その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年02月

 あかねはお昼ご飯をどうやって食べるか考えていたが、何時までたってもアパートの前を離れることが出来なかった。リアルにお腹が音を立てた頃、アパートから神林みくが出てきた。
 あかねは、予定通り向かいの建物の方へ気が付かれないように移動し、みくがどちらへ行ってもいいように待機した。
 さあ、始まった、とあかねは思った。
 神林はアパートを出ると、駅の方向へと歩いて行った。派手な色のTシャツにやはり蛍光色の短いパンツ、ジャケットを軽く羽織ったようなスタイルだった。
 あかねが小道を歩く間は、みくとの距離を取り、大きい道に出ると反対車線を歩いた。ほぼ駅に入ることが確実だと判断すると、今度は一気に距離を縮めた。
 少し走った時に、鞄からカチャカチャと音がしたので、タブレットに何か異変が起きたかと思って見てみると、おもちゃのようなサングラスが入っていた。あかねは店のガラスに姿を写しながら、そのサングラスをかけ、確認した。
 ちょうど良い。変装と言えばサングラスだ、とあかねは思った。季節的にサングラスはまだオッケーで、マスクには早すぎると思っていたのだ。
 あかねは、神林が駅に入るのを見てから共通乗車カードを改札の機械にかざした。
 あかねには、神林の行動に対して、ある予想をしていた。
 一つは、川西の家とかへ向かうのではないか、ということだった。
 川西派である神林は、何らか直接コンタクトを取ったりしているのではないか、と考えるのは自然なことだった。
 もう一つは青葉だった。
 青葉のあの変な店との関わりだった。あかねが一度散歩をした変んな男が、土谷高校の生徒が女の子同士でエッチなことをしている、と言っていた。変な男の言い分を信じる訳ではないが、同じ川西擁護に回っている、山川道子を青葉のそういう怪しげな店の近辺で見かけた為、ある程度信憑性のあるものだと考えていた。
 だから、山川と同じように、神林も青葉の怪しいバイトをしていて、それを知られたくないため、報道被害を過剰に恐れているのでは? と、あかねは勝手な予想をしていた。
 川西の家に行くなら下り方向だし、青葉に行くなら上り方向だ。あかねは気づかれないように神林の行き先を見つめた。
 神林は、下り方向のホームへとエスカレーターを登っていった。あかねは何人かを間に挟んで、神林の後ろについた。脇の階段を歩き、並走することも考えたが、エスカレーターの性質上、横より真後ろの方が確実だと思ったのだ。
 神林がエスカレーターを下り、数歩歩いたところで立ち止まった。あかねはそのまま上がってしまうと、神林の顔の向きに寄っては鉢合わせになる、と考え、エスカレーターをうつむきながら駆け上がり、すばやく踵を返して、階段を挟んで神林と反対側へ移動した。
 サングラスが功を奏したのか、気づかれてはいないようだった。あかねは、どの電車に乗るのかチラチラと確認しながら電車を待った。
 電車が入線すると、あかねと神林の距離は存外近かったが、車両が違った為、相手の死角に入ることができた。あかねは慎重に確認して、同じ駅で下りた。
 ただ、下りた駅での降車人数が極端に少なかった為、あかねは構内の案内を調べるフリをして、神林との距離を取ることにした。
 神林がエスカレーターに回って、ホームを降っていってから、ようやくあかねは駅名を確認した。しかし、その駅は川西の家の駅ではなかった。
 なんだろう、何故この駅で下りたのか。バレた? いやそれはない。本当に何の関係もなく、友達の家とかに遊びに行くところだろうか。それはそれでも無駄ではないが…… とあかねは思った。そして、階段したの神林を確認しながら階段を下り、神林の姿を追った。
 神林が改札を出ると、あかねも改札を出て後をついていった。


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 道を挟んで、右手側には立派な外壁に囲まれた大きな屋敷があった。おそらく地主なのだろう、とあかねは思った。ここら一帯がすべてこの家の土地だった、そんな推測をしたくなるほどその壁が続いた。
 そして、その壁が不自然に曲がり、無くなっていた。その先に、神林の住むアパートが立っていた。
 二階建てで、三部屋三部屋の計六部屋の形だった。タブレットで事前確認済みだったので、特に驚かなかったが、本物はもっとボロ屋だった。廊下側の途端屋根のところどころ割れていて、手すりは錆びていた。廊下側の扉は貼ってある板がめくれたり、剥がれたりしている。壊れたままの古い洗濯機が何台かあった。
 あかねはチラっと、そのアパートの方を見てから、そのまま通り過ぎるようにして、周囲を回るように右の道に入った。曲がった先でアパートは終わっており、再び先ほどの立派な壁が道沿いに出てきていた。
 地図を確認すると、その一角だけ、アパートの為に切り売りしたような格好だった。ひとまとまりの区画の中の、端だけをアパート用に処分した、そんな気がした。
