その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年03月

 父が心配して、何度も問いかけてきたが、あかねは答えなかった。事情は話せないし、複雑だった。それにこの変なメッセージを送ってくる仕組みや、送り主の知識がないため、説明出来なかった。
「そうか。言いにくいこともあるよな」
 父はそれ以上尋ねてこなかった。
「ありがとう。詳しくは言えないけど、大丈夫だから心配しないで」
 あかねはそう言うのが精一杯だった。実際は不安で仕方なかったからだ。美沙に会いたかったが、自分から訪ねていく心境ではなかった。
 あかねは恐る恐るスマフォの電源を入れ、『リンク』で美沙にメッセージを送った。
『家に来れない?』
 そのメッセージは、あかねが駅から自分の家へ歩いて帰る時に『既読』に変わった。
 あかねの様子を見ていた父が言った。
「歩きスマフォ、危ないぞ」
「うん。わかった」
「そういうのに振り回されてるとつい、他に世界はないような気になるけどな、現実は車も自転車も、知らない歩行者もいる」
「……」
 あかねはうなずいた。
 父はあかねの前を歩くようになった。
 家につくなり、あかねのスマフォに着信があった。美沙からだった。
「あかね、どうしたの? 今から行けばいい?」
「うん、来て。相談したいことがあるの」
「何があったか分からないけど、支度したらすぐでるから」
「ごめんね。お願い」
「じゃね」
「うん」
 先に靴を脱いで上がっていた父が心配そうに見つめていた。
「大丈夫。友達が来てくれるの」
「そうか」
 父は少し寂しげだった。
 何か娘の力になれれば、と思ってくれたのだろうか。あかねは、少しだけ、悪いことをした、と思った。
 父は一人で居間へいくと、あかねはそのまま自分の部屋に入った。
 スマフォの画面を見ながら、なぜ新しく買ったばかりなのに、IDバレしているのかが不思議だった。大体、電話帳から『リンク』へ追加しているのは数人なのに……
 あかねは『リンク』へ追加した友人の名前をもう一度確認した。
『安村美沙』
『橋本真実(まみ)』
『征野(せいの)なな』
『上条麻子(あさこ)』
 たったこの四人だ。
 この中に、学校のWiFiと同じような、業者にIDを渡してしまうような子がいるのだ。それともスマフォがウイルス感染してしまっているのだろうか。
 安村美沙。
 まぁ、あれだけ知識があるんだから、ウイルス感染なんてないだろう。本人がIDを渡すこともない。だって、私と美沙は……
 橋本真実(まみ)。
 女バスの部長だ。美沙の次に信頼のおける人物だ。学年が違うのに、上から物を言うことがなく、りっぱな人物だと思う。この人が部長でないと、今、部活は成り立たないだろう。
 征野(せいの)なな
 この娘(こ)にも何も疑惑はない。あかねが、最初に美樹先輩の動画をダウンロードする時、あのWiFiに繋いだ時にいたメンバーではある。つなげつなげとけしかけたかもしれないが、悪意があってのこととは思えない。
 上条麻子(あさこ)
 確かにWiFiに繋ぐときにいたメンバーだ。疑うとすると『なな』か『麻子(あさこ)』になる。本当に、こういうことになるのを分かっていてやっていたのだとしたら、最悪だ。
 いずれにせよ、このスマフォはもうアウトだ…… あかねはこの状態で使い続けるしかない、と思うと、悲しくなった。数時間前はあんなに嬉しかったのに。
「あかね、あかね。そろそろご飯だけどうするの? 美沙さんくるんでしょ? 美沙さんの分のご飯つくってないんだけど……」
 部屋の外から母が問いかけた。
 どうしよう、そんな時間だったのだ。
「忘れてた。じゃ、美沙と一緒に外で食べる」
「お金あるの? 出そうか?」
 あかねが扉をそっと開けると、母がにっこり笑った。
「はい。これ渡しとくね。レシートとお釣りは返してね」
 母から五千円札を渡された。
 あかねはうなずいた。
 そのタイミングで家のチャイムがなった。下からやまとの声がした。
「美沙さん来たよ」
 あかねは母に言った。
「ごめんなさい。それじゃ行ってきます」


