たまちと真琴は、電車で帰る途中だった。めまいがしてからの記憶は全くないのだが、たまちの話しを聞くと、倒れた真琴は、浜松と、たまたま近くにいた男子生徒とで保健室に連れて行ったということだった。
 真琴側には記憶は無かったが、「だいじょうぶ」と聞くと「だいじょうぶ」と返事もしていたし、フラフラしながらも肩を貸せば歩けたようだった。
 確かに、バッタリ倒れて意識もなかったら、救急車で運ばれないのは常識的におかしかった。逆に言えば、意識があった、と見えたから、保健室に運ばれたのだ。真琴自身の状況からすると奇妙な話に思えた、倒れた時は、全く記憶も意識もなかったとしか思えなかったからだ。
 真琴は保健室で横にされると、気持ち良さそうに寝てしまったという。たまちも退屈だったので横で寝てしまったそうだ。
「そうか、その男の子にお礼を言わないと」
「イマイチ顔も覚えてないけど」
「え、たまちも知らないの? じゃ、保健室の先生に聞くしかないか」
「そうだね。今度聞いてみよう」
 真琴はそれより、薬の件が全く進展していないのを悔やんだ。
 たまちの家の近くに住んでいる、ということは分かっているのだ、なんとかならないんだろうか、と思い、真琴は言った。
「たまち、緑川って、たまちの家の近くなんでしょう?」
「そうだけど」
「場所覚えている?」
 たまちは、真琴の顔を見た。
「まさか直接行こうとか考えてる?」
「相手が意識していない時なら、危険はないよ」
「そうなのかな、エントーシアンであった経験から言わせてもらうと、いきなり真琴のことは知っていた気がするけど」
 真琴はなんとか緑川にあって話が聞きたかった。
「危険だったら逃げればいいよ。家の外で待っているだけなら問題ないよね?」
 たまちも、真琴が引くつもりがないことが分かったようだった。
「危険かどうかは私が判断する。ちゃんとこっちの判断に従ってくれる? それでよければ案内するわ」
「うん」
 真琴は、とにかく相手を知りたい、と焦っていた。浜松もそれが分かっているから、判断を自分に任せてと言ったようだった。

 浜松の家のバス停を降りると、そのまま緑川の家へと歩いた。丘の上にある、閑静な住宅街、と言った場所だった。
 たまちは、ある家の角で立ち止まった。
「確か、反対側の家がそうよ」
「表札が遠くて分からない」
「ちょっとスマフォのズームで見てみようか」
 たまちはスマフォで表札付近を拡大していた。それでも見えないので、一度撮影して、その画像を引き伸ばした。
 その映像を見て、確かにそこの家が緑川であることが分かった。
 真琴が言った。
「ここにいたら目立つよね」
「かと言って、隠れるようなところはないんだよね」
 二人は左右を見渡したが、道路が綺麗に整備されていて、どこにも隠れるようなところがなかった。
「散歩しているか、話し込んでいる風にしていないとだめかも」
「さすがに散歩は無理ね。かえって怪しい」
「話し込んでいるようにするしかないって訳ね」
 たまちと真琴は緑川の家の玄関が見える、ギリギリのところで、立ち話をする風に立って監視を始めた。
 話すネタも尽き始めた頃、坂の下から自転車をこぐ学生が見えた。同じ高校の制服だった。真琴は緊張した。
「あれ…… 緑川?」
「え、ちょっと違うような」
「本当に? 近所に東堂本の子、他にもいるの?」
「知らないけど、違う気がする」
 真琴は少し声が大きくなっていたのを反省し、小さな声で言った。
「どう? もう一度見てよ」
「あ!?」
 小さな声だったが、何か分かったようだった。
 そのまま緑川の家に向かっていくように見えた。
「やっぱり緑川じゃん」
「さっき真琴を運ぶのを手伝ってくれたのあの人だ」
「え!?」
 二人が見合っている内に、緑川はさっさと家に入ってしまった。


  
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