 あかねはそこまで行って、そのまま後戻りした。そして、そのアパートの窓から部屋の中が見えないか、チラチラと見ながら、元来た道を引き返した。
 アパートの名前がついた木の板が張ってあり、あかねはそれを読んだ。
『サニーコート神林』
 もしかして、神林はこのアパートのオーナーなのだろうか、あかねはアパートの角を曲がり、アパートからの出入りをチェックしつつ、立派な壁のあたりまで戻った。
 そこでタブレットを取り出して、ストリート画像をチェックすると、この立派な壁の門の表札の位置を調べた。しかし表札は画像処理されており、読めなかった。
 あかねは、アパートから神林が出かけていかないかどうか、後ろを時折振り向きながら、壁沿いに戻って大きな屋敷の表札を確認した。
『神林正蔵』
 みくと同じ苗字だ。
 もしかして、本家と分家、とかそういう関係なのだろうか、実はこっちの大きい方がみくの家でお嬢様なんじゃないだろうか、とか、色々な想像を始めた。
 いや、待て。
 ただ偶然、同じ苗字ということもある。
 こっちはこんなに立派なのに、アパートがあんなにボロのまま、というのもおかしい。付け加えれば、今日、神林みくの行動観察することと、この地主かもしれない神林家の事情は関係ない。
 あかねはもう一度アパートに向かって引き返した。
 神林が言っていた、父親の自殺。それが本当のことなのか、虚言なのか。とにかく神林の言うことは全体に支離滅裂な為に、どこまで信用していいのか悩んでいた。もちろん全てが本当で、ただ順序や表現が大げさなだけなのかも知れなかった。
 事実として神林はやけに川西の肩を持つのは周知ことだった。みくも同様に川西のセクハラの被害者であり、いくら報道被害が発生するかもしれない、と言っても、絶対に処罰すべきではない、という神林の立場はあかねに理解できるものではなかった。
 今日は、その理由暴く、もしくは何かその一端でも分かれば、という目的の為、ミクを尾行しようとしているのだ。
「ふぅ……」
 あかねは立派な壁とアパートの境のあたりに立って、ため息をついた。
 コンビニで買ったミント系のタブレットを振って数粒口に含むと、鞄にしまった。
 最初の数十分は緊張感から、通行人に見られてもおかしくないように人を待っているフリをしたり、歩いて行ったり来たりしててごまかしていた。
 しかし、一時間を超え、二時間を過ぎた頃、あかねは完全に開き直ったようにアパートをみる訳でもなく、ただボンヤリと立派な塀にもたれ掛かっていた。
 あかねは、時々タブレットを見たが、充電の事を聞かされていたので、あまり激しく使わないようにこまめにスリープするよう気を使った。
 結局、午前いっぱいは何も起こらなかったのだった。


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 美沙が、うんうん悩みながらタンスから服を取り出し、積み重ねていった。
「美沙、そんなに真剣に選ばなくて大丈夫だよ、着れればいいから」
「そんな訳にはいかないよ」
 あかねは、それほど着るものにこだわる方ではなかったので、服選びに時間を掛ける美沙のこだわりが理解できていない。
「だって、そんなことしていると美沙寝れないよ?」
「うーん。そうなんだけど」
 美沙が右と左を交互に指さしながら何かブツブツ言っている。
「じゃ! あかねはカワイイのが好き?」
「うん、可愛い方がいい」
「そう! じゃあ決定。明日楽しみにしていて」
 美沙はそう言うと重ねていた服からさっとチョイスして重ね直した。残りをタンスの決まった位置に素早く戻すと、タンスを閉じた。
「ありがとう美沙」
「いいのいいの。こういうの好きなんだもん」
 二人は同じベッドに入って、並んで眠りについた。最初は狭くてあまり寝付けなかったが、美沙が完全に沈黙した後、さほどかからずにあかねも眠りについていた。

 朝になると、美沙がトーストと小さなサラダを作ってくれ、あかねはそれを頬張っていた。
「あかね、うち、朝はコーヒーなんだけど、あかねも飲む?」
「うん」
 あかねもコーヒーはあまり飲まないのだが、今日はなんとなく飲んでみようか、と思った。
「そうだ、さっき、やまと君からメールの返事が来てた」
「あいつの返信にしちゃ、随分早いな。なんて書いてあった?」
「もう起きてるんで、何時でもいいですよ、って書いてあった。だから六時半ごろに駅に来てください、今日はよろしくおねがいしますって返しといた」
 そうか、今日はやまとと美沙がずっと一緒なのか。あかねは、なんか悔しい感じがした。
「?」
「美沙、どうかした?」
「あかねが怖い顔したからだよ」
 怖い表情って…… 自分はやまとに嫉妬したのだろうか。
「あ、ああ。大丈夫。大丈夫だけど、川西も、やまとも一応男だから、今日は気をつけてね?」
「うん。気をつける」
 素直な返事に、あかねは救われたような気がした。
 美沙はあかねにとって、理想の女子なのかもしれない。
