真琴は休み時間に京町生徒会長に、生徒会名簿を見せて欲しいことを伝えた。京町会長が言った。
「閲覧するには理由がいるけど」
「エントーシアンに関係するかもしれないので」
「それでは見せられないの」
 真琴は京町の顔をみた。本当に真剣な表情で、冗談を言っているようでは無かった。
「そこをなんとか」
「……閲覧者、日時、理由を書いたノートがそこにあるから」
「あるから?」
「……」
 佐藤副会長が、ノートを広げて指を指し示した。
「ここを見て。判る?」
 過去の閲覧者の日時と理由が書かれている。
「わかりました」
 ようやく真琴は上の行を書き写すことで生徒会名簿を閲覧することが出来た。
 真琴は在校生の分を開くと、緑が付く名前を探し、そして見付けてしまった。
「いた……」
 緑川勇気。少し前にあった薬物による自動車暴走事故の弟。涼子のクラスでもなかった。今のところ、あのクラスから【鍵穴】の人物は見つかっていない。
「写メしていいですか?」
 呆れ顔の京町が言った。
「ダメだって」
「じゃ、クラスの集合写真とかないですか?」
「個人情報ってのがあるでしょ?」
「そこをなんとか」
「ダメです」
 佐藤がチラリとスマフォを確認すると、京町は言った。
「もう休み時間も終わるのでここまで」
 ノートを取り上げて元の棚に戻し、生徒会室の鍵を取った。
「いくら世界の危機でも協力出来るのはここまでよ」
「まだ、その人が【鍵穴】と確定した訳じゃないんでしょ」
 真琴は正直にうなずいた。
 今まで男の子で【鍵穴】だったものすらいない。ただ、何か直感が訴えかけていた。もしかしたら自分のものではなく、ヒカリの『勘』なのかもしれない。
「ああ、そうだ。朝とか、放課後とかは体育祭の関連で色々忙しいので、何か手伝えるとしたら昼休みよ。じゃあね」
 真琴はお辞儀をし、
「ありがとうございます」
 と言って、緑川のクラスの方へと歩き出した。
 緑川がいるクラスにつくと、真琴は予鈴が鳴るギリギリまで中の様子を見ていた。果たしてそれで何かが判るとは思っていなかったが、ほんのわずかの手がかりでも欲しかった。
 結局、緑川を特定できそうな会話も、こちらに気づくような人物も見付けられないまま、真琴はクラスに戻った。
 クラスに戻ると、たまちが言った。
「どこ行ってたの?」
「緑川勇気、この学校にいたよ」
「え! 本当?」
 そうだ、たまちなら分かったのかも。
「うん。授業の後、一緒に行こう」
 たまちはうなずいた。
 その日の授業が終わり、真琴とたまちは急いで緑川がいるはずのクラスへと移動した。真琴のクラスも授業の終わりは遅くなかったが、緑川のクラスも既に終わっており、もう何人かは帰っているような雰囲気だった。
「わかる?」
「たぶん、判るとおもうけど」
 二人は教室の後ろ側の扉から室内を覗いていた。覗いていますという感じが出ないように、扉から少し離れ、人を待っているような雰囲気を出そうと立っていた。
「みつけたら、合図してね」
「うん」
 真琴は少し緊張してきた。
 男の子が一人通り過ぎる度、何かスローモーションになったように感じた。
 男の仕草や話し声、笑った時の表情、通り過ぎた時の匂い、真琴にとっては、いままで全く意識したことがないものだった。真琴のなかで、男が恐怖と直結していた。
 父がいてくれれば少しはボクも違う風に感じれたのかも知れない、そんなことを考えた。
 クラスから出てきた男たちが集団で傍を通り過ぎると、足が震え始めた。
 たまちが言った。
「どうしたの?」
「大丈夫」
「息が荒いし、寒いみたいにしてるから」
「大丈夫」
「本当に? 風邪でもひいたんじゃ」
「大丈夫だって!」
 真琴は大きな声をだしていた。
 たまちはびっくりした顔をした後、泣き出し、真琴に抱きついてきた。
「ごめんなさい!」
 二人は、一気に周囲の注目を集めてしまった。真琴は、集まる視線から、男性の顔や表情だけに意識が集中してしまい、急にめまいが起こった。
「ご、ごめん、たまち、ちょっと…… たまち、ボク……」
「え、ど、どうしたの?」
 目をつぶって、腰が砕けたように真琴はしゃがんでしまった。そのまま、真琴に聞こえる周囲の声は、小さくなっていった。


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