昼休みに美沙と話しながら、あかねはその書き込みのことを話した。
「実際にその書き込みを見たいね」
 美沙は、神林の方を見ているようだった。
「(いや、あの子は容疑者だから)」
「いいじゃん、何か判るかもしれないし」
「(私が声掛けるんだよ)」
「大丈夫だよ」
 美沙は神林と目があったのか、手を振った。
 あかねは慌てて言った。
「(なんでそんなことするの)」
「あかね、なんか用? 呼んだでしょ?」
「あ、あのさ、私スマフォがなくてさ」
「ああ、そうだったよね」
 神林は続きを待つような相槌をうった。
「でさ、なんか昨日部活の『リンク』に変な書き込みあったらしいじゃん」
「あったね」
 神林はまだ何がしたいのか分からないようだった。
「それ、見せてくれない?」
「なんだ、言ってよ」
 神林は、ようやく合点がいった、という表情になった。そしてスマフォを取り出すと、しばらくページを送ってから二人に見せた。
「ほら、ここ」
 確かに書いてある。
 あかねはメッセージを読んだ。
『一度触られた者は、触られ続けないと死ぬ』
 ばかばかしいにも程がある。
「みくは、これ、誰がやったんだと思う?」
「多分、女バスの人じゃあない」
「え? だって女バスの連絡用じゃん」
「誰かが、あの変なWiFiに繋いだんだよ」
 もしかして、私の事? あかねは思った。
「あ、あたしのは壊れてるから」
「あ、そうか、あかねの!」
 神林があかねを指差した。全くやましいところはないのに、何か、背筋にゾクっとくるものを感じた。
「え? だから壊れてるから」
「じゃあ、他の誰か。誰かいるの。誰かいるのよ。あれには繋いじゃいけないのに」
「うん。そうだよね」
 あかねは怖くなった。
 盲信的にそう信じる神林が怖いのではなく、本当に何かあのWiFiから何かが侵入して、誰かの携帯を乗っ取っているのかもしれない。
 全ての通話を聞かれているのかもしれない。
「あかね?」
 美沙が呼びかけた。
「あかねどうしたの?」
「え、どうかしてた?」
「神林さん行っちゃったよ」
「なんか怖くなってきた」
 美沙がキョトンとした顔で聞き返してきた。
「怖い?」
「さっき、みくが言ってたこと」
「?」
 美沙は良く分からない風だった。そしてあかねに言った。
「携帯のメッセージを見せただけでしょ?」
「?」
 今度はあかねの頭に『?』がついた。
 携帯のメッセージを見せただけ。携帯のメッセージを見ただけだったのだろうか? いや、自分がたずねて、みくが答えたのだ、単なる幻聴じゃないだろう。
「私がさ、みくにきいたよね? みく、どう思うって?」
「……」
 美沙は腕を組んで考えているようすだった。しばらくして、口を開いた。
「一度言おうと思ってたんだけど」
 あかねは何を言われるのか、全く想像が出来なかった。だから、わざわざこんなに間を空けて言う意味が分からなかった。
「何か、霊感というか」
「れいかん?」
「私の聞こえない声というか、お告げというか、幻聴というか……」
「げ、幻聴?」
 あかねは、急にさっき神林が言ったであろうことが、現実ではなくあかねにだけ聞こえた声なのか、と考え始めた。
 いや、はっきり言ったよね? 聞こえないのは美沙がおかしいんじゃ? だってこの前パソコンで検索した時だって、あんなに明確に指を差して教えているのに、『呪われる』という時が見えなかったし……
 それとも、美沙はずっとそう思ってたの? あかねは右から左から重力を感じるような感じがした。まともに立っていられない……
「そんな……」
「あ、そんな、た、たまにあるよね。大丈夫だよ、あかね、しっかりして」
 美沙があかねのことを気遣うように、腕をとってしっかりするように、と言った。
 あかねはまだ何かの力でふらふらと動かされているような感じがしていた。
 もう何か、何も信じれるものがない。どうすればいいんだろう。本当に呪われたのだろうか、このまま美沙に迷惑をかけちゃいけない。
「ごめん」
 あかねは、美沙を振り払って教室に戻り、教科書やら持ち帰るものをすべて鞄に入れると、また教室を出た。職員室に入り、担任に今日は家の都合で早退すると告げ、なにも連絡がないぞ、と引き止められるのを振り切って学校を出た。
 自分がいやになった。
 どうしてそんな声が聞こえたり、変なものが見えたりするんだろう。
 いつからそんなことがあると思われてたんだろう。
 どうしたら普通になるの。
 どうしたら美沙にあんな事言われなくなるの。
 自分はどうしてしまったのだろう。
 もうダメなのかも。
 今まで、皆黙ってたのかも。
 あかねは、どこを歩いているのか、意識もないまま駅についていた。
 そして、家に帰るでもなく、電車に乗った。考えることは同じことの繰り返し。自分が見たものが正しいのか、自分が聞いたことが正しいのか。幻影や幻聴の世界にいたら、自分はどれを信じて、どうやってそれを確認したらいいんだろう。
 私はどうしたらいいの……
 

ーーー
いつもありがとうございます。
お手間でなければクリックをお願いします→にほんブログ村