その時あなたは

趣味で書いている小説をアップする予定です。

2015年04月

 あかねは、思わず息を飲んだ。
 笹崎先生が下着姿でそこにいたからである。
 部屋には、小さな音で音楽が流れていた。どうやら、机の上においてある、小さなスピーカーから聞こえてくるようだ。
 このせいで気づいていないのだ、とあかねは思った。
 そのままあかねは扉に隠れるようにして笹崎先生を見つめた。
 学校の近くの公園で、笹崎先生の肌を見た時から、この姿を見たかったのかもしれない。
 あの時も思ったけれど、こうして背中やふともものあたりの肌の様子を見ると、本当に透き通るような肌というのがこのことを指しているのだ、と思った。
 白人のような血管が見えるような肌ではない。
 白人ではないからと言っても、黄色い、という表現は当てはまらない。
 あかねが声もかけずに、扉に隠れて笹崎先生を見ているのは、肌の美しさのせいだけはなかった。
 細い足首から膝裏への滑らかな曲線、そして膝から太ももへかけての充実した肉付き。張りのあるヒップライン。
 下から目で追うだけでも、羨ましさを通り越して、ため息が出てしまうようなスタイルだった。
 下着は、見るからに上質な素材で出来たもので、白かった。
 黒や赤の下着のように、あからさまなセクシーを主張しないにもかかわらず、あかねはそこにエロティックなものを感じていた。
 そして腰のくびれから肩甲骨、肩へのうねりを見て、あかねは興奮した。
 やはり上品な下着に包まれた胸の膨らみが、後ろから見ているハンデを乗り越えて、豊かでやわらかな丘を形成している。
 このまま後ろから忍び寄り、両手で胸を触ってみたい。
 そう妄想して、一歩踏みだそうとしたが、思いとどまった。
 どうやら先生は着替えの途中らしい。
 笹崎先生は、机に置いてあったレギンスを取り出して履くと、その上からショートパンツを重ねた。
 上着もランニングウェアのようなピッタリした素材のものを着て、最後に大きめの実験用白衣を羽織った。
 あかねは、そこでようやく扉から少し準備室に踏み出した。
「あの…… 笹崎先生……」
 あかねは、小さい声でそう言った。
 覗いていた、という罪悪感が、大きな声で先生の名前を呼ぶのをためらわせた。
 しかし、この声では気づいてもらえない。
 あかねはもう一度、勇気を出して言った。
「笹崎先生……」
「あ、岩波さん。こんなところまで来て、どうしたの?」
 振り返った笹崎先生の、唇にみとれてしまい、あかねは用件を言い出すことが出来なかった。
「岩波さん?」
「……す、すみません。えっと」
「この前の、投票? の件、よね?」
 あかねは鞄からまとめた文章を取り出した。


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 あかねは部員の意見と、決意を決めて、学校へ行った。美沙と一緒に登校したかったが、昨日の町田の発言が真実だったらと思うと学校では極力一緒にいない方がいい。昨日の晩に、美沙には電話して、川西からの呼び出しも、神林達からも、何も無かったことは確認していた。
 だから意見書を持っていく時も、美沙に頼ってはいけない。
 流石に川西に直接突き付けることは出来ない。そのまま多数決を取ろうとしても、混乱するに決まっている。
 だから、まず笹崎翔子先生に相談するのが早道だ、と思っていた。
 幸い、ほとんど口を聞いたこともなかった笹崎先生と、この土曜日に会話もしていた。完全に知らない者同士が意見を述べ合うより、マシな程度だが。
 あかねは部活動が始まる前に、笹崎先生に会いたかった。
 学校につくと、荷物を教室に置くと、急いで職員室に行った。
「失礼します」
 見渡すが、笹崎先生の姿は見えなかった。
「すみません。笹崎先生は来てらっしゃいますか?」
「ああ、笹崎先生なら理科準備室じゃないかな? ここにはちょっと寄るくらいよ」
 あかねは、理科という科目にあまり縁がなかった。準備室が理科室のどちら側だったかをぼんやりと思い出した。
「ありがとうございます。理科準備室に行ってみます」
 あかねは、会釈をして職員室を出ると、もう一度理科室がどこかを考えた。この建物なのか、向かいの別校舎側にあるのか、それすらおぼろだった。
 なんとか理科室を見つけると、理科準備室にどうやって入るかが分からなかった。
 廊下に面している方の引き戸を開けようとしたが、鍵がかかっているのか開かなかった。
「え…… 先生いないのかな?」
