薫は、もはや人では無かった。浜松は怯えたような声で言った。
「どうして?」
「どうもしないさ、見えるように見えているだけだ」
「大丈夫」
 真琴は浜松の前に立ち、バトンをさっきまで薫だった怪物に向けた。
「こいつはボクが倒す」
 真琴はバトンで狙いをつけて、言った。
「エナジーシュート!」
 先端が光って光球が怪物へと飛び込んでいく。頭のしっぽが、光球めがけて振り下ろされ、それを弾き飛ばした。
「ヒカリ!」
 女性の姿をしたヒカリは、ドライバーを使ってバイクヒーローに変身した。
「剣よ!」
 ヒカリの手に剣が現れた。
 そして的のやっかいなしっぽ、そして両腕のハサミを斬りつけていった。しかし相手のハサミもしっぽも、硬質で傷つきもしなかった。
「どれだけ固くたって」
 真琴は、バトンを敵に向けた。
「エナジーフレイム!」
 青いガスが先端から敵に伸びると、左手のハサミが変形した。
「くっ!」
 敵は、煙の上がる左手を引いて後ろに逃げた。
「ヒカリも!」
「フレイム・ガンモード」  
 持っていた剣は変形して、両手持ちのライフルのような形になった。
「同時にいくわよ」
 教室の隅に追い詰め、二人は同時に叫んだ。
「エナジーフレイム!」
「点火!」
 青い炎が両脇から照射されると、怪物の体に火が着き、黒い煙を出しながら燃え始めた。始めの内は手を振って消しにかかっていたが、炎が頭や体に回ると、膝から落ちて倒れた。
 さそりの怪物が完全に動かなくなったのを確認すると真琴は言った。
「勝った」
 ある精神体を『殺した』のだ、と真琴は思った。何も現実世界では罰せられないことだが、殺らねば殺られる状況下であったが。それを喜んでいいのか、という疑問が残った。
「やった!」
 浜松はパチンと手を叩き、それから真琴の方へよって来た。
「浜松さんが無事で良かった」
「新野さん。私は『たまち』でいいわ。だから、真琴、と呼んでいいかしら」
「どうぞ」
「よかった」
「さっきの、薫のことは本当なんだよ。教室には薫は来ない」
「うん」
「現実は夢のようにやさしくないけど」
「大丈夫。真琴が友達で居てくれるなら」
「ボクで役にたつなら」
 たまちは、真琴の首にとびついてきた。
「真琴」
 真琴は無意識にたまちを抱きしめていた。
 するとヒカリがドライバーを外して、元の髪の色が違う真琴、に戻った。ヒカリは言った。
「マコト、本当に君は……」
 ヒカリは頭に手をやったかと思うとフラフラと倒れてしまった。真琴はたまちを離すと、ヒカリに駆け寄った。
「どうしたの、ヒカリ」
「分からない。何故こうなるのかも。地面も空も。世界が回っているような感じがする」
「めまい、だよ。精神体にもめまい、は起こるんだね」
「そうなのか。めまい、なのか……」
 ヒカリは言った。
 そのまま風景全てが透け始めた。そしてすけた先が白から明かりのない暗闇に変わり、そしてすべてが黒く染まった。
 夢の中の意識が消えた。
 一瞬の無意識の後、朝の光りに目を開くと、そこは高校の向かいにある公園だった。上野と品川がそこで待っていた。
「目が覚めた?」
「勝ったの?」
「うん、勝った」
 自分でやったのだが、かなり無茶に足を合わせてしまった。真琴はたまちの足をどかしたり、自分の足を抜いたりしながら、簡単だが外れにくいパズルを解いていた。
「いや!」
 たまちが目を覚まして、スカートを押さえた。真琴がベンチから立ち上がる為に、たまちの足を上に上げていたからだった。
「ご、ごめん。外れなくて……」
「あ、真琴。ごめんこっちも大声だして」
 上野と品川は二人を見てニヤリと笑った。そして上野は言った。
「私達ではずしてあげる」
「お願いします」
 上野が真琴を、品川が浜松をそれぞれ引っ張り、なんとか絡みあった足は解けた。上野も、浜松も、真琴もここからどうやって学校に行っていいか分からなかった。
 公園に詳しい品川が案内しながら、学校方向へと歩き出した。
「そういえば。ボクが疑問なのは『リンク』のメッセージなんだけど」
「?」
「どうしたの?」
「確か、涼子の『リンク』からもう大丈夫だから来なくていいとか、って。読まなかった?」
「え?」
 上野は自分のスマフォを確認した。
「そんなカキコあったっけ?」
 品川も『リンク』を見ていた。
「涼子のメッセージは見えるよね?」
「うん」
「見えるよ」
 真琴の知識ではそれがどういうことなのか分からなかった。
「もしかして、二人とも圏外だったとか?」
「失礼な」
 品川は画面を確認してから言った。
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、いいや。忘れよ」
 たまちがスマフォを出して、真琴に言った。
「真琴、私も『リンク』入れて」
「ああ、そうだね」
 真琴はたまちを『リンク』に加えた。たまちは嬉しそうに何かメッセージを書き込んでいた。真琴はそれを見て、微笑んだ。
「ありがとう。ボクもたまちと友達になれて、うれしい」
 四人は朝の日差しの中を、学校へと歩いていった。

ーーー 五話 終わり