たまちは、真琴の寝顔を見ながら、色んな事を思い出していた。もし真琴に救ってもらえず、逆に真琴を殺していたら、ということだった。
 まずは、真琴が死んだ場合に検死があるだろう、クラスメイトに寄ってたかってクビを締めて殺されていることになる。つまり、自分の手を汚さずに他人を殺害していたことになる。
「浜松さん?」
 不意に話しかけられて、返事が少し遅れてしまった。
「……はい」
「少し保健室離れるけど、新野さんが起きて、大丈夫そうだったらそのまま帰ってもいいからね」
「はい」
「もちろん、しばらく寝ててもいいから。とにかく無理はさせないようにね。浜松さんも用事があったら帰っていいわよ」
「え、けど」
「ああ、大丈夫よ帰るなら鍵するから、携帯で私呼んで」
 そう言って保健室の先生は出ていってしまった。
 たまちは、また続きを考えた。
 もし自分が犯人と特定された場合、エントーシアンも体を離れられないのだから、捕まって刑務所に行くことになる。
 せっかく肉体を乗っ取っても、世界を征服したりするには程遠い。なぜそんなことをしてくるのか、全く理解出来なかった。
 しかし逆に自分が、エントーシアンのいる、死そのもののような闇の中にいたとして、掴み取った肉体を失いたくない、ということは理解できた。
 真琴が少し声を出して、寝返りをうった。たまちは、そうして真琴の様子をみたり、考えごとをしているうちに、眠くなってしまった。
「私も少し寝させてもらおう」
 制服の上着を脱いで、真琴の背中の方から布団に入った。他人が温めた布団がとても気持ちよかった。
 たまちは真琴のことを昔から知っていた。真琴とエントーシアンが戦っていた時は、真琴のせいで薫と話せなかったように思っていたが、常に薫と真琴が一緒にいることをずっと認識していた。だから、どちらかを自分に置き換えてみたことはなかったし、恨んだりしたことはなかったはずだ。
 しかし、そんな記憶を利用されたということなんだろう、とたまちは思った。常に意識下にいた存在、けれど自分はその二人とは友達になれない。そういうもどかしさとともにあった記憶を。
 しばらく保健室の天井をみたり、目をとじたりしながら、そんなことを考えていたが、急に真琴が寝返りをうってきた。
 たまちはちょっと焦った。
 たまちの、眠りかけていた意識が急に覚醒した。
 ちょっと横を向くと、今までにないくらい、真琴が近くにいるのだ。電車に乗った時に、肩を抱かれたのにもビックリしたが、これはまた別のドキドキがあった。
 たまちは、いっそ真琴の方に体を向けてしまおうか、と考え始めた。
 寝ぼけた真琴の腕が体に絡みついてきた時、たまちは恥ずかしくなって、真琴に背を向けるように横向きになった。
「たまち……」
 起きたのか、起きていないのか、後ろを向いてしまったためにわからなくなった。
「な、何、真琴」
「たまち……」
 体に回してきた手が、脇腹を通りたまちの胸に触れた。
「え、真琴、起きてるの?」
 いや、起きていたら、こんなに力弱いわけがない、寝ているのだ、とたまちは思った。
 そしてこの状態で保健室の先生に戻って来られた場合に相手に与える心証を計算した。めまいを起こして倒れてしまった真琴、付き添って来た、元気なはずのたまち、どうして同じベッドに寝ている? どんな言い訳を考えても、常識的に自分が不利だった。
 たまちは、起こさないようにそっと真琴の腕を退けながら、仰向けに戻った。そして、腕をどこに戻そうかと考えた瞬間、真琴が体の向きを変えようとした為、腕を引いた。
 体重の軽いたまちは、巻き込まれるような形で真琴の体の上に乗ってしまった。
「!」
 少し不自然だったが、たまちは真琴の唇に、自分の唇を重ねていた。確かに体は少し引っ張られたが、それは、あからさまに故意だった。心の奥しまっていた欲望を、あたかも不慮の事故の結果のようにして実現させてしまったのだ。
「夢の中以来ね」
 たまちは吹っ切れたように、目覚めない真琴にもう一度キスをした。


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