 理科室の周囲には特殊教室ばかりで、生徒が通りかかることもなく、あかねは一人でオロオロと歩き回った。
 ようやく、理科室自体の明かりがついていることに気づき、理科室の扉に触ると、すんなりと開いた。
「理科室に簡単に入れていいのかな?」
 そう思いながらもあかねは中に入っていった。
 確かに棚は色々とあったが、薬品がそのまま置かれている訳でもなく、棚にはそれぞれ鍵が掛かっていて、あかねが考えていたように、簡単に物を盗まれたりはしなさそうだった。
 理科室の奥に入ると、準備室側の方に抜ける扉を見つけた。
「はぁ…… こっちか」
 あかねはようやく笹崎先生がいそうな場所を見つけ、進んでいった。
 扉が少し開いていて、あかねは少し押すようにして部屋に入ろうとした。
 その時、足が止まった。
 視線の先には笹崎先生がいた。


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 スマフォを充電スタンドに載せ、あかねはベッドに入った。殴られたお腹が痛い。人って、これから横になろうというのに、腹筋を使うんだ、とあかねは思った。
 部屋は雨の降る音で、周りの騒音が塗り潰され、返って普段より静かに感じた。
 今日の出来事を思い出したり、考えを整理しようとか、そう言った、考えること、に疲れてしまった。
 あかねは逃避するように、美沙の姿を思い浮かべた。
 声、腕、指先、唇の感触、合わせた肌の感じ、キスをしたこと。
 そんなことだけを考えていたい。
 明日の学校は行きたくない。
 そうやってベッドの上でゴロゴロとしている内に、あかねは寝てしまった。
 いつの間にか雨は止み、一階からやまとと父の声で目が覚めた。あかねは気になって、その声を集中して聞いていると、どうやらテレビゲームをしているらしかった。
 最近、やまとは親と出かけたり、話したりすることが少なくなっていた。
 あかねもそうだったが、自立心が芽生えたとか、親が提供する娯楽に飽きたとか、そんな感じだった。
 だから、やまとと父が一緒にテレビゲームに興じる、というのは珍しかった。
 あかねは、時間を確認すると一階に降りた。
 見ると二人は小さい頃にやっていた何年も前のゲームをやっていた。
「そんな古いのやって楽しいの?」
 あかねが言うが、二人はゲームに熱中していて答えがなかった。
 母があかねに言った。
「なんかテレビラックを整理していたら見つかったんだって。それで二人で盛り上がったみたいね」
 母はあかねの方を見て
「出かける服に着替えてきて」
「何で?」
「久しぶりにあかねと一緒に買い物行こうと思って。一緒に行ってくれれば、あかねの食べたい夕飯にするよ」
「……」
 母は父とやまとをみて、あかねと母のことを思い出したのだろうか、と思った。そうだ、小さい頃、日曜日の夕方はこんな感じだった。やまとは父と遊び、私は母と近所のスーパーに買い物に行った。
 あかねは言った。
「分かった。すぐ着替えてくるから待ってて」
 母は微笑んだ。
 それを見て、あかねも笑顔になった。
 着替えると、あかねは母と二人で買い物に出かけた。
 夕日が残りかけの雨雲を紫に照らしていた。いつか見たような風景だったが、妙に新鮮だった。あかねは、ふと、母の背が低くなったように思った。
 まさか。
 そんなに自分だって背が伸びたわけじゃない。小学校からだって、何年も経っているわけじゃない。
 あかねは、夕ご飯のリクエストをした。
「グラタンがいいな」
「今日? いいわよ。あかねも作るの手伝ってよ?」
「いいよ」
「久しぶりだね」
「何が?」
「いろいろ」
 母の『いろいろ』は口癖のようなもので、説明出来ない時に良く言っていた。あかねは自分も母に言えないことが出来、その『いろいろ』の意味が分かった気がした。
「いろいろね」
「そういうこと」
 あかねは母の肩を押しながら、スーパーへと入っていった。


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 あかねは河原近くの公園で口をゆすぎ、服についた汚物を可能なかぎり落とした。しかし、家を出たときのピカピカの姿には戻らなかった。
 家族に見られた時の、何か、言い訳を考えなければならない。
 親に言ってしまえば、次は川底だ。誰かに相談するのは、自分が絶対にやられない裏打ちが出来た時だ。今はまだ黙って従うしかない。
 こんなに汚れる理由が、何も浮かばなかった。
 転んだって?
