
 たぶん、これでやってくれるだろう。中学生なんてチョロい。こっちも今月の金曜にお小遣いももらえるから、今回の報酬を払っても問題はない。
 あかねは手を合わせて頼んだ。
「美沙、やまと、本当にお願いね」
「そう言えば、WiFiの調査は?」
「あ、同じ日だっけ…… やまとと一緒にやってもらえる?」
 美沙があからさまにイヤそうな表情をした。
「あ、ごめん。私が頼んだんもんね。じゃあさ、今日やる? 今日?」
「いいよ」
 あかねはまさかの答えが返ってきてしまい、どうするかを考えた。
「やまと、今日これから何にも用事ない?」
「ないけど……」
「行けるってことね」
「……」
 あかねはやまとの返事がOKだと判断し、美沙に言った。
「じゃ、行こう。美沙、本当に今日やって問題ないの?」
 美沙は頬に手をあてて少し考えているようだった。そして言った。
「一度家に寄れば大丈夫。パソコン取ってくる」
「じゃ、決まりね」
「やまと、携帯かして」
 あかねはやまとの携帯から母の携帯に電話をかけた。ちょっと学校に忘れ物をとりに行く、やまとも一緒だ、と説明した。
「よし、じゃ、美沙の家に寄ってから学校ね」
 三人は同時に立ち上がった。