 確かに女バスに入るきっかけとなった、遠山美樹先輩も、理想の中のひとつの形だ。女の子らしさがあるのに、バスケが早くてうまい。バスケがうまいのに、女の子が残っている、と言うべきか。
 美沙は典型的な、というか古典的な女の子だ。それでいて、青葉でパソコンを買ったりもするし、オタクな感じもある。けれど単にオタク系でも、あかねにとって美沙は、嫌味な感じがなく理想的に思えていた。
 美樹先輩も美沙も、タイプは全く違うのだが、きっと何かこう、俗世を超越したようなところに惹かれているのかもしれない。
 あかねは、美沙に用意してもらった服に着替えると、少し違和感があった。単にサイズの問題で腹回りがすこしキツイ感じはあったし、胸回りもゆるい感じがあって、体型の違いを思い知らされてはいたのだが、違和感はそんなことではなかった。
「可愛い!」
 美沙はニコニコした表情であかねを見ている。
「姿見? それなら、こっちだよ」
 美沙に背中を押されながら、あかねは鏡の前に立つと違和感の正体に気がついた。いや、見なくともわかっていたのだが、敢えて気が付かないように意識していたのかもしれない。
「美沙、私これ無理!」
 あかねはスカートの裾をちょっとつまんでそう言った。
「これって、階段で見えちゃうじゃん!」
「ぎりぎり見えないよ」
「うっそ、見えるよ。見えなくても無理だから。あたし足太すぎるし」
 つーか美沙はこんなの履くのか…… けしからんというか、頼むから変なおっさんに見られんようにしちくり、とあかねは思った。
「そう? 昨日、『可愛いのがいい』って言って、今日も、ちゃっちゃと着てるから、こういうの好きなのかと思ったよ。じゃ、別の持ってくるね。スカートは大体こんな感じのばかりだから、パンツのがいい?」
「そうだね…… パンツの方がいいかな。で、無難な奴貸してね」
「うん、ちょっとまってね」
 そう言って脱いだ服を持って部屋に戻る美沙、その楽しげな表情に、あかねは少し不安になった。
 もってきてくれた服は、先ほどと比較すれば無難だった。それに自分の趣味と違うものであれば、神林があかねと認識しにくいだろうとも思った。
「ありがとう、これでいく」
 鏡に自分の姿を写しながら、あかねは言った。
「うん。よかった。じゃ、私もやまと君との待ち合わせがあるから早く準備しないと」
「行ってくるね」
「いってらっしゃい」
 そう言って、あかねは美沙の家を離れた。
 あかねは、美沙の家の近所を歩きながら、神林の家がどんな場所か予め確認して置くべきだと思った。
 神林の家は電車で一つ駅を行った先にある。駅についたあかねは、美沙から借りたタブレットで、ストリートの画像を確認した。神林の家と思われる場所は、どうやらアパートのようだった。
 あかねは各駅停車がくるとそれにのり、ひと駅移動して下りた。下りた先にあったマイナーなコンビ二に入り、ミント系のタブレットと、ブレンド茶のペットボトルを買った。
 しばらく大きな通り沿いに歩いた後、タブレットで地図を確認しながら、小さな通りに入った。左手は農地であり、特有の匂いがした。


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 美沙の声が聞こえて、あかねは自分が寝ていたことに気がついた。掛け布団が素肌に触れて気持ちが良かった。
「はい。女バスで頼まれ事をしたそうです。それで相談に乗っていたんです……はい……食事は私が作って、一緒に食べましたから……あ、ちょっと待ってください。起きたようなんで代わります」
 美沙があかねが起きたのに気がついたようで、スマフォを持って枕元にやってきた。
「あかねのお母さん」
 あかねはうなずいて、スマフォを受け取った。
「母さんどうしたの?」
「いや、どうしてるかな、って思ったら、そうだ、まだ携帯持たしてないな、って思って慌てちゃった」
「美沙んとこ行くって言ったじゃん」
「そうだったっけ? さっき、美沙ちゃんに聞いたら今日泊まるんだって?」
「え?」
 美沙がニヤッと笑った。
「うん、そう言ったじゃん」
「ま、遠いところに行ってる訳でもないからいいけど…… それより、バスケ部からの頼まれ事、ちゃんとするんだよ!」
「うん。大丈夫だよ、ちゃんとやりおえたし。だから美沙に手伝ってもらったんだしさ」
「そう。それならいいの。それじゃね。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
 美沙にスマフォを返すと通話を切って、充電器に置いた。
「美沙、私、いつのまにか泊まることになってるよ?」
「だって、泊まってくでしょ?」
「泊まるよ。泊まりますとも」
「良かった」
「それより、なんで美沙裸なの?」
「裸のあかねがそんなこと言いますか……」
 美沙がベッドに滑りこんできて、横に座った。あかねは目を閉じた美沙にキスして、体を寄せた。あかねの手が美沙の胸に当たった時、
「イタッ」
 と言った。
「ご、ごめん」
「なんかヒリヒリする」
「あっ…… 私も」
 あかねも、自分の胸の先を触ると、少しヒリヒリした。短時間に吸いまくったせいだろうか?