 全身泥だらけじゃないか、いったいどこで転んだって言うんだ。小さな子供じゃないのだ。
 ダメだ…… 何も思い浮かばない。
 あかねはそのまま公園のベンチに座っていた。
 小さな子供が追いかけっこをしていた。
 その親が、あかねを見て、変な顔をした。親同士が何か話し合っているようだった。私はどう見えるのだろう。いじめにでもあったように見えるのだろうか。
 まぁ、いじめには違いないか。
 あかねは吐いてしまったせいか、お腹が空いてきた。
 ゴロゴロ、と響く音がした。
 あかねは自分のお腹を抑えた。
「かみなみ、かみなみひかった」
 小さな子供が空を指差して母親のところへ駆け戻った。
 あかねはその指差す方の空を見ると、遠くで稲妻が走った。
 自分の腹がなったのではなく、この音だったのだ。
 あんなに晴れていた空に、急に雲が走っていた。
 ああ、こんな体中が痛くて、汚れているのに、神様は追い打ちをかけるように雨を降らすのか、とあかねは思った。小さな子供達は、母親の押すベビーカーに乗って急いで公園を離れていった。
 いや、そうじゃない。
 私の為に、服が汚れた理由を作ってくれようとしているのだ。雨に濡れまくれば、服の汚れなんて気にしないだろう。
 神がいるなら、私に救いの手を差し伸べてくれているのだ、とあかねは思った。
 ぽつり、と手甲に雨を感じた後は、土砂降りになるまでそう間はなかった。充分濡れるまで公園で待とうか、などと悠長なことを考えている降りではなかった。
 あかねは、急いで公園を飛び出した。
 歩いていると、殴られたお腹が痛む。
 走り出してくても、どうにもならない。
 家につくまでのほんの十数分で、肌着まで、水に浸したように濡れた。
 あかねは家につくと『ただいま』も言わず、着ているものを脱ぎ、風呂でシャワーを浴びた。
「あかね? 帰ってたの?」
 母の声がした。
「うん、美沙のご両親が帰ってきたから、一人で散歩してたの。そしたら、ゲリラ豪雨にあっちゃって」
「そう。大変だったわね」
 いつもの会話に過ぎなかったが、あかねは、何か、そのいつもさが大事だ、と感じてしまった。そう考えると、奥底から湧き上がってくる感情を抑えられなくなった。あかねは頭からシャワーを浴び、泣いていた。
 体を一通り拭いてから、タオルを体に巻きつけ、自分の部屋へと向かった。
「あかね、バッグもすごく濡れているけど、携帯大丈夫?」
「え? そんなに濡れてる?」
 あっ、まずい、とあかねは思った。
 あれだけ降ったら、水没したのと同じかも……
「それとも、その携帯って防水?」
「わかんない。お母さんバッグちょっと貸して」
 慌ててスマフォを受け取って、自分の部屋へと駆け込んだ。やっぱりお腹は痛かったが、母に体を見られたら大変だった。
 部屋に置いてあったスマフォの箱や、取説を見ながら、ある程度の防水機能が付いていることが分かった。
 あかねは自分の髪を乾かした後、スマフォの濡れてそうなところへ送風して水滴を飛ばした。
 これでスマフォもダメになってたら、やっぱり神様は酷いな。いくら服を汚した言い訳の為、雨を降らすにしても、限度ってあるんじゃない?