 ーーー
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 ようやく、父と携帯ショップに並んで、スマフォを手に入れた。前回までの携帯会社のポイントやその他もろもろを活用し、父が言っていたギリギリの安い旧機種ではなく、友達が使っているような新型機種で契約出来たのだった。
「ありがとう、お父さん」
「いや、それはいいんだ。もう壊さないでくれよ」
「うん。大切に使う」
「そうだ、ここまで来たんだから、お茶でもしていくか?」
 父が指差したのは、色んなドーナツを出す店だった。一年近く前、話題になった時、父が行きたがっていたのは知っていた。
「あそこドーナツの店だよね?」
「結局、行けてないから、この機会に行ってみたいんだけど」
「いいよ」
 あかねはついでにその店でスマフォのセットアップをしてしまおうと思った。
 二人は向き合って座って、いつものように軽く学校の出来事を話し、その代わりに、父の思い出を聞かされた。時代が違うせいか父の話や印象を聞いても、あまりピンとこなかった。逆に父は、あかねの話を面白がって聞いてくれた。
 お互いの持ちネタがなくなると、ようやくドーナツを食べたり、コーヒーを飲んだりする時間になった。
「お父さん、ちょっとこれセットアップしていい?」
「充電してないけど大丈夫なのか?」
「前に買った時もそうやって出来たから大丈夫じゃない?」
 とにかく、早く使えるようにしないと、明日からのまとめの発表と投票に支障が出てしまう。
「そう? それならいいよ。父さんも少しネット見てるから」
 父もスマフォを取り出して、何やら見始めた。あかねは箱から新しいスマフォを取り出して、電源を入れた。
 メールアドレスを設定して、クラウドのバックアップから復元する、を選択すると、後は今まで使っていたスマフォと同じ設定に戻っていった。ダウンロードには時間がかかるようで、画面に現れたそれぞれのアプリのアイコンに、クルクルとインジケータが回っていた。
 四十七分の二から、三になるのに、二、三分かかったの見て、このペースで動作したらバッテリーが持たないかも、とあかねは不安になった。
「父さん、やっぱり充電もたないかも。バッテリーない?」
「やっぱり。じゃ…… これつかいなさい」
 父がカバンからUSBの口がついたバッテリーを取り出した。
「ケーブルはあるよな?」
「うんさっき箱の中に入ってたよ。ありがとう」
 父さんは得意気な顔をしていた。
 あかねは、ダウンロードが終わったアプリの起動してみた。
 問題なく使えるものもあれば、再設定しないと使えないものもあった。面倒だったが、それらを一つ一つやっていった。
「父さんもう一つドーナツ食べるけど、あかねはどうする?」
「じゃ、私もヨーグルトクリームのやつ二つ」
 父は追加のオーダーをしにカウンターの列へならんだ。
 あかねは『リンク』の設定が終わったので、恐る恐る開いてみたがメッセージも何も入っていなかった。設定し直しているので、当然なのだが、あかねはほっとした。スマフォを壊してしまった日の、あの変なメッセージが入ったままだったらどうしよう、と思ったのだ。
 あかねは同期した電話帳から、一つづつ慎重に『リンク』へのアクセス許可のチェックを入れ、都度動作を確認した。
『あかね、スマフォ買い直したんだね』
 さっそく美沙からメッセージをもらい、あかねはすぐ返した。
  『電池持ちのいいヤツ買ったんだ。良く充電忘れちゃうからさ』
『あ、それって茅場サオリがCMやってるやつじゃん』
  『するどい! どっちかというとそっちが主な理由』
 あかねが美沙とやり取りしていると、父がドーナツを持って帰ってきた。
「どう? サクサク?」
「うん、想像してたより良いよ」
 あかねは目の前に置かれたヨーグルトクリームドーナッツを頬張った。すると、スマフォがブルっとしたので、右手で操作した。
「あかね、口にクリームつけたままじゃ格好わるいぞ」
 あかねはスマフォに送られて来たメッセージを読んで怖くなった。スマフォを落として壊してしまった時のメッセージが、再びあかねの元に届いていたのだ。
 スマフォを変えて、IDはもうバレていないはずなのに……
「あかね、ほらこれで口を拭きなさい。 ……いったいどうしたんだ?」
 あかねは父に口を拭われながら、ドーナツをそっと皿に戻した。
「帰ろう父さん。早く帰ろう」
 そう言っていきなり立ち上がったあかねに、父は困惑したような表情で慌てて言った。
「じゃ、ドーナツ包んでもらうから、ちょっと待ってろ」
 あかねは力いっぱいスマフォの電源ボタンを押し続けた。