 自分で触ってみると、軽い痛みをおぼえた。加えて、あかねは手が凄くダルくなっているのを感じた。
「それに、腕がなんだかダルい」
「いや〜 私はダルいなんてもんじゃないよ、筋肉痛だよ」
 美沙は自分で自分の腕を揉むようにして、そう言った。
「……そんなにしたんだっけ?」
「……」
 美沙が答えないせいで、あかねは余計恥ずかしくなってきた。美沙がようやく口を開いた。
「普通、どれくらいするのか知らないから」
「そ、そうだよね。私も良くわからないよ」
 美沙は充電器からスマフォを取って、あかねに今の時間を見せた。
「え?」
 というか、こんな時間まで母は起きて待っていたのか…… いや、そんなにじっくり寝たとも思えないのにこの時間か……
 あかねはとにかく下着をつけることにした。美沙も同じように服を来て、布団に滑り込んだ。
「あ、そうだ。あかね、明日の準備とかは?」
「神林さんの行動を見張るやつ?」
「それもあるし、私とやまと君で川西先生を見張る件もだよ」
 女バスの連絡表から神林さんの住所は、メモに控えてあった。川西先生のものも分かる。
「住所は分かるよ」
「やまと君に連絡取れる?」
「電話番号忘れちゃったな〜 メアドなら分かるよ。WEBメール開きたいんだけど何か方法ある?」
 美沙がパソコンを取り出してきて、あかねに渡した。知らないパソコンだったので少し操作に手間取ったが、それを使って、やまととの連絡方法を美沙に伝えた。
「たぶん、あいつ普段メールとか見てる様子ないから、美沙からメールが来たら大喜びするよ」
「そうかなぁ」
「じゃあ、早起きしてお家を見張ってみよう。六時起きして、七時からそれぞれ家の前で行動を見張ろう」
「私とやまと君はいいけど、あかねは携帯なくて大丈夫?」
「あ……」
「ちょっとまって」
 美沙が何か思いついたらしく、部屋を出ていってしまった。
 そうだ、制服のままにしろ、ジャージのままにしろ、神林を尾行をするには自分だ、とすぐにバレてしまう。着替えも必要だ……
「あかね、これ使って」
 美沙は、左手にもった鞄と右手に持ったタブレットパソコンを差し出した。
「一応、SIM刺さってるし、通信できるから、さっきのWEBメールで連絡しあえるよ」
「本当? 使い方難しくない?」
「ここでスリープ解除、もう一度やればスリープ。ネットはこれ。WEBメール画面を開きっぱなしにしてればいいよ。画面の更新はここから出来るから」
 タブレットの使い方を一通りやってみると、あかねは指で丸を作った。
「これで連絡手段は大丈夫だね。それでさ、明日の服装だけど、あかね、まさかジャージとか制服で行こうと思ってないよね?」
「そうそう、それ」
「……あれ、だけど、着替えってなんで持ってないんだっけ。あかねは学校から直接ここに来たの?」
「う、うん。なんかもう……色々」
 美沙の表情が少し変化した。
「はやく美沙の家に行きたくて」
「そうだったんだ……」
 美沙があかねの方をじっと見た。
 あかねは頭から蒸気が出ているのではないか、と思うくらい照れていた。
「その…… 美沙に会いたくて」
 美沙が顔を近づけてきた。
 あかねは美沙の頬を両手で撫でながら、自分の唇を美沙の唇に重ねた。
 美沙が言った。
「ありがとう」
 美沙を好きで良かった。
「んで、明日の着るものなんだけど」
「そうだったね」
 美沙が自分のタンスを開けて、服を選び始めた。


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 美沙の指にあかねのラビアが挟まれ、弄ばれた。小刻みにそれを震わされ、あかねの息が激しくなった。もう、声を我慢している時間の方が短くなっていた。
 波打つように快感があかねに打ち寄せてきていた。
 美沙の指は膣の入り口をなぞり始めた。
 美沙は、あかねのお腹に顔を埋めていたが、顔を上げ、
「いい?」
 と尋ねた。
 あかねはここで止められてしまっては頭がおかしくなってしまうような気がしていた。はやく続きをして欲しい。ただ、そのままを告げたかった。
 けれど、早く!、とは言わなかった。なにか譲れない部分があった。あかねは言った。
「う、うん。いいよ」
 美沙は指をゆっくりと入り口から中へと入れていった。
「どう?」
 あかねは何かにしがみつきたかったが、何もないので手で顔を隠した。
「どう? どんな気持ち」
 美沙は指を動かしながら、手のひらを押し付けてきた。その手を波打つように一回、二回と動かした。そしてピタリと動かすのを止めた。
「どう?」
「恥ずかしい」
「どう? 止めた方がいい?」
 あかねは首を振った。
「聞こえないよ、あかね」
 え、どうしてこんななの、いつもの美沙と違う。
「美沙、お願い」
「何をお願いしているの」
 あかねはたまらなくなって、美沙のその手をとって、自分の股間へ押し当てた。
「もっとして」
「そう。もっとしたい?」
「もっとして、お願い」
 顔が熱くなるのを感じた。
 すると、美沙の指が中にぎゅっと押し付けてくるのを感じた。
「あ、ああ…… ん、ん」
 気持ち良かった。
 あかねは、自分でした時にも感じたことのないような快感が体に受けていた。
 指の動きと、手のひらの押し付け具合で、中はもうぐっしょり濡れていた。同時に、反対の手と、美沙の口で胸も弄られていて、呼吸が激しくなっていた。
 あかねも、美沙の胸を弄ったり、背中を撫でるように触れた。
「あかね、あかね」
 美沙は指をぎゅっと奥に入れて、中の方をしごくように動かした。美沙も息が切れていた。
