「あかね、昨日はゴメン」
「……」
 あかねは、どう受け取っていいのかが分からなかった。その部分が、美沙に確認したいことでもあった。
「あの」
「えっと」
 二人は同時に話し出そうとした。
 あかねは、ケーキを切って口に運んでから、手のひらを美沙の方に向けて、話すように促した。
 美沙は紅茶を口に含み、すこし姿勢を正してから、言った。
「私が言ったことで、傷ついたよね」
 あかねはとまどいつつも頷いた。
「本当に、私もあのWiFiの呪い、っていうのを信じてしまいそうだよ」
「え? 美沙、それ、どういうこと?」
「あかねがそういう、変なものを見たり、聞いたりするのって、例のWiFiにアクセスしちゃってからだもん」
 あかねの中で、何か、モヤモヤしていたものが、少しだけはっきりした。
 そうか、私は初めからずっと、頭が狂ってるような人間だったわけじゃないのか。それだけでも重要な情報だった。ただ、やっぱり変なものを見てしまっていて、変なものを聞いているのは間違いない、という現実も同時につきつけられてしまった。
「私、気が変になったように見られてるのかな?」
「あかねが、他の人といる時の事、わからないから、どう思われているのかは分からない。けど、私はそうは思ってないから」
「えっと、その…… その時ってどうなっているの?」
「この前の神林さんの時はね、なんか口の中で、モゴモゴ言ってるの。視線がどこか狂っていて」
「え……」
「あ、狂ってるって、ごめん。そういう意味じゃなくて、どこを見てるのか分からない感じ、ってこと。大丈夫だから。大丈夫」
 あかねは慌てて訂正する美沙に、逆に自分が悪いことをしている感じなった。
「いや、そんなに気にして……」
 そこまで言いかけて、いや、気にしていたから昨日、あんなことを、とあかねは思った。そして今日も学校を休むことになった。そんなに気にしていない訳はなかった。それはあまりにウソだ。あかねは言いやめた。
 しばらく沈黙の時間が過ぎた。
 あかねも、美沙もケーキを食べ終わり、残っていた紅茶も飲み干していた。
「あかね、気にしてない?」
「大丈夫。もう大丈夫だよ。知りたいこともこれで分かったから」
「よかった」
「今日塾ないよね? ちょっと私の部屋にいく?」
「うん」
 美沙は元気を取り戻したような笑顔をみせた。あかねもその笑顔で、自分の奇行のことを忘れることが出来そうだった。
 部屋に入ると、あかねは自分の好きな青葉系アイドルの写真集や、ポスターの話しをした。
 二人は、ベッドの上に思い思いの格好で座っていた。あかねは壁に背中をつけ、美沙は足を伸ばして座った。
 一通りあかねのアイドル話を聞いていた美沙が言った。
「ちょっと興味湧いたよ。今度、青葉の劇場で一緒に見よう?」
「そうだね、私チケット…… あっ」
 スマフォがないから、チケットとか、そういうのはどうやって買おう、とあかねは思った。ただでさえ、情報にうとくなっているのに。
「チケットは私が取るよ」
 美沙が急に顔を近づけ、真面目な表情でそう言った。
「私の家にくれば、部屋にパソコンもあるし。席とか、一緒に決めよう?」
「う、うん」
 四つん這いになった美沙が、どんどん近づいてきて、あかねは壁沿いにすこし避けていった。
 美沙が言った。
「どうしたの?」
 どうしたの? と聞きたいのはこっちだ、とあかねは思った。ただ、それを口に出せなかったのだ。変な行動をしていたのは自分だったのだ、美沙は何も悪いことはしていない。それなのに、心配して家まで訪ねてきてくれた。
「ちょっと近くない?」
「近くないよ」
 美沙は、あかねの足の付け根の方に、仰向けに頭を載せて寝転がった。
「私、あかねに甘えたかったの」
 美沙はそう言った。
 その後も、美沙は何かにつけてあかねの体を触ってきた。あかねは、むず痒いような、それでいて心地よいような、そんな気分になっていった。


  
ーーー
いつもありがとうございます。
お手間でなければクリックをお願いします→にほんブログ村