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 あかねは、やまとに今日のことは親に言うなと口止めし、バイト代を渡した。やまとは軽くうなずくと、バイト代を受け取った。その夜は何もなかったかのように家族で食事をした。
「あかねの携帯買わないとな」
 父が、思い出したように言った。
「姉貴、ガラケーにしたら?」
「それ、真面目に言ってる? お父さんもそうしようかと思ってるんだよ。あかね、一緒にガラケーにするか」
「ねぇ、やまとは冗談で言ったのよ。私はスマフォがいい」
「父さん本当に電池の持ちとか、肝心な時にバグったりするから、ガラケーにしようかと…… どうだ? ガラケー」
「だからお父さん」
 父は笑った。
「ああ、分かってる。父さん、くどかったね。もちろんスマフォでいいんだよ。ただ、ちょっと安いのにしてもらうけどね」
「良かった。本当にガラケーにされてしまうかと思ったよ」
 あかねは今日の出来事を帳消しに出来るほどではないにせよ、やっと携帯が使えるようになるので、嬉しかった。
 そんな調子で、父は普段通りだったのだが、母は、家に帰ったあかねの顔を見るなり、ずっと黙っている。何か、隠し事をしているとか、心配事があるとか、そういうことは良く母にバレてしまうので、もしかしたら、今日もそうなのかもしれない、と思っていた。だから、極力父の見え透いたボケに乗ってみたり、明る気な声で喋ったりした。
 それでも母の表情はあまり変わらず、チラチラとあかねの様子をうかがっているようだった。今日はなるべく母と二人きりにならないように、早めに部屋に戻ろう、とあかねは思った。
「ごちそうさま」
 あかねは速攻でご飯を済ませると、食器を片付けた。
「明日は開店前に並ぶぞ、あかね。休みだからって遅く起きたらダメだからな」
「分かってる」
 しばらくぶりに母が口を開いた。
「あかね、もう部屋にいっちゃうの? 今日はあかねの好きなアイドルのバラエティやってるんじゃなかったっけ?」
「大丈夫録画してるから」
「録画しててもいいじゃない。時間もあるんだし、居間で見れば」
「ちょっと疲れたの。ごめん。寝るね」
 あかねは少し不機嫌な顔を作って、居間を離れた。実際、今日はいろんなことがありすぎて、本当に疲れているのだ。
「じゃ、やまとは居間に残るよね?」
 母が弟から何か聞き出そうとしているのかもしれない、あかねは、やまとに合図した。やまとは立ち上がると言った。
「ちょっとトイレ」
 父がいさめた。
「トイレは食事前にしときなさい」
「ごめんなさい」
 廊下に出てきたやまとに、あかねは小声で言った。
「私の高校の状況を何も分かってないんだから、やまとは本当に今日のこと、一言も言っちゃダメよ、いいわね」
「分かってるよ」
「じゃ、おやすみ」
 やまとがトイレに行くのを見てから、あかねは階段を上がって自室に戻った。
 部屋の扉を閉めて、着ている服を脱ぐと、あかねは大きく息を吐いた。
 天国と地獄。
 昨日と今日。
 そう。昨日は確かに天国だった。
 美沙と私が両思いだったなんて。まさか一晩をともに過ごすとは思ってもみなかったことだ。色々ないいことが順調に進み、これからの明るい未来が始まると思っていたのに。
 代わって今日は、なんでこんなことになったんだろう。あかねは美沙の服を畳み、美沙には明日洗って月曜返そうと机の上に置いた。ベッドの掛ふとんを開いて、そのスペースに横になった。天井を見ながら、今日の出来事を振り返っていた。
 神林をはじめとするあの三人が、怪しいバイトをしているのは間違いなかった。ただ、川西との関係は全く分からなかった。川西にも、神林にも、あかねの尾行がバレてしまい、今後は何かある度毎に、それをネタに脅されるだろう。あかねが川西に対し、強い態度で望めなくなってしまったのは、他の反川西部員からの反感を買うだろう。
 もしかしたら、もう女バスにはいられなくなってしまうかも知れない。あかねは、笹崎先生に言ってみて、今回の投票騒ぎを上手く治める事が出来なかった場合、本当に部活をやめるハメになる、と思った。
 もう自分の命運は笹崎先生頼みになってしまった。先生が川西先生につくとは思えないが、学校の大問題となるので、それを問題として取り上げるかどうかは疑問だ。嫌がられたり、うっとうしいと思われて、関わってくれなかったら…… 言っただけ自分が不利になってしまう。
 上手くいくとするとどうなるのだろう。
 川西が学校を出ていかなくてはならなくなる。同時に、川西を支持していた娘(こ)達はどうなるんだろうか、このまま仲良く部活を続けられそうにない。その娘(こ)達もやめるだろう。そして残った部員はセクハラもない清い部活動が始まるが…… バスケを教えられる先生、いるんだろうか。それとも、もう一人の体育教師がくるのか? 笹崎先生がメインに昇格するのか……
 笹崎先生はスラッとしているが、運動が出来るようには思えない。あれで運動が出来たら女子からもそうとう人気が出るだろう。美樹先輩と同じように……
 ああ、なんか疲れた。もう、いっそこのまま寝てしまおう。
 あかねはまぶたを閉じるなり、眠りに落ちてしまった。


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七話です
 

あらすじ

主人公真琴は頭痛持ちの女子高校生。真琴は、頭痛の度に夢でヒカリに出会い、聞かされていた話があった。そして、高二になったある日、ヒカリから聞いていた敵と遭遇する。敵を倒すには、敵の保有者と接触状態で夢を共有し、その夢の中で敵を打ち負かさねばならない。同級生の友人『薫』と協力し、目の前に現れる敵と戦うことになるのだが……