 思い切って電源スイッチを押し込み、起動させると無事にスマフォが動いた。あかねは、心の中で神様に謝った。


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「!」
 あかねが逃げよう、と思った瞬間には愛理に羽交い締めにされていた。
 あかねは外そうと体を振るが、全く外れる感じがなかった。力で外れないのではない。愛理があかねの動きにあわせて機敏に動く為だった。
 町田はからかうように言った。
「遅いよ。あかね」
「美沙はどこなの?」
「ああ…… さっきの事? さあね」
 神林は右手にタオルを巻いて、殴る気まんまんであかねに近づいてきた。
「教えてよ。美沙は大丈夫なの?」
 神林が右手を腹に振り込んできた。
 避けようと体をひねろうとしたが、愛理が腕を絞ってきた。あかねは避けきれないまま、神林の拳を腹に受けてしまった。
「うっ……」
「本当は顔を殴ってやりたいんだけど」
 神林は、あかねの顎を両手で持ち上げた。
「誰に殴られたの、とかどうしたの、って騒ぎになっても困るから。気づかれないように腹に限定しとくわね」
「……だから、美沙は?」
 神林はあかねの顔から手を離した。
「愛理、さっきの説明してよ」
「適当に思いついたこと言っただけだもん」
「じゃあ、大丈夫なのね?」
 良かった。
 単なる出任せだったのか。
「良かった」
「何がよ!」
 あかねが痛くて体を曲げているところに、神林がさら深くステップして振り込んできた。
「!」
 あかねは腹の奥から食道を伝って胃液が上がってくるのを感じた。
「あんたさぁ、私達をつけてさぁ」
 また殴られた。
「私達のことを笑ってたんだろ」
 突き上げるように、下から上へ拳が振り込まれた。
「学校で先生に言ったり」
 愛理が腕を絞った。あかねは、その痛みを避ける為に無理に上体を起こした。
 神林は両拳であかねの顔を挟み、力を入れてねじった。
「親に言ったりしたら」
 顔から手が離れたかと思うと、再び拳が腹を襲った。
「今度は」
 左手であかねの首を締めるよう持ち上げて、神林が言う。
「今度は川だから。死体が上がらないように縛り上げて、川だから」
 町田が言った。
「川よ川。もう誰もあなたを見ることはないのよ」
 神林がさっと手を離し、あかねと距離を取った。
 すると、あかねは腹から上がってきた液体で口がいっぱいになった。耐えきれずに口から吐き出してしまった。
 昼に食べたものが、河原にぶちまけられた。
 離れて立っている神林は涼しい顔であかねを見ていた。町田は足に掛かった汚物に怒って、あかねの足を何度も蹴った。
「愛理、もう離しちゃっていいよ」
 あかねは腕を離された。
 しかし、あかねは逃げれなかった。痛みと、吐き出した液体が鼻や気管に入ってしまったことで咳き込み、汚物の上に手と膝をついてしまった。
 町田が言った。
「きったな〜い」
 あかねは口の中に残っていた汚物を吐いた。
「愛理も最後に一発やっときな」
「えぇ〜 汚いよ〜」
 そう言いながら、あかねの腹を蹴り込んできた。あかねは軸足を取ってやろうと思ったが、さっとそれを避けて、その手を踏みつけてしまった。
「だから遅いよ。あかね」
 その足で、あかねの手を二度三度とねじり込んだ。
「さあ、行くよ」
 二人は草っぱらを戻っていったが、ちょっとすると町田だけが戻ってきた。
「あかね、スマフォここ置くね〜」
 神林がもっていたあかねスマフォを、町田が置いて言った。
「じゃあね〜」
 そして来た道を走って帰ってしまった。
 あかねは我慢していたものを吐き出すように言った。
「ちくしょう」
 そして、汚物のない方へ、仰向けに寝転がってしまった。
 何度も何度も咳き込んで、何度も何度も怒りが湧いてきた。
 すべては自分が悪かったのかもしれないが…… こんなことされて黙っていていいのか、と思った。けれど、今度は本当に川に沈められてしまうかもしれない。あの神林の表情には狂気が浮かんでいた。
 怒りと恐怖が交互に繰り返し頭に浮かんで、涙が出てきた。