「美沙……」
 そうした美沙とあかねのフワフワとして気持ちの良い時間が続いた。
 あかねが言った。
「はぁ、み、美沙、今度は私が美沙にする」
「え……」
「いいよね?」
 クルリとあかねは体を入れ替え、美沙の上に体を重ねた。素足が絡まって、すごく気持ちが良かった。いきなり美沙の股間に手を当てると、しっとりと濡れていた。
「美沙、もうここが……」
「……」
 美沙はうなずくように目を伏せた。
 あかねは、その手を離して脇のしたから肩の下に手を入れた。逆側も同じように腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
 間髪入れずに、唇を重ねると、お互い慣れたように舌を絡めていた。
「こう……だったよね」
 あかねは初めて手のひらを返した状態で指を挿入するので、戸惑ってしまった。下手に当てると痛いこともわかっていたし、そっと指を入れながら、美沙の様子を見ていた。
「どう? こんな感じ?」
「あっ…… やっ…… や」
 そんな風に美沙の返事は声にならなかった。美沙のやっていたようにひらを、どてに当てるように押し付け、挿入した指が壁を押し上げると、美沙が急に大きな声を漏らした。
 あかねはビックリして動かすのを止めた。
「……いい。もっとして」
 手のヒラを左右に動かすようにして、指は奥のスイッチをなで上げるようにすると、また一段と大きな声が聞こえた。
 美沙の足がバタバタと動くので、太ももの感触とあかねの股が擦れて、気持ちが良かった。あかねは、手を動かしつつ、美沙の胸に吸い付いた。
「ああぅ…… あん、あぁ……」
 声と表情、そして体中の反応で、あかねにも美沙の快感が伝わってきた。
「あかね、あかね、もっと、もっと……」
 あかねは指と手のひらをもっと早く動かした。してもらった感じだと、そういう方が気持ち良かったからだったが、美沙もどうやらその方が気持ち良さそうだった。
「ああ、ああ、あかね…… あかね…… 気持ちいい……いい」
 美沙は耐えきれないように手で口を抑えた。


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 強くする度に吐息が激しくなる美沙に、あかねは興奮していた。行為を止めて、ふと美沙の乱れた表情を見ると、あかねは言った。
「どうしたらいい? どうしたらもっと気持ちいい?」
「あ、あ……」
 美沙は口に手をあて、言いかけた言葉を止めた。
 そして手を離すと、言葉を続けた。
「あかねの好きにしていいよ」
 あかねが、美沙の腰に手をあて部屋着のズボンをおろそうとすると、
「あかね、やっぱり待って。いいコト思いついた。……今と同じことをあかねにしてあげる」
 美沙が上体をゆっくりと起こすと、あかねはその反対に寝そべった。
 美沙がゆっくりとあかねのジャージのジッパーを下ろすと、胸元を開いてから顔を近づけた。
「あかねのブラ、かわいいね」
 そう言うと、美沙は唇をなでるようなキスをしてきた。両手はあかねの背中に回り、ブラのホックを外そうと動いている。
 あかねも美沙を支えるように手を添えながら、美沙の胸をいじっていた。
 時折、美沙の口があかねの唇から離れると、
「はぁ」
 と息がもれるような声が出る。
 ブラが外れ、あかねがそれをベッドの端に避けると、美沙の両手は乳房を掴み、持ち上げたり、寄せたりしはじめた。
「あっ……」
 あかねは自分でしているのとは違う何かを、胸先で感じて声を出してしまった。
「美沙……」
「あかね……」
 指先であかねの乳首を弄り回され、突然乳首をよけたかと思うと、美沙が吸い付いてきた。
「あぅあああ」
 あかねの意識の外で声が出ていた。
 こんなことを美沙にしていたのだ。
 あかねも、美沙の胸を触りながら、先端を軽くつまんだ。
「あっ」
 美沙の舌があかねの胸の先端をぐるりと舐め回した瞬間、また意識していない、漏れるような声を上げた。
 美沙は突然、顔を上げ、
「どう?」
 あかねは美沙の顔を見つめた。
「どうだった?」
「き、気持ちいい……」
 あかねは自分の言っていることが恥ずかしかった。言った後、思わず、自分の顔を手で覆ってしまった。
 いや、さっきまで自分のしていたことだ、こんなにイイものだったのか、と思うと、もっとしてもらいたい、美沙にももっとしてあげたい、という気持ちになった。
「あかね!」
 美沙はあかねの手を取ると、体を合わせて来た。美沙の、あかねより大きい乳房が、重なってこすれあった。
 美沙の顔が、首筋を通り、鎖骨の辺りにくると、吸い出すようにキスしてきた。くすぐられているような、ゾクゾクするような気持ちになった。
 美沙があかねのジャージをひざのあたりまで下ろすと、足を擦り合わすようにしてジャージを脱いでしまった。
 気がつくと美沙も部屋着のズボンを脱いでいた。
 美沙があかねの足にしがみつくようにして体を重ねてくると、右手があかねの下着の上に乗せられた。
 そっと何かをこねるように、美沙は右手を動かしてきた。同時に舌を使って、あかねの乳房のしたへ、舐めるように這いおりていった。
「はっ……はっ……」
 あかねは自分がどんどん濡れていくのを感じていた。下着の上からなのにこんなに感じているのなら、直に触られたらどうなってしまうのだろう。
 あかねは下着が汚れる、と思った。
「美沙、まって、まって」
 美沙も同じことを思っていたのか、すんなりと言うことに応じてくれた。
 二人は互いに最後の一枚を脱ぎ、畳んで横にならべた。