 
登場人物

新野 真琴 : ショートヘアの女生徒で東堂本高校の二年生。頭痛持ち。頭痛の時に見る夢の中のヒカリと協力して精神侵略から守ることになったが、ヒカリに裏切られる。

北御堂 薫 : 真琴の親友で同級生、真琴のことが好き。冷静で優秀な女の子。真琴を救う為にラボでエントーシアンを取り込んだ。

渋谷 涼子 : 同級生でモデル。偶然、ロケ先で真琴と知り合いになる。【鍵穴】となっていたが、真琴に救い出された。薫と共に戦い、真琴をヒカリから救った。

浜松たまち :  真琴と同じクラスで【鍵穴】となってしまった女生徒。真琴と友達になることで救い出された。

品川 優花 : 陸上部で真琴と同じクラス。最初に【鍵穴】として発見された。

上野 陽子 : 剣道部の三年生。【鍵穴】となってしまい、別の意識体に入り込まれて騒動になる。

メラニー・フェアファクス : 北御堂の養育係、黒髪、褐色の肌のもつイギリス人

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 あかね達がやまとのところへ戻ると、やまとは言った。
「あ、戻ってきたね。けど、もう約束の時間は過ぎたみたい。今日は特に何もなかったよ」
 やまとの後ろに、男性の影が見えた。
「君、誰のことを追い回してたんだ」
「え?」
 あかねは、やまとの背後にいたのが、川西だと気づいた。
「やまと! 逃げて」
 やまとは何のことか分からないうちに、川西に肩を掴まれてしまった。
「こら、君たち」
 あかねは美沙の手を引いて走った。
 川西はその場で、大きな声を出した。
「逃げてもダメだよ。証拠もあるし」
 角を曲がりかけた時、美沙が立ち止まった。あかねはそれ引っ張られるような形で止まった。
 何? 証拠? どういうこと?
 あかねは振り返って美沙の顔を見ると、小さく頭を縦に振った。
 何かあったらしい。
「あっ、ようやく分かってくれたのかな?」
 やまとは、子供の頃から変わらない、例の泣き出す前のムッとした表情になっていた。川西はやまとの肩を押しこみながら、少しずつあかね達のところへ歩いてきた。
「あのさぁ、今はストーカーの禁止とかがあってさぁ、こういうことしてると捕まっちゃうことになってんの。悪質だよ? おふざけじゃすまないんだよ」
 川西はポケットからスマフォを取り出して見せた。
「ほら、これ、君達だよね」
 確かに美沙とやまとが写っている。
「でも」
「十分でしょ、今だって自宅の前で待ってたんだし。このままじゃ納得行かないってんなら警察まで行って話したっていいよ」
 完全な失敗だった。
 川西に弱みを握られてしまった。
 せめて美沙だけでもなんとか助かって欲しかったのだが、自ら止まってしまっては助けようもない。
「ごめんなさい」
 美沙が言った。
 あかねも謝った。
「ごめんさい。ちょっと探偵ごっこしてて」
「はぁ? そんな風な言い訳するんだ。本当は違うんでしょ? 何か先生からお金をせびるようなネタを探してたんでしょ? 悪い子達だな」
「違います。そんなこと考えてません。ちょっと思いついた遊びだったんです。やまとも謝って」
「ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。一回目だからね。一回目は大目にみることにしてる。ただ、これは犯罪行為で、次はないからな。当然学校にも知らせる」
 川西がやまとの肩を離し、手の甲で埃を払うような仕草をした。
「ほら、さっさと帰りな」
 あかねは、やまとの手も引き、
「ごめんなさい。本当にすみません」
 と言った。そして美沙とやまとに小声で話した。
「二人とも、あやまって」
「ごめんなさい、失礼します」
「すみませんでした」
 あかねが二人のお腹を押すようにして、その場を離れた。ちらりと後ろを振り向くと、川西はゆっくりと自宅マンションへ戻り始めていた。
「もう大丈夫」
「怖かったよぉ」
 美沙が泣いた。
 やまとは少し気持ちが落ち着いてきたようだったが、何もしゃべるようすはなかった。
「……」
「ごめんなさい、本当に私が悪いの。色々巻き込んじゃって」
「ううん、私が共生関係なんじゃないか、って言ったせいだよね。元はといえば私が悪いんだよ」
 あかねと美沙は、そうやってしばらく、どっちが悪かった、という話しを続けた。
 そんな終わらない話に終止符を打つ言葉を、美沙が言った。
「けど、まずいことになったよね」
「……」
 あかねには美沙のいう『まずいこと』の意味がよく分かっていなかった。
「あ、美沙は知らないかもしれないけど。川西がああ言った時は、素直に引き下がれば、後は何も言わないよ、いつもそうだもん」
「そうじゃないよ」
「?」
「今日はこれで済んでも、いざ先生のセクハラを訴えようとしたら」
 やまとや、駅のホームで電車を待っている人がこちらを向いたような気がした。
「美沙、(ちょっと声を小さく)」
「(訴えようとしたら、川西がこのことを学校に報告するってことになっちゃわない?)」
「けど、(川西が先に悪いことをしてきたんだよ、それくらいしょうがない……)」
 話している途中で、このことを学校に言われた時にまずいのは女バスや自分だけではなく、『美沙がまずい』ということ気付き、本当のヤバさを感じ取った。
「(美沙が巻き込まれちゃう)」
「(うん。最悪私はいいけど、やまとくんが)」
「(やまとは土屋高じゃないからいいよ。それより美沙だよ……どうしよう)」
 やまとが何か気づいたようにこっちに視線を向けている。あかねは指で『あっち向いてろ』と指示した。
「どうしよう、昨日の『まとめ』のままだと、川西の事は学校に言わなきゃならくなくなって、そうすると、もしかして美沙も巻き込まれちゃう」
「部員の人に見せる前に、先生か誰かに相談した方がいいかも」
 そう言って美沙は顎に手を当て、何か考えている風だった。
「けど、そんな先生…… 笹崎先生?」
 あかねが言うと、美沙は顎につけていた手を離して人差し指を立てた。
「それよ、顧問なんだし。元々相談する予定だったんだし。多少順番が入れ替わっても」
「……うん。部長に言ってそうしてみる」
「それが良いわ」
 そう言うと同時に、駅のホームに電車が入ってきた。急な圧力で巻き起こる風に、美沙の髪が舞った。
 あかねは、一瞬その姿を見て何か悪寒が走った。
「!」
 美沙は乱れた髪を懸命に梳かしながら、あかねに言った。
「どうしたの?」
 はっ、と気がついた時は、美沙はやっぱりいつもの美沙だった。
「良かった…… なんでもない」
 その電車に乗ると、三人は黙ったまま家路についた。