 河原の上に広がる空が、ただ青かった。


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 しばらく考えて、あかねは決断した。
「分かった。河原でもなんでも行くから」
 もし美沙がいなくても、それは悪いことではなく、良いことなのだ。もし河原に見さが呼び出されていて、危機的状況にあったとすれば、その時もあかねが行くことで美沙が救われれば、それで良い。
 どちらにせよ、河原にいかなければ出来ないことだ。
「なによ、急に」
 山川はそう言うと、あかねの顔を覗き込んできた。
「あかね、あなた何か企んでない?」
 ミチはあかねの後ろに回って何かを探しているようだった。
 ミチは無言であかねのお尻を触ってきた。というより、ポケットを確認しているようだった。
「なによ」
 シャツの胸ポケットも触ってきた。
「何も入ってないことぐらい、見れば分かるでしょ?」
「後はバッグね」
「あかね、バッグ開けなさい」
 あかねは、スマフォが見つからないように傾けながら、持っているバッグを開けて見せた。
「何を探してるの?」
「携帯かスマフォよ。撮られたり、録音されないように」
 町田がバッグから覗き込んでいるが、気づかれずにすみそうな雰囲気だった。
「ちょっと待って」
 神林はスマフォでどこかに連絡をしているようだった。
「もういいでしょ。あんた達、カツアゲまでするの?」
 神林が言った。
「ちょっと待ちなさい」
「みく、あんた誰にかけて……」
 その時、あかねのスマフォが震えた。
 何故なのか全く分からなかった。
 しかし、目の前の現象からすると、神林が自分のスマフォに電話を掛けたようにしか思えなかった。
「あっ、なんかあるよ」
 町田がバッグに手を突っ込んであかねのスマフォを取り出した。
 神林があかねのスマフォの電話番号を知っている、というのか。
 ……まさか。
 どう考えてもそれはありえなかった。
 『リンク』には山川も町田も神林も入れなかった。大体通話自体、美沙としかしていない。『リンク』がバレてるのならともかく、電話番号の方が知られているなんて……
 しかし何らかの方法で電話番号が知られている以外に、今の状況を説明することが出来なかった。考えても考えて答えはでなかった。もうイヤだ。あかねはそう思った。
 町田は放り投げ、神林にあかねのスマフォを渡した。
「これは、預かるわね。私達はかつあげなんてしないし、そのスマフォだってちゃんと返す。約束する」
 あかねはたずねた。
「結局、河原に行って、何をするの」
「行けば分かるわ」
 神林はそう言うと歩き始めた。
 山川があかねの後ろを歩き、神林が先頭にたった。町田はあかねの横を歩いたり、神林のところに行ってみたり、山川のところに下がったりと、落ち着かなかった。
 四人は、町田が独り言のように各々に話しかけた事以外は、ほとんど口をきかなかった。
 河原の土手の階段を登ると、山川が言った。
「合図するから」
 みくと愛理はうなずいた。
 今度は愛理が、あかねの後ろを歩いて河原へと進んだ。みくが時々山川の方を振り向くと、ミチは手を左右に振ってどっちに進むかを支持しているようだった。
 河原はとにかく雑草が高く茂っていて、獣道のようなものはあったが、迷路のようになっていた。そして湿気のせいか、蒸し暑く感じた。
「どこまで行くの」
 あかねはそろそろ河岸だ、と思って確認した。
「そうね、ここらへんでいいかな」
 みくがそう言って振り返るのと同時に、後ろにいた愛理が近づいて来るのを感じていた。


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 最初は緊張感から、あかねも真剣に聞いていたが、美沙が上手く説明しているようだったので、あかねは冷えた体を温める為にシャワーを全体に掛けてから出た。
 出るのを待ち構えていたように、美沙が呼びかけてきた。
「あかね、シャワー終わった?」
「うん」
「お父さん達がね、帰ってきたの」
 美沙は、母の方へも聞こえるように言った。
