あかねと美沙とやまとの三人は、まず学校の裏通りにあるWiFiスポットに向かった。学校が発信源なのか、それとも他にあるのか、を確かめないといけなかったのだ。
 美沙が家によった時、もうあまり使わない古いパソコンを持って来たので、それを使って、WiFiの電波を調べていった。
 ノートパソコンとはいえ、持って歩くには重いので、あかねがやまとに持たせていた。
「やまと君、ごめんね」
「大丈夫です」
「いいのよ、気にしなくて。帰宅部は運動不足なんだから」
 それを聞いて、やまとはあかねの方をキッと睨んだ。
 あかねは、ノートに位置ごとの電波強度を書き込んでいた。
「こんな感じだけど」
 あかねは美沙にノートを見せた。
「うん。確かにこの体育館の端っこを中心にしている、ように思うね」
「何なの? このWiFi。繋いでもいいの?」
 やまとは、パソコンを置いて、自分のスマフォに、その調べているWiFiの名前が出ることを確認していたようだった。
「あ! やまと、やめなさい。呪われるわよ!」
「呪われる? 姉貴、正気かよ」
「いや、わたしのスマフォ壊れたの、実はこのWiFiが原因じゃないかって思ってる」
「そんな馬鹿な」
「マジよ」
 やまとが騙されるか試すつもりで、真剣な表情を作って言った。けど、あながちウソでもないし、とあかねは思っていた。
「じゃ、やめとく」
「呪われるとか、信じたの?」
「いや、普通にパスワード掛かってないところはヤバイって言うし」
「やまと君偉い!」
 美沙が言った。
「やっぱり最初の予想通り、体育館ってことになったわね」
「じゃ、学校入ってみようか」
「いや〜 入れないでしょ?」
「こっちからはね。けど、正門って開くのよね」
 美沙が不思議そうな顔をした。
「え? この時間に?」
「まだ警備が入っていない時間は、正門の小さい扉も開いてるのよ。部活とかで遅くなった時に出入りしたもん」
「こんなに遅くまで練習するの?」
「試合の前とかに、たまにだけどね」
 あかね達は学校の正門に向かった。
 問題は職員室に残っている先生だ。先生が全員いなくなると、警備の機械をセットしてしまう。そうなるとセンサーが働くし、鍵も掛かって、出れなくなる。
 あかねはやまとを押し上げて、塀の上から職員室の様子を見させた。
「何人いるか数えるだけでいいから」
「え、どこが職員室……」
「明かりのついてる部屋よ、重いんだから早く数えて!」
「あれか。5人、5人はいるよ」
 あかねはやまとを下ろした。
「5人いればまだ大丈夫ね。カメラの位置を教えるから、そこだけ下向いて歩いた方がいいわ。後で何か言われるのやだから」
 あかね達はさっと正門の小扉から入り、体育館に行くまでに二箇所あるカメラのところで下を向いて顔が映らないようにした。
 体育館の入り口は、鍵か掛かっていて開かなかった。しかたなく、脇の細いところを通って、パソコンのWiFi強度を調べ始めた。
「やっぱり、こっち側に中心があるね」
「体育館の中で間違いないね」
「けどさ、この裏ってなにがあるの?」
「こっちだと舞台側だよね。準備室は反対側だし、なんだろ?」
 あかねには分からなかった。
「内側に小窓があって、確か、放送室っぽいのがあるんじゃなかったっけ?」
 その放送室に入るには、体育館の中に入らなければならなかった。あかねは決心した。
「やっぱり中入るか」
「あかね、そんなこと出来るの?」
「川西がまだいれば入れると思うけど」
「え? そんなことしたら、入っているのバレちゃうじゃん」
「そこはうまくやるんだけど…… ま、万一見つかったって、こっちも川西の弱みは握ってるし」
「いやいやいや」
 美沙がたしなめるように言った。
「あかね、部員の中にはそれをバラされたくない人もいるんでしょ?」
「そうだった。その為に私がまとめをやらされているんだった……」
 あかねは取り敢えず体育館沿いに回って体育準備室へ向かった。
「明かりがついてる。川西がまだいるってことだ」
「やまと、あっちの木の茂みまで行って、中に人がいるか見てきて。いなければ手でマルをつくるのよ」
 やまとは準備室から見えないように塀ぞいを歩いて、中が見える位置へ回った。
 コソコソと態勢を変えながら、あかね達の脇にある体育準備室の中の様子を見ていたが、何か分かったように塀側に来て、手でバツを作った。
「ダメか……」
 あかねが言ったとたん、大きな音がして準備室の扉が開いた。
 川西が出てくると、何か書類を持って職員室の方へ歩いていった。
「この隙に入っちゃおう」
 あかねは美沙の手を引っ張って、体育準備室に入り、体育館の中へと入ってしまった。やまとはどうしていいかわからず、そのまま外の茂みに隠れて動かなかった。