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 あかねと美沙は、美沙の部屋のベッドの上に並んで座っていた。
 美沙が興奮して泣きそうだった為に、かなりの時間、こうして黙って座っていた。あかねはこのままではダメだ、と思い、話し始めた。
「美沙。私も。私もね」
 美沙はあかねの方を向いて、目を閉じていた。あたかもキスを待ち受けているようにも見えたが、あかねはそのまま話しを続けた。
「私も少し前に気付いたことがあるの。ちょっと話が長くなるけど」
 前置きしてから、以前、変な男と公園に行った時のことを話した。その男に、うち学校の女の子同士で、エッチなことしてないか、とか聞かれた話をした。それが自分で気付く、きっかけだったのかもしれない、ということを話した。ただ、その時は、その男が怖くなって逃げ出しただけだった。
 昨晩になって、急にひとりエッチがしたくなったが、ネタに困って青葉アイドルとしている妄想で何度も自慰をしてしまった事を話した。そのせいで、部活の女子がただの部員としてではなく、性的な対象としてみてしまう自分がいたことも、隠さずに話した。
「だから早く家に来たのね」
 あかねはうなずいた。 
「私、変なのかな? 女の子に興味あるのって、変だよね。私も女の子なのに……」
 美沙は笑い出しそうな顔をしていた。
 やっぱり最悪な事を言ってしまった、とあかねは思った。
 真剣に話したけど、やっぱり通じてないのかも…… こんな自分は笑われてしまう。
「やっぱり忘れて!」
「あっ、違うの」
 美沙はあかねの手を取って言った。
「昨日私もマスターベーションしたよ。青葉アイドルになった、あかね、って設定で。なんかさ、奇跡のような偶然だよね」
 美沙はそう言って微笑んだ。
 あかねは笑い返したものか、少し考えたが、しばらく考えているうちに笑ってしまった。
 美沙が言った。
「お互いが……想いを寄せていたのかな」
「お互いが思い合っていた。私もそんなふうに思う」
 気持ちは分かり合えた。
 ただ、ここまで話しをして、それなりの時間が経ってしまった為、あかねは焦りを感じていた。
 美沙が目をつぶっている内に押し倒してしまえば問題は無かったのだが、ここまでぶっちゃけた話しをしてしまって、もう一度エッチな雰囲気にする方法がわからなかった。どうしたらいいのだろう?
「み……」
「あか……」
 あかねが言いかけた時に美沙も何かを言おうとしていたらしく、声が重なってしまった。気まずくなるばかりだった。
「美沙、いいよ、話して」
「私はいいの。あかね話して」
「……どうしよう。美沙。さっきみたいに」
「さっきみたいに?」
「……目を閉じて」
 美沙は目を閉じた。
 あかねは始めから、この言葉言えばよかったのだ、と思った。
 あかねは美沙の前髪を触り、手で頬に触れた。そしてそのまま自分の唇を美沙の唇に重ね、軽く噛むようにキスを続けた。
 あかねの舌が美沙の唇を割って入り込むと、美沙も何かを溶かすかのように舌を絡めた。頬に当てていたては美沙の肩を通り過ぎ、美沙の部屋着を捲りあげていた。
 あかねがかぶさるように美沙の上になると、美沙は完全に上半身が裸になっていた。あかねはもう一度美沙にキスしてから、うなじのあたりに舌を這わせながら、両手で乳房を撫で回していた。
「や……」
 恥ずかしいような、けれど続けて欲しいような、あかねの想像ではあったけれど、拒まない美沙の態度から、きっとそうなのだ、と考えた。
「……あん、ああ」
 あかねの唇は時折吸い付くように美沙の肌にキスをしながら、ようやく胸の上にたどりついた。
「美沙」
 そう言って、やさしく舌で乳首をなぞりながら、口に含んでは吸い、吸い込んでは唇で弄んだ。


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 あかねは一通り意見のまとめと、理由についてノートに書き留め、想定される質問に対しての答えも追記した。これがないと、あの人数の女子を相手に戦えないような気がしていた。
 すべてを書き終えてから、あかねがふと横を見ると、突っ伏していた美沙が顔を上げた。
「どう? 終わった?」
「うん。これならなんとかなりそうだよ。美沙のおかげだよ」
「良かった」
 一瞬、美沙の目が明るくなったかと思ったが、すぐに暗く重い闇に包まれたように思えた。美沙の相談は、きっと、すごく重い、とあかねは思った。
「美沙、美沙の相談の番だよ」
「そうね。それで来てくれたんだもんね」
「いや、ごめん。元々は私が……」
「いいの」
 美沙は顔を伏せるようにしながらそう言って、言い終えると顔を上げた。
「で。ちょっと前のこと、というかさっきの事、なんだけど」
 あかねはうなずいた。
「それって、バスルームでのことね。それも、私が具合悪くなっちゃったこと。あれね。あれ」
 あかねはまたうなずいた。
 少し頬が熱くなったような気がした。
「あれなんだけど、私」
「うん」
「……なんだと思う?」
「え、何だって言われても。貧血かのぼせたのか、そんなところじゃないの? ……まさか」
 まさか凄く重い病気とか……
「凄く重い病気か何か? って顔をしてる。多分、私がそんなことになったら…… どうだろう? そんなに強くないからさ。もっと早くにバレてると思うよ」
「じゃあ、病気とかじゃないの?」
「病気、って言ったらそうなのかも」
 とすると、美沙が女の子を好きな人だってことだろうか? それが美沙の相談?