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やきそばUFOのCM。
山本美月に罵られてぇ…… 
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 あかねは美沙達に合流し、川西のマンションの近くで見張っていた。川西のマンションは事前に確認していたが、やはり昼間に山川、町田、神林が出入りしていたマンションとは全く別だった。
 ただ、やはり川西のマンションも出入り口はオートドアになっていて、出入り口が制限されていた。逆に、出入りが固定されるので、見張るには楽だった。
 ただ、見張るのが退屈なのも同じだった。
 前を通る人通りは多くて、集中して見ていないのといけないのに、マンションの出入り口を通る人は、そんなに頻度があるわけでもなく、眠気をさそった。
 あかねも何度か美沙の肩に寄りかかって寝てしまった。
「あ、ごめん。寝てた」
「いいよ」
「美沙は眠くないの?」
「うん」
 そんなことはないだろう。あかねはこれじゃ駄目だ、と思った。
「美沙、場所変わるから、美沙も軽く寝たら?」
「大丈夫だよ」
「いいから」
 無理やり体の位置を入れ替えると、美沙は大人しくあかねの言うことにしたがってくれた。
「うん、じゃ、軽くねるね。やまとくん、ごめんね」
「そうして」
「俺ならいいっすよ」
 美沙は、あかねに寄りかかるように体を預けてきた。あかねはフラフラにならないように美沙の腰をかるく支えた。すぐに寝られはしないだろうが、目をつぶってゆっくり休息することが大事だ、とあかねは思った。
 大きなあくびを何度かすると、美沙は本当に寝てしまったようだった。良かった、とあかねは思った。やっぱりこんな状態で寝てしまうほど疲れていたのだ。
 あかねは、美沙が起きないように配慮しながらしばらく過ごした。
 なんとなく、あたりが暗くなってきたころ、寄りかかっていた美沙が伸びをした。
「あかね、ありがとう。体が楽になった」
 良かった、と思った。
 美沙が微笑んだので、あかねも笑顔になった。
 ふと、あかねは、美沙に話そうと思っていたことを思い出した。
「そういえば、さっき笹崎先生に会った」
「え? さっきって?」
「あ、いや、あの公園で」
「ああ。ここでじゃないのね。先生何か言ってた?」
「いや別に大したことは」
「そう」
 美沙は特に興味もなさそうだった。
 さっきは、『綺麗な女性(ひと)』と言っていたから、もっと違った反応をするものと思っていた。
「私も、先生のこと綺麗だなって思ったよ」
「そうね」
 あかねは、話題を変えようと思った。
「どうでもいいけど、なんかここ、凄いいい匂いしてくるね」
「そうだね、駅近いもんね、食べものやさんとかも多いし」
 あかねはカバンの中にいくつかパンを入れていたのを思いだし、やまとと美沙に言った。
「あ、そうだ。これ、食べる?」
「私は遠慮しとく、やまと君食べたら?」
「なんで甘い奴なの?」
「買う時はこれが食べたかったの! 食べないの?」
「食べるけど」
 やまとはパンを二つとも奪うように取ると、食べ始めた。
 その様子を見て、あかねは言った。
「あれ? もしかしてお昼食べてないの?」
 やまとははうなずいた。
「……え? じゃ、美沙も?」
 美沙もうなずいた。
「じゃあ、美沙も食べなよ」
 あかねは、やまとのパンを一つ奪い返そうとしたが、美沙が言った。
「いいの」
「美沙さん、ここは姉貴に任せて食べてくるか、買ってきたら?」
 言い終えると、やまとは、またすぐにパンにかじりついた。
「そうよ。大丈夫だから」
 川西のマンションは駅チカにあり、駅自体も利便性の高いところだった為、食べたり買ったりする店を探すのには苦労しない。
「食べた方がいいよ」
「もうすぐ晩ごはんだからいい。今食べると半端になるんだ」
 あかねは時間の感覚が完全になくなっていた。やまとのポケットからスマフォを取り出すと、画面の時刻を見た。
「あ、もうこんな時間」
「勝手にとるなよな」
「美沙にあげてよ」
「いいの、大丈夫。今食べたら夕飯入らなくなっちゃう」
 あかねは、これ以上尾行して意味があるのかを考えた。
「これ以上尾行して意味あるのかなぁ…… もういいんじゃない?」
「……うん。確かにずっと動いていないみたいだし」
「俺が見てるよ、最初に考えてた時間ぐらいまではやってみようよ。二人はご飯食べてきていいからさ」
 めずらしくやまとが優しいことをいってくれる、と思いあかねは弟の頭をなでた。
「ごめん。もうちょっとだけ頼むね。美沙を連れて、ご飯食べてくる」
「オーケー」
 やまとはうざったそうに頭に載せられたあかねの手を払って、めんどくさそうにそう返事をした。
「いこう、あかね」
「ごめんね、やまとくん」
「いいんだよ、俺はバイトだし」
 あかねはそうか、と思ったが、やまとが気を使って言ってくれているのだと思い、何も言わなかった。
 二人は近くにあったセルフサービスのうどん屋に入って、うどんとトッピング一品ずつ買って食べた。
「あかねにしては少ない、よね?」
「うん、私も遅い時間にお昼ごはん食べたからあんまり食べれないんだ」
「いやあんまりって……だって、それ大盛りでしょ」
「ここ来たら大盛りはデフォだから」
 二人は笑った。
 食べ始め、二人とも半分ほど食べ終わると、あかねは天かすを足しに席を離れた。
 戻ってくると、美沙が言った。
「あかね、明日も見張ってみる?」
「あ、いや、いいよ」
 すこしうどんを食べるように持ち上げてから、あかねは箸を止め、美沙に話そうと思った。
「神林さんに叩かれてね、私、ちょっと思ったの」
「……」
「ちょっと疑い過ぎてるって。後、他人のプライベートなことに踏み込み過ぎたって」
「……」
「逆にこんなことされたらどうなんだろう、って思ってさ。私だって大した人間じゃないのに、本当、偉そうに他人のことを疑って」
「けど、このままじゃ、川西と何かあってもわからないじゃない」
「そう。それはそうなんだけど」
 川西とバスケ部員が共生関係にあったからといって、それで川西を許せたり、逆にそれで罰しなければならない、と判断するのはおかしい、とあかねは思った。確かに神林がかばう理由は分かるかもしれない。だが、それをしたら神林が傷つく。川西はどうなってもいいが。
「あかねが納得してるんなら、別にいいよ。今日の様子じゃ、川西と神林さんは全然関係ないように思えるし」
「うん。そうしよう。明日はなし。この件はこれでおしまい」
 あかねは、笑ってうどんを頬張った。
 美沙も残ったうどんを再び食べ始めた。
 共生関係があったとして、そんな関係から救ってあげれたら、とか思っていたが、それは思い上がりというものだ。もし、神林が、なんらかの状況で、救われないところにいるのだとしたら、自ら『助けて』と言ってくるまで助けてはいけないような気もするのだ。
 自分で助かろう、と思ってない人に手を貸しても誰も助からない。返って助けようとした人が溺れてしまう。例えは良くないが、目立つ光にフラフラと近づくと、炎や高電圧で死んでしまう蛾のようだ。
 美沙とあかねは、食べ終わった食器を片付けると、美沙と一緒にやまとのところへ戻った。