「そうだったの? お母さん、すみません、お風呂お借りしてます」
 あかねも、合わせるように美沙の母へ向かってアピールした。
 美沙の母の声が聞こえた。
「(お父さんは、二階に行っててください)汗は流せたかしら」
「はい、ありがとうございました」
 あかねは着替えて部屋に入ると、美沙のお母さんが立ち上がった。
「あかねちゃん、お久しぶりね」
「おじゃましてます」
「お風呂上がりで気持ちよさそうね。私もシャワー浴びたいわ」
 美沙が手で合図した。帰ってくれ、という意味にとれる。
 美沙の母の発言自体からも同じ意図を感じた。
「あ、すみません。すぐ帰りますから」
「そう? 何か悪いわ」
「待って。あかね、部屋にスマフォとか色々あるから」
「急がせちゃって、ごめんなさいね」
「いえ、すみませんでした」
 あかねは美沙と一緒に部屋に戻った。
「ごめんね。急いで帰ってもらっていいかな」
「私の都合で美沙の家にしてもらっちゃったんだし。気にしないで」
「なんで急に帰ってくるんだろう。せめて前もって帰ってくる時間が分かってれば」
 うつむく美沙の顔を、両手で挟むように持ち上げ、あかねは軽くキスをした。
「じゃあ、明日、学校でね」
 あかねと美沙は階段を降り、美沙の母にお礼をして家を出た。
 美沙はあかねが曲がり角に差し掛かるまで、玄関先に立っていたが曲がろうとしたあたりで家へ戻って行った。
 あかねはスマフォがダメになり、美沙との至福の時間も中途半端に終わり、不満が溜まっていた。何か買い物でもして気を紛らわしたかったが、さっきの五千円は使い切ってしまったし、お小遣いはやまとのバイト代を払ったせいか、来月分を待つしかなかった。
 後は部活で体を動かせればそれでなんとなく吹っ切れたかもしれないが、例の川西の問題の為に、このところ、土日の部活は中止になっていた。
 あかねが自分の家の前の通りを歩いていると、前を神林達が歩いていた。あかねは距離を詰めずに、遠くから見ていると、他の二人は町田、山川の三人だった。
 三人は、あかねの家の前で立ち止まった。どうやらチャイムを鳴らすかどうかを迷っているようだった。
 明らかにヤバイ状況だったが、美沙を頼る事は出来ず、スマフォで誰かに連絡することも出来ない。あかねは決断した。
 あかねは堂々と正面から家に戻る道をあるいた。
「あかね!」
 山川が一番先に気づいて声を上げた。
 あかねは近づくまでそれに応えなかった。
 充分に近づくと、あかねは神林を睨みながら言った。
「私の家に何か用?」
「あなたに用があるのよ」
「ここで話してよ」
 あかねがそう言うと、町田愛理が言った。
「河原まで行くから。そこで話すから来なさいよ」
「なんでそんなとこ行かないといけないのよ、馬鹿じゃないの? 河原なんて。何かされるに決まってるでしょ?」
 神林が言った。
「あかね、あんたは来なきゃいけなくなるわ」
「何でよ。力づくでそんなことするなら、大声だすわよ」
「美沙」
「?」
「美沙は河原に来るわ」
「え? そんな訳ないでしょ」
 だってさっき両親が帰ってきたばかりで、家を出られる訳がない。
 山川が言った。
「そんなわけがあるのよ」
 三人はニヤリと笑った。
 人差し指を立てた町田が自慢気に話し始めた。
「だって川西先生が呼び出し……」
「バカ! 愛理、黙りなさい」
 神林が町田の腕を引いて黙らせた。
「聞こえたわよ、今、川西先生って」
「どう、河原に来る気になったかしら」
 あかねは町田が天然ボケなのか、ひと芝居打ったのか、全く分からなかった。
 どうしよう……
 あかねは必死に考えを巡らせていた。


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「あかね……」
 両脇から挿しれていた腕で抱きしめるようにしながら、美沙はあかねの胸を触った。美沙の唇はあかねの耳たぶを咥え、気持ちの高ぶりを示すような吐息をはいていた。
「あかね、お風呂入ろうか」
 いつの間にか、美沙の指はあかねのブラジャーの隙間ぬって、生肌に触れていた。
「えっ…… あっ」
「洗ってあげる」