「けど、病気じゃないから。なんか変な誤解されそうだからはっきりしとかないとね。病気、ではないの」
「けど、私のこと、なんか、色々触ってきたよね」
「うん。私…… 私、あかねのことが好きなの」
 えっ? えっ? 女の子が好きってこと? それじゃ私と同じじゃん。
「あ、誤解しないでね。女の子が好きなんじゃないんだよ。だって女の子みても欲情しないもん」
 いや、そんなこと言わないで。実は私がそういう人なんだよ。しかもつい最近からそんな感じになってるんだよ。あかねは喉から出かかっていたが、言わなかった。
「だけど、好きなのがあかねのせいだからなのか、女の子と女の子がえっちなことをしているのを想像してしまったりするの。もう、どうしようもないくらい」
 うん、なんか判るような気がする。
 あかねは、ふと重大なことを流していることに気がついた。
「私のことが好き? って? けど女の子は好きじゃないって、どういう意味? どういう意味なの?」
「ああ、もちろん友達、という意味でもあるし。恋愛の対象としてでも。性交渉の相手としても、という総合的な意味で」
「へ?」
 サラッとエロい意味も含めてきた、あかねはやっぱり予想通り、平穏なままこの家から帰ることは出来ないな、と思った。
「あのさ、その、あかねとね。ここで、さっきのお風呂でしてたようなことの続きがしたいの」
「え? いきなり、そんな単刀直入に?」
 美沙があかねの腰に手を回してきた。
「うん。私はいきなり、じゃないんだ。さっきからずっとそんな感じだったから。ごめんね、なんか色気なくて」
 美沙があかねの肩に頭をのせてきた。
「どう? あかね?」
 耳に息がかかって、ゾクゾクした。
「えっ…… う、うん。ちょっと考えさせて」
 あかねが美沙の左手を腰から退けようとすると、美沙は頭をのせてくるのを止めた。
「……」
 美沙の顔は泣き崩れそうに歪んだ。
「ちがうよ、ちがうんだよ。本当に考える時間をちょうだい。お願い。もう少しだけ」


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 食事が終わると美沙はあかねの課題を優先して解決してくれた。すべての意見書を読んで、三つにまとめた。
「結局、川西先生セクハラ事件を、公開するか、隠すか」
 あかねはうなずいた。
「隠す理由としては、公開した為に被害者が報道被害に会う可能性があっていやだ、ということと、川西の家庭や家族の事を考慮したものね」
「うん。けど、報道被害のことを考えている人はそれさえ解決すれば、事件の公開を望んでいると思うんだけど」
「そうね。難しい話だけど」
「事件の公開に賛成する人は何も問題ないわね。だから条件付きの意見は一つだけでいいよね?」
「いいと思う。まとめるとどうなるかな?」
 美沙が裏紙に書き始めた。
「こうね。賛成、条件付き賛成、反対」
「え? そんなまとめ方でいいのかな???」
「うーん。でもそれ以外になくない?」
 美沙は何か考えている風だった。
「賛成はいいでしょ? 問題は反対の人だけど、ここには条件付き賛成の人がいる訳でしょ? 条件付き反対、とも言えるけど」
「うーん。言い方の問題かぁー」
「その条件なんだけど、たぶん、生徒だけではその『報道被害』について決定できないよね。これは先生に持っていくしかない。知らない先生に持っていくと、話しが大きくなってしまうから、もう一人の顧問の先生がいいと思うな」
「笹崎翔子先生ってこと?」
「うん」
 あかねはそれの方がオオゴトになりそうな気がした。
「大丈夫かな?」
「たぶん。だって、オオゴトにしちゃったら、自分だって顧問の先生の一人なんだから、何やってたんだってことになる…… だから、ただ大騒ぎする前に、ちょっとは考えるでしょ?」
「そうだよね。立場的にはそうだよね」
「後、さっきあかねが言ってたけど、条件付き賛成、って言葉が悪ければ、『条件付き賛成/反対』って書いたら? 賛成も反対も書いてあれば、賛成側の誘導だ、ってことにはならないでしょ? 反対なら誰にもバラさない。賛成、条件付き賛成/反対たら顧問に相談、なら賛成にも条件付きにも投票しやすいよ」
 あかねは半ば納得はしていたが、女バスでの反応を考えてしまうと、どれもダメなような気がしてくる。
「もう一つ。あかね、選択肢をこれ以上多くすることも出来ないでしょ? それならこれしかないよ。よくわからない理由ではダメ。一番まとまってるのは、報道被害が怖い、ってことだから。後は、反対派の人が変なセクハラビデオを持っていないことを祈るね」
「え? どういうこと?」
「川西を訴えたら、条件付き、に投票した子のセクハラ映像をばら撒いたりしないかな? ってことが怖いね」
「ヤバイじゃん!」
「そういうのを録画していれば、ってことよ。そんなことしてる人、いないんじゃない?」