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 美沙の携帯がなった。
 やまとからだった。
「もしもし、どうかした?」
 かすかに漏れている音で、なんとなく事態が変化したことを知った。
「わかった。合流してから追いかけよう」
 美沙は携帯を切って、あかねに言った。
「川西が出るみたいだけど。一緒に行く?」
「さすがに三人でつけたらバレるんじゃないかな? 動きが止まったらまた合流するよ」
「……うん。その方がいいかもね」
 やまとがポケットに手を突っ込んで交差点を渡ってくるのが見えた。
「行ってきます」
「お願いね。気をつけて」
「うん」
 川西が校門から出てくるのが見えた。川西が駅方向へと去っていくと、あかねは、やまとと美沙が二人で川西を追っていくのを見送った。
 あかねは、誰も遊ばない公園で、小さな砂場を見つめていた。もう痛みはなかったが、神林に叩かれた頬を触った。意見のまとめを月曜日に発表して、そのまま投票という時に、神林をつけたことがバレるとおおごとになる、とあかねは思った。
 私を付け回すような奴がまとめた意見なんて無効だ、とか神林なら言いそうだ。その時にどうやって反論するか。どうせ他の目撃者がいないのだから、無視してしまうか。まとめと尾行は関係ない、と言い張るか。あかねは悩んだ。
「岩波さん?」
 突然呼びかけられ、返事が出来なかった。あかねは声のする方を向くと、そこにはバスケ部の顧問、笹崎翔子先生が立っていた。
「笹崎先生。どうなさったんですか?」
 確かに綺麗な人だ、とあかねは思った。
 先輩から笹崎先生の事を聞いているから、ここ数年の話ではない。バスケ部の顧問をずいぶんやっているはずだ。つまりそれだけ年齢がいっているはずなのに、十代のような肌に見える。化粧のテクニックなのか、本当に肌が綺麗なのか、あまり化粧を知らないあかねにはわからなかった。 
 笹崎は微笑みながら言った。
「私もあなたにそう聞くところだったの。さっき学校に入る時にあなた達を見かけて、なにやってるのかな、って。あれ、けれど、さっきはもう一人いなかった?」
 先生の言っている内容を良く把握していなかった。あかねは、笹崎の唇に見とれていた。
 あかねは、よく他人の『人中』のあたりを見つめてしまい、自分と同じ、濃い産毛を発見して幻滅してしまったりするのだが、先生にはそれがなかった。本当に透き通る肌という表現が似合うものを初めて見た気がした。
 先生が話し終えているのに気づくまで、あかねは間を開けてしまった。あかねは慌てた。
「……あ、あっ、さっきまでは、安村さんもいました」
「安村さん。そうだったの…… そういえば岩波さんって、家この辺だったっけ?」
「いえ、全然この辺ではないんですけど」
 あかねは少し戸惑っていた。
「岩波さん、バスケ部よね」
「はい」
 それを先生から聞くのは意外だった。
 笹崎先生が、バスケ部の部員のことを把握しているとは思ってもいなかったのだ。
「私も女子バスケ部の顧問だって知ってた?」
「はい」
「ごめんね。なんか部活に全然顔出ししてなくて。だからこんなに緊張させちゃっているのよね。ちょっとでもいいから時間作って部活に行っていれば良かったわ」
「いえ、緊張している訳ではないんです」
 あかねはそう言い切った。
「なんでも言ってね」
「……それでは、と言ってはなんなんですが、来週、少し部活にきていただけませんか」
 そうだ。今お願いしてしまおう。あかねはそう思ったのだった。
「え? 何かあるの?」
「ええ。ちょっと部で投票をするんです。笹崎先生に来てもらいたかったんです」
 先生は、かなり困った表情だった。迷惑そう、とも受け取れた。
「川西先生だけじゃダメなの?」
「そうなんです。川西先生じゃダメなんです。どこか一日だけでもいいんです」
 あかねは、どの意見になったとしても、まずは笹崎先生に伝えるべきだと思っていた。今話をしてしまえば、と思ったのだ。
「ちょっとスケジュールを調整してみるけど…… というか、今、今話せない」
「今は…… そうですね。やっぱり、ちょっと皆に話してからじゃないと」
「うん。わかった。じゃ、岩波さんの連絡方法教えてよ。携帯とかない?」
 先生はスマフォを出した。
「今、ないんです。なので、メールアドレスでもいいですか?」
 あかねは、今日使ったWEBメールのアドレスを教えた。先生は、素早くスマフォにアドレスを記録した。
「私からそこにメールする。それで私のメールアドレスも分かるでしょ? じゃ、そういう感じでいい?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあね? 気をつけて帰ってね」
「さようなら」
 良かった、これでスムースに行く。
 神林さんが騒いで止めようとしても、とりあえず笹崎先生に言ってしまえば、事態は進展するだろう、とあかねは思っていた。
 美沙とやまとの方も、そろそろ何かあるかもしれない。あかねは笹崎先生が学校へ戻っていくのを見てから、駅へと歩きだした。