「あっ、あっ……」
「どうする? このままでもいいけど……」
「う、うん。お風呂はいる」
 声の調子が上ずってしまう。
 なんだ、私だけの想像じゃなかったんだ、とあかねは思った。美沙もこうしたかったんだ。自分の性欲だけが旺盛なのではなく、これで普通だということが分かった気がした。
 いや。
 二人共同じくらい性欲が強いのかもしれないが……
 あかねと美沙はお風呂場に入って、温かいシャワーを浴びていた。美沙の家のお風呂はあかねの家のお風呂と違って、日中でも明るかった。
 あかねは美沙にシャワーをかけ、そっと触れるように洗っていた。あかねは丹念に美沙の体を洗っているうちに、ちょっとしたことに気づいた。
 シャワーヘッドを敏感な部分に向けると、美沙の体がしびれたように震えるのだ。あかねは、実験するような気持ちで洗うのとは無関係にシャワーをだして、太ももの付け根へと運んだ。
「!」
 あかねは、曇った鏡に映る自分の顔がにやけたのに気づいた。
 美沙がシャワーをひねって止めると、
「今の何?」
「あ、ごめんごめん。間違えた」
「間違えてないでしょ?」
「ほんと間違えたんだよ」
「試したんでしょ? 顔が笑ってる」
 あかねは自分の顔を普通に戻すことが出来なかった。
「びっくりさせてごめん」
 美沙はあかねの手を取って、シャワーを当てたところへそっとあてた。
「熱かったり冷たかったりするからいきなりここにシャワーを当てるのはやめて」
「うん……」
 美沙の背後から体を洗ってあげていたあかねは、美沙が望むよう、あてがわれた手を動かした。
「あ…… ん」
 あかねは自分の腰を美沙のお尻に押し付けていた。左の手は自然と美沙の乳房を押し上げて、指先が乳首を回すようにつまんでいた。
「あかね……」
 美沙がときより体をくねらせると、あかねが押し付けていた部分も刺激されて、気持ちが良くなった。もっと体中を押し付けて、美沙から刺激を受けたくなっていった。
「ただいま」
 玄関先から聞こえる優しい声。
 あかねと美沙はその声を聞き、すべての動きを止めた。
「美沙、おみやげ買ってきたぞ」
 低く落ち着いた声が、同じ方から聞こえてきた。
「美沙……」
「あかねは私の言うことに合わせて」
「うん」
「私が先に上がって、あかねが来ていることを話すから、充分な時間経ってからお風呂から上がってね」
「う、うん」
「じゃ、待ってて」
 美沙はタオルで体を拭くと、風呂を出て帰って来た両親と話し始めた。


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「美沙のこと、好きだよ。けど、メアドにloveは……」
「じゃあキスして」
 あかねは目を閉じて待っている美沙にキスをした。
「もっと」
 濃いチューが欲しいのね、とあかねは思った。思い切って舌を美沙の唇の隙間へ押し込むようにしてキスをした。
 息が漏れるようなため息を何度か繰り返す間、二人はずっと唇を重ね、互いの舌を絡めていた。美沙が、ちょんとあかねの体を突き放すように押して、キスが終わった。
「……わかった。メアドにloveはなしにしてあげる」
「ありがと」
 しかし本当にどういうものにしようか、とあかねは考えた。 
「akaneironochoco(あかねいろのちょこ)とか、どうかな」
「長いけどまあ良いんじゃない?」
 美沙に良いんじゃないか、と言われ、あかねはそのメアドにすることに決めた。とにかく、スマフォの件に、早く決着を付けたかった。
「よし、これで作っちゃおう」
 あかねはメールアドレスを取得し、スマフォに設定した。これでもう過去とのつながりは何もない。まっさらのスマフォになったのだ。
 美沙のパソコンからとりあえず連絡帳だけは移行するから、それだけが頼りだった。後のアプリとか、サイトは、メアドが違うから設定し直すか、この際新しいアプリにするか考えねばならない。
 本当に使えるようになるまではまだまだ先だ。
「はぁ……」
「これでキレイになったんだから」
「そうだね。これで良かったんだよ、きっと」