 あかねは練習中にビデオを回しているようなことはない、と思い返してみた。確かに試合とかでは川西がビデオを回していたりする。けれど、練習中は無いはずだ。
 あかねは考えれば考えるほど、そういう恐怖は増すばかりだ、と思った。
「凄い嫌な予感がするよ……」
「ごめん。もしも、だからさ」
「……そうだよね。でもその三つしかないもんね。ありがとう美沙」
「どういたしまして」
 そう言って美沙はぬるくなった紅茶を口に運んだ。


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 二人は風呂を上がって、無言で体を拭き、着替えていた。あかねは下着の上に部活用のジャージを羽織ることにした。美沙はキャラクターの描いてあるこげ茶色の部屋着に着替えた。あかねも美沙も、さきほどまでのことが何だったのか、聞くことも語ることもなかった。そして美沙の部屋に行くと、美沙はベッドの上で再び泣き始めた。
 あかねはこの状態の美沙に声をかけてもしかたがない、とにかく泣き止むまで待つしかない、と思った。美沙の横に腰掛け、落ち着くように背中をさすった。
 泣き声が大きくなったり、何かブツブツと恨み事のような声が聞こえたりしたが、あかねはあえてそれに反応せず、美沙が自主的に話し始めるのを待った。
 日が完全に落ち部屋が真っ暗になった頃、静かになったな、と思ったら美沙が寝息をたてていた。あかねは立ち上がって鞄からスマフォを出し、寝続けないようにタイマーをセットして、美沙の隣で横になった。
 浅い眠りのせいなのか、あかねは向きを変えようとする度にハッキリと起きてしまった。都度、枕元のスマフォで時間を確認すると、さっき確認した時から十四、五分しかたっていなかった。
 それがなんどか続くと、あかねはもう寝ることを諦めた。そのまま暗い部屋の天井を見つめていた。
「あかね……」
「ん? 美沙、起きたの?」
 美沙も同じように天井を見つめていた。
「うん。私。何も話さないで寝てしまったのね」
「……」
「……お腹空いた。何か作るね。あかねも食べてくでしょ?」
「うん」
 美沙は立ち上がって部屋の明かりをつけ、何も言わず、そのまま部屋を出て台所の方へと行った。
 あかねも、美沙の付けた部屋明かりと、廊下の明かりを消しながら台所へ行った。美沙は冷蔵庫から手早く食材を出した。
 あかねは殆ど料理の経験がなかったので、言うべきではないかとも思ったが、このまま黙って待っているのも悪い気がした。
「何か手伝おうか?」
「大丈夫。それに、あかね、あんまり料理とかしないんでしょ?」
「うん。ごめん」
「こっちが勝手に作るんだから気にしないで」
 美沙は野菜をあらってボウルに盛り、ドレッシングをかけた。鳥肉に塩胡椒を振って、一口大に切ってから熱したフライパンに入れた。
「あかね、このボウルをテーブルに持っていって」
 あかねは美沙が鶏肉を炒めているところの後ろを通り、サラダボウルを取ってテーブルに運んだ。
「あと、ここに取皿があるから二つづつ持っていって並べて」
「うん」
 美沙は鶏肉が炒め終わるのを待ちながら、バケットを出してあかねに聞いた。
「どれくらい食べれる?」
 どう答えていいか分からなかったので、あかねは手と手で長さを示した。
「これくらい」
「わかった。それだと、お肉がちょっと足らなかったかな……」
 美沙はバケットと食べやすい大きさに切って皿に載せていった。
 部屋に鶏肉の焼けたいい匂いが広がってきた。いくつかの焦げ色を見ながら言った。
「そろそろいいかな」
 美沙はフライパンから鶏肉を、大きい皿に移してテーブルへ持っていった。
「スープはインスタントでごめんね」
「え、そんなの普通だよ」
 美沙は二つのマグカップにインスタントのスープの粉を入れると沸かしていたお湯を注いだ。
 バケットとマグカップをテーブルに並べて美沙は言った。
「あ、ごめん。座って」
「うん」
「朝食みたいだよね。ごめんね」
「そんなこと全然気にしてなかったよ」
「バターとかマスタードとか使う?」
「うん」
「醤油はそこにあるから」
 美沙はバターとチューブのマスタードを取ってきた。
 ようやく美沙が席につくと、言った。
「いただきます」
 あかねもいただきます、と言ってバケットに野菜を載せたり、鶏肉を載せたりして口に運んだ。
「ちょっとマヨネーズがあるといいかも」
「そうだね。まってて」
 美沙はマヨネーズを小皿に取って、テーブルに置いた。
「美味しい」
「調理してるのは鶏肉だけだけどね」
「そういうのが出来ないんだよね」
「慣れだよ」
「美沙、一人でご飯すること多いの?」
「そうだね」
 美沙の食事を作り終えるまでの流れは、淡々としていて、やり慣れている感じだった。ずっとこうやって食事をしてきたような、寂しいような雰囲気も感じられた。


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