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タテ書き小説ネット - 僕の頭痛、君のめまい

「小説家になろう」 に登録したのですが、あれに登録すると、勝手?に縦書にもなるんすね。

まだ1話しかアップしてませんけど。

縦書きPDFで小説を読む
 
実際、見てみると結構雰囲気違う。この状態で書いてないから、違和感ありまくりなんですが。

時間があったら続きもやってみようかな、って思いました。
 
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 あかねは怖くなって、周りを見渡したが、山川も、神林も、川西も、心当たりのある人物はいなかった。というか、あたりは見知らぬ人ばかりだった。
 タブレット端末をしまうと、あかねはしがみつくようにカバンを抱いて不安な気持ちを紛らわせた。
 駅につくと改札を出て、あかねは学校へ向かった。
 学校に近づくと、美沙がいる場所がわからなかったので、カバンからタブレットを出して、美沙にメールした。
 しばらくすると、メールの返信があった。
『え、なんでこっち来たの??
って、それは直接話せばいいか。
私は学校近くの十字路を見渡せるように、工場の脇の小さい公園にいるから』
 あかねは、学校への道をいつもと反対側の車線の歩道を通って美沙のところへ向かった。
 しばらくあるいて、公園について、美沙の顔をみるなり、あかねは泣いてしまった。
「どうしたの、あかね?」
 美沙はあかねを抱き寄せてくれた。
「みくに引っ叩かれた……」
「え! ひっどい。どんな理由にせよ、絶対ゆるさない!」
「そうじゃないの」
 あかねは首を振った。
 初めから悪者と決めつけて尾行する自分が悪いのだと、あかねは思った。しかしその考えを美沙に伝えることは出来なかった。
「怖かったよ……」
「うん、そうだよね。怖いよね」
 ひとしきり抱き合って、なぐさめてもらえると、根拠なく気持ちが落ち着いてきた。
 あかねはそっと美沙から離れると、カバンからタブレットを出して、WiFi画面を確認した。まさか今もあのWiFiが……
「え!」
「どうしたのあかね」
「さっきの、さっきの奴」
 あかねは、美沙に見てもらうことにした。自分の見間違えかも知れない。
「ちょっとこの画面見て」
「WiFi設定画面だね…… これがどうしたの?」
「え?」
 あかねは嫌な思い出が蘇った。
 もう自分だけが見えている、とか、自分だけが聞こえてる、というのは嫌だ。頼むから、これは美沙にも見えるものであって欲しい。実際に表示されて欲しいものではなかったが、あかねはそんな風に思った。
 そしてもう一度タブレット画面を見直し、指差した。
「BITCH…… この近くにある…… ってこと? まさか」
 その言葉に、ある意味安心した。美沙にもこの文字が見えている。
「私が誰かにつけられたのかな?」
 美沙は、あかねからタブレット受け取り、操作した。
「この画面のボタンでWiFiを再取得してみるから、心配しないで」
「あ、ほら。消えた。良かったよ〜 ほんと焦った」
「待って」
 まだいろいろ検出している最中らしかった。意味不明な数値の文字の組み合わせが一行増えたり、減ったりしていた。
「ない…… ね。無くなった、のかな?」
 美沙が言った。
 あかねは息をついて、タブレットから顔を上げた。
 女性が一人、学校へと入って行くのが見えた。あかねは指を差して言った。
「美沙、あれ、誰だっけ」
 美沙も顔を上げてその人の姿を目で追ったが、よく見えなかったようだった。
「……良く見えなかった。今日学校に入るんだから先生だよね?」
「先生か。そりゃそうだよね」
 あかねは先生と言われて、なんとなくその姿を思い出した。一瞬の横顔しか見れなかったが、確か……
「笹崎翔子先生だ」
「?」
「バスケ部のもう一人の顧問の先生なんだよね。部活に来たことないけど」
「ああ、なんかそんな先生のこと言ってたね」
「なんでこんなところにいるんだろう?」
「え? 学校で仕事でしょ。土曜日仕事する先生なんて普通だよ」
「そうなんだ」
「綺麗な女性(ひと)だね」
 あかねはその言葉に違和感を覚えた。よく見えなかったんじゃ……
 あかねは誤魔化すように慌てて返事をした。
「え? そ、そうだった?」
「……なんとなくの感じだけど」