 あかねはスマフォを見つめながら、自分に言い聞かせるようにそう言った。
「あかね、そういえば」
 美沙が手招きするので、再びパソコンの前のイスに座った。美沙がまた後ろから、背中に被さるように座ってきた。
「そういえば、って何?」
「昨日さ、中西先生がストーカーは罰せされるって言ってたじゃん?」
「うん…… 美沙を巻き込んでしまってごめんね」
「いや、そうじゃなくてさ。いわゆるストーカー規制法ってさ、繰り返し追跡行為をしたり、会うように何度も要求したり、監視しているぞ、と脅したり、って話しらしくてさ」
「え、どういうこと」
「これ見てよ」
 美沙が、あかねの後ろからキーボードをパタパタと叩いて検索し、結果をパソコンに表示させた。
「どれどれ…… ストーカー行為とは『つきまとい』行為を繰り返し行うことである、か。確かに私達は繰り返してないよね?」
「そうよ。どこまでこっちの状況を把握していたのかわからないけど、繰り返していることを証明出来なければ、恐れることはないんじゃないかなって」
 あかねは、後ろからパソコンへ延びている美沙の手を取って、手を叩いた。
「なんだ、川西おそるるに足らず! ってこと?」
「そうね。ちょっと写真とったぐらいでこっちは怖くないぞ、ってことよ」
「良かった」
 あかねは美沙に体を預けるようにもたれかかった。本当に巻き込んでしまって申し訳ないことをした、という思いから解放された。


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 食事を終えると、あかね達は美沙の家に向かった。美沙の家のパソコンを借りて、もう一度あかねのスマフォをセットアップしようとしていた。
 美沙の部屋に入り、美沙が持ってきたノートパソコンの電源を入れた。あかねのスマフォのアカウントで入って、アドレス帳を開くと、それを保存した。
「これさえ取っておけばスマフォのアカウントを作り直しても読み直せるの?」
 あかねの背中に美沙がピタリとついていたた。
「そういうことね。新しいメアドを作ったら、このパソコンでも同じメアドで入って、このファイルをインポートすればいいよ」
 あかねはノートパソコンのパッドに慣れていなかったので、時折、美沙が操作を手伝ってくれた。
「あっ、そうだ。 アプリはどうなるの?」
「アプリは自分で取り直すしかないかな」
「じゃ、買ったものは引き継げないよね」
「うん。それは仕方ないかな……」
「美沙、どうしたの?」
「何が?」
「やたら密着してくるから」
「嫌?」
「嫌じゃないけど」
「なんかそうしたい気分なの」
「ちょっ……」
「どうしたのあかね」
「美沙……」
「あっ……やん」
「腕に頭のせられたら、キーボード打てないって!」
 あかねは、腕にのせてきた美沙の頭を振り払った。
 あかねはスマフォの画面を見て、一瞬ためらったが、初期化の操作を行った。
「はぁ…… やっちゃった」
「まだ前のメールアドレスはあるんだから大丈夫よ」
「けど、もうこっちは使わないから」
「あかね、新しいメアドどんなのにする?」
 美沙は今度は肩に頭をのせてきて、そう言った。
「わかんないな。akanecchoとか?」
 あかねは画面にタイプしてみせた。
「それって『あかねっちょ』って読むの?」
「まぁそんな感じ」
 美沙がキーボードに手を置いてタイプし始めた。
「こんななのは? akane-love-misa」
 うわっ…… とあかねは思った。
 ただ、そのまま伝えたらきっと美沙が悲しんでしまう。
「二人専用でメアド作るなら、それでいいんだけど…… ちょっと他の人に教えるのには抵抗あるっていうか……」
 美沙は更にキーボードを打った。
「じゃ、ここをlove-ymならいい?」
「うんと、メアドにlove入れるのに抵抗があるな……」
「えっ……」
 美沙が急に真剣な声を出した。
 あかねは体をひねって、可能なかぎり後ろを向いた。
「私のこと好きじゃないの?」


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