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 はっ、と意識すると、あかねは目を細めていた。サングラスの下なので、多少細めれば本人と気づかれないだろう、と思っていたからだ。
 山川はアニメによくあるような、リアリティのない、短いスカートのメイド服を着ていた。幸い、山川はスマフォを見ながら歩いていたので、あかねに気づいてはいないようだった。
 そして、そのまま神林が入っていったビル入っていった。
 あかねは、この通りをうろうろしていると、全方向から来るかもしない三人を相手に隠れなければいけない、と考えた。せめて方向を絞り込まないと危険だ。
 考えたあげく、離れているが角の喫茶店に入って外を見ることにした。そこしかなかったし、喫茶店のようなところであれば、店内を先にチェックしてしまえば、多方向から見つかる心配はない。注意すべきは出入り口のみだからだ。
 あかねはそう思って通りを進んで、喫茶店のオートドアを開けて入った。
「あかね?」
 あかねは後ろから声をかけられた。
 神林みくの声だった。
 まさか……
 気が付かないフリ、知らないひとの名前だと思い込んで、あかねは、それを無視した。
「あかねだよね?」
 背中に手をかけられた。さすがにこれを無視することは出来ない。あかねは振り向かずに言った。少し低い声にしてみる。
「ひとちが……」
「何言ってるの。あかねでしょ?」
 あかねは振り向くと、みくに『パッ』とサングラスを取られてしまった。
「やっぱり!」
 その瞬間、あかねは平手打ちを食らった。
 店内の客が、一斉に二人の方を見るのがわかった。
「あんたのくるとこじゃないんだよ」
 『ここは全国チェーンの喫茶店だ』と言い返してやりたかったが、痛みと驚きと恥ずかしさが入り混じって、あかねには声がだせなかった。
「ほら!」
 神林が大きな声を出した。
 あかねは、涙が出てきた。
 平手打ちの痛みではなく、自分の行為が神林を傷つけた、と思ったからかもしれない。とにかく、涙が頬を伝った。
 もうここを逃げ出すしかない。
 この尾行はもう終わり。だって本人にバレてしまったのだもの。
 あかねは、早足で店の外に出て、一度も振り返らず駅の方向へとあるいた。
 涙が溜まっていて、何が見えているか、よくわからないまま駅につき、なんとか帰りの電車に飛び乗った。たまたま空いていた座席に座ると、涙をハンドタオルで拭った。そしてそのまま、目をタオルで押さえたまま、数駅が過ぎていった。
 あかねは、気分が落ち着くと、カバンからタブレット端末を出して、WEBメールを確認した。そして、さっきの出来事をメールに書き込んで送信した。
 すると、通信が止まっていた通信が動きだしたように、受信箱にメールが表示された。
 開いてみると、美沙からだった。
『こっちはまだ学校です。もしものことがあるので、やまと君に反対側の出入り口を見てもらってます。
BITCHだけど、もしかすると、WiFiテザリングなのかも。学校の時は、『リンク』の企業ページの真似ができるようなWiFiだった、って予想してたからパソコンかな、と思ってたけど。電車とかならきっとスマフォのテザリングでも、そういうWiFiの表示だせるよ。
もし、BITCHが複数あるなら、最初にあかねが動画を見たものと、私達が学校で見つけようとしていたもの、そしてあかねが電車でみたもの、はそれぞれ別なのかも。とにかく、気をつけて』
 あかねは読み終わると、ふとさっきのWiFi設定の画面を見て、ぞっとした。
 なぜなら、またBITCHが表示されていたからだった。


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 ここは電車の中だ。
 あかねには、どれくらいの大きさのものがこのBITCHを表示させているのか、判らなかった。美沙が体育館で言っていたのはパソコンぐらいの大きさがあれば、と言っていた。
 あかねはみくを見るが、みくは荷物という荷物を持っていない。
 では、学校の体育館付近、山川らも出てきたマンションのあたり、そしてこの電車の中で表示されるBITCHとは何なのだろう。あかねは美沙にメールで疑問をぶつけた。
 返事はすぐ返ってこない。
 あかねは考えた。
 神林以外の人物が持っている可能性を考え、あたりを見回したが、何か変なものを持った人物がいる訳でも、まして川西がいる訳でもなかった。
 これ以上どうすることもできない。
 しかたがないので、あかねは一度忘れることにした。
 神林が扉の方へ移動したので、あかねもタブレットを鞄にしまって駅を準備した。次の駅だとすると…… 青葉だ。
 さっき聞いた、ミチと愛理の会話。
 そこに川西が結びつけば、もう川西のセクハラを訴えるのに遠慮はいらない。川西を助けよう、という連中は裏でつながっているからそうするだけなのだから。
 あかねは神林が降りるのを確認して、ホームへ降りた。みくがエスカレータを使うので、何人か挟んで後ろについた。
 そして共通乗車カードを使って、改札を出ようとした瞬間、チャイムがなった。
 みくが残高が足りないのか、入る時のタッチが認識されていないのか、とにかく、ゲートで引っかかったのだ。あかねは迂闊にも神林の真後ろから出ようとしており、至近距離で顔を向き合わせてしまった。
 あかねはもう頭の中が真っ白になり、目をつぶってしまった。
 ドン、と体がぶつかった。
「ちょっと、どいてよ、邪魔」
 逆ギレ? とムカついたらバレてしまう。
 そのまま目をつぶったまま、後ずさりすると、みくはあかねに気づかずに後ろを周り、そのまま駅員のいる改札へ回った。
 最低な不注意で起こった最大の危機を脱したあかねだったが、そのまま自分のカードをかざすと、チャイムがなった。
「チッ!」
 軽く渋滞が起こっていて、後ろの男性に舌打ちされた。あかねはうつむいてその場を離れた。みくが直接駅員のいるところに行っている為、あかねは自動精算機に向かった。
 コンビニで支払った時に残高を確認しておくんだった、とあかねは思った。
 幸い神林も引っかかっていたので、すぐに見失う事はなさそうだったが、こっちだけが引っかかったらヤバかった。あかねはさっさと精算して、ゲートを抜けた。
 みくは例のごちゃごちゃした小さいビルの並ぶ通りに向かっているようだった。
 大通りをの信号を待っていると、あかねは視線を感じて後ろを振り返った。あかねは以前やけになって一緒に散歩した、おっさんが見ているのではないか、と思い、男の人を探したが、あかねの方を見ている様子の人物は見つからなかった。
 なんだろう、確かに視線というか、つけられているような感じがする。
 あかねは神林を追いながら、自分の背後にも気を配りながら大通りの横断歩道を進んだ。神林が小さなビルの入り口に入ると、あかねは立ち止まった。あかねは大胆に後ろを振り返ったが、追いかけてきている人物を特定することは出来なかった。
 あかねは周りをよくみて、そのビルから出入りした時に見える位置を探した。自分の身を隠す場所だ。
 だが、あまり都合のよい場所がなかった。通りの端に喫茶店があったが、かなり距離がある。それに、神林が動き出した時に追いかけられるか疑問に思えた。
 しかし、ビルの近くの書店や家電販売店は窓はなく、外を監視するには向かなかった。ひたすらこの通りを行ったり来たりするしかないのか、とあかねが思っていると、目の前を山川が通り過ぎた。


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